3 / 3
教会での通信『女心は何とやら』
しおりを挟む「ではエクスくん。私は少し子供たちにご飯を食べさせないといけませんので、少しの間、ここの礼拝堂で待っていて下さいね?
あっ!分かってるとは思いますが……そこに並べてあるイスの上を歩いたりしてはダメですよ!ちゃんと大人しくここで座って待っていてくださいね?エクスくん!」
「うん。ここでメアリーを待ってる。そんなに心配しなくても大丈夫だから……早くそっちに行っておいで。」
その後、教会に2人雑談しながら到着した俺とメアリーは、教会ないに誰もいない事を確認してから……何やらメアリーが教会の子供たちにご飯を食べさせないとの事で、俺だけがその教会内の礼拝堂に1人取り残された。
そして1人ちょこんと座る礼拝堂はとても静かで、イケナイ事だと分かっているのだが、なんだか無性に何か叫びたくなってくる。
そして俺はメアリーが完全に教会の奥に消え、その姿が見えなくなった確認できなくなった、そのタイミングで……
「スゥゥ……モイラぁ!いるんだろ!出てこいよ!実体無くてもいるのは分かってーー『うるさい!大声で呼ばないで!』ぐぺっ……。何すんだ!モイラ!」
『ふん!あんな人間の女に撫でられて、デレデレ喜んでたエクスなんて勝手にすればいいのよ!私がこっちから出来る事なんて、どうせあの子をこっちにとどめておく事だけよ!
そんなにあの女の方が私より大切だって言うなら、エクスなんて……ずっとあの女と遊んでおけばいいのよ!』
俺は大声で気配だけを感じさせていたモイラに「出てこいよ。」と、実体のない空間に向かって呼びかけ、少しの近況報告をしようとその名を呼んだところ……思いっきりモイラの見えざる力によって、頭をスパンッ!と叩かれた。
そして、謎に俺に怒っている様子のモイラは、俺がメアリーに頭を撫でられてデレデレしていたという……意味不明な言い掛かりを付けて、俺に対してこんな態度を見せているみたいだ。
「(なんでモイラはこんなに俺に怒ってんだ……?
俺がデレデレしてたって、そんな事実はないんだけどそれにしたって……。なんでそれをモイラが怒る?
あー……モイラって、女心ってホント分かんねー。)」
しかし、それに対して真っ向から反論し、モイラの機嫌を損ねても仕方のない話なので、俺はとりあえずモイラの機嫌をこれ以上損ねないようにと話し掛ける。
「あのな……モイラがなんでそんなに怒ってるのか、俺にはよく分からないけど……。俺はモイラに、お前にしか相談出来ない事があるからこの教会まで来たんだぞ?
そもそもそれが無かったら、メアリーと俺が話を続ける理由なんて無かったし、第一に……メアリーよりもお前の方が大切じゃなかったら、こんな風にお前の事を呼び出さずメアリーの方について行ってるだろ?
さっきの俺の何がダメだったのか分からないけど……どうにか機嫌を直してくれないか?俺が帰ったら、モイラの言う事なんでも1つ聞いてやるからさ。……なっ?」
あまりにも単純でありきたりな手だが、俺はモイラの言う事を『なんでも1つ聞く』とそう言って、なんとかモイラの機嫌を取ろうとする。
もちろんこれでホントに機嫌が直るなら、喜んでなんでも1つモイラの言う事を聞くし、なんなら1つだけと言わず、何個でもその言う事を聞くつもりだ。
すると、俺の作戦が功を奏したのだろうか?
それを聞いたモイラの気配が、ホワッと柔らかい物に変化したのを確認した。と言うかむしろ……その気配から、なにやら嬉しそうな雰囲気まで感じ取れる。
そして、モイラは嬉しそうな雰囲気をそのままに、先程の不機嫌が嘘のように俺に話し掛けてくる。
『そ、そうよね!私の方があの女よりも大事よね?だって私はエクスの幼馴染みで、エクスの大切な神なんだから!
ふふふ……。私が1番エクスの大切な神。エクスは私を頼る為だけに、わざわざここまで訪ねて来た♪
うん!それで何かしら?私にしか出来ないその相談って!出来る事ならなんでも力になるわよ?』
「う、うん……。ありがと。それで……その相談っていうのはーー「あれ?エクスくん?誰か来たのですか?」いや……誰もここには来てないよ?少し物音を立てちゃったから、それが人の声に聞こえちゃったのかもしれない!大した事じゃないから気にしないで!
ーーって訳でモイラ、悪いが相談はまた今度だ。今日の夜にでももう一度話そうか。また夜にな。」
『はぁ……分かったわよ。とりあえず、あなたの相談の話はまた今度ね?でも……今日の夜はごめんなさい。
私、この後からちょっとした用事があって……。また今度の夜。その時にでも、またお話しとか相談とかちゃんと私に聞かせて頂戴。それでいいわね?エクス?』
俺とモイラで2人、俺が実体のないモイラに向かって少しの間会話をしていた所……話の途中でメアリーが帰ってきそうになった為、俺とモイラは一旦会話を終了し、じっくり話すのはまた次の機会という事になった。
そして、その次の機会というのを今日の夜にでも設けようとしていたのだが……生憎、モイラはこの後何か用事があるようで、明日以降の夜という事を提案された。
まあ別に、俺の方も急ぎの用事ではないのでそれを了承し、手短に別れの言葉をモイラに告げる。
「うん。それで大丈夫だ。モイラ。またよろしくな。」
『ええ、それじゃあ……おやすみなさい。』
そうして、俺はモイラの気配が礼拝堂内から消失した事を確認し、その後こちらに戻ったメアリーから「私がいなくても大丈夫でしたか?ちゃんと大人しく待ってました?」と聞かれ、「うん。大丈夫だった。」と答えたのだが……どちらかといえば、『もう少しゆっくり帰ってきてくれても大丈夫だったよ?』と、心の内でそう思ったのはーー心の内だけに秘めておこう。
・・・
・・
・
「ふふふ!私がエクスの大切な神だって!私じゃないと相談出来ないって!エクスの口から直接そう聞いちゃった♪
今日はなんだか気分がいいから……早く用事を片付けて、エクスのお家でもキレイにしに行こうっと!」
私、女神モイラは自分で言うのもなんだか、これ以上ない程、非常に機嫌が良かった。それも、ここ数年の中でも1・2を争う程に喜色溢れる様子でだ。
しかしそれも、彼女とエクスの事を知る者からすれば、特に珍しいものでもなかった。
なぜならーーモイラがエクスに関わる何かに、その機嫌が良くなかった事など一度もないからである。
基本的にモイラは、他の神々との交流をそれなりに持っており、どの方面に対しても愛想よく、それなりのやる気を持って対応するのだが……唯一、幼馴染みのエクスにだけはそれらの枠には収まりきらない対応をするのだ。
たとえば、エクスのお世話の為に自身の家を移転し、エクスの家の隣にわざわざ引っ越した事や、エクスの回復を図る為、自身の力の半分を無条件でエクスに貸し与えたりと、それら他の神々の間ではあり得ないような事をモイラはエクスにしているのだ。
もうそれを見れば、誰がどう考えてもモイラがエクスに好意を寄せているとそう理解出来そうなものなのだが……驚いた事にモイラとエクス、その両者に自覚も認識もないのだ。
その状態がずっと昔からそうだったから、その気持ちがずっと昔から変わる事なく続いているから……2人にはそれが当たり前で、それが愛だ恋だと結びつかないのだった。
しかしモイラからのエクスに対してのそれは、側から見るととても分かり易く、誰がどう見ても疑いようのない、まさに純愛そのものでーー
「また今度の夜にってさっきは言ったけれど……あっちからの連絡はそれ以外ではこないのかしら?
別に忙しいとは言ったものの、ずっと手を離せないくらい忙しい訳じゃないし……。向こうからの連絡があれば、それを聞いてあげるのもやぶさかじゃないわよね?
もしエクスからの連絡が来るとするなら、それはいつ来るのかしら……?ーー念のため通信の手鏡持ち歩いとこ。」
このようにして、恋した自覚なきまま動き続ける2人の関係は、ゆっくりとだが着実に、絶えず進み続けるのだった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる