自分の運命の相手が俺を嫌っているクラスメイトだった話。

憧れの人に対して動揺を隠せない話。

　
「あの……その大橋さん？ここは他の人が多いので、ちょっと落ち着いてもらいたいっていうか……。
　そ、その……一体どうしちゃったんですか？直輝がーーじゃなくて、俺の友達が来てるのは、大橋さんからすれば不思議に思うかもしれませんけど……。」

「……すいません。こんな風にいきなり詰め寄っても、中峰くんに対して失礼なだけでしたね。勝手に1人で興奮してしまって申し訳ないです……。」


　ーー昼休み真っ只中の食堂の一角

　絶賛他の生徒たちから、変な注目の集まり方をしているーー俺たち（大橋さんからの辛辣な言葉に、固まってしまっている直輝を含め）３人は、とりあえず、周りからの注目を抑えるため俺が大橋さんに少し落ち着くようにそう言うと……一応ではあるが、大橋さんも落ち着いてくれたみたいだ。

　しかし、大橋さんは直輝に対してはとくに思う所がないようで……もはや当たり前のように、俺の隣で固まっていることにはノータッチだ。

　というか……それ以上に、大橋さんのこれはーー


「（な、なんか……直輝に対してだけ、大橋さん冷たいっていうか……塩対応？って、感じなんだよな。
　そもそも、『こんにちは！』って直輝が話し掛けただけで、『ん？誰ですか？私が用があるのは隣にいる方だけなので……もう帰ってもらっても大丈夫ですよ？さようなら。』って、普通に考えても、かなりキツイ塩対応なんだよなぁ……。）」


　そして、初対面でいきなりそんな事を言われるとは思っていなかった直輝は、そのあまりに辛辣な言葉にピシッと固まってしまって……先程からぼーっと虚空を眺めるだけの存在になってしまっている。

　そのため、とりあえずは俺は直輝のことを放って置くことに決めて、そこで改めて、大橋さんの方に意識を戻して話しかける。


「ま、まあ……直輝のことは置いておくとして。改めて、なんで俺をここに呼んだのでしょうか？
　いえ……大橋さんが真面目で、わざわざお礼を言いに来てくれたとこまではさっきも聞きましたので……それは俺にも分かります。
　でも……それだけであれば、先程教室前で大橋さんからお礼を言ってもらったので、わざわざここに俺を呼ぶ必要はなかったのでは……？」

「いえ……私が真面目かどうかは分かりませんが、そうですね。たしかに中峰くんに直接お礼をーーもっと時間のある時にしたいと思っていたのは、それ自体は事実なのですが……お察しの通り、それだけであなたの事をここに呼んだわけではありません。」


　すると、俺が当初から思ってた疑問に、大橋さんは俺にお礼の言葉を述べながらも、少しだけキリッとした表情で大橋さんはそのまま話を続ける。


「それでですね……。今回私が中峰くんに言いたかったのは、なにもお礼の言葉だけではありません。
　先程、中峰くんにお手伝いしてもらったばかりで、大変申し訳ないのですが……また、中峰くんにお願いしたいことがあります。」

「な、なんでしょうか？もちろん俺が出来る範囲のことであれば、ある程度、大橋さんのお手伝いすることも出来るとは思いますが……。」


　ーーなんだろう、特に明確な理由などがある訳ではないが、何となく若干の嫌な予感がする。

　何と言うか……大橋さんのこのキリッとした表情を見る限り、何かと・て・つ・も・な・い・頼・み・ご・と・を俺に言ってきかねないようなーーそんな嫌な予感がするのだ。


　しかし、そんな俺の考えをまとめて吹っ飛ばすような……そんな突拍子のない行動を、次の瞬間、大橋さんは俺に対して実行してきたのだった。

　なんと、大橋さんは何を思ったのか、ちょいちょいと俺を手招きし、少し近づいた俺に対してーー


「本当にあなたには申し訳ないと思っています。でも……すいません。今の私にはこ・れ・し・か・他に方法が思いつかないのです……。」

「えっ……な、何を……って、うぇっ！？」


　するとあろう事か、大橋さんは俺にだけ聞こえる声量でそのように謝りつつ、少し近いくらいの距離から、突然スッとこちらに身を乗り出して来たのだ。

　そして、そのまま驚きのあまり固まっている俺に、目と鼻の先に顔を寄せる大橋さんは「中峰くん、ホントにごめんなさい……。」と、やはり彼女は俺に申し訳なさそうにして謝る。


　そのため、俺はそんな大橋さんの様子に少しの冷静さを取り戻し、思わず俺はそんな彼女に合わせて、小声でコソコソと大橋さんに話しかける。

　ーーそして、勿論その間も直輝は呆然と固まったままである。それを証拠に、さっきから目の前で衝撃的なことが起きているはずなのにノーコメントだ……。

　とは言え……今はそんな状況ですら、ある意味俺にとっては好都合なのでーー


「あ、あの！大橋さん？これは一体どういう？もしかしてこれが……大橋さんがさっき言っていた、お願いの内容だったりしますか？」

「そ、それは……その…はい。あ、あの……もう元の姿勢に戻ってもらっても大丈夫なんですが、このまま少し声量を落として話してくれませんか？この行動の理由わけをちゃんと説明しますから。」


　そうして、大橋さんが口を開いて話した話は……なん言うか、や・は・り・俺が薄々感づいていたーーそんな衝撃的ではあるが、どこか彼女ならと納得してしまうような内容で、突然のことで驚いてはしまったが……俺は彼女にさ・ま・ざ・ま・な・気・持・ち・は・あ・っ・た・のだが、協力することに決めたのだった……。

　ーーしかし、この時の俺は知らなかった。俺が憧れの彼女のためにとったこの行動が、まさかこの後の俺の高校生活に、あ・り・え・な・い・程・の・衝撃と大きな変化をもたらすことになるとは……。


　ーー次話へと続く。ーー