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明るい家族計画?
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「部長、私も笑いの絶えない明るい家族が欲しいです」
相変わらずなんの脈絡もなく突然言い出した高瀬に、一言。
「だからなんだ」
「秘書課のハングリーなお姉様方を見ていたらなんとなく……」
あからさまに部長にコナをかける姿に、幼女2号(勝手に命名)が興味津々だった。
君にはまだ早い、大人の世界は弱肉強食なのだよ。
中塚女史とランチを食べながら話題になった、秘書課女子の合コンでの言動は凄かった。
一度だけ若い頃に参加したことがあるそうなのだが、なにしろ開口一番で相手の年収と貯金を尋ね始めたらしい。
怖っ。
今ではさすがにそこまであからさまなことはせず、勤めている会社名やら、そこでの役職などから大体の年収を推測するらしい。保険証を見せてもらうという手もあるそうだ。
もう一度言うが、怖っ。
「つまりは?」
「ぶっちゃけていいますと、やっぱり主任がいないと私への風当たりが強いんです」
そう、秘書課のオネーサマ方の。
「部屋に入ってくる度に『なんだあのちんくしゃは』とでも言わんばかりの視線を向けられると、流石の私でもいろいろ思う所があるといいますか…」
「すまん」
あ、即座に負けを認めた。
むしろ部長も気づいて無視してただろ、これ。
「いち早い待遇改善を要求します」
とくに主任には一刻も早く復帰して欲しい。
中塚女史がある程度の代わりをになってくれてはいるが、ここまでやりづらいとは思わなかった。
「だが思ったより君が仕事ができることに驚いた」
「今日の部長はグイグイ私の心を抉りにかかってますね。…とりあえず褒め言葉だけ素直に受け取ります」
そうそう、何度も言うが私はデキる女。
「タイピングは正確でミスもないし、電話応対も問題ない。
……これなら、私の提案を受けずともいずれ正社員になれたかもしれないな」
「ひゃっほう!部長の初デレ!……ごめんなさい調子に乗りました…」
速攻で調子に乗った高瀬に与えられた冷たい一瞥に、しょぼんとうなだれる。
「だが、優秀なのは事実だ。君は馬鹿じゃない」
「馬鹿じゃないけど?」
「精神が幼稚なだけだ」
「おぅ」
もういい、何も言うまい。
傷つくのはマイハートだ。
「あれ、どこ行くのお嬢ちゃん」
しばらく黙ってデスクに向かっていたのだが、その横をすっと幼女が横切った。
アレクくんが、ついていこうかそれとも部長の側にとどまるべきか悩んでキョロキョロしている。
「部長、あれ…」
「アレキサンダー、ついて行け」
『ワゥ』と鳴きこそしないものの、了解したとばかりにうなづいたデキるお犬様は、無言のまま扉をすり抜けた幼女の後を追う。
「放っておいた方がいいんじゃないですか…?」
もしかしたら、社内で別のお気に入りを見つけて部長から離れる可能性もある。
「一度拾ったものは最後まで面倒を見る」
「部長の最後までって、それつまり私に委託するところまでですよね」
じろりと睨まれるが、今度は謝らないぞ。
いくらそういう取引を交わしているとは言え、必要以上に頼られては困る。
「まぁ…今回の場合は子供の霊ですし…。主任のことも気になるので構いませんけど」
二度はない、ぜひ心に留めておいていただきたい。
降りかかる火の粉は払うが、風に乗って移動したもらい火まで処理するのは無理だ。
高瀬とて、できるだけ霊の気持ちに沿った対応をしていきたいと思っているが、それがすべての霊にできるかといえば話は別なのだから。
※
退社の時間になっても、アレクくんが戻ってこない。
どうしよう、部長が動揺している。
「俺のせいか……?」
「部長、そんな飼い犬が行方不明になったわけじゃないんですから…」
そこまで心配せずとも、成仏するなり強制的に何かされるなりしなければ勝手に戻ってくるはず。
部長の守護犬と化したアレキサンダーには、ご褒美がてらに多少ながら高瀬も力を与えていたので、悪霊と間違われてどこかの霊能力者に払われてしまう、ということはまずないだろう。
第一、そんな霊能者が社内にいたとしたらとっくの昔に目をつけている。
高瀬の知る限り、わずかながらでも霊視ができる力があるのは例のお局――ー矢部先輩しかいない。
まぁ、普段滅多に出会うことのない役職クラスは別だが。
「そういえば」
うちのハムちゃんもずいぶん前から遊びに行ったきり帰ってこないのだが、どこへ行ったのだろう。
まぁ、あの子に関しては特に心配していないのだが…。
考えた端から、早速ハム太郎が戻ってきた。
お尻をぷりぷりさせながら、高瀬の足元にぐりぐりと顔を押し付けている。
「お、さすが。……ん?」
いい子いい子、と抱き上げようとした高瀬だが、どうも様子がおかしい。
何か言いたいことがあるようだ。
……まさか。
「もしかして……さっきまで姿が見えなかったのは、あの幼女2号についていってたの!?」
『きゅい!』
なんで出来る子だ!感動した!
「完全に飼い慣らしてるな、君は…」
「愛ですよ、愛」
ハム太郎を苦しくない程度にぎゅっと抱きしめて真顔で語る。
「部長、ハムちゃんがアレクくん達の居場所が分かるみたいですけど、どうします?」
ついていくか、このまま帰ってくるのを待つか。
「行くぞ」
そうか、即答か。
「部長、ひとついいですか」
「なんだ」
「既に退社時刻を回ってるんですけど、これは残業に含まれますか」
………。
はぁ、とため息をついた部長が、一言。
「後で君と中塚くんが食べたがっていたケーキをご馳走するといったら?」
「了解であります!」
ランチをした際、美味しそうなケーキがあって食べたかったけど二人共お腹がいっぱいだった、という高瀬のくだらない雑談を覚えていてくれたらしい。
持ち帰り出来るかどうかはわからないが、できなかったら後で奢ってもらうことにする。
今日もいい取引が出来た。
竜児は「馬鹿が賢い人間と取引をしてもうまくいかない」と言っていたが、意外と私と部長の間ではうまくいっている気がする。
もしや私、結構賢いのだろうか。
「なら早く片付けを終わらせていくぞ。君が案内するんだ」
「は~い」
猟犬よろしく案内してやろうではないか。
「エサは与えたんだ、キビキビ働け」
……あれ、これ上手く騙されてる?
相変わらずなんの脈絡もなく突然言い出した高瀬に、一言。
「だからなんだ」
「秘書課のハングリーなお姉様方を見ていたらなんとなく……」
あからさまに部長にコナをかける姿に、幼女2号(勝手に命名)が興味津々だった。
君にはまだ早い、大人の世界は弱肉強食なのだよ。
中塚女史とランチを食べながら話題になった、秘書課女子の合コンでの言動は凄かった。
一度だけ若い頃に参加したことがあるそうなのだが、なにしろ開口一番で相手の年収と貯金を尋ね始めたらしい。
怖っ。
今ではさすがにそこまであからさまなことはせず、勤めている会社名やら、そこでの役職などから大体の年収を推測するらしい。保険証を見せてもらうという手もあるそうだ。
もう一度言うが、怖っ。
「つまりは?」
「ぶっちゃけていいますと、やっぱり主任がいないと私への風当たりが強いんです」
そう、秘書課のオネーサマ方の。
「部屋に入ってくる度に『なんだあのちんくしゃは』とでも言わんばかりの視線を向けられると、流石の私でもいろいろ思う所があるといいますか…」
「すまん」
あ、即座に負けを認めた。
むしろ部長も気づいて無視してただろ、これ。
「いち早い待遇改善を要求します」
とくに主任には一刻も早く復帰して欲しい。
中塚女史がある程度の代わりをになってくれてはいるが、ここまでやりづらいとは思わなかった。
「だが思ったより君が仕事ができることに驚いた」
「今日の部長はグイグイ私の心を抉りにかかってますね。…とりあえず褒め言葉だけ素直に受け取ります」
そうそう、何度も言うが私はデキる女。
「タイピングは正確でミスもないし、電話応対も問題ない。
……これなら、私の提案を受けずともいずれ正社員になれたかもしれないな」
「ひゃっほう!部長の初デレ!……ごめんなさい調子に乗りました…」
速攻で調子に乗った高瀬に与えられた冷たい一瞥に、しょぼんとうなだれる。
「だが、優秀なのは事実だ。君は馬鹿じゃない」
「馬鹿じゃないけど?」
「精神が幼稚なだけだ」
「おぅ」
もういい、何も言うまい。
傷つくのはマイハートだ。
「あれ、どこ行くのお嬢ちゃん」
しばらく黙ってデスクに向かっていたのだが、その横をすっと幼女が横切った。
アレクくんが、ついていこうかそれとも部長の側にとどまるべきか悩んでキョロキョロしている。
「部長、あれ…」
「アレキサンダー、ついて行け」
『ワゥ』と鳴きこそしないものの、了解したとばかりにうなづいたデキるお犬様は、無言のまま扉をすり抜けた幼女の後を追う。
「放っておいた方がいいんじゃないですか…?」
もしかしたら、社内で別のお気に入りを見つけて部長から離れる可能性もある。
「一度拾ったものは最後まで面倒を見る」
「部長の最後までって、それつまり私に委託するところまでですよね」
じろりと睨まれるが、今度は謝らないぞ。
いくらそういう取引を交わしているとは言え、必要以上に頼られては困る。
「まぁ…今回の場合は子供の霊ですし…。主任のことも気になるので構いませんけど」
二度はない、ぜひ心に留めておいていただきたい。
降りかかる火の粉は払うが、風に乗って移動したもらい火まで処理するのは無理だ。
高瀬とて、できるだけ霊の気持ちに沿った対応をしていきたいと思っているが、それがすべての霊にできるかといえば話は別なのだから。
※
退社の時間になっても、アレクくんが戻ってこない。
どうしよう、部長が動揺している。
「俺のせいか……?」
「部長、そんな飼い犬が行方不明になったわけじゃないんですから…」
そこまで心配せずとも、成仏するなり強制的に何かされるなりしなければ勝手に戻ってくるはず。
部長の守護犬と化したアレキサンダーには、ご褒美がてらに多少ながら高瀬も力を与えていたので、悪霊と間違われてどこかの霊能力者に払われてしまう、ということはまずないだろう。
第一、そんな霊能者が社内にいたとしたらとっくの昔に目をつけている。
高瀬の知る限り、わずかながらでも霊視ができる力があるのは例のお局――ー矢部先輩しかいない。
まぁ、普段滅多に出会うことのない役職クラスは別だが。
「そういえば」
うちのハムちゃんもずいぶん前から遊びに行ったきり帰ってこないのだが、どこへ行ったのだろう。
まぁ、あの子に関しては特に心配していないのだが…。
考えた端から、早速ハム太郎が戻ってきた。
お尻をぷりぷりさせながら、高瀬の足元にぐりぐりと顔を押し付けている。
「お、さすが。……ん?」
いい子いい子、と抱き上げようとした高瀬だが、どうも様子がおかしい。
何か言いたいことがあるようだ。
……まさか。
「もしかして……さっきまで姿が見えなかったのは、あの幼女2号についていってたの!?」
『きゅい!』
なんで出来る子だ!感動した!
「完全に飼い慣らしてるな、君は…」
「愛ですよ、愛」
ハム太郎を苦しくない程度にぎゅっと抱きしめて真顔で語る。
「部長、ハムちゃんがアレクくん達の居場所が分かるみたいですけど、どうします?」
ついていくか、このまま帰ってくるのを待つか。
「行くぞ」
そうか、即答か。
「部長、ひとついいですか」
「なんだ」
「既に退社時刻を回ってるんですけど、これは残業に含まれますか」
………。
はぁ、とため息をついた部長が、一言。
「後で君と中塚くんが食べたがっていたケーキをご馳走するといったら?」
「了解であります!」
ランチをした際、美味しそうなケーキがあって食べたかったけど二人共お腹がいっぱいだった、という高瀬のくだらない雑談を覚えていてくれたらしい。
持ち帰り出来るかどうかはわからないが、できなかったら後で奢ってもらうことにする。
今日もいい取引が出来た。
竜児は「馬鹿が賢い人間と取引をしてもうまくいかない」と言っていたが、意外と私と部長の間ではうまくいっている気がする。
もしや私、結構賢いのだろうか。
「なら早く片付けを終わらせていくぞ。君が案内するんだ」
「は~い」
猟犬よろしく案内してやろうではないか。
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