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第十一話 放課後の一騒動

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「突然の訪問ごめんなさい。相太くんにはどうしても伝えないといけない事があって、放課後ここまで来たのですが……。少々お時間を頂きたいんですけどよろしいですか?」


 午後の授業も何事もなく(ここで言う何事もなくは、休み時間の質問責めにあった事を除いたものであり、色んなこと、麗奈や先輩のことなどを気にすることなく、授業を集中して聞けたという意味での『何事もなく』だ。)終わり、いざ放課後を迎えるという丁度そのタイミングで、俺が雫からのラインの返信を確認していると……。

 なにやら教室の前の方が騒がしくなった。


 俺は「なんだ?」と思い、そちらの方に目を向けてみると……、俺の目の前には突然ドアップでとても深刻そうな顔をした三葉先輩が現れた。

 そして突然のドアップの美少女顔に驚く俺を置き去りにして、先輩は先程のセリフを俺に言ってきたのだ。


 ーーえっと……、先輩はなんでこんなにも深刻そうなの?


 俺は当初先輩の出現に驚いていたのだが、今はそれよりも先輩の深刻そうなその表情が気になりだし、一体何があったのかと素直に疑問に思った。

 俺の記憶の中にある先輩の表情はそのどれもが明るい表情ばかりで……、笑っていたり、微笑んだり、照れていたり、恥ずかしがっていたりと、そのどれにも当てはまらない今の表情に俺は一抹の不安を覚えた。

 俺はそんな不安から、教室であるにもかかわらず先輩にずいっと顔を近づけて、一体何があったのかを真剣に尋ねる。


「な、何があったんですか!?も、もしかして……昼間の一件で、俺と一緒にいるなって誰かに脅されたとかですか!?」


 俺は先輩の身を案じてそのような可能性について尋ねてみる。

 こんな話、普通の人間であれば特に心配することではないのだが……、その相手が三葉先輩であれば話が別だ。

 俺は麗奈にばかり意識を割いていて、他の女子について何にも知らなかったのだが、この学園には『五美姫』と呼ばれる、学園のアイドル的存在が5名いるらしいのだ。

 その中でも3番目の美姫、『三葉の巨美姫』と呼ばれているのが、俺の目の前で深刻な顔をしている三葉先輩その人なのだ。

 その美貌は誰もを魅了するとても整った顔立ちであり、その美貌に見惚れた者は数知れず、高校の入学式の頃からかなりの美人だと騒がれていたそうだ。

 また、その整った顔立ちに負けず劣らず存在感を放つのは、彼女の1番の特徴でありその魅力でもある凶悪なまでの母性の塊……、その特徴的な大きな胸だ。

 そしてそれが三葉先輩が『三つ葉の巨美姫』と呼ばれている所以でもある。


 そんな学園のアイドル的存在である三葉先輩には、男達があまり近づかず、本人は男から嫌われていると勘違いしているようだ。

 しかし本当の所は三葉先輩の存在が眩しすぎる上に、学園のアイドルで近寄り難いだけとの事である。(1-Bの男子生徒より発言)


 で、そんな『五美姫』の一人が俺みたいな平凡な生徒、良くも悪くも並みな男である俺と一緒に登校して来て、あまつさえお昼休みには、二人で手を繋ぎながら仲良く教室を出て行ったのだ。

 それは色んな方面から批判や嫉妬の声も出てくる事だろう……。


 俺はそんな予想を立てて、先輩にその真偽のほどを尋ねてみたのだが……、それを聞いた先輩は先程の深刻な表情から一転、キョトンとした顔になる。


「はい?私が相太くんと一緒にいてはいけないですか?いえ……、そんなこと誰にも言われてませんし、そんなこと誰にも言わせませんが……。はっ!もしかして……、相太くんがそのような良からぬ話でも吹き込まれたとでも言うのですか!?
 だ、誰ですか!誰からそのような酷い話をされたと言うのですか!」


 すると、深刻そうな顔からキョトンとした顔へと百面相をしていた先輩は、次はどこか怒ったような表情になり、逆に俺が他の生徒から何かを吹き込まれたのだと勘違いして詰め寄ってくる。

 そもそも自分が雲の上の存在で、俺のような一般生徒が一緒にいる方がおかしいという一般的な考えすら、三葉先輩の頭の中にはないようだ。(まあ……、そこが三葉先輩の良い所なのだが。)


「(でもまあ、こんな風に若干周りが見えなくって俺の心配をしてくれる所なんかも、すごい可愛いくて、正直ずっと見てたくなるんだよなぁ……。)」

 まあ、俺よりも一個上の先輩なんだけど。


 しかしこうも至近距離でその美しい顔を近づけられていると、なんだか落ち着かない。

 俺はそんな姿をずっと見ていたいと思いつつ、少々名残惜しくはあったが、とりあえず先輩の誤解を解いておくことにした。


「大丈夫です!三葉先輩。そんなこと他の誰にも言われてませんから!ただ、先輩が深刻そうな顔をしているように見えたので、何があったのかな?って思って……。
 先輩がそんな顔をして、俺に伝えたい事があるって言ったから、そんな心配をしてしまっただけです!それに……俺だって先輩と一緒にいたいですし、先輩が俺のことを嫌がらない限りはずっと一緒にいるつもりです!」


 今の俺からの先輩への想いを、ありのままで伝えた。ーーというか、ありのままを先輩に伝え過ぎた……。

 なんというか、先輩の前だと俺はそのままの気持ちや想いを、素直に先輩にぶつけてしまう癖みたいなものがあるようだ。

 普通では恥ずかしくて、とても口には出来ないようなそんな気持ち。

 誰にも話さず、自分の心の中に秘めて温めておくようなそんな想い。

 それら隠しておきたい感情の全てを、なぜか先輩に対してだけは自然と言葉が溢れるようにして口にしてしまう。

 そしてそれが、先程先輩に放ってしまったある意味プロポーズの言葉とも受け取られかねないような恥ずかしいセリフを、あの場で口にしてしまった理由なのだった。


 すると案の定というか、俺の言葉を聞いた先輩はボッ!っと、まるで顔から火が出たかのように一瞬で顔が真っ赤になってしまう。

 そして、「あの!その!えっと……。」などと要領の得ない返事をアタフタと落ち着きのない様子で行い、終いには顔をすっと俯かせて、消え入るような、俺にしか聞こえないような小さい声で……。


「あ、あの……。私も、その……。相太くんとずっと一緒です……。」


 真っ赤な顔を俯かせて隠しながら、先輩は恥じらいつつそう呟くのだった……。


 俺はそんな先輩のいじらしくも可愛らしい様子に、ときめいてしまったのだが……。


「と、とりあえず!ちょっと教室出ましょうか!な、なんかちょっと……、視線が多くて居心地悪い感じですし……。」


 周りの好奇と嫉妬の視線に晒されて、流石に居心地の悪くなった俺は先輩にそう言い、昼休みとは違い今度は俺の方から先輩の手を引いて、騒がしくなっていた1-Bの教室から足早に退散するのだった……。
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