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第一話 突然の別れ

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「もう私達別れた方がいいと思うの……。
 だから、私と別れてちょうだい相太そうた。」


 放課後、彼女に呼び出された教室の一室。

 俺達二人以外の誰もいない教室で、俺こと相川 相太あいかわ そうたは、彼女である黛 麗奈まゆずみ れいなから開口一番、特に何の前置きもなく突然そう言われたのだった。


 いきなりの、それも突然の別れ話を麗奈から切り出された俺はというとーー


「…………えっ?」


 当たり前の話だが、マジで言われている意味が一瞬理解出来なくて、そんなバカみたいな返答を麗奈に返してしまう。


 「(……なんで?どうして?)」


 そんなありきたりな疑問の言葉しか頭に浮かばず、自分の話なのに、どこか現実感のないような感覚に陥ってしまった。

 そしてそんなありきたりな言葉さえ口にできない俺は、ただただ呆然と麗奈の顔をボーッと見つめることしか出来なかった。


 すると何も言えない俺を横目に、麗奈はそのまま席を立ち「言うことはない?じゃあ話はこれで終わりよ。さようなら。」とだけ述べると、用件だけを一方的に伝えて彼女は教室を出て行くのだった。


 そして、彼女がいなくなった教室で一人になった俺はポツリとーー


「俺……麗奈に嫌われた?」


 訳が分からないまま麗奈にフラれてしまった俺は、彼女にフラれてしまったショックから何も考えられなくなり……

 その後、たまたま通りかった友人の西田にしだに心配されながら、とりあえずは自分の足で自宅へと帰ることになったのだった……。








 ーーーー相川宅・自宅にてーーーー

「ーー!ーーちゃん!、ーー兄ちゃん!お兄ちゃん!どうしたの!?お兄ちゃん!」


 なんとか西田のフォローがあって、俺はようやく自宅に帰宅することが出来た。

 そして帰宅して早々、リビングのソファーに顔から突っ込み、呆然と倒れ込んでいると、そのまま倒れ込んで動かなくなった俺を心配した妹が、こちらの様子を見て何度も声をかけてくれたという状況だ。


 そして俺の妹、相川 雫(あいかわ しずく)は現在も、呼びかけに反応を示さない俺を心配そうに見つめている。

 俺は近しい肉親、それも妹の声にようやく我に返って、まともな反応らしい反応を返す。


「……あー、まあ大丈夫。別に大したことないから。そんな事より、なんか今日は早いんだな……。今日は部活休みだったのか?」


 それでも俺は彼女と別れたショックの影響で回らない頭をなんとか使い、いつものこの時間には居ないはずと指摘する。

 妹はバレーボール部のマネージャーをしていて、普段であれば、夕食どきのギリギリぐらいで帰ってくるはずなのだ。


 すると俺の言葉を聞いた雫はどこか呆れた様子でため息を吐く。


「お兄ちゃん……ホントに大丈夫?今日は部活連の総会があるから、練習が早めに切り上がって早く帰ってこれるって、今日の朝食の時に言ったでしょ?それで今日はお父さんもお母さんもいないから、2人で外食だって自分で言ってたじゃない……。」


 心配そうな声色の雫は、ずいっと俺の顔を覗き込むようにしてそう言ってくる。

 そして、そんな今朝に聞いていた話を告げられ、先程までの呆然としていた様子から、なんとか復帰し雫に謝る。


「あ、ああ……悪い、忘れてた。今日は早いんだったな!それで……外食だったか?そうだな……お詫びも込めてお前の好きなところにしていいから。ある程度は俺の小遣いでカバーするからさ……。」


 たしか、昨晩母親から晩ごはん代として3000円程貰っていた。これに俺の小遣いを少しでも足せば、そこそこの所にでも食べに行けるはずだ。

 回らない頭でもなんとかそのように考え、雫に今日の出来事について感づかせないよう、話を逸らすように言った。


「むむむ、なんかおかしい!お兄ちゃんがいつもより優しいけど……今日はちょっと違うような気がする!お兄ちゃん、私に何か隠してるね!今日学校で何があったのか駅前のファミレスで教えてもらうよ!」


 雫は騒がしく俺に詰め寄り、強引に俺の手を取ると、俺たちの自宅からほど近い、学生が何時間も居座れるファストフード店へと足を進めるのであった。





「それで……今日の学校、いや?今日の放課後かな?一体何があったの?あっ、流石に何もなかったなんて言わないでよね。
 お兄ちゃんのことが本当に心配だから話を聞いてるの。どうなの?お兄ちゃん?」


 ファミレスについて早々、俺達は各自メニューを頼み、やっと一息を吐いた所で、雫は俺にずいっと顔を近づけてそう尋ねてくる。

 妹であっても、女子の顔がここまで近づくと、どうしても落ち着かない。

 俺は妹に戻るように指示しつつ、今日あった出来事について、躊躇いながらではあるがぽつりと話し始める。


「その……聞いても、何でもない事かもしれないぞ?お前にとっては別に関係ない事かもしれないし……。」

「ううん!お兄ちゃんがそんな風になるって事は私にとっても一大事なんだよ!いつも私を助けてくれるお兄ちゃんを今度は私が助ける番なんだから!」


 雫はそう言うと、机の上の手を握りしめて、気遣わしげな視線をこちらに向ける。


「(参ったなぁ……これは……。)」


 昔はずっと俺の後ろについてきて、「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」と言っていた雫が、こんな風に俺を気遣ってくれるまでに成長していたなんて……。

 俺はそんな妹の成長を実感すると同時に、たまには自分のカッコ悪い部分を雫に見せてもいいのかな?と、そう思い始める。

 昔からのかっこいい兄貴像というものを、妹の前でずっと演じ続ける必要がなくなったと、この時俺は初めて気がついた 。


 そのようにして、これまでの考えを変えてみると、なんだか心の負担がふっと軽くなったような……そんな気がした。


 ーー今なら言えるかな……。


 俺はなおも心配そうに俺を見つめてくる雫を横目に、今日あった出来事の詳細、突然の彼女との別れについて、その理由を知ることが出来なかった事を含め、全てをありのまま雫に伝えたのだった……。

   
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