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エピローグ②
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「……ま、本人達に追求したところで認めるわけなんてないだろうし、真相は闇の中ってやつだけどさ」
そう締めくくり、話を終えた主任。
主任の言いたいことは十分わかる。
だが、頭がそれを考えることを拒否するのだ。
「これでハッピーエンドってやつなのかな?彼らにとってはさ」
どことなく投げやりな主任の言葉に、どう答えたらいいのか。
少なくとも主任が、本心からそう思っているわけでないことくらいは理解できる。
当然だ。
だれかの犠牲の上に立った「幸福」を手放しに喜べるはずがない。
「このこと、矢部先輩たちは………?」
「もちろん知らせないよ。
わざわざ耳に入れるようなことでもないし、一応令嬢たちは無事に回復したとだけ伝えたけど」
言えるわけないよね、こんなこと、と。
ボソリつぶやいた主任に、俯く高瀬。
そうだ。こんな真実言えるわけがない。
「物語じゃあるまいし、現実の全てがハッピーエンドで終わるなんてことはありえない。
そんなことは十分理解できる年齢になったはずだけどーーーーーーやっぱり、納得はできないな」
ならば納得の行く結末とは一体どんなものだったのかと考えても、答えなど出るはずもなく。
「結婚式」
「え?」
「例の二人のさ。今回のお礼に招待状を送るからぜひ参加してくれって」
「部長宛に……ですか?」
「俺たち三人に、だよ。どうする?」
「どうするって………」
聞きたいのはむしろ、こっちのほうだ。
何をどうすればよかったのか。
「高木君に、会いにいくかい?」
投げかけれられたその問に、高瀬は答えることができなかった。
※※※
「つまり、初めから彼の目的は復讐ではなく、恋人を蘇らせることになったということでしょう」
「……やっぱり、そうなるよね」
そうして、彼の望みは叶えられたのだろう。
あの後、結局部長は午後も病院から戻ることはなく、連絡を受けた主任によれば、たまには実家に顔を出せと、そのまま社長に実家まで強制送還されたらしい。
それならと高瀬もまた、定時には何事もなかったかのように会社を出、その足で向かったのがここ、竜児の事務所である。
わらしスタイルならお馴染みの場所だが、生身で来るのはかなり珍しい。
「そういえば事務所のお姉さま方は?美人がいっぱいいるって聞いたんだけど」
「君からの連絡を受けて帰らせましたよ。今日はほかに予約も何も入っていませんでしたし」
「そりゃ残念」
賢治が以前、「竜児の事務所は顔と体で社員を選んでいる」と言っていたので、そのダイナマイトなボディを是非一度生で拝んでみたかったのだが。
帰ってしまったものは仕方ない。
「今日一日である程度、今回の顛末に関する調べはつきましたがーーーーー知りたいですか?」
机の中から取り出したのはまとめられた何枚かの書類。
「全容とまでは行きませんし、中には賢治と僕との憶測も含んでいるものもありますが、君が知りたいことの大半はここに書かれているはずですよ」
見ますか、と手渡された書類を少しためらいながら受け取った高瀬。
「――――よし」
真実を知るべきか否か。
その答えがここに来てようやく決まった。
手の中でくるりと丸めた数枚の薄い書類。
「うんにゃぁ!!」
とりゃ!と。
勢いのついた投球フォームで、手の中から見事すっ飛んでいった書類。
ぽすんっ。
「よっしゃナイスイン!」
見事一発でゴミ箱入りしたことに感激し、我ながら素晴らしいと自画自賛していれば、あらかじめその動きを予見していたかのように動いた竜児。
「いけませんね」
「え?」
その手を伸ばし、ゴミ箱へと落ちた書類を掬い上げる。
「君ならこうすると思っていました。
ですがどうせならこちらの方がより安全だとは思いませんか?」
「あ」
拾いあげた書類は、竜児の手によってシュレッダーにかけられ、あっという間に細切れに。
「元のデ―タはいずれ何か問題が発生したときにでも有効活用させていただくとして、ひとまずこれで今回の件が他人の目に触れる心配はなくやりましたね」
不穏なことを呟く竜児だが、かけられた迷惑を考えれば、交渉材料として証拠を残しておくのは当然の選択だ。
「まぁ……いいんじゃない?」
真実を知るのは竜児と、この件を直接調べたたであろう賢治のみ。
「適切な管理を希望する」
「それは言われるまでもありません」
情報とは時に人の命をも握る。
単なる管理の不行き届きでは済まされない。
だが竜児であればそのような下手を踏むことはなかろうし、ひとまずは安心してもいいだろう。
細切れになった用紙に視線を落とせば、胸に残るのはモヤモヤと鬱屈した思い。
正直自分が正しいかどうかの自信なんて欠片もない。
だからこそ。
「考えるな、感じろってね」
倫理だのなんだの、そんなもので大切なものを見失うのは愚かな事。
あったこともないお嬢様より、出会ったときには既に死んでいた女性の幸せを選んだとして、何が悪い。
開き直ったかのような高瀬の選択だが、竜児にとってはそれも今さらな話。
「僕らは聖人でも神でもありませんし、それでいいのでは?」
全ての人間に対して平等である必要などない。
それこそ依怙贔屓上等だ。
そもそも竜児は、それが高瀬の選んだ選択ならば、他がどうなろうと興味などない。
徹頭徹尾、高瀬以外はどうなっても構わないと思っているのだから、その彼女のだした答えを咎め立てなどするはずがないのだ。
―――勿論。
「…………道化を演じさせられた落とし前は、いずれつけさせていただきますがね」
低く落とされた竜児の声に、高瀬もすぐにピンと来た。
「それ、あの最後に出てきたおっさん達の話?」
「えぇ」
訳の分からないことばかり話して消えていった謎の男。
確か、御霊憑きとかいったか。
渡された名刺は速攻で竜児にパスし、勿論連絡などしていない。
龍一とはその後一度だけ電話を介して話をしたが――こともあろうに、本社へと高瀬を名指しで直電してきたのである――あの連中に関しては関わらない方がいいの一辺倒。
黒幕は顔さえ見せていないという後味の悪さは、最早不愉快としか言いようがない。
「また会うと思う?」
「――――いずれ必ず」
「そっか」
高瀬へと売られた喧嘩は、竜児が高値で買い取ってくれる。
一度の出会いですむのであればそれが一番だが、竜児が二度目を明言するからには、楽観視などするだけ無駄。
「部長達は巻き込まないといいけどなぁ……」
只でさえトラブル体質の部長の、更なる重荷にはなりたくない。
そう考えてらしくもなくブルーになった高瀬の頭に、ぽんとおかれた竜児の手。
慰めかと思いきや、それは違った。
「タカ子。君なにか勘違いしていませんか?」
「ん?」
「僕の言う落とし前は、君の上司の事も勿論含んでいるのですが」
「え」
「君は彼らを被害者のように言いますが、むしろ今回も前回も巻き込まれたのはタカ子の方で、迷惑をかけているのはあちらでは?」
「……………あ」
確かに、そうとも言える。
前回は主任の個人的な事情に巻き込まれたようなものだし、今回は部長の身内に外堀を埋められたようなもの。
「足手まといが不要な気持ちは分かりますが、仮にも君に求婚した相手なのですから責任くらいはとっていただきましょう」
「―――――球根?」
一瞬、頭の中で真っ赤なチュ―リップが一輪咲いて。
「求婚。またはプロポーズ」
冷静な竜児の突っ込みに、その花がぷしゅっと枯れた。
そして頭を抱え、高瀬は叫ぶ。
「忘れてた!!!!!!!!」
むしろ終わった話だと思ってましたと言ったら怒られるだろうか。
「あ、あれはさ。その場のノリとか冗談とか………」
「酒も飲まずにノリで婚姻届が出せるとは、君の部長さんは大層お目出度い方ですね」
「ぐっ……」
「ちなみに僕は本気ですよ。まったくもって不本意ですが、賢治の奴も一度口にした言葉を撤回することはないでしょう。
………賢治を煽ったのは、誰でしょうねぇ」
たらり。
煽ったわけではないと否定しようにも、走馬灯のように駆け巡るあの時の記憶。
あれで覚えがないとか言ったら最早詐欺師の所業だ。
「……………(龍一からも実は直接、必ず嫁にする宣言されてるとか今さら言えない……)」
「モテる女は辛いですね?」
恐らくは全て承知の上。
ふっと鼻で笑うくらいなら是非ともプロポーズをなかったことにしてほしいと思うが、そうは問屋が卸さない。
「――いずれにせよ、最後に君の側に立つのが誰かは、既に決定済みですがね」
―――自分以外を選ばせるつもりはないと自信を滲ませ、竜児はチュッと高瀬の額に口づけを落とす。
「迷惑だろうと厄介だろうと、愛するものがそこにいるだけで十分幸せでしょう?」
大きな犠牲を払って愛する人を取り戻したあの男は、例え死後、共に地獄に堕ちようとも悔いはないだろう。
彼は幸運だ。
一度失ったはずのものを取り戻した幸福は、どれ程のものか。
だが今回のような奇跡はそうそう存在するものではない。
だからこそ失えない。
失ってからでは遅すぎるのだ。
この先、何が起こるかわからないのなら盾は一つでも多い方がいい。
「愛してますよ、タカ子」
「ぐぬぬぬ………」
あれ、目の前に死屍累々の幻が。
四面楚歌。
八方塞がり。
逆ハ―って、こんな冷や汗のでる代物だっただろうか。
よし、帰ろう。
今すぐ帰ろう。
「どこにいくつもりですか?タカ子」
「いや………長居するのも悪いしお暇しようかと」
「帰るなら後数分待っても変わらないでしょう。
賢治を呼んでありますから、夕食でもどうですか?」
「ごはん!!」
「では決まりですね」
条件反射で両手をあげて大反省。
まぁしょうがない。
私は所詮こんなものだと諦めよう。
「お好み焼き!お好み焼きがいい!!」
「では個室のある店を」
「むしろ某チェーン店でポンポコしたいです」
「個室の店ならお好み焼きだけではなく魚介やステ―キもありますよ?」
「くっ………!!」
乙女の危機感が食欲に完全敗北した瞬間である。
「アワビも焼いてもらいましょうか」
「………伊勢海老も!!」
「あれは焼くより刺身の方が向いています。別の店に後で案内しますよ」
「わ――――い!!」
ここまで来れば毒食らわば皿まで。
「お。話は纏まってるみたいだな?今日は魚にするのか?肉にするのか?」
「両方!!」
結局その後やって来た賢治と共に三人で意気揚々と出掛けることになった高瀬。
まぁ、当然の成り行きとして気持ちよく酔っぱらい――。
幼馴染みな狼二人にお持ち帰りされた迂闊な赤ずきんの悲鳴が、朝日差し込むホテルのスイ―トル―ムに響くまで、残り◯時間。
tobenext …………?
そう締めくくり、話を終えた主任。
主任の言いたいことは十分わかる。
だが、頭がそれを考えることを拒否するのだ。
「これでハッピーエンドってやつなのかな?彼らにとってはさ」
どことなく投げやりな主任の言葉に、どう答えたらいいのか。
少なくとも主任が、本心からそう思っているわけでないことくらいは理解できる。
当然だ。
だれかの犠牲の上に立った「幸福」を手放しに喜べるはずがない。
「このこと、矢部先輩たちは………?」
「もちろん知らせないよ。
わざわざ耳に入れるようなことでもないし、一応令嬢たちは無事に回復したとだけ伝えたけど」
言えるわけないよね、こんなこと、と。
ボソリつぶやいた主任に、俯く高瀬。
そうだ。こんな真実言えるわけがない。
「物語じゃあるまいし、現実の全てがハッピーエンドで終わるなんてことはありえない。
そんなことは十分理解できる年齢になったはずだけどーーーーーーやっぱり、納得はできないな」
ならば納得の行く結末とは一体どんなものだったのかと考えても、答えなど出るはずもなく。
「結婚式」
「え?」
「例の二人のさ。今回のお礼に招待状を送るからぜひ参加してくれって」
「部長宛に……ですか?」
「俺たち三人に、だよ。どうする?」
「どうするって………」
聞きたいのはむしろ、こっちのほうだ。
何をどうすればよかったのか。
「高木君に、会いにいくかい?」
投げかけれられたその問に、高瀬は答えることができなかった。
※※※
「つまり、初めから彼の目的は復讐ではなく、恋人を蘇らせることになったということでしょう」
「……やっぱり、そうなるよね」
そうして、彼の望みは叶えられたのだろう。
あの後、結局部長は午後も病院から戻ることはなく、連絡を受けた主任によれば、たまには実家に顔を出せと、そのまま社長に実家まで強制送還されたらしい。
それならと高瀬もまた、定時には何事もなかったかのように会社を出、その足で向かったのがここ、竜児の事務所である。
わらしスタイルならお馴染みの場所だが、生身で来るのはかなり珍しい。
「そういえば事務所のお姉さま方は?美人がいっぱいいるって聞いたんだけど」
「君からの連絡を受けて帰らせましたよ。今日はほかに予約も何も入っていませんでしたし」
「そりゃ残念」
賢治が以前、「竜児の事務所は顔と体で社員を選んでいる」と言っていたので、そのダイナマイトなボディを是非一度生で拝んでみたかったのだが。
帰ってしまったものは仕方ない。
「今日一日である程度、今回の顛末に関する調べはつきましたがーーーーー知りたいですか?」
机の中から取り出したのはまとめられた何枚かの書類。
「全容とまでは行きませんし、中には賢治と僕との憶測も含んでいるものもありますが、君が知りたいことの大半はここに書かれているはずですよ」
見ますか、と手渡された書類を少しためらいながら受け取った高瀬。
「――――よし」
真実を知るべきか否か。
その答えがここに来てようやく決まった。
手の中でくるりと丸めた数枚の薄い書類。
「うんにゃぁ!!」
とりゃ!と。
勢いのついた投球フォームで、手の中から見事すっ飛んでいった書類。
ぽすんっ。
「よっしゃナイスイン!」
見事一発でゴミ箱入りしたことに感激し、我ながら素晴らしいと自画自賛していれば、あらかじめその動きを予見していたかのように動いた竜児。
「いけませんね」
「え?」
その手を伸ばし、ゴミ箱へと落ちた書類を掬い上げる。
「君ならこうすると思っていました。
ですがどうせならこちらの方がより安全だとは思いませんか?」
「あ」
拾いあげた書類は、竜児の手によってシュレッダーにかけられ、あっという間に細切れに。
「元のデ―タはいずれ何か問題が発生したときにでも有効活用させていただくとして、ひとまずこれで今回の件が他人の目に触れる心配はなくやりましたね」
不穏なことを呟く竜児だが、かけられた迷惑を考えれば、交渉材料として証拠を残しておくのは当然の選択だ。
「まぁ……いいんじゃない?」
真実を知るのは竜児と、この件を直接調べたたであろう賢治のみ。
「適切な管理を希望する」
「それは言われるまでもありません」
情報とは時に人の命をも握る。
単なる管理の不行き届きでは済まされない。
だが竜児であればそのような下手を踏むことはなかろうし、ひとまずは安心してもいいだろう。
細切れになった用紙に視線を落とせば、胸に残るのはモヤモヤと鬱屈した思い。
正直自分が正しいかどうかの自信なんて欠片もない。
だからこそ。
「考えるな、感じろってね」
倫理だのなんだの、そんなもので大切なものを見失うのは愚かな事。
あったこともないお嬢様より、出会ったときには既に死んでいた女性の幸せを選んだとして、何が悪い。
開き直ったかのような高瀬の選択だが、竜児にとってはそれも今さらな話。
「僕らは聖人でも神でもありませんし、それでいいのでは?」
全ての人間に対して平等である必要などない。
それこそ依怙贔屓上等だ。
そもそも竜児は、それが高瀬の選んだ選択ならば、他がどうなろうと興味などない。
徹頭徹尾、高瀬以外はどうなっても構わないと思っているのだから、その彼女のだした答えを咎め立てなどするはずがないのだ。
―――勿論。
「…………道化を演じさせられた落とし前は、いずれつけさせていただきますがね」
低く落とされた竜児の声に、高瀬もすぐにピンと来た。
「それ、あの最後に出てきたおっさん達の話?」
「えぇ」
訳の分からないことばかり話して消えていった謎の男。
確か、御霊憑きとかいったか。
渡された名刺は速攻で竜児にパスし、勿論連絡などしていない。
龍一とはその後一度だけ電話を介して話をしたが――こともあろうに、本社へと高瀬を名指しで直電してきたのである――あの連中に関しては関わらない方がいいの一辺倒。
黒幕は顔さえ見せていないという後味の悪さは、最早不愉快としか言いようがない。
「また会うと思う?」
「――――いずれ必ず」
「そっか」
高瀬へと売られた喧嘩は、竜児が高値で買い取ってくれる。
一度の出会いですむのであればそれが一番だが、竜児が二度目を明言するからには、楽観視などするだけ無駄。
「部長達は巻き込まないといいけどなぁ……」
只でさえトラブル体質の部長の、更なる重荷にはなりたくない。
そう考えてらしくもなくブルーになった高瀬の頭に、ぽんとおかれた竜児の手。
慰めかと思いきや、それは違った。
「タカ子。君なにか勘違いしていませんか?」
「ん?」
「僕の言う落とし前は、君の上司の事も勿論含んでいるのですが」
「え」
「君は彼らを被害者のように言いますが、むしろ今回も前回も巻き込まれたのはタカ子の方で、迷惑をかけているのはあちらでは?」
「……………あ」
確かに、そうとも言える。
前回は主任の個人的な事情に巻き込まれたようなものだし、今回は部長の身内に外堀を埋められたようなもの。
「足手まといが不要な気持ちは分かりますが、仮にも君に求婚した相手なのですから責任くらいはとっていただきましょう」
「―――――球根?」
一瞬、頭の中で真っ赤なチュ―リップが一輪咲いて。
「求婚。またはプロポーズ」
冷静な竜児の突っ込みに、その花がぷしゅっと枯れた。
そして頭を抱え、高瀬は叫ぶ。
「忘れてた!!!!!!!!」
むしろ終わった話だと思ってましたと言ったら怒られるだろうか。
「あ、あれはさ。その場のノリとか冗談とか………」
「酒も飲まずにノリで婚姻届が出せるとは、君の部長さんは大層お目出度い方ですね」
「ぐっ……」
「ちなみに僕は本気ですよ。まったくもって不本意ですが、賢治の奴も一度口にした言葉を撤回することはないでしょう。
………賢治を煽ったのは、誰でしょうねぇ」
たらり。
煽ったわけではないと否定しようにも、走馬灯のように駆け巡るあの時の記憶。
あれで覚えがないとか言ったら最早詐欺師の所業だ。
「……………(龍一からも実は直接、必ず嫁にする宣言されてるとか今さら言えない……)」
「モテる女は辛いですね?」
恐らくは全て承知の上。
ふっと鼻で笑うくらいなら是非ともプロポーズをなかったことにしてほしいと思うが、そうは問屋が卸さない。
「――いずれにせよ、最後に君の側に立つのが誰かは、既に決定済みですがね」
―――自分以外を選ばせるつもりはないと自信を滲ませ、竜児はチュッと高瀬の額に口づけを落とす。
「迷惑だろうと厄介だろうと、愛するものがそこにいるだけで十分幸せでしょう?」
大きな犠牲を払って愛する人を取り戻したあの男は、例え死後、共に地獄に堕ちようとも悔いはないだろう。
彼は幸運だ。
一度失ったはずのものを取り戻した幸福は、どれ程のものか。
だが今回のような奇跡はそうそう存在するものではない。
だからこそ失えない。
失ってからでは遅すぎるのだ。
この先、何が起こるかわからないのなら盾は一つでも多い方がいい。
「愛してますよ、タカ子」
「ぐぬぬぬ………」
あれ、目の前に死屍累々の幻が。
四面楚歌。
八方塞がり。
逆ハ―って、こんな冷や汗のでる代物だっただろうか。
よし、帰ろう。
今すぐ帰ろう。
「どこにいくつもりですか?タカ子」
「いや………長居するのも悪いしお暇しようかと」
「帰るなら後数分待っても変わらないでしょう。
賢治を呼んでありますから、夕食でもどうですか?」
「ごはん!!」
「では決まりですね」
条件反射で両手をあげて大反省。
まぁしょうがない。
私は所詮こんなものだと諦めよう。
「お好み焼き!お好み焼きがいい!!」
「では個室のある店を」
「むしろ某チェーン店でポンポコしたいです」
「個室の店ならお好み焼きだけではなく魚介やステ―キもありますよ?」
「くっ………!!」
乙女の危機感が食欲に完全敗北した瞬間である。
「アワビも焼いてもらいましょうか」
「………伊勢海老も!!」
「あれは焼くより刺身の方が向いています。別の店に後で案内しますよ」
「わ――――い!!」
ここまで来れば毒食らわば皿まで。
「お。話は纏まってるみたいだな?今日は魚にするのか?肉にするのか?」
「両方!!」
結局その後やって来た賢治と共に三人で意気揚々と出掛けることになった高瀬。
まぁ、当然の成り行きとして気持ちよく酔っぱらい――。
幼馴染みな狼二人にお持ち帰りされた迂闊な赤ずきんの悲鳴が、朝日差し込むホテルのスイ―トル―ムに響くまで、残り◯時間。
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