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頭隠して尻隠さず的な何かです。

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それは突然だった。
「ケンちゃんヘルプ!!」
「ん?タカ子?」
ふと気がついたら背中に幼女(偽)が張り付いていたというホラーな現状にも関わらず、実にあっさりとした対処を見せる賢治。
「みんなが私をいじめるんだよ……!!!!わ~んっ!!……ってここどこ?」
ぐりぐりと顔を背中に押し付けながら若干演技がかった様子で自身の窮状を訴えた高瀬は、賢治の首にしっかりと腕を巻きつけながら、きょろきょろと辺りを伺った。
「どこって……見てわかる通りのラブホ?」
ほら、と指さされたのは、今時まだあったのかというくらいベタなピンクのベッド。
「ラブホとは………ラブなホテルですか」
「だな」

…………。

首筋にしがみついたまま、じっと賢治を見つめる高瀬。
すすすっと背中から降りると、とりあえず真っピンクのベッドの上に移動し、ぴょんと一飛び。

ギシ…。

「うむ」
霊体のはずなのになぜベッドが軋むのかという問題は別にして、実に見事な安物のスプリングである。
そうか、今までの疑問がひとつ解決した。
「これが世に言うギシギシあんあんというやつか」
「……タカ子、いい子だから戻って」
「あい」
賢治に何とも言えない慈愛に満ちた顔を向けられ、大人しくベッドを降りると、再び定位置となったその背中に張り付く。
「なんか感動した!」
ちょっと大人になった気がする、と興奮冷めやらぬ様子でウキウキで呟くと「バカな子ほど可愛いって本当だよなぁ」というしみじみとした賢治の声が。
多分に哀れまれているような気がするが、相手が賢治なのでそこは気にしない。
「っていうか、なんでラブホ?……まさか!!!」
「何を考えているのかは手に取るようにわかるが、今は俺も仕事中だから大人しくしてような?」
「あい」
すわ逢引か!と騒ごうとしたのを見越したように諭され、すごすごと引き下がる。
うん、24時間働きますのケンちゃんが昼間っからラブホで逢引なんてナイナイ。
ん?仕事

「ラブホで仕事?」
一体何の、と首を傾げたところで。
「聞きたい?」
珍しくそう聞かれ、ちょっと悩む。
なんだろう。
今までの経験から、ものすごく罠の匂いがするのだが。

「……でも気になるから聞いちゃう!!なんの仕事!?」
浮気調査かな?ウキウキウォッチング!!
「うんうん、気になるよなぁ。じゃあ特別に教えちゃおう。
実はな、とある悩める童貞から「恋人と初めてラブホに行くので、おすすめの場所と基本的なラブホの使い方を教えて欲しい」っていう依頼があって……」
「ごめんもういいや」
予想以上にくだらない依頼だった。
「これが意外と大変な作業なんだぞ?この近くのホテルを一軒一軒回って、各部屋の清潔感から使いやすさ、料金の支払い形態までを全部調べて、当日依頼人がスムーズにラブホに入れるような下準備をだなぁ……」
「だからもういいって!!」
若者の影の努力を本人のいないところで暴露するのはやめてあげて!!
本人が聞いたら泣くから!!

「いやぁ、若いっていいよなぁ。可愛げがあってさぁ。巷じゃ童貞ハンターってのもいるらしいぞ」
「それを処女に聴かせるのは嫌がらせか」
「タカ子は既に予約済みみたいなもんだろ?気にすんなって」
「あーあーあーあーあーあ聞こえなかった、私は何も聞こえなかった!!!」
ケンちゃんひどいっ。私を売ったな!!(確実に相手は竜児)
避難に満ちた目で見つめるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「でもちょうど良かった、タカ子。ちょっと手伝ってくれよ」
「?」
「しょちょーーーー!!」
何を?と首をかしげたとき、閉ざされていた浴室らしきドアからものすごい勢いで飛び出してきたのは例の若きアルバイト青年。

……え、ラブホって男同士で入れるんだっけ?

「いけるいける。ダメそうならこいつにズラをかぶせればなんとかなる」
「所長!!出ましたでました例のやつ……!!!って、あれ、妹さんいつの間に来てたんすか?」
慌てて飛び出してきたかと思うと、背後霊よろしく背中に張り付いたままの高瀬を見つけ、実にナチュラルに対応する青年――――もと哲也。
幼女姿は初お目見えのはずなのだが、当たり前のように見えているし、そして高瀬だとばれている。
「あれ?なんか妹さん縮んでません?」
縮む以前に明らかに幼女化しているのだが、そこはスルーか。スルーなのか。
「……これ突っ込んだほうがいい?」
「どっちでもいいけど、疲れるぞ」
「わかった」
つつくのはやめておこう。
「哲也。これは縮んだんじゃなくて、タカ子の子供の頃の姿だ。
前にちょっと話したろ?幽体離脱出来るって話」
説明する賢治に「まじっすか~」と驚きの表情で頷いてから、何事もなかったかのように一言。
「妹さん、昔からあんま変わんないっすね」
「それは成長してないと!?」
くわっ!!!っと目を見開いて威嚇すれば、「いい意味っすよいい意味!!」という謎のセリフで誤魔化された。
「幽体離脱って話マジだったんですね~。俺尊敬っす。初心霊体験っす」
「……初じゃないと思う。うん、多分初じゃない」
恐らく気づいてないだけでいろいろ見てると思うよ、君。
ハムちゃんとかさ。
「んで、どうしたんすか妹さん。まさか修羅場から逃亡して?」
「え、マジでそうなのかタカ子」
「うぉぉい!!!」
――――なぜだ。
お前の中で私の存在は一体どういう扱いになってるんだ。
前回のハーレム発言といい、なんか著しく誤解が発生している気がするのだが…。
「……あながち間違ってない気もするけど認めるのは悔しい。…よし、ケンちゃん私の代わりに報復だ!!」
「う~ん…。給料3割カットでいいか?」
「ごめん、それはやめてあげて。可哀想だから」
教育的指導をお願いしたはずが、経済制裁になってしまった。危ない危ない。
そういう圧力をかけたいわけではないのだ。そこはぜひうまく忖度して欲しい。
「そういや、今日竜児がタカ子の会社に行ったはずだよな?そっから逃げてきたのか?」
問いかけの形式をとっているが、ほぼ確信済み。
「ってことはそろそろこっちに電話が………おっ噂をすれば…」
ちょうどいいところで振動するスマホ。
「妹さん、ラブホでマナーモードって、なんか卑猥だと思いません?ほら、バイブ……」
「やめて!?15禁対応でお願いしますっ!!!」
お前絶対童貞じゃないな!!と心の中で確定しながら耳をふさぐ高瀬の前で、あっさり着信を受ける賢治。
「……あぁ、来てる来てる。どうせまたいつもの感じだろ?……わかったわかった、適当に気が済んだら帰るように伝えるって。ちょうど今こっちでもタカ子に頼みたいことがあったし…」
相手が竜児だというのは間違いないが、即効で居場所がバレているのはこれ如何に。
「ん?伝えればいいのか、わかったわかった」
なにか伝言を頼まれたらしいのがものすごく気になる。
その後一言二言交わしたあと、通話を切った賢治。
「竜児、なんだって?」
逃げ出してきた手前、ちょっと居心地悪そうに賢治の背中から降り、様子を伺うように尋ねる。
「あぁ。30分以内に帰ってこないと据え膳食うぞって」
「……??」
意味がわからないのだが。
首をかしげる幼気な幼女の肩をぽんと叩き、汚れた大人は言う。
「タカ子お前、本体をそのまま竜児の前においてきたら食われるに決まってんだろ?
それを30分待つってのがむしろ奇跡だと俺は思う」


――――――いやぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!


「…つまみ食いぐらいはされてそうだけどなぁ、既に」

「部長!!主任!!!中塚先輩ぃぃいぃ!!!」

止めて。今すぐ竜児を取り押さえてっ!!!
というか人んちの会社で何をする気だお前はっ!!

「職場の人間が竜児の抑止力になるといいなぁ、ははは」
「今すぐ帰るぅぅぅっぅ!!!」


霊体が現実逃避しても本体を置き去りにしてきたのではなんの意味もなかった。
頭隠して尻隠さずどころの話ではない。
なぜ私は本体ごとテレポーテーションできないのかっ!!!

「ガッデム!!!!!」
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