32 / 290
こどものじかん
しおりを挟む
こういってはいけないが、人間とは奇妙な生き物だと思う。
ひどく醜い一面を見せたと思えば、時折やたらと輝く一瞬をもつ。
だが「生きる」とはそういうことなのかもしれない。
あの子は直ぐに見つかった。
なぜか会社の備品倉庫の前で立っているところを見つけたのだ。
アレクくんは直ぐに追いつきはしたものの、帰る気がない幼女2号にどうしたらいいものか悩んで動けなかった模様。
迎えに行った部長にとても喜んでいた。
むしろコレ、部長の方が懐かれすぎだと思います。
なぜ倉庫になどいたのかと思ったが、理由はなんとなくわかった。
幼女2号が立っている真下のダンボール、その中に大きな人形があったのだ。
なぜかうちの会社の制服のようなもの着た、可愛らしい女の子の人形。
子供が自ら世話を焼いたり、面倒を見たりすることによって精神の成長を助ける、幼児の人形だ。
サイズもちょうど実際の赤ん坊くらいか。
「以前、提携先のおもちゃ会社からプレゼントされたものだ。
……幼い子供のいる社員が持ち帰ったはずだが…。まだ残っていたのか」
「あぁ、それで制服を着てるんですね」
「初めは受付に飾っておいたんだが…少し場違いという話になった」
「まぁ、幼児向けですから」
おもちゃを専門に扱っているわけでもないのに、入口にそんな人形があれば不思議には思う。
「気に入ったのかな……?」
「そういうことだろうな」
今も視線はずっと人形に向けられたままだ。
その姿を見ていて、なんとなく思った。
「この子、どうして亡くなったんでしょうね…」
「なんだ急に……」
「いえ、子供用のおもちゃを羨ましそうにしている姿をみたら…」
可哀想になった、とは口にできない。
それがなんの救いにもならないことを知っているからだ。
「最近、ひき逃げにあって殺された子供の報道があったじゃないですか」
あの日、事故現場にじっと佇んでいた小さな子供。
その姿と、今ここにいる幼女2号の姿が重なった。
共通するのは、寂しさだろうか。
「大人になれずに命を失うのは、無念だろうなと思って」
別に大人になるのがいいことだと言っているわけじゃない。
そりゃ、大人だっていろいろ大変だ。
子供に戻りたいと思ったことだってある。
けれど。
幼くして亡くなった子供は、そんな後悔すらも知ることはできない。
「あの事件は確か犯人がもう捕まっているはずだろう?」
「それでも、亡くなった子供が生き返るわけじゃありませんから…」
所詮は、生き残った人間の自己満足だ。
犯人を見つけようと思ったのも、所詮はただの欺瞞だろう。
すべての事件に対して、同じように犯人を見つけてやれるわけではない。
もっと悲惨な思いをして亡くなった子供や――ー大人だっている。
だからこそ、袖振り合うは他生の縁、関わりを持った相手のことくらいは救ってやりたいと思ったわけだが…。
「何を抱えてるんでしょうね…」
この子には、なにかとても根深いものを感じる。
「部長、この人形貰っていっていいですか?」
「構わんが…どうする?」
「この子にあげようと思って」
部長の了承をとり、人形をダンボールからすくい上げる。
すると、幼女2号の視線も上へ上がった。
「ちなみにこの人形って、名前とかあるんですか」
「たしか……作者の娘の名前で、”さち”だったと思うが」
「それはちょうどいいですね。んじゃ…君の名前は今から”さっちゃん”だ!」
はいどうぞ、と幼女2号…さっちゃんの前に人形を差し出してやる。
「大丈夫だよ、手を出してごらん」
霊体では人形には触れない、そう思っているのだろうが、問題ない。
「これは私が貰ったもの。私のもの。私の一部」
言い聞かせてから、にっこりと微笑む。
「ほら」
ためらうさっちゃんの手に、多少強引に人形を掴ませた。
するとどうだろう。
「…!」
「うんうん、触れるでしょ」
初めは恐る恐る触れていたさっちゃんが、直ぐにそれをぎゅっと胸に抱き込む。
「他の人間がみたら、人形が浮いているように見えるんじゃないのか…?」
それはちょっと問題がある、と渋い顔の部長。
まぁ確かにそうだが、心配はいらない。
「ふっふっふ。実はまだまだ私には裏技がありまして…。
とりあえず今日のところは、こうすればいいんじゃないですかね」
高瀬はヒョイっとさっちゃんの前にしゃがみこむと、その膝をすくい上げ、人形ごと抱き抱える。
「こうすれば、一見私が人形を抱いているだけに見えません?」
「…確かに」
「でもさすがにこの姿で電車に乗ると相当な電波に見られるので…」
「わかった、タクシーを呼ぼう」
やった、交通費が浮いたぞ。
「君の家はどこだ?近くなら私も一緒に乗っていこう」
「え~とですねぇ……」
ひどく醜い一面を見せたと思えば、時折やたらと輝く一瞬をもつ。
だが「生きる」とはそういうことなのかもしれない。
あの子は直ぐに見つかった。
なぜか会社の備品倉庫の前で立っているところを見つけたのだ。
アレクくんは直ぐに追いつきはしたものの、帰る気がない幼女2号にどうしたらいいものか悩んで動けなかった模様。
迎えに行った部長にとても喜んでいた。
むしろコレ、部長の方が懐かれすぎだと思います。
なぜ倉庫になどいたのかと思ったが、理由はなんとなくわかった。
幼女2号が立っている真下のダンボール、その中に大きな人形があったのだ。
なぜかうちの会社の制服のようなもの着た、可愛らしい女の子の人形。
子供が自ら世話を焼いたり、面倒を見たりすることによって精神の成長を助ける、幼児の人形だ。
サイズもちょうど実際の赤ん坊くらいか。
「以前、提携先のおもちゃ会社からプレゼントされたものだ。
……幼い子供のいる社員が持ち帰ったはずだが…。まだ残っていたのか」
「あぁ、それで制服を着てるんですね」
「初めは受付に飾っておいたんだが…少し場違いという話になった」
「まぁ、幼児向けですから」
おもちゃを専門に扱っているわけでもないのに、入口にそんな人形があれば不思議には思う。
「気に入ったのかな……?」
「そういうことだろうな」
今も視線はずっと人形に向けられたままだ。
その姿を見ていて、なんとなく思った。
「この子、どうして亡くなったんでしょうね…」
「なんだ急に……」
「いえ、子供用のおもちゃを羨ましそうにしている姿をみたら…」
可哀想になった、とは口にできない。
それがなんの救いにもならないことを知っているからだ。
「最近、ひき逃げにあって殺された子供の報道があったじゃないですか」
あの日、事故現場にじっと佇んでいた小さな子供。
その姿と、今ここにいる幼女2号の姿が重なった。
共通するのは、寂しさだろうか。
「大人になれずに命を失うのは、無念だろうなと思って」
別に大人になるのがいいことだと言っているわけじゃない。
そりゃ、大人だっていろいろ大変だ。
子供に戻りたいと思ったことだってある。
けれど。
幼くして亡くなった子供は、そんな後悔すらも知ることはできない。
「あの事件は確か犯人がもう捕まっているはずだろう?」
「それでも、亡くなった子供が生き返るわけじゃありませんから…」
所詮は、生き残った人間の自己満足だ。
犯人を見つけようと思ったのも、所詮はただの欺瞞だろう。
すべての事件に対して、同じように犯人を見つけてやれるわけではない。
もっと悲惨な思いをして亡くなった子供や――ー大人だっている。
だからこそ、袖振り合うは他生の縁、関わりを持った相手のことくらいは救ってやりたいと思ったわけだが…。
「何を抱えてるんでしょうね…」
この子には、なにかとても根深いものを感じる。
「部長、この人形貰っていっていいですか?」
「構わんが…どうする?」
「この子にあげようと思って」
部長の了承をとり、人形をダンボールからすくい上げる。
すると、幼女2号の視線も上へ上がった。
「ちなみにこの人形って、名前とかあるんですか」
「たしか……作者の娘の名前で、”さち”だったと思うが」
「それはちょうどいいですね。んじゃ…君の名前は今から”さっちゃん”だ!」
はいどうぞ、と幼女2号…さっちゃんの前に人形を差し出してやる。
「大丈夫だよ、手を出してごらん」
霊体では人形には触れない、そう思っているのだろうが、問題ない。
「これは私が貰ったもの。私のもの。私の一部」
言い聞かせてから、にっこりと微笑む。
「ほら」
ためらうさっちゃんの手に、多少強引に人形を掴ませた。
するとどうだろう。
「…!」
「うんうん、触れるでしょ」
初めは恐る恐る触れていたさっちゃんが、直ぐにそれをぎゅっと胸に抱き込む。
「他の人間がみたら、人形が浮いているように見えるんじゃないのか…?」
それはちょっと問題がある、と渋い顔の部長。
まぁ確かにそうだが、心配はいらない。
「ふっふっふ。実はまだまだ私には裏技がありまして…。
とりあえず今日のところは、こうすればいいんじゃないですかね」
高瀬はヒョイっとさっちゃんの前にしゃがみこむと、その膝をすくい上げ、人形ごと抱き抱える。
「こうすれば、一見私が人形を抱いているだけに見えません?」
「…確かに」
「でもさすがにこの姿で電車に乗ると相当な電波に見られるので…」
「わかった、タクシーを呼ぼう」
やった、交通費が浮いたぞ。
「君の家はどこだ?近くなら私も一緒に乗っていこう」
「え~とですねぇ……」
0
お気に入りに追加
968
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―
千堂みくま
恋愛
「まりか…さん」なんで初対面から名前呼び? 普通は名字じゃないの?? 北条建設に勤める地味なOL恩田真梨花は、経済的な理由から知り合ったばかりの次期社長・北条綾太と同棲することになってしまう。彼は家事の代償として同棲を持ちかけ、真梨花は戸惑いながらも了承し彼のマンションで家事代行を始める。綾太は初対面から真梨花に対して不思議な言動を繰り返していたが、とうとうある夜にその理由が明かされた。「やっと気が付いたの? まりかちゃん」彼はそう囁いて、真梨花をソファに押し倒し――。○強がりなくせに鈍いところのある真梨花が、御曹子の綾太と結ばれるシンデレラ・ストーリー。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
モヒート・モスキート・モヒート
片喰 一歌
恋愛
「今度はどんな男の子供なんですか?」
「……どこにでもいる、冴えない男?」
(※本編より抜粋)
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。
毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきて……。
紅と名乗った彼女と親しくなり始めた頃、翠は『マダム・ルージュ』なる人物の噂を耳にする。
名前だけでなく、他にも共通点のある二人の関連とは?
途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる