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第一章 強制退場
強制退場2
しおりを挟む「誠~、今日発売のスキップ読んだ~?」
「え、買ってきたの? 貸してぇ」
最近、楽しみとなっているのが週一で発売される週刊少年漫画雑誌。こうやって漫画雑誌を学校で皆と回し読みする行為は学生時代でしか楽しめないもの。
漫画について熱く語り合うことも青春の一つではないか、と俺は思う。
「いや~力が手に入るなら、俺このキャラの力欲しいわ」
「確かにかっけぇけど、日常生活でどう使うっていうんだよ。破壊行動以外何もなくねぇか」
「そうだけど。なんつうか憧れねぇ?」
「あぁ、アレらしいな。漫画の描き方ぁ……? まぁそんな感じので少年漫画は読んでる人に主人公やキャラに憧れを持たせることが多いみたい」
友達の会話からふっ、と漫画の豆知識を思い出して披露した。
何処で覚えたか、はたまた教えて貰ったのか。昔に手に入れた知識に友達は感心した声をあげて何度か頷いた。
「へぇ~そうなのかぁ。あーでも、確かにそうかも」
「やっぱり、こう、非日常系のものって憧れるよなぁ。絶対に自分じゃできないから」
「なんか、主人公みたいに普通が普通じゃなくなるっていう、特別な感じみたいなのがいいよなぁ」
突然手に入れた特別な力で敵と戦い、勝利する。それは長年の少年漫画で愛される王道の物語。
主人公が熱血でも、弱虫でも、ダークヒーローでも。物語では『自分が選ばれた者』という特別な存在となって、時にピンチになりながらも読者をハラハラさせてはそれを超える感動の展開を与えてくれる。
現実ではそんなことは決して起きないと分かっているけど、やっぱり漫画を読む度に物語への憧れはあったりする。
(ダラダラしているけど、やっぱり平凡過ぎるのも面白くないって思うときはたまにあるんだよなぁ)
「俺、武器使うなら刀がいいなぁ。抜刀術とかカッコよくない?」
「刀は男の憧れだろ~。このキャラみたいにカッコよく振り回したい」
「でも、実際に刀って鉄の塊じゃん。このキャラみたいに二刀流とかかなり筋肉いるよね」
しかし。まぁ憧れには『現実』というものが必ずついてくるもので。現実では世界を脅かす悪の組織も無ければ、平凡な俺に特別な力が宿る展開も無い。
あるのは二か月後にあるテスト期間という恐怖だけ。
「最近WeTubeでさぁ。漫画とかで起きる現象をコンピューターでシミュレーションしてみたって動画あるの知ってる?」
「それって結構テレビとかでもやらない?」
「あぁやってたね。でもWeTubeはテレビ以上に結構ガチでやってる感があるわ」
いつの間にか、『憧れ』の話は『現実ではその技は可能であるのか』という話題に切り替わっていて。とうとう動画を探し出て友達と爆笑。
因みに校内でのスマホの使用は休み時間内のみ許されている。
つまり、どういうことかと言うと……
「なんだぁお前達。そんなところで大笑いして」
先生も参加してくるのだ。
「あ~これは今度の物理の授業に使えるなぁ」
「先生パクっちゃダメですよー」
「パクリじゃありませーん。先生は生徒が授業に興味持つように色々勉強に使えるネタを探さなきゃいけないんですー」
「先生も大変だね~」
そんな困らせる側の俺は先生に労いの言葉を投げながら画面をスライドさせては面白い動画を探していく。途中にいくつか検索名と関係の無い動画表示されていくが大体は再生数の万越えの動画だったりする。中には何度も見てしまいそうな程の力作があったりする。それも中高生が作った作品ときたら、同年代なのにと驚いてしまう。
「おっ! 『ノソっと』の新しい実況動画上がってんじゃん。家帰ったら見よっと」
「こういう動画見てると実況動画とかやってみてぇよな」
「でも、実況動画ってメチャクチャ編集大変らしいぜ。あとまず機材揃えるのに金かかる」
「そりゃぁ真面目にやればな。最近スマホからでも気軽にあげられるじゃん」
「画質とかやりたいことは制限されそうだけどな」
「くそ‼︎ 所詮この世は金なのか‼︎」
俺の机に拳を叩き付け、友達はとても悔しそう……な振りをしているとタイミングよくチャイムの音が流れた。
「はい、現実に戻る時間でーす。席に戻れー」
「夢の世界は短かったぜ……」
「次、現国とか眠い以外に何もねぇー」
チャイムの音と先生の掛け声で現実へと戻される俺達。授業への面倒臭さを表すようにダラダラと身体を動かしてそれぞれの席へと戻っていく。そんな俺たちに釘を刺すように「しっかり起きて授業受けろよー」と言って先生は教室を去っていった。
(先生、ごめん。多分、開始十分ぐらいで上瞼と下瞼がくっ付きそうになりそうだわ……)
勿論、その後の授業は予言通りに瞼同士がくっ付き合って中々離れず。仕舞には現国の先生の長い足が俺の机を蹴ったことによって起きるという、何処にでもある展開で終わっていった。
起きて。食べて。喋って。遊んで。勉強して。寝て。そんな毎日の繰り返し。
華の高校生と言われても所詮こんなもんだ。
きっとこの先も社会人になって働き出しても。ずっとこのようなループが続くんだろう。
それでも構わない。
漫画の世界に憧れようが非日常生活に憧れようが。
平凡過ぎる毎日が面白くなかろうが。
構わない。
普通に生きて普通に死んでいく。
それが俺という普通の人間の人生だ。
……そう、思ってたんだけどなぁ。
——————…………
その日も俺はスマホのアラームに起こされた。
いつも通り母親の手料理を食べて登校、授業を受けては休み時間に友達と話してを繰り返す。
最悪って思える程の悪いことも無く、だからと言って最高って思える程の良いこともなかった。変わらない普通の日常のループ。
でも、特別ってわけではないが昼の弁当に好きな冷凍食品が入ってたことは小さな幸せってわけで良かったと思う。女子みたいにおかず交換なんてことはしない。全部俺のもの。ガツガツと弁当を平らげた。
六時間目の数学の小テストに多少苦い思いをしつつも、一日の授業が終了した。
部活の無い俺は友達とも遊ぶ約束もしていないからこのまま帰宅して、いつもの通りのダラダラタイムに突入することになるわけだ。買い物でもすれば、と意見を頂きそうだが、新曲や新刊や新ゲームが発売しなければ一人での買い物なんて行かない。
母親は「若さが勿体無い!」と嘆くが、自分が良ければそれで良し。
母よ。何度も言っているだろうが若さは兄が全力で使って満喫している。兄弟二人に求めるなんて『二兎を追う者は一兎をも得ず』だ。
そんな屁理屈を心中で述べながら、今日も俺なりの青春を終えて帰宅のバスを待っていた。この学校の利点としては「バス停が校門前にあること」。大雨の日や寒い冬なんかは本当に楽だと思う。
耳に付けたワイヤレスイヤフォンからお気に入り人気バンド——TSUBAMEのリズミカルな曲が流れてくる。最近入れた曲に飽きたから昔の曲——好きな曲を聞いて帰り道の気分をあげる。
好きな曲を聴くと曲に合わせて身体を動かしたかったり鼻歌どころか歌い出す人間も世の中にはいたりするもので。
実際は恥ずかしいのでやっていないが、気分は少しずつ上場。「今度カラオケ行ったらコレ歌おう」と。明日友達とカラオケ行こうかなぁ、と曲一つで予定を立てることだってできる。
暫くお気に入りの曲をエンドレスで聞いていると目の前でバスが止まった。目的地を確認すると自分の家と同じ方角に向かうバスだ。しかも運よく前の列に並んでいたために座ることが出来た。このバスは俺の学校から混み始めて下校ラッシュとなるために座れるか座れないかは生徒玄関を素早く出たか出なかったで決まる。因みに俺の座れる勝率は大体五割。
(小さなラッキー。ゲットだぜってね)
偶にバスの大きな揺れに合わせて身体が動くがそれもいつも通り。
徐々に人が減っていくタイミングも、落ち着く混み具合もいつも通り。
スマホゲームをしながらバスに揺られて数十分。
(あ、やべ)
気付いたら目的のバス停までの後まもなくとなっていた。何とか到着する前にいま取り組んでいるクエストをクリアしようと耳をバスアナウンスに、眼と指は画面操作に集中させる。
(このまま戦いが終われば、ミッションクリアのクエストコンプリート……!!)
慣れた指使いでキャラクターを動かす。もう少しで大物のクエストボスを倒せるがこちらのHPも残り少ない。……だが、先程放った一撃で操作キャラクターの下にあるゲージが満タンになったことで俺は勝利を確信した。
(よし、喰らえ——!!)
必奥義のボタンを素早くスライドして画面一杯にキャラクターが現れる。画面上を可憐に舞い、派手な大技がクエストボスへと炸裂する。
ヒット数にダメージ数はどんどん跳ね上がり最後にはキャラクターのカットインが映し出された。
そして、次に浮かんだのは——『QuestClear!』の文字。
(よっしゃぁあ!!)
その文字に俺は心の中でガッツポーズを決めた。
——次の瞬間
ドガララガシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン!!
一瞬。何が起きたのか分からなかった。
……いや。本当は分かっていたのかもしれない。
だけど脳が「理解したくない」と悲鳴を上げたのかもしれない。
……ううん。その表現は可笑しい。脳は思考停止したに違いない。
いままで体験したことない大きな揺れ。
それによって生まれた大きな音。
人が目の前で飛んだ。
たった一瞬だ。
だけど……その一瞬で一気に外部からの大量な情報が俺の身体に流れてきた。
「——っ」
さっきまで座っていた身体はもう自力では指一本動かすことが出来ない。
指どころか瞼すら上げる力も奪い去られていく。
「誰か!!」
「救急車‼︎」
救援を求め声も聞こえるのだが、それも段々遠くなっていく。
(あれ……俺は何してたんだっけ? さっきまでゲームしてたよな……駄目だ。頭がクラクラしてる)
学校行って……そうそう、いつも通り授業受けて……それで学校が終わって……ゲームして……
(何処、行こうとしていたんだっけ?……あぁ。家に帰ろうとしていたんだ。また母ちゃんにグチグチ文句言われるんだろうなぁ『華の高校生が!!』ってどうのこうのって……)
あれは本当に面倒臭い……と、母の顔を思い浮かべるが、段々その母の顔も薄れていく。
ボーッとしてきたということは、俺はいま眠いのだろう。眠いのならばこのまま寝てた方が無理矢理起きるよりマシだ。寝て起きた方がスッキリする。
(……あ、飯いらないって言っとかないと、また怒るかなぁ)
当然だが怒るだろう。だけど、毎度寝落ちても夕飯の時間になれば大声で起こしてくれる。食べなかったら俺の分だけを残して「食べたら皿洗いなさいよ」と手紙付きで冷蔵庫に置いておいてくれる母親になんだかんだ感謝しながら、意識を落とすことを決めた。
あぁ、本当に—————
ヤバいくらい眠いやぁ—————-
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