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間章 「部長、座敷わらし(本物)を持ち帰るの巻~超蛇足的おまけ~」

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「なんだこれ!?」

事が発覚したのは、例の東北出張から数ヶ月経った、ある日のことだった。

「高瀬君、これみてみなよ」
いつもの就業中、妙にニヤニヤとした顔の主任から渡されたのは一枚のDVD。
真っ白なオモテ面に書かれているのは、たまに新聞などで見るミステリー特番のタイトルで、「なんでこんなものを?」と首をかしげる。
「新聞で見つけてさ。なんか気になって録画してたんだけど、これ高瀬君たちの仕業だろ?」
「え?」
仕業、とは。
とにかく見てみてよ、と言われ曖昧にうなづいたのだが……。

就業後、家に持ち帰り、半信半疑ながらDVDをセットしてしばらく後。
タイトルの後に、「座敷わらしが出没すると言われる旅館に有名俳優Hが潜入取材!」というテロップが出た瞬間、高瀬は口に含んでいたコーラを、「ぶっ!」と盛大に吹き出した。
「あわわわわ」
ベタベタになるっと慌てて拭き取り、再び画面を見ればそこには見覚える景色が広がり。
びっくりはしたものの、確か以前にも取材が来たことがあるといっていたし、別に動揺することもないのでは?と思い至った、その時。
高瀬の口から飛び出したのが、まさに冒頭のセリフだった。
テレビ画面には、旅館についたばかりの俳優が、女将に部屋まで案内されるというシーンが映し出されており。
そこにいきなり挟み込まれる、『お気づきだろか?』という怪しげなテロップ。
即座にピッ…っと、DVDの停止ボタンを押し、連絡するのは主任のスマホ。
「ちょ、主任!!なんですかコレっ!!」
『あぁ、見た?これって例の旅館だろ?俺たちは実物は見てないけど、高瀬君は実際に行ったって言ったよね?』
「そりゃぼうちゃんに案内されてちょっと遊びに行きましたけどっ…!!」
『高瀬君たちが遊びに行った日って、どうやらテレビの撮影クルーがちょうど来てたみたいなんだよね?気付かなかったの?』
「気づいてたらこんなことになってませんよ!!!」
『え~。ちょっと鈍すぎじゃない?機材を持った撮影クルーだよ??』
本気で分からなかったの、と馬鹿にするように言われるが、高瀬にだって反論はある。
「だってぼうちゃんがっ……!!テレビカメラを持ってくる人とか、そういう人は結構よくいるって言ってたから……!!」
『それにしたって俳優を見て気づかないもの?結構有名な若手俳優でしょ、彼』
「私ライダー俳優以外は詳しくないもので……」
全然わかりませんでした、と。
『ま、まぁとにかくさ。それに写ってる怪奇現象て高瀬君達の仕業だろ?日付もぴったり合うし、直ぐにピンときたよ』
「ピンと来ないでください。人間知らないほうが幸せということもあるんですっ!!」
『知らないところで自分の映像が出回ってんのは構わないの?』
「くっ……!」
『映像とは言ってもどうせ君だとわかる人間なんて俺達くらいだろうけどさぁ』
そう言って『まぁとりあえず最後まで見てみなよ』と笑いながら通話を終了した主任。

なんて無責任なんだ……!!と嘆いても現状は変わらず。
停止したままのDVDの画面。
これから起こる出来事をなんとなく覚えているだけに、再生ボタンを押す勇気もなく。
代わりに押したのは、とある相手の連作先。

『…及川君?どうしたんだ』
「部長……。一生のお願いです。どうかうちに来て一緒にテレビを見てください……!!」
馬鹿にされたって、呆れられたって構わない。
だけど、この羞恥プレイは一人では耐えられぬ……!!


だってあの時はすっかりはしゃいでおり。
お客が入ってきていることには気づいていたが、『おらの部屋だ、遊ぶべ!』とぼうちゃんに言われてすっかりその気になり。
また元気を取り戻したハムちゃん、ついでにその保護者として同伴してきたらしいアレク君も一緒になって正しく大騒ぎ。
走るハムちゃん、追う坊ちゃん、さらにその坊ちゃんを追う幼女(高瀬)、そしてその横を走るアレクくん。
一周するとハムちゃんはもう疲れたのかアレクくんの背中にぴょんと飛び乗り休憩。
それを羨ましがったぼうちゃんもアレクくんにしがみついて背中によじ登ろうとし、びっくしたアレクくんが部屋に置かれていたぬいぐるみをいくつか蹴飛ばす。
そしてそれを横目に見ながら、部屋に置かれていた仮面ライダーのフィギュアを見つけ、「すごい!10年以上前のやつだ!!」と一人興奮していたのは高瀬で……。
さらにその高瀬に気づいたぼうちゃんが、別のフィギュアを取り出してきて、「仮面ライダーごっこ」が始まり…。

その一部始終。
もしくは一部が『怪奇現象」として記録されてしまっていたとすれば――――――。

「は、恥ずかしいっ……!!!!」

ぎゃ~~と、一人暴れまわる高瀬。
「部長、酒です、酒も持ってきてください!!缶チューハイとかがいいです!甘いのっ!!」
『高瀬君、君はまさかもう酔ってるのか……??』
「むしろ酔わなきゃやってられないから言ってるんですよっ!!」
黒歴史を自分の目で確認する、なんたる苦行だろう。

そうして30分ほど経った頃。
実に渋い表情ながら、コンビニ袋に女性向け缶チューハイをいっぱいに詰め込んだ袋を手にやってきた

「なんで主任まで来るんですか!」
「だってさぁ、録画したのは俺なのに仲間はずれにするとかひどくない?」
「部長っ!!」
勝手に部屋へ上がり込もうとする主任をなんとか止めようとしながら、なんで連れてきたんですかっ!!となじれば、深い溜息とともに「仕方ないだろう」の一言。
どうやらあの高瀬からの連絡直後、主任が部長の自宅を強襲していたらしい。
それも、いま手に持っているコンビニ袋を持って。
「どんだけ用意周到なんですか主任」
「ん?仕事っていうのはね、始まる前の下準備ですべてが決まるんだよ?」
はいお土産、とコンビニ袋を手渡され、「ぐぬぬ」と唸りながらも仕方なく二人を中へ案内する。

そしてさらに数分後。

なぜか部長と主任、二人の男に手を繋がれ、真ん中でテレビ画面を注視する高瀬の姿が――――――。
なぜ手を繋がれているかといえば、まず主任が「どうせなら何があったのかちゃんと見てみたいから」といって高瀬の手を無理やり掴んでいき。
反抗しながらも仕方なく妥協した高瀬がDVDを再びスタートしたところで、「やっぱり私トイレに行ってきます!」と逃げようとした為、「人を呼んでおいて逃げるな」と今度は部長に拘束され。

「あはははは。なに、高瀬君ってばこんなことしてたの?」
「……ちょっとまて。なぜ君が率先して座敷わらしを率いてるんだ?」
「これ絶対ユーチューブに上がってるよ、あははははは!!思い切り高瀬君の声が入ってるじゃないかっ!!
しかもいい具合にちょっとホラーっぽく聞こえるしっ!」
その実態は、ライダーフィギュアに興奮する偽幼女の高笑い(泣)
「おのれデ○ケイドって……!!!なんかそこだけ微妙に声が録音されてるとかなんの奇跡!?」
「そんな奇跡いらない…!!」

崩れ落ちる高瀬。
目論見通り、録画時には見えなかった高瀬や座敷わらしの姿やがしっかり認識できた主任は大喜びだ。
おまけに声まではっきり聞こえているらしい。
困ったことに画面上では出演するゲスト芸能人が「いま子供の声が聞こえた!!」と悲鳴をあげている。
なんといっているのかはっきり録音されなくて本当によかった。
中途半端に「おのれ…!」の部分だけ聞き取られて呪いと間違われても困るし。
一応ライダーごっこをしていたのは俳優が泊まった部屋ではなくその隣の部屋だったのだが、どうやら声だけが漏れてしっかり記録に残ってしまったらしい。
その後も、画面を走り回る複数の光の線だったり、置かれていた人形が勝手に移動したり、突然何かが落ちてきたりと。
やらせなしのバラエティとしては最高の出来栄えを記録したこの番組は、あとで調べたところ、瞬間的にかなりの視聴率だったそうで。

もうこれは、飲むしかないなと。

「主任、缶チューハイ開けてください」
「はいはい、両手が使えないからね。ほら」
ごくごくごく。
「部長はつまみをお願いします」
「……そろそろ俺は手を離したいんだが」


そういいながら、一緒の袋に入っていたさきいかを開けてくれる部長。
うん、手を離したいという割にはしっかり握ってますよね、部長。
もうちょっと小さくしてください。それだと、口がもそもそするので。

「谷崎、お前この状況でツマミにそれとか狙いすぎだろ~」
「買ってきたお前が言うな」
「ははは、そりゃそうだ。でも思ったより結構くるね~~」
「…………」

もぐもぐもぐもぐもぐ。
うん、噛めば噛むほど味が出る。

主任に酒、部長につまみ。
自分では何一つ動かず手に入るこの状況。

しっかり高瀬を餌付けしつつ、その背後ではこっそり互いに牽制しあう二人。
そんなこととは露知らず、ほんのりと頬を赤く染めながら、高瀬は不意に思った。

『逆ハーレム、悪くないかもしれない』

勿論、ただの気の迷いだと直ぐに反省することになるのだが――――――。

今回のことは、まず間違いなく黒歴史ではある。
けれど、画面上で笑顔を浮かべるぼうちゃんの姿を眺めていれば。
これはこれでまぁ、いいかなと。
なんとなく、幸せな気分で微笑む高瀬だった。

また遊びにいくよ、ぼうちゃん!
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