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第1章

ハンターの日常

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俺はハンターの単発バイトを副業でしている
今はまだ無名のバンドマンだ
令和の時代は絶望的に層が厚い
演奏能力パネェ奴が多過ぎるし
歌なんて上手くて当たり前
自分の声はカラオケマシンでさえ震える

バンド活動に期限を設ける事もなく
バイトをいくつか掛け持ちしている
男ならいくつになっても結婚出来るって
石田純一やカトちゃんが勇気をくれた

ライブでは強面メイクでド派手に髪や爪を染め
妖艶な声でとんがった曲を歌っているが
母ちゃんの前では実にいい子
「おはよう」も「おやすみ」も忘れない
本当は子供部屋野郎で童貞なのがバレたら死ぬぞ

母ちゃんは恐ろしく寛容な女だ
バンドが成功する確率は
宝くじ高額当選並の奇跡なのに
母ちゃんは少しイカれているのかもな
「夢を追いかけて」と毎朝送り出す

仮面夫婦だが親父の事はATMだと思っている
自分も働きながら俺の夢につぎ込む
俺は芸能界に爪痕を残す事で
コネを作ろうと思いハンターになった

黒いヘアマニュキュアで髪を染め
グラサンを掛けて演者を追い回す
しかも今回はゴリゴリに推しているアイドルが
逃走者として出演する

お近づきになりたいのは山々だが
ハンターに恋する女なんて
実は隣の部屋にいるかもしれない
俺は「pretender」をスマカラで熱唱する
悲しいまでに「pretender」を
バスルームの鏡の前で熱唱する

こんなくそったれな毎日を
いつまで追い続けたら花が開くのだろう
学生時代の同級生達がバタバタ結婚するらしい
まさかと思うが母ちゃんは「毒親」じゃないよね
このぬるま湯から抜け出せない俺が悪いんだよね
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