Alastor-アラストル-

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王都

Visez-vous aussi des mercenaires? ~君も傭兵に?~

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「も一度言うよ? ワタシは道ば聞きたいとよ。言ってることわかるね?」
 真紅の髪を靡かせ大剣を構える少女──シルフィアは笑顔でカインにそう言った。

「わかったよ! わかったからその剣を降ろそう! 危ないから! ね?」
 眼前に剣を突き付けられカインは慌ててシルフィアと名乗る少女を宥める。周りも何だ何だ、痴話喧嘩か?と人が集まり出した。

 その間も金色の瞳はカインを睨み続けていた。
「……ワタシの訛りばもうバカにせん?」
 シルフィアは大剣をカインの首に沿わせる。

「しないしない! ていうか元々バカになんてしてないよ!」
 必死に否定するカイン。首と胴体がさよならするのはゴメンだと言わんばかりだ。

「そんなら良か。田舎者やけんてまたバカにしたら次はなかよ?」
 シルフィアはやっと剣を納めたが、余程自分の訛りを気にしているのだろう。未だ鋭い目付きでカインを捉えている。

 カインは立ち上がり砂埃を払う。危うく斬り殺されるところだった。
「ふぅ……さて、道を聞きたかったんだよね? 
 僕も王都に来たのは初めてだから分からないかもだけど、わかる範囲内だったら力になるよ。」
 頬を掻きながら笑顔で手を差し出した。握手を求めているようだ。

「何ね、お兄さんもお上りさん? さっきはごめんね。 田舎者ってバカにされたんかと思ったんよ。」
 それに答えるようにシルフィアは笑顔でカインと握手を交わす。怒りは収まったらしい。
「ワタシ鍛冶屋探しとるんよ。お兄さん知らん?」

「それならわかるよ。僕もさっき行ってきたばかりだしね。案内するよ。」
 たまたま立ち寄った先程の店は信頼に値する。1軒しか知らないが紹介するには都合の良い鍛冶屋だろう。カインは案内を承諾した。

「ありがとう! でもお兄さん戻ることになるけど大丈夫? 用事済むまで待っとくばい?」

「食事しようとしてただけだから先に案内するよ。そんなに遠い所じゃないからね。」

「それならさ、ワタシもお腹空いてるし一緒に食べん? 道案内はそれからでも良かよ!」
 カインに気を遣ったのかシルフィアは自分の案内を後にし、先に食事を摂ろうと提案した。

「君がそれで良いなら先に食事を済ませよう。」

「じゃあ決まりね! それとワタシのことはシルフィアで良かよ! お兄さんお名前は?」

「確かに自己紹介がまだだったね。僕はカイン=ニコラエヴァ。カインで良いよ。よろしくねシルフィア。」

「よろしくばいカイン! 何食べようとしとったと?」

 お互いの呼び方を決め、どこで食事をするか相談が始まる。

「僕は屋台食べ歩きか、せっかくだし高そうなお店に突撃するか悩んでたところなんだ。」
 カインの案は目についた気になる屋台を片っ端から制覇していくか、初めての王都訪問を記念して店構えの立派な料理屋を訪れてみるのも一興だということらしい。

 それに対してシルフィアも意見を述べる。
「ふむ。確かに初めての王都だし高級店に入るのも良かけど……ワタシは食べ歩きの良か!
 その方が王都グルメば存分に堪能出来ると思わん? その土地の料理ば一番味わえるとは屋台と相場の決まっとるとよ!」
 八重歯を覗かせながらまだ幼さの残る笑顔でそう語った。

「なるほど。確かに一理あるね!
 よし、屋台を制覇してやろう! 付いて来られるかい?」
 カインはシルフィアの意見に賛成し、屋台巡りをすることで決定した。

「何言いよるとね! 余裕ばい!」

 肉料理や魚料理、鉄板焼や煮込みと多種多様な屋台が並んでいる。どの店からも魅惑的な香りが漂う。
 二人は片っ端から屋台の食べ物を買い漁っていく。

「シルフィアは何が食べたい?」

「お肉! 田舎では食べられん香辛料の効いたやつの食べたか! 野菜なんて論外ばい!」

「話が合うね! 突撃しよう!」

 両手に持ちきれない程の食べ物を手に、二人はベンチに腰掛けて食事を開始する。

 シルフィアは頬が膨らむほど口に入れて嬉しそうに食べている。その姿は小動物の様だ。
「やっぱり都会の食べ物は美味しかね! カイン!」
 たれの付いた口元を気にも止めず無邪気な笑顔をカインに向けた。

「そうだね! 味付けが全然違うよ!
 これも美味しいけど食べる?」
 シルフィアのその無垢な笑顔にカインは思わず表情が和らぐ。もし妹が居たらこんな感じなのだろうか。

「良かと? 食べる!」
 カインにお裾分けを貰い、また幸せそうな顔になる。

 カインとシルフィアは買い込んだ物の味の感想をいちいち報告しあったり、交換したりしながら楽しく食事を済ませた。あれだけあった食材を見事に完食した。

「ダメだ……もう食べられない。」
 自分の腹を擦りながらカインがそう呟く。端からでも胃が膨らんでいるのが分かるほどだ。

「ワタシもお腹いっぱいたいね……でも甘いもので〆んばならんとよ!」

「……お供しよう!」

 結局カインもシルフィアの誘いに乗り食後のデザートも平らげた。2人はもう動けない程に満腹だ。

 食事を終え一休みしたところで鍛冶屋へとシルフィアを案内する。カインの剣の調整もそろそろ終わる頃合いだろう。

「親父さん、もう出来てますか?」
 店に入り店主に尋ねる。

「おう兄ちゃん! 丁度仕上がったところだぜ!」
 親父はクレアを布で拭きながらそう答えた。

「流石ですね親父さん! 思ってたよりも早いです!」
 鍛冶仕事を嗜むカインはある程度作業時間を予測していたが、想定よりも早い出来に満足する。

「兄ちゃんに合わせて調整したんだが、一応確認してみてくれ。」
 そう言って親父は剣を差し出した。心なしかクレアの光沢が増している気がする。

 クレアを手に取り軽く振ってみる。自分で調整した時よりも遥かに手に馴染み、グリップ感も改善されていた。

「完璧ですよ。これ以上ないくらいです。流石にタダというわけにはいきませんよ……代金はいくらですか?」
 これだけの仕事だ、カインは高額になるだろうと少し不安になっていた。

「本来なら50000フロンってとこだがな、久々にクレアに会えて気分が良い! 金はいらねぇよ!」
 親父は豪快に笑う。

「いやいや悪いですよ! きちんと払いますから!」
 カインは慌てて払う準備をする。流石に無料というのには気が引ける。

「いや本当にいらねぇって!
 なんなら、代わりといっちゃなんだがな……さっきも言った通りグスタフの野郎にたまには顔くらい見せろって伝えてくれよ。それが代金ってことにしてやるよ。」
 親父は寂しそうにクレアを見つめていた。余程思い入れがあるのだろう。

「それで良いんですか?」
 カインは躊躇いつつも尋ねる。
言伝てするのは良いが、果たしてそれで工賃と釣り合うのだろうか。

「ああ。それが一番の報酬さ。」

「わかりました。でも借りひとつと思っときますね。」
 伝言を必ず村長に伝えるようカインは心に刻んだ。

「ねえカイン、用事は済んだと?」
 2人の話が一区切りしたところでシルフィアが口を挟んだ。

「ん? 嬢ちゃん何か用かい?」
 口を開いたシルフィアに親父が話し掛ける。

「ワタシも剣を調整してほしかとよ。お願い出来ますか?」
 そう言って愛剣をカウンターへ置く。

 親父はシルフィアの大剣を手に取りじっくりと吟味する。
「ほう。こいつぁまた立派なエモノだなぁ。」

 片刃の大剣は反があり、峰には何に使うか分からない棒状の物が装着されている。

「嬢ちゃん、聞きたいんだがこの棒は必要なのかい?」
 親父は疑問に思って尋ねる。棒が何なのか皆目検討もつかない様子だ。

「何に使うかは言えんとけど……それが一番大事なところやけんそのままにしとってね。」

「そうかい。構造が特殊だからちと時間が掛かるが、構わねぇか?」

「明後日までに間に合えば良かです。振った時に少しガタついとる気のするけん、そこもお願いします。」
 シルフィアは要望を伝え一礼する。

「明日には出来るから大丈夫だろう。剣を使う予定があるのかい?」

「はい。傭兵選抜試験ば受けようて思ってます。」
 親父の質問にシルフィアは笑顔で答える。照れ臭く笑ってはいるが、瞳は真剣そのものだった。

「君も傭兵になりたいの?」
 カインがシルフィア達の会話に口を挟む。

「君もって……カインも試験ば受けると?」

「うん。そのために村から出てきたからね! 幼馴染み2人も受けるんだ。」

「そうね! そしたら仲間たい!」
 シルフィアは嬉しそうにカインへ笑顔を向ける。少女は田舎から出てきて独り、寂しさもあったのだろう。そこに同世代の同じ志を持った者と出会い、安堵の気持ち、仲間意識を感じた。

「シルフィアも剣使いだよね。さっきの動き凄かったよ……かなりびっくりしたけどね。」

 カインの言葉にシルフィアは答える。
「アレは田舎もんってバカにされたと思ったとやもん!」
 頬を赤らめ弁明する。
「ワタシは体小さかけん小回りの利くとよね。近接戦が向いとるって思うんよ。」
 咳払いをして自分の戦闘スタイルについて話し出す。

「なるほどね。でも体格の割に剣は大きいの使うんだね?」
 初対面の時から気になっていたこと、シルフィアの体格に似つかわしくない大剣について聞いてみた。

「軽めの剣使っても良いとけどね? それやと手数増やさんとならんけん……一撃で極められるように大きいのにしたとよ。」
 身振り手振りを加えつつ持論を語るシルフィア。

「確かにそれは良い考えかもしれない。同じ剣士でも考え方は色々あるから面白い。」

 2人は戦闘スタイル、己の武器の特性について彼是と話し始めた。夢中になって時間も忘れてしまう程に語り合う。

「2人とも合格出来たら良いな! 寧ろ俺が調整した武器で落第なんかしたらただじゃおかねぇぜ!」
 カインとシルフィアの会話をまるで我が子を見るかの様に見守っていた親父。若き日のグスタフと自分を重ね合わせているのだろうか。

「「頑張ります!」」
 2人は声を揃えて返事をした。

「なかなか良いコンビじゃねぇか。」
 親父も2人の息ぴったりな返事に思わず笑みをこぼす。

 そうこうしている内に良い時間になってきた。カインはそろそろ宿へ戻ってアニエスとローベルトと合流する時間だ。

「僕は宿に戻って仲間と合流するけど、シルフィアはどうするの?」
 カインはこれからの予定をシルフィアに尋ねる。

「ワタシは宿取る前にここに来たけん探さんとならんね。」

「そうなんだ。シルフィアが良ければ僕らの泊まる宿に案内するよ。仲間も紹介したいから夕飯も一緒にどう?」
 宿探しからだと言うシルフィアに提案する。せっかく同じ志を持った者と知り合ったのだから親睦を深めようと考えた。

「それは良かね! お願いしようかな。カインの幼馴染みに会うとも楽しみ!」
 カインの提案に乗ることにした。元々独りだったが何の因果か共に屋台を巡り、傭兵を目指す仲間と出会ってしまった。再び単独行動は少し寂しいと思っていたところだ。

「それじゃ決まりだね! 皆宿に戻ってる頃だろうし行こうか。」

 親父に挨拶し、2人は店を後にした。道すがら美味しそうな店を物色しつつ宿へと向かう。


 宿に到着するとアニエスとローベルトは既にロビーで待機していた。

「ごめんアニエス、ローベルト。遅くなった。」
 カインは2人へ声を掛ける。

「おかえりカイン。私とローベルトも戻ったばかりだから気にしないで。」
 アニエスが笑顔で答え、ローベルトもその言葉に頷きつつ手をヒラヒラとさせた。気にするなということだろう。

「ありがとう2人とも。
 夕飯の前に皆に紹介したい子が居るんだけど良いかい?」
 カインが後方で待っているシルフィアに目で合図する。
 アニエスとローベルトはカインの後ろから現れた少女に注目する。

「どうも。シルフィア=S.ウェヌスです。2人のことはカインに聞いとるばい。
 それと、私も傭兵目指しとるんよ。もし良ければ仲良くしてほしいな。」
 はにかみながら小柄な少女は挨拶した。

「私はアニエス=ルビンスタインよ。よろしくねシルフィアちゃん! 同じ女同士、仲良くしましょう!」
 アニエスがシルフィアの手を取り嬉しそうに自己紹介をした。同性の仲間が出来て喜んでいるのだろう。

「よろしくシルフィア。ワタシも女1人で出てきたけん寂しかったところばい。」
 シルフィアもアニエスと同様、笑顔で手を取り合った。

「俺はローベルト=コルト。カインもなかなかやるじゃねぇの。王都到着早々ナンパとはね。」
 シルフィアに右手を挙げ挨拶を済ませると、カインの脇腹を小突きつつそう茶化した。

「いや、たまたま知り合っただけだよ。シルフィアも剣士みたいなんだ。」
 ローベルトの言葉を軽く流し、シルフィアと知り合った経緯を話した。
「それと、立ち寄った鍛冶屋の親父さんが何の因果かクレアを打った人だったんだ。僕の剣とシルフィアの剣を預けてあるんだよ。明日受け取りに行く予定さ。」

「ほう。シルフィアも剣士か……」
 シルフィアの戦闘スタイルを聞いたローベルトが顎に手を添え何か考え始めた。

「シルフィアちゃん小柄なのに剣を使うの?」
 アニエスも驚いてシルフィアを見る。小柄な少女が剣士である事もだが、身の丈程の大剣を使うという事実に更に驚愕している。

「うん。ワタシ不器用やけん弓も下手っぴやし、作戦考えるのも苦手なんよ。
 だったら小難しい事考えずに振り回せるおっきか剣が良かねって思って。」
 身ぶり手振りで説明する。

 アニエスがそんなシルフィアに対して彼是質問して話し込んでいた。

「カイン、ひとつ提案なんだが……」
 アニエスとシルフィアが話しているのを見つつカインに耳打ちする。

「なるほど……それは良い考えだ。」
 カインもローベルトの意見に賛成のようだ。
「シルフィア、話中に悪いんだけどちょっと良いかな?」

「うん? 何ね?」

「ローベルトの意見で僕も良いと思うんだよね。
 シルフィアが良ければだけど……試験を無事通過したらさ、僕達と組まないかい?」
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