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間話 何でもない日じゃなかった10月~主任編~

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「谷崎からプレゼントは貰った?」
「あれは主任の仕業ですか」

なるほど、おかしいと思った。

開口一番、にこやかな台詞でいい放った主任の口に、今丁度食べようとしていた茶菓子を突っ込む高瀬。

モグモグと咀嚼し、主任の喉がごくりと鳴った。
「なにこれ?カボチャ味?」
「情報漏洩へのお礼参りです」

損をしたわけではなくむしろ得をした訳なので報復と言うにはおかしいが、気分的に文句を言いたい。

「喉乾いたからコーヒー入れてくれる?」
「断固拒否!!」
「ケチ」

いいながらもポケットから缶コーヒーを取り出し、一人飲み始める主任。

「はい。高瀬君にはマッ○スコーヒー」
「糖類MAXですね」

甘いお菓子に甘いコーヒーは糖尿病への最短ルートだ。

そもそも自分で飲み物持ってたのかよと突っ込みたいところだが、ここは我慢。 


「そういや主任、今日は営業からのヘルプで群馬まで行ってたんでしたっけ?」
「そ。担当の奴がインフルエンザで一週間ダウンしちゃってさ。昔取った杵柄ってやつ?」

主任から手渡されたコーヒーは関東限定のローカルフード。
病欠した担当者の代わりに現場まで赴き、主任自ら商談を纏めてきたらしい。

「俺の後釜で入った奴だったからね。後輩の尻拭いくらいはしてやらないとさ」
「おぉ~」
「お土産買ってきたから、後で皆で食べてよ。
焼きまんじゅう味のポテトチップス」
「お土産はありがたく戴きますがそのチョイスは微妙」
「うん。俺は食べない」
「!?」

無責任な台詞を笑顔で口にする主任。
だが慣れない仕事にトントンと肩を叩いている主任を見ると、流石に文句を言うのも大人げないかと諦めた。

「んで、俺のいない間に谷崎と何かあった?」
「何故何かあるのを前提にするんですか。仕事なら中塚先輩がちゃんと代わってくれましたよ?」

主任不在のピンチヒッターとして派遣されてきた中塚先輩。
勿論、文句なしに有能でした。

「そこは心配してないけどさ。
そこじゃなくて谷崎との仲が進展したのかどうかって話ね。 
プレゼント貰ったんだろ?」
「貰いました」

そこは、否定せず素直に頷く。

「なに貰ったの?指輪?」
「そんなプレゼント重すぎてドン引きです」

最近婚約したばかりだという年下の友人は、デザインから特注したと言う見事な婚約指をひろうしてくれたが、それとは訳が違う。

猫のぬいぐるみですよと答えれば、「え~?」と呆れ気味な表情の主任。

「折角教えてやったのにそれかよ。………谷崎の奴、守りに入ったな」
「ん??」

小さくぼそりと付け加えられた台詞の意味がわからない。

「守りってなんですか?」
「攻めるならここは婚約指輪でしょ」

ーーーそれなら、と。

「はい。選手交替。
俺からのプレゼントね」

渡されたばかりの缶コーヒーを奪われ、代わりに手渡されたのは小さな白い箱。
まさかとは思うが、直前の流れが流れだ。

「同意のない婚約指輪はクーリングオフの対象ですよ?」
「大丈夫大丈夫。開けてみなって」

警戒する高瀬をよそに、パカッと自ら箱を明け、そこに入っていたのは指輪………ではなく、透明に輝くガラスの。

「靴……?」
「………の、形をしたリングケースだよ。は高瀬君がその気になったらいつでもプレゼントするからさ。
インテリアとしても可愛いだろ?」

説明する主任の言葉を耳にしながら、箱を持ち上げじっと見いる。

「もしやこれ、持っているだけで女子力が底上げされる課金アイテムですか」
「真面目な顔をして言う台詞がそれ?
っていうか指輪の下りは無視なのか」

手強いなぁと笑う主任だが、プレゼントしてくれると言うのは本当らしく、「落とさないようにね」と、ポンッと頭を叩かれる。

「ありがとうございます」
「どういたしまして。
ーー高瀬君、誕生日おめでとう」

うむ。

「情報漏洩の件はこれで水に流します」
「….…まだ根に持ってのか……」
「勿論です。
個人情報は現代人の命なり!」

履歴書を勝手に見た罪は重いと断罪すれば、いつもながら軽い口調で「ごめんね?」と
  適当に謝る主任。

「でも高瀬君も水くさいな?折角の誕生日なんだから、自己申告してくれれば夕飯くらい奢ったのに」

普段の言動を考えれば、むしろ自らプレゼントをねだってくるかと思えば、全く態度にも出さず。

「言いましたよ?中塚先輩と矢部先輩には」
「……………は?」

おぉ、珍しい主任の間抜け顔。

「女子って星座占いとか相性占いとか好きじゃないですか。
その流れで誕生日を聞かれたので」

ちなみに今日、三人で飲みに行きます。

けろっとした顔で言われ、一瞬絶句する。

「先を越された…………」
「先?」
「………俺も君と食事をしたかったってこと」

肩をすくめて、ため息を吐く主任。

「その飲み会さ。俺と谷崎も参加しちゃ駄目?」
「部長もですか?駄目かどうかは後の二人に聞いてください」
「勿論、三人とも俺達の奢りでいいからさ」
「!!マジですか!」

ひゃっほうと小躍りする高瀬。

交渉してみる余地は十分ありそうだと思いつつ、口から漏れるのは苦笑。

「………高瀬君を独り占めするのは中々難しそうだな」

あのリングピローに嵌まるのが、誰の指輪かはまだわからない。

けれど。

「狙うは逆転満塁ホームランってね」

ーーー君に出会えた奇跡に心から感謝を。

「面倒な小姑が二人か。
…………愛されてるね、高瀬君」
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