鷹は東風と大地を駆ける

隆駆

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プロローグ

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人里も遠く離れた山深く。
糖蜜のようなとろりとした黄金をした月が、薄い雲間に輝く夜。

眠る幼子を背に、しっかりとした足取りで山を歩く女は、その月を見上げどこかぼんやりと微笑んだ。

幼子は女の子ではない。
どこからともなく彷徨い歩いて女のもとにやってきた迷い子ーーーーいや、捨て子だ。
手足は傷だらけ、危うく獣に喰らわれかけたところを女が助けた時には、既に気を失っていた。

年の頃はまだ10にも満たない幼子。
このような幼子を、一人で捨て置けるはずもない。
捨て置いたなら、誰が拾っても構わぬだろう。

子を拾い上げ、しっかりとその背に背負って女は歌う。


『良い子泣くなよ 愛しき吾子よ

 峠のお山に鳴く鳥の  

 声や吾子をさがす声

 この子愛しや来ぬ人憎し

 待つ身悲しく囀る鳥も

 哀れ哀れとくばかり

 帰らぬ人をいつまで待とう

 帰らぬ人をいつまで待てば

 愛しき人よ、我が吾子よ

 この子愛しや愛しや眠れーーーーーーーー  』


獣すらも鳴かぬ夜に、女の姿はやがて漆黒の闇に溶けるように消えた。
女の去ったその場所から、ほんのわずか漂う血なまぐさい香りは、何を意味するのか。
通常、このような獣道で血を流せば、匂いに誘われた獣に食われるが必然。
だが、獣達はただの一匹として女の前に姿を現すことなく、むしろ怯えたようにその姿を隠す。

それがどれほど異常なことであるのか、知る者はここにはなく。

少し離れた草むらでは、ずたずたに引き裂かれて息絶えた獣の死骸が、恐怖に見開かれたままの眼球で、黄金の月を見上げていたーーーー。
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