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彼らの理由。

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指さされた土地を見上げれば、確かに間違いない。
部長から預かった、うちの子だ。
しかも、2匹ともに、一本の木に止まってこちらを見下ろしている。
一体いつの間に出て行ったのだろうか。
何か言いたげに佇む2羽。
「……もしかして」
「?」
わけがわからないという顔をしている龍一を無視して、高瀬は思いついたことを彼らに向かって問いかける。
「君たち、ここの子だったの?」
「おい、どういうことだ」
「あんたはちょっと黙ってて……あぁ、やっぱり」
高瀬の問いかけに答えるように、静かに音もなく飛び立った2羽が、2人の頭上でくるりと輪を描く。
鷹と雉、普通ならこんなことはありえない。
第一、雉は翼が短く、飛ぶことの苦手な鳥なのだ。
霊体だからこそできる動き、それに尽きる。
「そっか……。それで、に付いてきたのか」
ただ憑依体質だからとりつかれたのかと思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ。
彼らはきちんと、理由を持ってやってきたのだ。
恐らくは、この時の為に。
「君たちが、ここを守る新しい神になる…?」
自分ではなかなかいい思いつきだと思ったのだが、それはすぐに否定された。
「…無理だな。神になるには神格が足りない」
「なら、私の力を使えばいいよ。私、霊力には自信があるから」
えへんと威張って言えば、呆れたような顔で眉をひそめた龍一が、すぐに真顔になる。
「そうか…。鷹と雉、両方とも古くから神使として遣わされる鳥」
「?」
「面白いな。この場合、お前が「神」か」
「え」
確かによく考えれば、そういうことになるの…か?
「それともお前は本物の神なのか……?」
「いやいやいや、人間ですよ人間!」
焦った。勝手に神様にしないで欲しい。
「でもまぁ、それでこの土地の人間が守られるならいいか…な?」
「後で弁護士にでも頼んで新しい社でも立てるんだな。そこにそいつらの寄り代を祀ってやるといい」
長い年月はかかるが、やがて神使としてだけではなく彼ら自身の神格を得ることもできるだろう、という言葉に高瀬を含んだ一人と2羽は大いに喜んだ。
「よし、それでいこう!」
なんだかつい最近聞いたようなセリフだがまぁいいかと、龍一に指を突き立てて言い放つ。
2羽もそれで満足のようで、それは態度を見ていればわかる。
「気軽に言うがな…。少なくともそれまではお前が力を貸す必要があるんだぞ。定期的にここにやってきて、こいつらに力を分けてやるんだ」
そのくらい、お茶の子さいさいだ。
「どんとこい!」
ない胸をはり、どんと叩く。
「ここで見捨てて後味の悪い思いをするくらいなら、可愛いうちの子に力を貸すことくらいどうってことないよ!
そもそもこの子達はいずれ元いた場所に返してあげるって約束で預かったし」
これで無事遂行されたことになる。
「そういえば、ムツゴロウの預かり物…とか妙な事を言ってたな?」
「そうそう、ムツゴロウ」
「?それは干潟の生き物のことだろう?調べたが……」
「あ、そっち調べちゃったんだ」
「…?」
「そっちじゃないから。動物好きのおじいちゃんの愛称がムツゴロウで…」
「それも調べたが、それが何の関係がある?」
「…まぁそうだよね~あはは~」
まさかムツゴロウばりに動物霊を集める上司から預かりましたとは言えない。
「それは置いといて、とりあえずこれで打開策は見つかったし、万事解決!」
万歳!と上げた両手が掴まれた。
「なにすんの」
「いや?ここでお前を捕まえたらどうなるのかと思って、な」
「どうなるって……」
あれ、どうなるんだ……?
「言っとくけど私霊体よ?本気出せば逃げ出すのなんてあっという間よ?」
「霊体を封じるための結界があっても、か?」
「!まさか……」
それを、ここにしかけたとか……?
恐る恐る地面を見るが、そこになにか仕掛けられている形跡は見られない。
それとも隠してあるのだろうか。 
「お前自身に発信機のようなものをつけるとか…な」
「……冗談だよね……?」
「……さぁ?」
「!バーカバーカ!!命の恩人を騙すなんて最低なんだから!」
「だから俺なりに考えて丁重にもてなしてやろうと思ったんだがな。
下にも置かない扱いをしてやるぞ?……外にも出さねぇが」
「おい。それ監禁」
「そもそもわらしの原型は屋敷神。家に囚われた哀れな虜囚だ。
捕らえるのが家から俺自身に替わるだけで、何の問題もないだろう?」
「あるわ!ってか、わらしってのは単なる自称だから。屋敷神になんてなった覚えないし。
そもそも私は生きてるって言ってるでしょ!拉致監禁は犯罪です!」
「残念ながら、霊体に法律は通用しない」
「それは確かにその通りだけど!」
「霊体のお前を閉じ込めておいたら本体はどうなるんだろうな?意識不明で植物人間か?死ねば完全に俺のものになるな」
ぎらりと輝く瞳、歪んだ口元はまるで舌なめずりをするようで…。
ぞぞぞぞぞっ。
――ー本気だ。やつは間違いなくやる!
そうと決まればここは一つ。
「ずらかるぜ!」
「きゅい!」
いつの間にか高瀬の肩に登っていたハム太郎が、一緒になって声をあげる。
なぜだろう。ハム太郎は高瀬が預かってから日増しに元気になっている気がする。
「あ、ハムちゃんは残ったのね…」
まぁそうか。ハムスターの神使なんて聞いたことがないし、それ以前にこの子はただのペットだ。
まぁ、可愛いからよし。
「まて、今のは冗談……!」
「聞く耳持たん」

ぱんぱん、っと手を叩いて逃亡を決め込む。
いい加減今日は動きすぎた。

「さらばだ!」
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