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【2】悪役令嬢は専属メイドを得る

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状況が解ったところで、今後の成行きを考えてみる。
前世の私は王太子の婚約者という事でお高くとまっており孤立していた。そこをウィチタに突かれた。
甘やかされてボンボンの王太子の婚約者にならなくても構わないが、ウィチタの思い通りにはさせない。
王都の貴族学校に入学する4年後の春までには仲間を集め磐石なものにしておく必要がある。
前世では最終的に私を裏切った兄ウォーレンも今のところ良好な関係にある。
しかし3歳違いの兄は来年には貴族学校入学の為に王都へ行ってしまう。
王都でウィチタの毒牙にかからない様に注意しないといけない。
この領主館の臣下達は皆優秀だ。母が輿入れした際に引連れてきたエヴァンス家関係の者も多い。
前世では彼らも信頼せず我侭放題だったが、仲間は多い方が良い。懐柔策に切替える。
最初は私の豹変ぶりに戸惑っていたが、徐々に打ち解けている。
信頼出来るといったら彼女もそうだ。私の専属メイドにして恩に報いたい。
私より2歳上の彼女は、この時はまだ王都の孤児院にいるはずだ。
ウィチタの様子も気になるし、一度王都に行ってみようか?


数日後、私は王都に向う馬車の中にいる。兄ウォーレンも一緒だ。

「兄上」

仏頂面している兄に切り出す。

「同行していただいてありがとうございます」

「それは構わない。しかし、メイド一人の為に王都に赴く必要があるのか? 
しかも相手は孤児だというではないか」

もっともな言い分だ。しかし私は彼女でなければいけないのだ。
私だって父やあの親子が住む王都になんか行きたくない。
しかし、まだまだ若輩の身であるゆえ、悔しいかな父の承諾を得る必要があった。

「はい、どうしても彼女でなければならないのです」

そう答え、一言加える。

「兄上も来年には王都の貴族学校に進学なされます。あの親子、特にあの義妹には充分に注意なさいませ」


5日後、王都のワイツウェル公爵館に着いた。
父ウイリアム、継母のヴァイオレット、そして義妹のウィチタが笑顔で迎える。
継母のヴァイオレット夫人は見た感じ大らかそうだ。しかし娘のウィチタの笑顔はあざとい感じがする。
早速居間に通される。

「倒れたと聞いて心配したが、もう大丈夫なのか?」

父がまず切出す。

「はい、もう充分回復しております」

私も笑顔で答える。

「見舞いに行けなくてすまなかった」

「いえ、父上は忙しい身。仕方無い事です」

私が倒れた時、早馬が知らせに王都へ走った。
しかし翌日、私が目を覚ましたと解ると、父が見舞いに来る事は無かった。
それでも娘の見舞いに来るのが普通だろうに。このあたりが私が父の軽蔑する理由の一つだ。

「ウィンはあの後、我侭だったのがすっかり影を潜め、淑女らしい態度をとる様になったのですよ」

兄が口を挟む。

「母上が亡くなりましたから、私もいつまでも我侭ではいられませんわ」

私も淑女らしく上品な笑顔で答える。

「それは良い事だな」

父も満悦そうだ。

「ただ、最後に一つ我侭をお願いに参りました」

ここで私は本題を切り出す。孤児のメイドの件だ。


「何もわざわざ孤児をメイドにする事もないだろう」

話を聞いた父は兄と同じ事を言った。

「いえ、私も将来は王妃になるであろう身。
今から庶民を知っておきたいと思いましたの。それには最下層の孤児をと」

と答え、ちらりと傍に佇む親娘の様子を伺う。
母方の男爵位は貴族の中でも最下級だ。ましてや庶子ともなれば平民よりちょっと上くらいだ。
母親のヴァイオレット夫人は素直に感心した表情だったが、娘のウイチタは敵意を持った表情だ。
上級貴族の娘に私達の事が何も解る事は無し。単なる気まぐれが慈善気取りなのだろうと。

「まあ良いだろう。お前も同じ年頃の子が傍にいてほしいだろうからな」

父は承諾してくれた。


翌日、早速彼女が居るだろう孤児院に赴く。

「ステラですか? 少々お待ち下さい」

年端もいかぬ貴族の娘が、いきなり馬車で乗つけ「身請けしたい」と言われれば驚くだろうが、父からの紹介状を見せると、戸惑いながらも院長は目通ししてくれた。
やがてやって来た彼女はまだ12歳のはずだが充分面影があった。間違いないだろう。
何故私がここまで拘る理由は、家族までもがウィチタの術中に嵌って次々と裏切る中、投獄された私を最後まで世話してくれたのが、彼女ステラだったのだ。
前世で受けた恩を後世で返したい。その一途な思いからだ。
貴族、しかも四大公爵家に身請けされるされるとあっては孤児院にとっては大変な名誉のはずだ。
たとえ彼女が「嫌だ」と言っても、孤児院は無理やりでも身請けさせるだろう。
それでも一応訊いてみる。

「私は貴方が気に入ったの。一緒に来て私の世話をしてくれる?」

10歳の少女らしく優しく。

「は、はい。こ、こんな、わ、私ですが、よ、よろしくお願いします・・・」

はにかんだ笑顔で彼女は応じてくれた。





メイドのステラです。
メイド服のスカートがやたら短いものばかり出てくる上、たくし上げたりするので困りましたw
貴族家のメイドに相応しくないですよね。
ようやく良さそうなのが出たと思ったら、左手の指が・・・orz
もう妥協しました。
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