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第一章 強制退場

強制退場5

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「え……?」

 カボチャの返答に俺は困惑する。

「できない……? え、どういうこと?」

 カボチャは眉を八の字にした申し訳なさそうな落書き顔で話し続ける。

「『我が主』様は私にそのようなー『プログラム』を組み込んでくだーさーらーなーかーった……。私に与えらーれたー使命はへこれかーらーの説明するプログラムだけ……」
「な、なんだよそれ……じゃぁその主様に言ってくれよ‼︎ 戻してくれって‼︎ ……そうか上司だから言えないのか‼︎ なら俺が自分から言うから‼︎ それならいいだろう⁉︎ 会わせてくれよ‼︎」

 帰りたい一心であんなに怖がっていたカボチャの身体を掴んで大きく揺さぶる……が、カボチャは顔を左右に振った。

「申し訳ござーいまーせん。……『我が主』様への転送先も私にはープログラムさーれておりまーせん」
「ウソ……だろ?」

 帰れない。
 生きていても。あの日常に帰れない。
 生きていても。皆に会えない。

 生きていても。もう二度と——

「冗談だろう……? なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ……? 怪我を治してくれたのは感謝してるけど……でも、帰れないなんて……ありかよ……」

 此処一生生きていろとでもいうのか。寿命を迎えるまでこんな何もない、真っ暗な世界の中で生きていけっていうのか?

「それじゃぁ死んでるのと一緒じゃないか……‼︎」

 見えた希望の光に手を伸ばしていたのに。無情にも再び暗い地面に叩き落とされる感じだ。それもさっきよりも……深く真っ暗な奈落の底に。

 俺は『我が主』と呼ばれる奴に『死』に等しい世界に閉じ込められた。

 希望を見てしまったせいでその闇は深くて。もう涙すら流すことも出来ない。

「……いえ。

 ……だが。このカボチャは又しても、絶望に襲われる俺を守る言葉をくれたのだった。

「チャンスって……⁉︎ 帰れるチャンスか⁉︎ あるなら教えてくれ⁉︎ 帰りたいんだ!!」

 絶望で胸が張り裂けそうで早くこの苦しみから抜け出したくて必死に言葉を紡ぎ出していく。
 言葉には力があると言われている。俺の言葉にどれ程の力が宿っているのかなんてわからないが、それでもカボチャに詰め寄ってに俺の願いを吐き続ける。

「お願いだ‼︎ 帰らせてくれ‼︎」

?」

「……えっ?」

 カボチャはいま何を言ったのだろうか。一瞬理解ができずに時間が止まったように思えた。

「命を懸ける……?」
「比喩でもあーりまーせん。そのまーまーの意味、『命』を懸けるお話ですー」

 カボチャの口から再び出てきた『命』という言葉に、俺は無意識に心臓の上へ手を置いた。
 ドックンドックン、と鼓動が手に伝わってきて俺は本当にあの事故の後、助かったのだと。生きているのだと実感する。
 だけど、この助かったこの『命』を懸けることになると、このカボチャは言うのだ。

 衝撃的な言葉に俺は何も言うことが出来ないままでいると、カボチャはステッキを振るって映っていた事故の映像はぷつりと消した。

「では、『命の懸け』を含めてお話の続きをしまーしょー。……何故貴方様がここへ喚ばれたーかも含めてー……」

 そして、ピエロは言葉が終わるとステッキを再び地へと一突き。

 コツーン———

「……わぁ‼︎」

 音を合図に、突然真っ暗だった世界が俺達を中心に全方向に明るくなった。その変化に目が追いつかずに目が眩む。手で守るように目を隠して瞼を強く閉じた。

「ご紹介しまーしょー。こちらが———『美しくも脆き世界』」

 強い光に何度か瞼を開いては閉じてを繰り返えす。その度に瞳孔が段々と入る光の調節を行うために小さくなっていくのがわかる。

 何が美しいのか。
 その答えを確かめるために、目を擦りながらも懸命に俺は再び目を開いた。

「……‼︎」

 ホログラムだろうか。俺の足元にはコンクリートでできた高い建物も意味もない看板も捨てたゴミも何もない———大自然がそのまま作り出す緑と青の輝く美しい世界が大きく広がっていた。

「はぁ……」

 思わずその美しさにため息が出てしまう……だけど、それほどまで風景なのだ。
 大樹と表現するに相応しい木々が広がり、その上空を優雅に鳥が飛ぶ。いくつにも繋がる険しい山々の先に残る真っ白な雪。その雄大な草原にはいくつもの大きな川が見つけられて、それらは世界を囲む大きな青き海にと流れていく。

 そして最も強い印象を与えるのは、天から降り落ちてくる中央にある大きな滝とその側に描かれる大きな虹。

「幻想的な世界だ……」

 住んでいた田舎町も自然は身近にあったが、こんな綺麗だと感じたことがない。まるで自然の理想を絵に描いたような風景に意識が持っていかれそうになる。

 これが『美しくも脆き世界』。
 まさにその名の通りだ。

 あまりの感動に言葉を失ってしまった……が、ふっと気になってしまったに俺は思わず呟く。

「コマ……?」

 本当に。そんな風にしか表現が出来なかった。映し出された世界は俺の出した単語にぴったりな———日本の伝統的なおもちゃの『コマ』の形をした大地が空に浮かんでいるように見えたからだ。

「『コマ』とは見事なー表現ですねー……そして、ですねー」

 俺の思わず溢した表現にカボチャは拍手を———両手でカポカポと可愛らしい音を鳴らしてた。

「この世界は貴方様の世界とは違ーい、球体ではなーいのですー。昔、地球の人々がー『海は何処かで終わっている』と想像したー世界そのままなーのですよー」
「あぁ確か中学生の時に社会科で先生がそんな言っていたような気が……? 昔、世界が球体であると証明される前は人々は海の最果ては滝になっているって」

 まだ球体だと知らなかった時代。危ない旅を続けて世界の真実を暴いた冒険家が現れるまで信じられていたお話。
 まさか地球ではなく違う世界にて、その昔の考えが正解だったなんて誰が想像できたものか。

「じゃぁこの世界の海が減らないのはあの滝のおかげなのか」

 世界を囲う海はコマの端にまで広がるとそのまま滝となって流れ落ち、いつのまにか消えている。そしてそれらを補う大量な水を地面に叩きつける滝。あの真下にいたら確実に怪我だけでは済みそうにない。そんなことを想像して勝手に背筋が凍る。

「そしてその滝の水を生み出しているのが彼処でーすよー」

 そう言ってカボチャが指差す先はコマの世界の中央———大きな滝が二つに分けられる間にそびえ立つの古き巨大な搭。

「水を生み出し、私を作り出し、世界を生み出し、貴方様をお呼びしたお方……」
「彼処にいるのが『我が主』様?」

「えぇ。またの名をこの世界に君臨する創造主———『神』と呼ばれるお方です」

「神……様?」
「そう……そして貴方様は『我が主』様……神様に会いにいかなければなりません」

 なんと…自分は『神』に呼ばれたのか。

 神様まで関わってきてしまったら、実は俺は選ばれた勇者かなんかじゃないかと考えてしまうではないか。
 どうしよう。会いに行かなきゃ行けないって……もし神様に会って「これから魔王倒して来い」とか「世界救ってくれ」とか他所様の世界の命運を託されたら……。そんな勝手な想像をして自身で自分を不安にさせて顔を青褪めさせる。

「大丈夫……ではなーいですねー?」
「不安だよ……神様はなんで俺なんか喚んだんだよ……世界をどうにかしろって言われても何もできないぞ、俺……」

 そういうのはオリンピック金メダリストとか既に地球で選ばれてる人間に任せてくれよ、と内心愚痴を溢す。
 ところがカボチャは俺の言葉に頭を数秒傾げ、そして俺の言いたいことがわかったのか、続けてちょっと困ったような落書き顔を浮かべた。

「いえー、いえいえー。
「え、俺が?」

 思わずぽかーん、と口を開いて自分を指差す。そんな俺にカボチャは「お行儀がー悪いですよー」と嗜めてから、ステッキを軽く回した。

「さー続きといたしまーしょー」

 そして、再びステッキを地へと一突き。

 コツーン———

「わぁ⁉︎」

 見下ろしていた美しい自然の風景は一変———映画にでも出てくるような西洋のレンガの街並みとそこを行き交う大勢の人の姿が周りに現れた。

「え⁉︎ 人⁉︎」

 一瞬ぶつかりそうになって避けようとした。……が、どうやらこれもホログラムのようなもので映し出されているみたいだ。人々は俺がそこにいることなど知らない。ぶつかってもすり抜けてる向こうがに行ってしまう。

 大自然の景色から人々のいる大きな街へ。ファンタジーに出てきそうな市場が笑い声で賑わっていて、日本では中々見れないであろう光景が目の前に広がっている。

「この『美しくも脆き世界』にも、このように人々で賑わーう街がいくつも存在いたしまーす。そして……人々の中にはー『ある条件』を満たーし、貴方様の世界より『我が主』様から喚ばーれた人が数パーセント暮らーしておりまーす」
「俺以外にも元の世界から来ている人がいるのか⁉︎」

 まさか自分が以外にも神様に呼ばれた人がいたなんて。その真実に驚きと同時に安心感が身体に滲むように広がり、口が端が思わず上がった。
 いますぐ帰れない真実は変わらない。だが、それでも同じような人がこの世界にいるということがわかるだけで人は孤独にはならないのだと俺はこの瞬間学んだ。

 ……だけど、その喜びも束の間。カボチャの顔を見て俺はギョッとして喜びの声を引っ込めた。
 目が落ち着かない、ずっとグルグルしている。それがなんだが泣くのを我慢しているような落書き顔に見えた。

「えぇ……えぇ……『条件』を満たしてしまーたー方々ですー……」
「だ、大丈夫か?」

 先程とは逆に俺がカボチャを心配して声をかける。すると、カボチャは何か耐え凌ぐように顔を手が多い、暫く沈黙を続けた。

 もしかしたら、泣くほど話したくないことなのかもしれない。だけど、この話を聞かなければ俺はここに来た理由も『命を懸ける』理由もわからないままになってしまう。……だが、相手を泣かせてまで聞くのは良心が痛むもので。どうすればいいのか、と俺の中で葛藤が始まる。
 だが、暫くしてカボチャは顔を覆っていた手を離して、また困ったような落書き顔を浮かべた。

「ごめんなーさーい……どうしてもこのお話は辛くて泣きそうになーるのですー」
「え、あ、ごめん……。辛いなら内容飛ばしてもいいから……‼︎」
「駄目ですよー。ちゃんとお伝えしなーいと貴方様が困ーりまーすー」

 優しい子ですねー、とまた俺の頭に乗せそうになったカボチャの手。だけど、やっぱりそれは寸で止めて、優しい色の微笑みの落書き顔を浮かべる。

「……貴方様。よくおー聞きくださーい」

 だけど、落書き顔は真面目な絵に変わり、頭一つ分高い位置から俺を見下ろした。
 よく聞くように、と。その言葉を守るために俺はカボチャの声に耳を集中させる。周りは沢山の人で賑わっているのに、意識一つ変えるだけで、音が遠ざかっていくような気がした。

「この世界に呼ばーれるにはー『条件』があーりまーす。……そして、貴方様はその『条件』を

「……えっ」

 その瞬間。僅かだが、時が止まった感じがした。

 俺は『条件』を満たしていない。
 満たさなければ此処にはこれない。

(俺は……『喚ばれるはずのない存在』なのか———?)
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