187 / 290
認めたくない若さゆえ。
しおりを挟む
「その元社員が及川くんの言う霊の正体だからといって、俺の意見は変わらない」
「そこは変わりましょうよ、部長」
いくら自分が関係ないときの出来事だからといって、仮にも同じ社員だった人だ。
ちょっとは感情的なものが芽生えるかと思ったが無駄だった。
『んな子育て中の熊みたいに警戒心バリバリにしなくても、タカ子は逃げないぜ?』
なぁ?とこちらに話を振られ、「え、なんで私」と思わず自分を指さす。
『そこの部長さんはさ、可愛い部下が自分の知らないところで危険な目に遭うのが嫌なんだとさ』
だから手放そうとしないんだと言われ、部長を振り返る。
「可愛い部下……!!」
否定しないということは、部長もそう思っているということ!
自ら宣言した覚えはあるが、人からそう言われるとちょっとまた格別。
一人感動していれば、そこに主任からの要らない突っ込みが入る。
「ねぇ、高瀬君。反応するのそこなの??むしろそのセリフに一番含みを感じたのは俺だけ?」
「バカな子ほど可愛い的な表現以外に可愛い子扱いされるのはかなり貴重です」
「うん、やっぱり反応すべきはそこじゃない」
きっぱりと言い切った高瀬に、だめだこりゃ的な反応を返した主任。
「そもそも、高瀬君は普通に可愛いと思うよ?」
『うんうん、そこの主任さんは見る目があるよなぁ。うちのタカ子が一番可愛い』
「今更そんな当然のことを口にしてなんになるんですか、馬鹿らしい」
親ばか発言にしか聞こえない賢治はともかくとして、主任の言葉は普通に嬉しい。
そして竜児よ。
「言わなきゃわからないことも世の中あると思う」
「でしたら言わせてもらいましょう。僕には君が一番です」
「素直!」
下手に可愛いとかなんとか褒めないあたりが微妙にリアルで竜児らしい。
……まぁ、綺麗なお姉さんなんか見飽きてるだろうしな。
及川高瀬はプライスレス、世界に一つだけの花なのだ。
『タカ子は花で言うなら超希少種だよな。
一見どこにでも生えてる雑草に見えて、その実滅多に生えない絶滅種だった的な』
「ケンちゃん、それは褒め言葉に見せかけた悪口ですか」
私はたんぽぽかぺんぺん草か。
『愛嬌があってイイってことだよ。見てると落ち着くだろ?抱いてもちょうど腕にフィットするし』
「抱く……!?」
「ナチュラルセクハラ発言はアウトですケンちゃん」
過剰反応をした主任がこちらを凝視しているのに対し、思い切り腕でバッテンを作り否定する。
「賢治の言う『抱く」は抱き上げるの間違いでしょう」
「…あぁ、それなら記憶にあるわ」
『昔からタカ子は可愛かったからなぁ。ちょっと遠くに遊びに行くと、最後には疲れて『抱っこして』って可愛くおねだりしてきて……』
「ただ単にその頃から君が体力馬鹿だっただけでしょう」
『さすがのタカ子も竜児にはねだらなかったもんな』
実は悔しかったんだろと悪気なくいわれ、平然と「そうですね、奪い取ってやろうかとは常常思っていました」と返す竜児。
『実際それをやってタカ子を落として大泣きされた事があったな』
「あれは僕の人生最大の失敗です」
「人生最大そこ!?」
あれは確か小学校の話だと思うのだが、若気の至りにも程があると思う。
というか突然背中から落とされてマジ泣きした記憶があるのだが、そんなことが原因だったのか。
すっかり幼馴染特有の昔話に話を咲かせたところで、「おーい高瀬君」という主任の声が耳に入り、はっと正気に戻る。
「君らの心温まる面白エピソードはいいけど、うちの部長様のこの顔見てよ」
「う……」
眉間に渓谷ができちゃってさ、と。
笑い話じゃありません、主任。
「ぶ、部長……??」
もしかして、お怒りマックスですか。
そういえばさっきから一言も口を開きませんが。
「……昔話は結構だが、何を言われようと俺の意見は変わらない。
――――――彼女をこれ以上の面倒事に巻き込まないでくれ」
頼む、と。
今にも電話口に向かって頭を下げそうな部長の言葉に反応したのは、そこにいた竜児だった。
「面倒事に巻き込んでいるのはあなたではありませんか?」
「なんだと…?」
冷たい口調でバッサリといわれ、部長の声にもわずかな怒りが滲む。
「そもそもの原因を作ったのが誰か、と聞いてるんですよ。
それもタカ子を関わらせないために自ら原因を潰しに行くと言うならともかく、出来ることはただの逃げですか」
「……!!」
「言っておきますが、安易に危険から遠ざければ済む話だなどと思っているのならそれこそ大きな過ちです。
タカ子は危険と知りつつ自ら飛び込んでいく性格ですから、下手に遠ざければ、それはタカ子を危険な場所へ追いやるだけのこと。
本当にタカ子を危険から遠ざけたいのなら、厄介事など何も目に入らないような環境を整えてやるか――――最大限、危険のないようお膳立てをしてやるか。そのどちらかしかありません」
ダメと言われればやりたくなる、子供と同じですよといわれ、否定できないだけにぐぬぬと唸る高瀬。
「竜児、もうちょっと物は言いようがあると思うんだけど……」
「子供扱いならまだましですよ。赤ん坊と言われないだけ」
「それ言ってるも同然」
しかし助けられている自覚はあるので何も言えない。
うう。
『あれだろ?歩く道先にある石ころは先に全部どけておくってこと』
「僕らにできるのはせいぜい、道のどこに石があるのか、どれくらいの大きさの石なのかを先に調べておくことくらいですけどね」
そういいながら、竜児が仕事用の黒いバックを開くと、中から一枚の書類封筒を取り出し、部長に渡す。
「どうぞ。”彼女”に関する調査資料です」
「なに…?」
訝しげに封筒を開いた部長の手元を覗き込めば、そこに入っていたのは数枚の調査書。
そこにはいくつかの写真も添付されており、その姿はーーー。
師匠…………?
「え、なんで竜児がそんなもの……」
持ってるの、と。
思わぬ展開に驚いていれば、賢治からはさらに予想外の一言が。
『高木真理子。俺達の調べじゃ、今回の厄介事の鍵になるのは彼女だ』
「そこは変わりましょうよ、部長」
いくら自分が関係ないときの出来事だからといって、仮にも同じ社員だった人だ。
ちょっとは感情的なものが芽生えるかと思ったが無駄だった。
『んな子育て中の熊みたいに警戒心バリバリにしなくても、タカ子は逃げないぜ?』
なぁ?とこちらに話を振られ、「え、なんで私」と思わず自分を指さす。
『そこの部長さんはさ、可愛い部下が自分の知らないところで危険な目に遭うのが嫌なんだとさ』
だから手放そうとしないんだと言われ、部長を振り返る。
「可愛い部下……!!」
否定しないということは、部長もそう思っているということ!
自ら宣言した覚えはあるが、人からそう言われるとちょっとまた格別。
一人感動していれば、そこに主任からの要らない突っ込みが入る。
「ねぇ、高瀬君。反応するのそこなの??むしろそのセリフに一番含みを感じたのは俺だけ?」
「バカな子ほど可愛い的な表現以外に可愛い子扱いされるのはかなり貴重です」
「うん、やっぱり反応すべきはそこじゃない」
きっぱりと言い切った高瀬に、だめだこりゃ的な反応を返した主任。
「そもそも、高瀬君は普通に可愛いと思うよ?」
『うんうん、そこの主任さんは見る目があるよなぁ。うちのタカ子が一番可愛い』
「今更そんな当然のことを口にしてなんになるんですか、馬鹿らしい」
親ばか発言にしか聞こえない賢治はともかくとして、主任の言葉は普通に嬉しい。
そして竜児よ。
「言わなきゃわからないことも世の中あると思う」
「でしたら言わせてもらいましょう。僕には君が一番です」
「素直!」
下手に可愛いとかなんとか褒めないあたりが微妙にリアルで竜児らしい。
……まぁ、綺麗なお姉さんなんか見飽きてるだろうしな。
及川高瀬はプライスレス、世界に一つだけの花なのだ。
『タカ子は花で言うなら超希少種だよな。
一見どこにでも生えてる雑草に見えて、その実滅多に生えない絶滅種だった的な』
「ケンちゃん、それは褒め言葉に見せかけた悪口ですか」
私はたんぽぽかぺんぺん草か。
『愛嬌があってイイってことだよ。見てると落ち着くだろ?抱いてもちょうど腕にフィットするし』
「抱く……!?」
「ナチュラルセクハラ発言はアウトですケンちゃん」
過剰反応をした主任がこちらを凝視しているのに対し、思い切り腕でバッテンを作り否定する。
「賢治の言う『抱く」は抱き上げるの間違いでしょう」
「…あぁ、それなら記憶にあるわ」
『昔からタカ子は可愛かったからなぁ。ちょっと遠くに遊びに行くと、最後には疲れて『抱っこして』って可愛くおねだりしてきて……』
「ただ単にその頃から君が体力馬鹿だっただけでしょう」
『さすがのタカ子も竜児にはねだらなかったもんな』
実は悔しかったんだろと悪気なくいわれ、平然と「そうですね、奪い取ってやろうかとは常常思っていました」と返す竜児。
『実際それをやってタカ子を落として大泣きされた事があったな』
「あれは僕の人生最大の失敗です」
「人生最大そこ!?」
あれは確か小学校の話だと思うのだが、若気の至りにも程があると思う。
というか突然背中から落とされてマジ泣きした記憶があるのだが、そんなことが原因だったのか。
すっかり幼馴染特有の昔話に話を咲かせたところで、「おーい高瀬君」という主任の声が耳に入り、はっと正気に戻る。
「君らの心温まる面白エピソードはいいけど、うちの部長様のこの顔見てよ」
「う……」
眉間に渓谷ができちゃってさ、と。
笑い話じゃありません、主任。
「ぶ、部長……??」
もしかして、お怒りマックスですか。
そういえばさっきから一言も口を開きませんが。
「……昔話は結構だが、何を言われようと俺の意見は変わらない。
――――――彼女をこれ以上の面倒事に巻き込まないでくれ」
頼む、と。
今にも電話口に向かって頭を下げそうな部長の言葉に反応したのは、そこにいた竜児だった。
「面倒事に巻き込んでいるのはあなたではありませんか?」
「なんだと…?」
冷たい口調でバッサリといわれ、部長の声にもわずかな怒りが滲む。
「そもそもの原因を作ったのが誰か、と聞いてるんですよ。
それもタカ子を関わらせないために自ら原因を潰しに行くと言うならともかく、出来ることはただの逃げですか」
「……!!」
「言っておきますが、安易に危険から遠ざければ済む話だなどと思っているのならそれこそ大きな過ちです。
タカ子は危険と知りつつ自ら飛び込んでいく性格ですから、下手に遠ざければ、それはタカ子を危険な場所へ追いやるだけのこと。
本当にタカ子を危険から遠ざけたいのなら、厄介事など何も目に入らないような環境を整えてやるか――――最大限、危険のないようお膳立てをしてやるか。そのどちらかしかありません」
ダメと言われればやりたくなる、子供と同じですよといわれ、否定できないだけにぐぬぬと唸る高瀬。
「竜児、もうちょっと物は言いようがあると思うんだけど……」
「子供扱いならまだましですよ。赤ん坊と言われないだけ」
「それ言ってるも同然」
しかし助けられている自覚はあるので何も言えない。
うう。
『あれだろ?歩く道先にある石ころは先に全部どけておくってこと』
「僕らにできるのはせいぜい、道のどこに石があるのか、どれくらいの大きさの石なのかを先に調べておくことくらいですけどね」
そういいながら、竜児が仕事用の黒いバックを開くと、中から一枚の書類封筒を取り出し、部長に渡す。
「どうぞ。”彼女”に関する調査資料です」
「なに…?」
訝しげに封筒を開いた部長の手元を覗き込めば、そこに入っていたのは数枚の調査書。
そこにはいくつかの写真も添付されており、その姿はーーー。
師匠…………?
「え、なんで竜児がそんなもの……」
持ってるの、と。
思わぬ展開に驚いていれば、賢治からはさらに予想外の一言が。
『高木真理子。俺達の調べじゃ、今回の厄介事の鍵になるのは彼女だ』
0
お気に入りに追加
968
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
モヒート・モスキート・モヒート
片喰 一歌
恋愛
「今度はどんな男の子供なんですか?」
「……どこにでもいる、冴えない男?」
(※本編より抜粋)
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。
毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきて……。
紅と名乗った彼女と親しくなり始めた頃、翠は『マダム・ルージュ』なる人物の噂を耳にする。
名前だけでなく、他にも共通点のある二人の関連とは?
途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる