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第二十七話 衝撃の告白
しおりを挟む「じゃあ、早速話し合いを始めよっか!まず初めに、今回の話し合いの内容については『わんこちゃん』から聞いてるとは思うけど……。それについては大丈夫だよね?」
そんな猫井生徒会長の一声から始まった、体育祭合同開催についての意見交換の会。
『第1女学院』体育祭実行委員長である犬神さんの話によれば、今回の意見交換会は副会長両名の要望があって行われるようである。
それも意見交換という名前の会議ではあるものの、今回の体育祭合同開催を2人が反対しているといった状況である。
しかしながら、先程までの会話や態度から見ても、2人ともに男性に対する嫌悪感や恐怖のようなものは見られず、話せば分かり合える可能性を見出せたため、俺は意気込んでその話し合いの場に着いた訳なのだが……。
「あ、あの……、猫井会長?他校の皆さんの前では『わんこちゃん』というのはちょっと恥ずかしいです……。」
猫井生徒会長から『わんこちゃん』と呼ばれた犬神さんはそう言って恥じらい、俺達を前にして若干戸惑い気味である。
犬神 鈴華で『わんこちゃん』。クールビューティーな犬神さんに対してその呼び名は少しずれているような感じではあるが……、その見た目と呼び名のギャップが、意外な可愛らしさと犬神さんに対しての親しみやすい印象を与えてくれている。
その事自体に対しては、別段言いたい事や何か思う事などは存在しないのだが……。
「(今の張り詰めた空気感で、その気の抜けるような名前を呼ぶのは……。まあ、みんなの表情もかなり堅かったから、ある意味では良かったのかな……?)」
とまあ、意識してか無意識だったのかは定かではないが、猫井会長の犬神さんへのその呼び掛けによって、張り詰めていた空気が若干弛緩した事は間違いない。
実際、少し緊張気味で強張った表情だった三葉先輩も、猫井生徒会長のおかげで心なしかその緊張が解けているようにも思える。
すると、犬神さんはその空気の弛緩を変に誤解したのか、急にあたふたと慌てだす。
「ほ、ほら!皆さん変な空気になっちゃってるじゃないですか!相川くんも三葉さんも笑ってますし……、普段であれば、その……わ、わんこちゃん?の呼び方も別に嫌ではないですけど……。今だけは『犬神体育祭実行委員長』とちゃんと呼んで貰えませんか?猫井さん。いえ……、猫井生徒会長。」
最初はわたわたと、しかし最後にはしっかりとした口調で犬神さんは猫井生徒会長にそのように訴えかける。
少々生真面目過ぎる気もするのだが、本人からすれば、今だけは皆の前でその呼び方はやめて欲しいとの心境なのだろう。
あと俺と先輩も含め、その様子を微笑ましいものとして見ているのであって、決して変なものを見る目では見ていない。
まあ、仲良いコンビだなぁと、そう思ったのは確かなのだが……。
すると、それを聞いた猫井生徒会長は「しょうがないなぁ。」と言いつつ、スッと居住まいを正して……、その空気感を一変する。
「分かったよ……、わんこちゃん。いや、犬神体育祭実行委員長。こう呼べばいいかな?
おふざけの時間はこれくらいにして……、早速本題に入ろうか?」
その顔にはにこりとした笑みを浮かべながらも、どこか圧迫感を感じさせるような張り詰めた雰囲気であり、そんな猫井会長はちらりと俺達の方に目を向ける。
本人は意識しているのか定かではないが、この雰囲気の急激な変化には誰しもが戸惑う事だろう。これまでののんびりした緩い雰囲気から一変、唐突に威厳のあるどこか堅い雰囲気になるのだ。これには戸惑わない方が難しいと言える。
そしてその例に漏れず、三葉先輩や髙木さんは初めて見る猫井会長の急激な雰囲気の変化に戸惑いが隠せないでいるようで、その言葉に何も言い返す事が出来ずにいる。
「(まあ俺も初対面では色々とこの人には驚かされたからな……。中でもオンオフをぱちりと切り替えたような、そんな急激な雰囲気の変化なんかは特にな……。)」
俺は内心そんな事を考えながらも、とりあえずは場の空気を戻すためにと、パンパンと手を叩いてみんなからの注目を集める。
「あー、その……、俺から少しいいですか?ちょっとだけお話をさせて貰っても。」
あえて皆からの注目を集めるように手を叩いて、俺はみんなに呼びかける。
いきなり話し始めると流石に変だと思ったので、このように尋ねるような言い方になってしまったが……。実際の所は、その呼びかけ自体にそこまでの意味はない。
俺の目的はあくまで先輩方の意識をもとに……、こちらに戻すという事なのだ。
すると俺の目論見が功を奏したのか、三葉先輩と高木さんはハッとした顔でお互いが互いの顔を見合わせる。
そして、俺は二人が元の調子に戻った事と猫井会長たちの許可を得たのを確認した後、先程切り出していた話の続きを話し始める。
「まず、俺達の現状理解している内容ですが……。猫井会長が『犬神実行委員長から聞いている』と言っていた話し合いの内容とその理由についての大まかな説明についてのみ、こちらは理解している状況です。
詳しい内容については今回の話し合いでお聞きするつもりだったので、猫井会長が心配するような、一からもう一度説明が必要になるという事にはならないかと思います。
……っと、そうですよね?お二方。」
これは補足というか確認になるのだが、一応は伝えておいた方がいいだろう。
同じ話を何度も繰り返しても意味はないし、何より非効率的だ。
このように俺は、少しの間行っていた生徒会での手伝いとその延長で出席した会議などの経験を活かして、こちらの現状の報告と無駄な工程を省くように努める。
すると、俺からの報告に猫井会長は興味深そうにこちらを見た後に、何かに納得したように頷くと……、その顔を破顔させる。
「あはは!相太くん、君は本当に面白いね?っね?アタシが考えていた何倍も面白いし興味があるよ。……だから、ありがとね?時間は有限だし、こういう気の配り方はとっても助かるよ。じゃあ、相太くんもこう言ってる事だし……。無駄な説明は抜きにして、本題の方を早速話し始めようか。」
なぜか「あはは!」と可笑しそうに笑った猫井会長はそう言うと、先程より若干柔らかくなった雰囲気を纏いながら話し合いの開始を改めて宣言する。
ただ猫井会長が破顔しただけで場の空気が少し和らいだ事からも分かるように、やはり生徒会長と言われるだけあり、とても存在感のある人物であると言える。
俺は改めて気を引き締めると、まずは副会長の1人である橘 巴さんが話し始める。
「では、今回問題となった『第1高校』と『第1女学院』の体育祭の合同開催についてなのですが……、問題としては至って単純な話です。要はこちらの女生徒達の少なくない人数が、男子生徒との合同開催に対して不安を感じているという内容なのです。
皆さんもご存知だと思いますが、本学は伝統ある『女子校』であり、男子生徒は勿論男性教諭でさえも在籍する事は出来ません。
そのため、男性に対する知識や認識は幼少の頃で止まっている生徒も多く存在し、本や雑誌での情報を通してしか男性を認識していない生徒がそれなりの数いるのです。
ですから、そのような男性に対する知識の少なさ、未知に対する不安などがあり、今回の合同開催の発表後、一部の生徒達から反発が発生したという事なのです……。」
少し顔を曇らせた巴さんはそのように述べると、『実際はこちら側で、事前に反対意見を解消するべきなのですが……。』と言って、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
予想通りといえばその通りなのだが……、やはり女子校ならではの不安であった。
共学に比べて圧倒的に男との接点の少ない女子校では、ある意味『男』という存在そのものが一種の不安材料になってしまうのだ。
これはある意味自然な流れなので、その事自体に対しては特に疑問などは存在しないのだが、それなら……、何故俺がここに?
「えーと……。それでしたら、どうして俺だけがここに呼ばれたんでしょうか?妹を『第1女学院』に持つ兄という事で呼ばれたというのは、何となく皆さんとの会話の中からでも推測は出来たのですが……。俺1人だけが呼ばれた理由がよく分かりません。
男子生徒に対する偏見を取り除くという趣旨の話し合いであれば、他の男子生徒も複数人呼べばよかったのでは?」
俺は巴さんの話を聞いて、ここまでずっと自分の中で疑問だった事について尋ねる。
巴さんの話を聞く限り、今回の反対の件は女子生徒による男子生徒への不安や不信感が原因になっているのだ。
であれば、それを改善するための話し合いには出来るだけ多くの男子生徒が参加した方が良いのではないかと思うし、それをしないで俺だけを呼ぶのは不可解だ。
まあ流石に、そこら辺の男子生徒をテキトウに連れて来るとまでは言わないが、生徒会に所属する真面目な男子でも呼べばよかったのではでは?と、俺はそう思った。
すると、俺のその問いを聞いた巴さんは少し困り顔で猫井会長の方をチラリと見る。
そして、もごもごとハッキリしない口調で辿々しく言い訳をする。
「そ、それは……、そうなのですが……。これにはちゃんと理由がありまして……。で、でも、それを私の口からはちょっと……。」
何やら、歯切れの悪い様子の巴さんは俺に対して何かを言い辛そうにしている。
ーーうん?何だ?急に口籠って……。
これまで、ハキハキと話ていた巴さんが思わず口ごもるようなその内容とは?
俺は巴さんが何の事について言いづらそうにしているのか見当も付かず、只々その続きを待ち続けていると……。
「あっ、私もそれは気になってました!どうして相川くんが1人だけ呼ばれたのかなって。
私は体育祭実行委員長なので、他の役員の男の子達を呼ぼうか考えたんですけど……、犬神さんには別に大丈夫って断られちゃいましたし。……何か彼でないといけない、そんな理由でもあるのですか?」
「そうですね……。私も相太くんが選ばれた理由……、そうでなければならなかったその訳をお聞きしたいです。」
「……ええっと……。」
それまでじっと巴さんの説明を聞いていた高木委員長と三葉先輩までもが、不意に口ごもった彼女にそう尋ねる。
すると、俺を含む3人から見つめられた巴さんはどこか助けを求めるかのように再び猫井会長を見ると、見つめられた猫井会長は「うん。あとは任せて。」と頷いて口を開く。
「そうだね。みんなが疑問に思うのは最もだと思うよ。確かに、意図的に相太くんだけを呼んだというのは間違いないからね……。
それにもちゃんと理由があって、それを踏まえたお願いしたい事もあるんだけど、恐らくみんなは……、巴ちゃんがどうして言いづらそうに、お願いしづらそうにしているのかって方が気になってるよね?
巴ちゃんは恥ずかしがって言いたがらないから、アタシから相太くんにお願いをするね?では、単刀直入に……。相太くん、アタシと付き合って貰えないかな?」
「……はい?付き合って……?えっ……?」
猫井会長はとんでもない爆弾発言で、俺を含む、先輩方まで驚愕させるのだった……。
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