神の狗は十字を背負う~ワケあり吸血鬼の災難な日々~

隆駆

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終焉

60話

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ようやくの愛を確かめあう二人に対し、闇が再び動く。

 『……やれやれ、もう引き際かな』

つまらなそうにつぶやかれたその声に対し、エメラルドは、ヴァーニスをその腕に抱いたまま、きっときつい眼差しを向けると、力強く言い切った。

 「ここでお前を逃がすと思うか」

その目に宿るのは強い怒り。

 「あの少女を操りフレイアを殺させ……お前は、一体なにをしたかった?」

その行動に何の意味があったのか。
エメラルドの問いかけに、ネイは、珍しくあっさり答えた。

 『……さぁ?意味もなにも、ただ退屈をしていただけだからね』

その言葉に、偽りなどはない。
 つまり、彼女の死は、彼にとって何の意味もなかったのだ。

 「………ふざけるなよ……………!!」

怒りで、初めて手が震えた。
ヴァーニスが心配そうにエメラルドを見る。

「あの男の挑発に乗らないでください、エーメさん」

「挑発だと……………?」

これがそうだというのなら、つくづく人をなめきった男だ。
ますます許せない思いでネイを見つめれば、彼は嘯くように言葉を紡ぐ。

 『世界は、私にとってひどく退屈でね。時々、こんなこともしてみたくなるのさ』

「人は……!この世は、お前の退屈しのぎの為の道具なんかじゃないぞっ」

思うようにさせてなるものかと叫ぶエメラルド。
けれどネイが見ていたのは、初めからヴァーニスただ一人きり。

 『………帰っておいで、愛しい子。この世界を分かち合えるのは我々二人だけ。お前がいるべき場所は、そこではないよ』

少なくとも、お前がいればこの世に退屈することもない、と。

一際優しく、ネイはその手をヴァーニスに向かって差し出す。

 「・・・お前の側がこいつのいる場所だと?馬鹿な。……本気でそう思っているのだとしたら、お前は相当未練がましい男だな」

はんっ。
 エメラルドが浮かべたその嘲笑に、初めてネイが苛立ちを見せる。
 
『………未練がましい?』

 「ああ。居間のお前は惨めったらないな。聞いていなかったのか?さっきの会話を。なぁ?」

 「あの……エーメさん………?」

唐突に話を降られ、流石のヴァーニスもわけがわからない、というように困惑した表情でエメラルドを見る。
それを無視し、エメラルドが浮かべたのは正に勝者の笑み。

 「互いに愛を確め合ったもの同士……こいつのいるべき場所がどこかなんて、今更言うまでもない事だろ」

 神などいないその場所で、闇よりもなお傲慢に、エメラルドは宣言する。

 「諦めろ。こいつの居場所は、私の元にある」

それは完全にして最高級な、なによりの勝利宣言。
勿論自分勝手な言い分だけではない。なにしろ言質はついさっきとったばかりだ。

ーーーこの男の目の前で。

「ぷっ……はははははは!!!」

そのあまりの傍若無人な惚気っぷりに、当事者であるにも関わらず、ついに笑い出すヴァーニス。
 「おい、お前が笑ってどうするんだ!?」
  
 「……いえ、ちょっとあまりにも熱烈で」

ここが、闇であることすら、忘れそうなほど、熱い愛の言葉だった。
彼女を選んだことを後悔する日が来ることは、きっと来ないと信じられる。

 「エーメさん、貴女を選んでよかった」

『………君は、それでいいのかい?』

 「これからずっと、退屈することはないでしょうね」

ただ 楽しい、と思う。
心から。

 『・・・・・君はもう、私のものではないと?』

 「うぬぼれもいい加減にしてください。そもそも初めから、私があなたのものであったことなど一度もないんですよ。 元々、我々が相容れることなどあり得ない話なんですから」

確定された拒絶。

その台詞がきっかけとなったのか。
ぼろぼろと、闇が崩れ落ちる。

 『……完敗、かな』

すでに、”ヴィスティ”を失った結界は、その力をほとんど失っていた。
”ネイ”の姿が、溶けるように徐々に薄くなっていく。
エメラルドがたまらず、「逃がすか!」というように剣をネイに投げつける。

だが。

 「……やはり、本体じゃなかったみたいですね」

 誅を舞った剣はすっと、闇を突き抜けあっけなく地面に落ちた。

 「そういうことは早く言え!」

本体じゃなかったとしたら、とんでもなく間抜けなことをしたのではないだろうか。
ならば、こちらも直接攻撃を受けることはないのかとエメラルドが安堵した、次の瞬間である。
薄れていくネイの声が、闇の中ではっきりと聞こえた。

 『始めた以上、最後まで、責任はとらなきゃね』

――――――ぞくりと、背筋に悪寒が走る。

 
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