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こどものじかん

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こういってはいけないが、人間とは奇妙な生き物だと思う。
ひどく醜い一面を見せたと思えば、時折やたらと輝く一瞬をもつ。
だが「生きる」とはそういうことなのかもしれない。



あの子は直ぐに見つかった。
なぜか会社の備品倉庫の前で立っているところを見つけたのだ。
アレクくんは直ぐに追いつきはしたものの、帰る気がない幼女2号にどうしたらいいものか悩んで動けなかった模様。
迎えに行った部長にとても喜んでいた。
むしろコレ、部長の方が懐かれすぎだと思います。
なぜ倉庫になどいたのかと思ったが、理由はなんとなくわかった。
幼女2号が立っている真下のダンボール、その中に大きな人形があったのだ。
なぜかうちの会社の制服のようなもの着た、可愛らしい女の子の人形。
子供が自ら世話を焼いたり、面倒を見たりすることによって精神の成長を助ける、幼児の人形だ。
サイズもちょうど実際の赤ん坊くらいか。
「以前、提携先のおもちゃ会社からプレゼントされたものだ。
……幼い子供のいる社員が持ち帰ったはずだが…。まだ残っていたのか」
「あぁ、それで制服を着てるんですね」
「初めは受付に飾っておいたんだが…少し場違いという話になった」
「まぁ、幼児向けですから」
おもちゃを専門に扱っているわけでもないのに、入口にそんな人形があれば不思議には思う。
「気に入ったのかな……?」
「そういうことだろうな」
今も視線はずっと人形に向けられたままだ。
その姿を見ていて、なんとなく思った。
「この子、どうして亡くなったんでしょうね…」
「なんだ急に……」
「いえ、子供用のおもちゃを羨ましそうにしている姿をみたら…」
可哀想になった、とは口にできない。
それがなんの救いにもならないことを知っているからだ。
「最近、ひき逃げにあって殺された子供の報道があったじゃないですか」
あの日、事故現場にじっと佇んでいた小さな子供。
その姿と、今ここにいる幼女2号の姿が重なった。
共通するのは、寂しさだろうか。
「大人になれずに命を失うのは、無念だろうなと思って」
別に大人になるのがいいことだと言っているわけじゃない。
そりゃ、大人だっていろいろ大変だ。
子供に戻りたいと思ったことだってある。
けれど。
幼くして亡くなった子供は、そんな後悔すらも知ることはできない。
「あの事件は確か犯人がもう捕まっているはずだろう?」
「それでも、亡くなった子供が生き返るわけじゃありませんから…」
所詮は、生き残った人間の自己満足だ。
犯人を見つけようと思ったのも、所詮はただの欺瞞だろう。
すべての事件に対して、同じように犯人を見つけてやれるわけではない。
もっと悲惨な思いをして亡くなった子供や――ー大人だっている。
だからこそ、袖振り合うは他生の縁、関わりを持った相手のことくらいは救ってやりたいと思ったわけだが…。
「何を抱えてるんでしょうね…」
この子には、なにかとても根深いものを感じる。
「部長、この人形貰っていっていいですか?」
「構わんが…どうする?」
「この子にあげようと思って」
部長の了承をとり、人形をダンボールからすくい上げる。
すると、幼女2号の視線も上へ上がった。
「ちなみにこの人形って、名前とかあるんですか」
「たしか……作者の娘の名前で、”さち”だったと思うが」
「それはちょうどいいですね。んじゃ…君の名前は今から”さっちゃん”だ!」
はいどうぞ、と幼女2号…さっちゃんの前に人形を差し出してやる。
「大丈夫だよ、手を出してごらん」
霊体では人形には触れない、そう思っているのだろうが、問題ない。
「これは私が貰ったもの。私のもの。私の一部」
言い聞かせてから、にっこりと微笑む。
「ほら」
ためらうさっちゃんの手に、多少強引に人形を掴ませた。
するとどうだろう。
「…!」
「うんうん、触れるでしょ」
初めは恐る恐る触れていたさっちゃんが、直ぐにそれをぎゅっと胸に抱き込む。
「他の人間がみたら、人形が浮いているように見えるんじゃないのか…?」
それはちょっと問題がある、と渋い顔の部長。
まぁ確かにそうだが、心配はいらない。
「ふっふっふ。実はまだまだ私には裏技がありまして…。
とりあえず今日のところは、こうすればいいんじゃないですかね」
高瀬はヒョイっとさっちゃんの前にしゃがみこむと、その膝をすくい上げ、人形ごと抱き抱える。
「こうすれば、一見私が人形を抱いているだけに見えません?」
「…確かに」
「でもさすがにこの姿で電車に乗ると相当な電波に見られるので…」
「わかった、タクシーを呼ぼう」
やった、交通費が浮いたぞ。
「君の家はどこだ?近くなら私も一緒に乗っていこう」
「え~とですねぇ……」
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