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成すべき事を。

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「よし」

これで大体の準備は済んだ。
ここからが、本当の出番だ。

「タカ子、俺達には指示しなくていいのか?」
「ん?」

何を今さらな事を。

「主導権を握ってるのがタカ子なら、俺達もタカ子に従うのが筋だろ?」

なぁ?と。

こんな状況にも関わらず、どこかのんびりした様子で高瀬からの返答を待つ賢治。

「そうですね。
折角ですから僕も君に従いましょうか」

何が折角なのか全くわからないが、賢治に同調する姿勢の竜児。

弁護士と便利屋。
トラブル解決はまさに彼ら二人の専売特許だ。

「俺たちにだって病人の付き添いくらいできるぞ?」
「そうですね。の事ならば容易く」

賢治はともかく、ちらりと主任を見ながら口を開いた竜児は完全な確信犯だ。

その程度の事にしか使えない奴と言われたも同然の主任は、すぐにそれに気付きムッとした様子を見せたが、流石にこの状況では喧嘩を買うわけにはいかない。

「いや、そんな緊張感のない顔した相手に病人は任せられないから」

それこそ病院についた途端、用は済んだとそのまま帰りかねない。

「人命を第一に考えられない人間は、救護には向きません」

だから二人を任せるのは部長達でなければ駄目なのだ。
彼らならちゃんとした良心と良識がある。
救護班としてきちんと手を尽くしてくれるだろう。

それに引き換え竜児と賢治。
彼らが優先するのは常に高瀬の無事。
いざとなれば病人などあっさり投げ出して、高瀬の元へ駆け付けるのが彼らにとっての当然なのだ。

それでもあえて高瀬の指示を求めようとするのは何故なのか。

お遊びにしても状況を考えろと言いたくなるが、今更言って聞くような相手でもない。

高瀬は片手を腰にあて、思い切り胸を張って、二人をぴしりと指差した。

「指示は一つ!!」

「「了解」」

その言葉を受け取った二人は互いにひとつ頷くと、まず竜児が高瀬を抱き上げ、賢治は「んじゃ、俺はあっちだな」と。

どこへ行くつもりかはわからないが、既に話は纏まっているらしい。

そして。

「さぁ、行きましょうか」
「……………ん?」

え?行くって、このまま?
竜児にライドオンした状態で?

「あの………一応飛んでいけば現場まですぐなんだけど」
「ならばそうすればいいのでは?」
「……………………うん?」

なんかおかしいな。
このまま行くとしたら当然ながら高瀬は一人で現場に事になるはずだが………。

「………もしかして着いてくる気?」
「勿論」


いやそれ、無理じゃないかなぁ?
無理、だよね?

「竜児、まさかと思うけど幽体離脱をマスターしてたりとかは……」
「すると思いますか?」

いいえ。

でも、それじゃどうやって?

本気で理解に苦しみ、悩む高瀬だったが、それを尻目に一人乗り気なハム太郎。

早くいきましょうぜ!とばかりに『きゅ!』と鳴いているが、何故かその立ち位置は竜児の肩の上。

いつの間にか当然の顔をして移動していたのだが、まさかこれが調教の成果。

「難しく考えることはありませんよ。僕らはただの君の一部とでも思えばいいんです」

「…………一部」

ハムちゃんはともかく竜児はと、眉を寄せ考え込む高瀬。
その迷いを打ち消すように、竜児は厳かに告げる。

「タカ子。君は知っているはずですよ。
君がそう信じれば、この世に不可能なことなど何一つない」

それはまさに、

生身の人間を連れて飛ぶなど、最早瞬間移動に等しい行為だ。
どう考えてもできるはずはないのだが………。

竜児がそういうのなら、本当にできてしまうのではないかと。
何故かストンと納得してしまった自分がいて。

それを鼓舞するように『きゅ!』となくハム太郎に背中を押され、訳のわからない自信までが沸いてくる。

ーーーよし。なんか行ける気がしてきた。

念のため竜児の背中に両手を回してベッタリと抱きつき、その髪を一房右手に掴んで呼吸を整える。

「もしもの時の事とか…………」
「考えるだけ無駄です。
言ったでしょう?僕を君の一部だと思いなさい」

簡単に言ってくれるが、口でいうのと心から信じるのとでは訳が違う。

「タカ子。先程も言ったはずですよ。僕は君に従うと」

そう、例えそれがどこであっても。

一心同体死なばもろとも。

ならはできないはずはない。

成せばなる、成さねばならぬ何事も。


「おい、高瀬君……!?嘘だろマジか…!!」
「及川君!!」

驚愕した様子の主任のすぐ後ろに、こちらへ手を伸ばす部長の姿。
賢治はといえば、成功を信じてやまないのか、当たり前の顔で「行ってこい」と手を振っている。

そう。
失敗など、恐れる必要はない。
こうしてのだから。


「高瀬!!」
「ーーーーーあいきゃんふらい!!」

そうして、高瀬は
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