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お年玉企画~部長とおせちの甘い罠①~

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年末。
掃除をしなきゃしなきゃとおもいつつ、気づけばなり響く除夜の鐘。
そんなわけで一度として大掃除を成功させたことのない高瀬宅とは違い、ここはしっかり片付いた部長の部屋。
浮かれた正月飾りなどは特にないが、申し訳程度に玄関先には鏡餅が置かれ、シックな内装が我が家よりもずっと快適。

「おじゃましま~す」

温まった部屋に、大きなテレビ。
部屋に上がって速攻脱ぎ捨てられた高瀬のコートは、眉間に皺を寄せたままの部長によって回収された。
普段かっちりした服装をしている分、ラフなセーター姿がちょっと珍しい。

部屋に到着するなりいそいそと持参したDVDをセットしたため、テレビから流れるのは毎年恒例の正月特番ではなく、部長宅には不釣合いな特撮映画。

もちろん許可はとった。
ダメ出しをされなかっただけ、という無言の肯定だが否定はされなかったのでよしとする。
なんだか画面から目を背けられているような気がするが気にしない。
気にしたら負けだ。

そうしてからようやくリビングに置かれた存在感ある重箱に存在に目を向け、高瀬は部長を振り返る。

「なるほど。これが例のやつですね。開けてもいいですか?」
「ーーーー好きにしてくれ」

こちらを見もせず、投げやりに答える部長。
一応許可を取ってから蓋を取れば、そこにお目見えしたのは重箱一杯に詰められた光輝く豪華食材。

「おぉ………!!」

オマ―ル海老にロ―ストビ―フ、フカヒレ。
黒々と輝く豆の上に散りばめられたのは、食材としてはなんの意味もない金箔。

「ご、ご来光はここに……!!」
「ーーーーー馬鹿な事を言っていないで蓋を下ろしなさい。行儀が悪い」

あまりの眩しさに重箱の蓋を握り締めていた高瀬だったが、呆れた部長に蓋を奪い取られてしまった。
そして正面から覗き込む豪華食材の数々。
一品一品が明らかにお高い。
我が家ではまずお目にかかるはずのないこの品々。

「な、なんですかこれは……!!」

言いながら、生唾を飲み込む音がごくりと周囲に響く。

「部長………!!今すぐ私と結婚してください」

食欲に目がくらむあまり、キッチンから箸を用意して戻ってきた部長の手をガシリと掴み、キラキラと瞳を輝かせる高瀬。

いつもであればこのあたりで速攻のツッコミが入るあたりなのだが、なぜか部長からのコメントはなく。
見上げる部長の顔は、実に真顔。

あ。今更ですけどそのセーター、クリスマスにプレゼントしたやつですよね。

ユニクロの安物でも、着用する人間によってはカシミア並みの高級素材に見えるのだと初めて知りました。
お似合いです、部長。

「ーーーー本気なら今すぐ役場に向かっても構わないが」
「冗談をいって申し訳ありませんでした――!!」

紛れもない本気の顔に、高瀬の選択は土下座一択。

ちなみに部長宅リビングは塵一つなく、床までぴかぴか。
本気でここのうちの子になりたいと一瞬思ったが、言った数時間後には部長と同じ戸籍に入った自分の姿が目に浮かんだのでやめました。
行動力のある大人って怖い。

というよりも部長。
なんで正月早々婚姻届がポケットに入ってるんですかーーーーーー!!

新年早々、触らぬ神に祟りなしという言葉を身を持って知った高瀬である。

                 ※※※

さて、平成最後の正月。
1月1日の朝から、なぜこんな光景が繰り広げられているかといえば、それは早朝にかかってきた部長からの電話が原因だった。

「ーーーはぁ?実家からおせち料理が送られてきた?」

年末からアニメのDVDを見続けて寝落ちしていた為、若干寝ぼけながらその電話を受けた高瀬。

「そんなのありがたく食べればいいだけの話じゃないですか。
なんでうちに関係がーーーーーーーえ?明らかに量が多い?家で恋人と食べろと言われた?
部長恋人いたんですか、ならその人と食べればーーーーーーーって、はい冗談です、冗談!!!」

電話口からでもわかる怒りのオーラにぱっちりと目が覚めた。

つまりはこういうことらしい。
前回の噂、例の高瀬が部長の恋人であるという話が部長のご両親にまで伝わり、気を使った両親がわざわざ彼女と食べなさいと言って高級おせち(三段重箱時価○○円)を部長に無断でクール宅急便してしまったと。
当然ながら一人暮らしの部長。
とてもではないが食べきれない量の豪華料理を前に、一人呆然。
責任を取らせるべく、当事者の一人である高瀬に電話をしてきた、そういうわけだ。

「え、じゃあ食べに行きますよ。どうせ今日は特になんの予定もないし」

竜児も賢治も仕事が忙しく、去年のうちになぜかお年玉だけ貰ったものの、三が日の間には会えそうにない。
実家に帰るのも億劫でここ数年アパートで年越しをしていたため、毎年この時期はだらだら過ごすだけの寝正月。
実家からダンボール一箱分送られてくる餅を消費するだけがノルマのような日々を送るのが定番だ。

「初詣?行きませんよ。人がいっぱいいますし。
明日なら中塚先輩達と福袋を買いに行く予定がありますけど」

予定がない事になぜか驚かれいろいろ聞かれたが、ないものはない、ぼっちはぼっち。
初詣なんぞにでかけても有象無象に疲れるだけだし、正月を過ぎてからでもお参りは十分。
近所に知り合いのがいるので、そこに挨拶がてら世間話をしにいくつもりだ。

「んじゃ、折角のおせち料理だし、早く行ったほうがいいですよね。ーーー迎えに行く?いや、いいですよ。大した距離じゃないし。ついでにアイスも買っていきたいし。あ、あと部長の家でDVD見てもいいですか。部長の部屋のテレビでっかいし」

年明け早々調子に乗るなと怒られることを想定してあれこれ言ったものの、なぜか部長からのツッコミはなく。
コタツの上からみかんを数個とおすすめDVDを適当な紙袋に突っ込み、途中でアイスとお菓子を購入し、向かったのは部長宅。
10分もかからない距離だが、寄り道をしたので着いたのは大体30分後くらい。

「あけましておめでとうございます」と玄関先で互いに頭を下げてから数分後。

繰り広げられたのが先程の会話。


必死の土下座が功を奏し、現在は機嫌を直した部長とともにおせちを堪能中。

特撮映画も既にクライマックスに突入した。

「ーーーーー君はこういうのが好きなのか?」
「好きですね。むしろ男の人の方が好きじゃないですか、こういうのって」

男のロマンというか、竜児はともかく賢治も結構好きだったりする。

「子供のあこがれじゃないですか、仮面ラ○ダーとかって」

そして大人になり、子供の頃買ってもらえなかったお高いフィギアやDVDをついつい大人買いしてしまうわけだが、その収益がまた新しい特撮アニメを生み出すのだから、高い出費にも悔いはない。

「あ、セーラームーンとかの少女アニメも好きですよ。プリキュアも悪くないと思いますが、どちらかといえば実写の方が好きなので」

イケメン若手俳優格好いい。
そして変身後のスーツアクターも実は結構イケメン揃いなのがライダーの魅力だ。

部長相手に正月からオタク話を披露するのもいかがなものかと思ったが、今日の部長は機嫌がいいらしい。

「そうか」と言ったきり、無言でテレビ画面を見つめてーーーーーはいなかった。
部長が見つめているのはこちら。
主に高瀬の顔である。

「?なんかついてますか、私」
「いやーーー」

どうやら何が言いたいことがあるらしく、その箸も先程からずっと止まり気味だ。

「あ、私ばっかり食べ過ぎちゃいましたか?どうぞ部長、最後のアワビです!!」

くっ……!!っと断腸の思いで最後のひとつとなったアワビの煮物を部長の皿に載せたのだが、なぜか微妙な顔をした部長。

「あれ、これじゃありませんでした?いらないなら食べたいです。はい、あーーん」

一度人の皿にのせたものを再び奪い返すわけにはいかない。
なので食べないなら代わりにあーんしてくださいと口を開いてスタンバイすれば、しばしの沈黙の後、予想外の勢いで口に突っ込まれるアワビ。

「むぐ…・・!!」

一瞬のどに詰まるかと思いましたが、お味は絶品です。
しかし部長にしては随分乱暴ーーーーーと思っていれば。

「ーーーーー君は、あの幼馴染達相手にいつもこんなことをやっているのか?」

部長の機嫌が目に見えて悪くなっていた。

なぜ。

食べながら反論すれば余計に怒られそうなので、飲み込んでからぷはーと一つ息を吐き出す。

「いや、あーんくらい普通じゃないですか?」
「ーーーー普通じゃない」
「え、マジで」

普通かと思っていましたと真顔でいえば、一気に眉間にしわを寄せた部長が、沈痛な面持ちで黙り込んだ。
まるでお通夜の席のようである。

そうしてからようやく口を開いた部長は説教モ―ド。

「君は随分と彼らに毒されているぞ。ーーーもう少し常識というものを学んだほうがいい」
「いやぁ~。練乳に砂糖をぶっかけるレベルで甘やかされてるんでちょっと無理かと」
「……少なくとも、彼らのどちらかと結婚するつもりがないのであれば今すぐその常識は改めたほうがいい」
「ーーーーーですよね」

それはさすがにわかりますです、はい。

流石にちょっと態度を改め、土下座して説教を聞くスタイルになれば、部長からは大きなため息が。

「ーーーー性質がわるい」
「え~と………返す返す申し訳……」

ありません、と反省の言葉を述べ用としたところで、くっと顎を捕まれ、上を向かされる。

「ぶ、部長……?」

至近距離での部長の真剣な瞳が、こちらをジッと見つめていた。

「自分に惚れているとわかっている男の前で無防備に甘える行動の責任がーーーー君にとれるのか?」
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