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馬鹿チンが!!

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「ねぇケンちゃん、なんか私怖いことに気づいたんだけど」
「ん?」
ショボンと肩を落としたマルちゃんを尻目に、こそこそと話し合う二人。
「ハムちゃんのことなんだけどさ……」
マルちゃんが擬人化(?)を果たしたならば、もしやハムちゃんもそれに続くのではないかと。
戦々恐々とした高瀬に、「そりゃないだろ」と賢治が笑う。
「化けギツネだの化け狸だのはよく聞く話だが、流石に化けハムスターってのはな~」
「だ、だよね~」
あはははは、と笑い飛ばしながらも、一瞬顔を見合わせ、沈黙する2人。

「「…………」」

共通する思いはひとつ。

――――――あるかもしれない。

たらりと冷や汗を流す高瀬。
その肩にぽんと手のひらを乗せた賢治は一言。

「――――あるな」

「もはや疑問符でもなく確定!?」

寿命わずか1年ちょっとのハムスターの擬人化は果たしていかなるものなのか。
「み、見たいような見たくないような……」
今度機会があったらハムちゃんに擬人化できるか確認しておく必要があるかも知れない。
聞かれなかったから言わなかっただけ的な返答が返ってきたらどうしよう。

ハムスターの擬人化ありうるな、と意見の一致を見た二人であるが、そこに異を唱えたものが一人(?)。

「我は神使として神に仕えし狐。そこいらの鼠と同じにされては困ります」

擬人化のせいか、いかにも生意気そうな顔つきでそう言い放つマルちゃん。
なんともプライドの高そうな顔だ。

「マルちゃんも矢部先輩と同じこと言うねぇ…」
ネズミはネズミ、ハムスターはあくまでハムスター。
個人的にはそこは分けて考えて欲しいところである。
それでいうとカピパラまで同じネズミ扱いになってしまうし、あのサイズのネズミがいると思うとそっちのほうが逆に怖い。
「感心するのはそこかタカ子」
「いや、今考えるとマルちゃんって意外と矢部先輩と似たところがあるなぁと……」
「!?」
「え、マルちゃん矢部先輩嫌い?」
なんかやたら『ショック!』という顔をしていたのだが。
「あ、あのような澱んだ魂のおなごと我とを同一視なさるとはなんと無体な……!!」
よよよ、と崩れ落ちるマルちゃん。
ところで聞きたいことがここで一つ。
「矢部先輩の魂って澱んでんの……?」
それは初耳なのだが。
たしか以前、相性が悪いから取り憑きたくない、だのなんだの駄々を捏ねていた記憶はある。
それを言えば、「駄々を捏ねるなど…」といかにも不服そうなマルちゃん。
「あの澱みは血族の因業にまつわるもの。いわば魂の奥底にへばりついたヘドロのようなものでございます。
我ら神使にとっては穢れと同じ事――――ー」
「血族の因業……?」
なんだそれは。またなんかおかしな言葉が出てきたのだが。
つまり、前回言ってたのはただの言い訳で、本命はこっちか?
「もしかしてマルちゃん……なんか知ってる?」
もしくは隠していることがあるんじゃないかと問い詰める高瀬。
それに対して「滅相もございませぬ!」と慌てて首をふるマルちゃん。
「主に対して隠し事などどうしてできましょうか。こうして人化の術を得るまでに力を回復することができたのも全ては主のおかげ……!!血族の因業とはすなわち、先祖の行いの悪さを意味するものでございまする。
血の澱みは払わねばたまる一方――――」
「悪食のマルちゃんでも食べたくない感じ?」
「さしもの我も腹を下しましょうな」
悪食を否定するかと思いきや、意外とそこは気にしていないらしいマルちゃん。
そういえば狐は案外雑食だったな、と思っていれば。
「主殿がどうしてもと申されるのであれば――――」
やれないでもない、と上目遣いにこちらを見る。
「その場合矢部先輩への影響はどんなもん?」
主任や龍一の場合は特に身体への影響は特になさそうだったのだが、聞けばこれが意外と大問題だった。
「良くて廃人。悪くてその場にて命を落としましょう」
「はいアウト」
即効で腕をクロスさせ、ばってんマークを作る。
「どう考えてもダメでしょ、それ」
良くて廃人という段階で、責任を取れる範疇を軽く飛び越えている。
「前回の主任のお友達や、龍一の時とかは特に問題なかったのに、なんで?」
「それほど、あの者の血に潜む澱みは濃いということでございます」
粛々と頭を下げるマルちゃんを見ると、どうやら嘘や誤魔化しを言っているというわけではなさそうだ。
「――――なるほど。確かに血族の因業だな」
「……ケンちゃん?」
ようやく口を開いたと思ったら、一人納得した様子で頷く賢治。
今の話のどこに納得できる要素があったのか、と。
問い詰めようとした高瀬が口を開くより先に、賢治がマルちゃんに向かって問いかけた。
「もう一方はどうだ?」
「あちらも似たようなものでございますが、娘御にはまだ救いがございましょう」
端的すぎる賢治の問いかけに、然りと答えを返すマルちゃん。
賢治の言った「もう一方」の意味を正しく理解しているのは間違いない。
娘御、というからには女性。
今回の関係者で、矢部先輩と対になる女性といえば、いるのは唯一人。

「中塚先輩のこと……?」

呆然と口にしたその言葉に、否定が返らぬことが何よりの肯定。

「そっちに関しちゃ、タカ子も大体の話は聞いたろ?」
「あの、土地の……」

さすがの高瀬にも、それが例の『売ってはいけない土地』にまつわることだろうとはすぐにピンときた。
中塚女史の家に代々伝わっていた、というのだから、先祖からの因縁であることは間違いない。

「物事ってのはな、大体において大きく二つに分かれることが多い。
この場合はつまり――――被害者と、加害者だ」

まぁ厳密にはそう簡単な話とも言い切れないんだが、と。

やや面倒そうにしながら、説明を始めようとした賢治だったが――――――。


「主よ、こちらへ!」

「――――え!?」

急にマルちゃん(人間モード)に腕を引っ張られ、焦る高瀬。
そこにドーーーン!と響く大きな音。
再び、地面が揺れていた。
しかも先程よりも明らかに揺れが大きい。
「ちょ……!!さっきので終わったんじゃなかったの……!?」
「あれは先触れ。あれを遣わしたものは別におりましょう」
「別…!?遣わしたって、それってどういうこと……!?」
混乱する高瀬を己の懐に囲い込み、ほんの少しだけにやりと笑ったマルちゃんが、その耳元に静かに囁いた。

「あれは、人の行う呪術によって生み出せしものにございます」

――――――すなわち。

「呪い」

そしてこの場合呪われているのは誰かと言われれば――――。

「俺、だろうなぁ」
ぽりぽりと頬をかきながら、当たり前のように告げる賢治。
その表情は、危機感を抱いている人間の顔には到底見えない。

「一度目は牽制。二度目は――――なんだろうな?」

そんなものは決まっている。
二度目に来るのは、御大。
呪いの、本性だ。


「!!マルちゃんっ!!私はいいからケンちゃんを守って!!」
狙われているのが賢治だというのなら、そうするのが当然。
しかし、その道理も狐には通用しない。
「我が守護せしは主のみ」
抱え込んだ高瀬を離そうとせず、また賢治を助けようとする素振りなど微塵も見せないマルちゃん。
主だなんだと持ち上げておきながら、結局何一つ言うことを聞く気がない。
「気にするなタカ子、俺なら大丈夫だって」
「でもケンちゃん…!!」
賢治は霊感こそあるものの、そう言った類のものに対して防御する力を備えているわけではない。
「とりあえず、御大とやらの顔を拝んでみようぜ」
なぁ?と、不敵に笑う賢治。
本当に、どうにか出来るだけの切り札をもっているのか、それとも――――――。
「マルちゃん、あんたが動かないなら私が出る……!!」
離せ、と身をよじるが、細身であるにも関わらず、マルちゃんの拘束は一向に揺るがない。
「あの者もああ言っておるのです。何も主が自らを危険にさらす必要はございますまい。
このまま我の元におることが、この場のなによりの英断――――」

それは、賢治を囮にして見捨てろということか。

「こんのっ………!!!」
どこまでもふざけたその態度に、ブチッと頭の中で何かが切れた。

それと同時に、近づいて来る何かの気配。

――――――来る!!


そう確信した瞬間、高瀬は動いた。

「馬鹿ちんどもが――――――!!!
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