美しくも脆き世界

乃蒼•アローヤンノロジー

文字の大きさ
上 下
3 / 6
第一章 強制退場

強制退場2

しおりを挟む


「誠~、今日発売のスキップ読んだ~?」
「え、買ってきたの? 貸してぇ」

 最近、楽しみとなっているのが週一で発売される週刊少年漫画雑誌。こうやって漫画雑誌を学校で皆と回し読みする行為は学生時代でしか楽しめないもの。
 漫画について熱く語り合うことも青春の一つではないか、と俺は思う。

「いや~力が手に入るなら、俺このキャラの力欲しいわ」
「確かにかっけぇけど、日常生活でどう使うっていうんだよ。破壊行動以外何もなくねぇか」
「そうだけど。なんつうか憧れねぇ?」
「あぁ、アレらしいな。漫画の描き方ぁ……? まぁそんな感じので少年漫画は読んでる人に主人公やキャラに憧れを持たせることが多いみたい」

 友達の会話からふっ、と漫画の豆知識を思い出して披露した。
 何処で覚えたか、はたまた教えて貰ったのか。昔に手に入れた知識に友達は感心した声をあげて何度か頷いた。

「へぇ~そうなのかぁ。あーでも、確かにそうかも」
「やっぱり、こう、非日常系のものって憧れるよなぁ。絶対に自分じゃできないから」
「なんか、主人公みたいに普通が普通じゃなくなるっていう、特別な感じみたいなのがいいよなぁ」

 突然手に入れた特別な力で敵と戦い、勝利する。それは長年の少年漫画で愛される王道の物語。
 主人公が熱血でも、弱虫でも、ダークヒーローでも。物語では『自分が選ばれた者』という特別な存在となって、時にピンチになりながらも読者をハラハラさせてはそれを超える感動の展開を与えてくれる。
 現実ではそんなことは決して起きないと分かっているけど、やっぱり漫画を読む度に物語への憧れはあったりする。

(ダラダラしているけど、やっぱり平凡過ぎるのも面白くないって思うときはたまにあるんだよなぁ)

「俺、武器使うなら刀がいいなぁ。抜刀術とかカッコよくない?」
「刀は男の憧れだろ~。このキャラみたいにカッコよく振り回したい」
「でも、実際に刀って鉄の塊じゃん。このキャラみたいに二刀流とかかなり筋肉いるよね」

 しかし。まぁ憧れには『現実』というものが必ずついてくるもので。現実では世界を脅かす悪の組織も無ければ、平凡な俺に特別な力が宿る展開も無い。
 あるのは二か月後にあるテスト期間という恐怖だけ。

「最近WeTubeでさぁ。漫画とかで起きる現象をコンピューターでシミュレーションしてみたって動画あるの知ってる?」
「それって結構テレビとかでもやらない?」
「あぁやってたね。でもWeTubeはテレビ以上に結構ガチでやってる感があるわ」

 いつの間にか、『憧れ』の話は『現実ではその技は可能であるのか』という話題に切り替わっていて。とうとう動画を探し出て友達と爆笑。
 因みに校内でのスマホの使用は休み時間内のみ許されている。
 つまり、どういうことかと言うと……

「なんだぁお前達。そんなところで大笑いして」

 先生も参加してくるのだ。

「あ~これは今度の物理の授業に使えるなぁ」
「先生パクっちゃダメですよー」
「パクリじゃありませーん。先生は生徒が授業に興味持つように色々勉強に使えるネタを探さなきゃいけないんですー」
「先生も大変だね~」

 そんな困らせる側の俺は先生に労いの言葉を投げながら画面をスライドさせては面白い動画を探していく。途中にいくつか検索名と関係の無い動画表示されていくが大体は再生数の万越えの動画だったりする。中には何度も見てしまいそうな程の力作があったりする。それも中高生が作った作品ときたら、同年代なのにと驚いてしまう。

「おっ! 『ノソっと』の新しい実況動画上がってんじゃん。家帰ったら見よっと」
「こういう動画見てると実況動画とかやってみてぇよな」
「でも、実況動画ってメチャクチャ編集大変らしいぜ。あとまず機材揃えるのに金かかる」
「そりゃぁ真面目にやればな。最近スマホからでも気軽にあげられるじゃん」
「画質とかやりたいことは制限されそうだけどな」
「くそ‼︎ 所詮この世は金なのか‼︎」

 俺の机に拳を叩き付け、友達はとても悔しそう……な振りをしているとタイミングよくチャイムの音が流れた。

「はい、現実に戻る時間でーす。席に戻れー」
「夢の世界は短かったぜ……」
「次、現国とか眠い以外に何もねぇー」

 チャイムの音と先生の掛け声で現実へと戻される俺達。授業への面倒臭さを表すようにダラダラと身体を動かしてそれぞれの席へと戻っていく。そんな俺たちに釘を刺すように「しっかり起きて授業受けろよー」と言って先生は教室を去っていった。

(先生、ごめん。多分、開始十分ぐらいで上瞼と下瞼がくっ付きそうになりそうだわ……)

 勿論、その後の授業は予言通りに瞼同士がくっ付き合って中々離れず。仕舞には現国の先生の長い足が俺の机を蹴ったことによって起きるという、何処にでもある展開で終わっていった。

 起きて。食べて。喋って。遊んで。勉強して。寝て。そんな毎日の繰り返し。

 華の高校生と言われても所詮こんなもんだ。

 きっとこの先も社会人になって働き出しても。ずっとこのようなループが続くんだろう。

 それでも構わない。
 漫画の世界に憧れようが非日常生活に憧れようが。
 平凡過ぎる毎日が面白くなかろうが。
 構わない。
 普通に生きて普通に死んでいく。
 それが俺という普通の人間の人生だ。

 ……そう、思ってたんだけどなぁ。

 ——————…………

 その日も俺はスマホのアラームに起こされた。
 いつも通り母親の手料理を食べて登校、授業を受けては休み時間に友達と話してを繰り返す。
 最悪って思える程の悪いことも無く、だからと言って最高って思える程の良いこともなかった。変わらない普通の日常のループ。

 でも、特別ってわけではないが昼の弁当に好きな冷凍食品が入ってたことは小さな幸せってわけで良かったと思う。女子みたいにおかず交換なんてことはしない。全部俺のもの。ガツガツと弁当を平らげた。

 六時間目の数学の小テストに多少苦い思いをしつつも、一日の授業が終了した。

 部活の無い俺は友達とも遊ぶ約束もしていないからこのまま帰宅して、いつもの通りのダラダラタイムに突入することになるわけだ。買い物でもすれば、と意見を頂きそうだが、新曲や新刊や新ゲームが発売しなければ一人での買い物なんて行かない。

 母親は「若さが勿体無い!」と嘆くが、自分が良ければそれで良し。
 母よ。何度も言っているだろうが若さは兄が全力で使って満喫している。兄弟二人に求めるなんて『二兎を追う者は一兎をも得ず』だ。

 そんな屁理屈を心中で述べながら、今日も俺なりの青春を終えて帰宅のバスを待っていた。この学校の利点としては「バス停が校門前にあること」。大雨の日や寒い冬なんかは本当に楽だと思う。

 耳に付けたワイヤレスイヤフォンからお気に入り人気バンド——TSUBAMEのリズミカルな曲が流れてくる。最近入れた曲に飽きたから昔の曲——好きな曲を聞いて帰り道の気分をあげる。

 好きな曲を聴くと曲に合わせて身体を動かしたかったり鼻歌どころか歌い出す人間も世の中にはいたりするもので。
 実際は恥ずかしいのでやっていないが、気分は少しずつ上場。「今度カラオケ行ったらコレ歌おう」と。明日友達とカラオケ行こうかなぁ、と曲一つで予定を立てることだってできる。

 暫くお気に入りの曲をエンドレスで聞いていると目の前でバスが止まった。目的地を確認すると自分の家と同じ方角に向かうバスだ。しかも運よく前の列に並んでいたために座ることが出来た。このバスは俺の学校から混み始めて下校ラッシュとなるために座れるか座れないかは生徒玄関を素早く出たか出なかったで決まる。因みに俺の座れる勝率は大体五割。

(小さなラッキー。ゲットだぜってね)

 偶にバスの大きな揺れに合わせて身体が動くがそれもいつも通り。
 徐々に人が減っていくタイミングも、落ち着く混み具合もいつも通り。

 スマホゲームをしながらバスに揺られて数十分。

(あ、やべ)

 気付いたら目的のバス停までの後まもなくとなっていた。何とか到着する前にいま取り組んでいるクエストをクリアしようと耳をバスアナウンスに、眼と指は画面操作に集中させる。

(このまま戦いが終われば、ミッションクリアのクエストコンプリート……!!)

 慣れた指使いでキャラクターを動かす。もう少しで大物のクエストボスを倒せるがこちらのHPも残り少ない。……だが、先程放った一撃で操作キャラクターの下にあるゲージが満タンになったことで俺は勝利を確信した。

(よし、喰らえ——!!)

 必奥義のボタンを素早くスライドして画面一杯にキャラクターが現れる。画面上を可憐に舞い、派手な大技がクエストボスへと炸裂する。
 ヒット数にダメージ数はどんどん跳ね上がり最後にはキャラクターのカットインが映し出された。

 そして、次に浮かんだのは——『QuestClear!』の文字。

(よっしゃぁあ!!)

 その文字に俺は心の中でガッツポーズを決めた。

 ——次の瞬間

 ドガララガシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン!!


 一瞬。何が起きたのか分からなかった。
 ……いや。本当は分かっていたのかもしれない。
 だけど脳が「理解したくない」と悲鳴を上げたのかもしれない。
 ……ううん。その表現は可笑しい。脳は思考停止したに違いない。

 いままで体験したことない大きな揺れ。
 それによって生まれた大きな音。
 人が目の前で飛んだ。

 たった一瞬だ。

 だけど……その一瞬で一気に外部からの大量な情報が俺の身体に流れてきた。

「——っ」

 さっきまで座っていた身体はもう自力では指一本動かすことが出来ない。
 指どころか瞼すら上げる力も奪い去られていく。

「誰か!!」
「救急車‼︎」

 救援を求め声も聞こえるのだが、それも段々遠くなっていく。

(あれ……俺は何してたんだっけ? さっきまでゲームしてたよな……駄目だ。頭がクラクラしてる)

 学校行って……そうそう、いつも通り授業受けて……それで学校が終わって……ゲームして……

(何処、行こうとしていたんだっけ?……あぁ。家に帰ろうとしていたんだ。また母ちゃんにグチグチ文句言われるんだろうなぁ『華の高校生が!!』ってどうのこうのって……)

 あれは本当に面倒臭い……と、母の顔を思い浮かべるが、段々その母の顔も薄れていく。
 ボーッとしてきたということは、俺はいま眠いのだろう。眠いのならばこのまま寝てた方が無理矢理起きるよりマシだ。寝て起きた方がスッキリする。

(……あ、飯いらないって言っとかないと、また怒るかなぁ)

 当然だが怒るだろう。だけど、毎度寝落ちても夕飯の時間になれば大声で起こしてくれる。食べなかったら俺の分だけを残して「食べたら皿洗いなさいよ」と手紙付きで冷蔵庫に置いておいてくれる母親になんだかんだ感謝しながら、意識を落とすことを決めた。

 あぁ、本当に—————
 ヤバいくらい眠いやぁ—————-


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

異世界に転移す万国旗

あずき
ファンタジー
202X年、震度3ほどの地震と共に海底ケーブルが寸断された。 日本政府はアメリカ政府と協力し、情報収集を開始した。 ワシントンD.Cから出港した米艦隊が日本海に現れたことで、 アメリカ大陸が日本の西に移動していることが判明。 さらに横須賀から出発した護衛艦隊がグレートブリテン島を発見。 このことから、世界中の国々が位置や向きを変え、 違う惑星、もしくは世界に転移していることが判明した。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...