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闇の子供
21話
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テーブルに並べられている料理は、どれもいかにも手作り、といった湯気が立ちのぼる見事な品だった。
「エーメさんの好きな、甘い卵焼きも作ってみましたから。
パンは、オーブンがつかえないせいで手作りじゃないんですけど、おいしいですよ」
はい、と一般にもポピュラーな紅茶を手渡され、条件反射的にエメラルドはそれをすする。
お世辞にもうまいとは言いがたいが、まぁ、こんなものだろう。
「……なぁ、ヴァーニス」
「なんですか?エーメさん」
かいがいしくテーブルセットをしながら、ヴァーニスが首をかしげる。
いつもと変わらぬ、穏やかなその表情。
死相など、今はまだかけらも浮かんではいない。
「――――お前、死なないよな?」
「…は?何を突然……」
「いや、だから、お前は絶対に死ぬなよ?」
「…はぁ」
エメラルドの妙な迫力に半分首をかしげながらも素直に頷きつつ、ヴァーニスは不思議に思った。
エメラルドは、ヴァーニスが常人よりもはるかに強靭な命をもっていることを知っているはずだ。
寿命だとて、今の時点では定かではない。
なのになぜ、今そんなことを口にするのかと。
「死んだら、私が殺してやるからな」
「…また無茶苦茶な事を…」
突拍子もない言葉に、これはなんなんだと完全にあきれ返る。
一体、どうしたことか。
疑問が飛び交うヴァーニスだが、エメラルドはそれだけを言うと、すっかり満足したように、テーブルの上に乗せられたスクランブルエッグに手を伸ばす。
ほんのりと甘いバターの香りが、なんとも言えず食欲を誘った。
「ほら、お前も食え」
すっかり自らの投げた言葉など忘れ、卵をパンの上に乗せると、口いっぱいに頬張るエメラルド。
ヴァーニスもまた、これ以上いってもきっと何の答えも得られないれないことを悟り、諦めて食卓につく。
(…しかし、何だろう。 一体、エーメさんは、何を心配してるんだろうな……?)
ヴァーニスは知らない。
そして、これから起ることをエメラルドは知らない・・・・・・。
※※※
「・・・・・・・フレイア・・・」
エメラルドが、牧師館の前に立つ一人の少女の姿を見つけ、うっとうめいた。
全ての準備を万端に終え、さぁ、これから出かける、という時に見つけた、エメラルドたちにとっては、不吉極まりないその姿。
思わず、出直そうかとまだ準備のために牧師館の中にいるヴァーニスを振り返る。
しかし、フレイアはすぐに、扉の後ろに見え隠れするエメラルドの姿を見つけ出し、にこやかに声をかけた。
しかも、ばっちり目まであってしまっている。
エメラルド、大ぴんち。
「おはようございます、エメラルドさん。
今日から、調査を開始するのでしょう?調査対象は同じなのですから、これから共に町へ向いませんこと?馬車は、私のほうで持ちますわ」
そういって指差したのは、いつから待機していたのか、牧師館の表にとまる、二頭立ての馬車。
お膳立ては完璧である。
「・・・・いや、私は私で行くから、お前は先に・・・・・・・」
行け、といおうとした言葉を、フレイアが見事に遮る。
しかも、最大級の武器を秘めて。
「あら。それはもったいないですわ。せっかく上等な馬車を用意したんですもの。
それにもし、エーメさんがいけないというのなら、ホーリー神父にだけ乗っていただいてもよろしいんですのよ?」
「・・・・・それは許さない」
(それはまずい)と苦渋の表情でうめくエメラルドに、「でしょう?」とフレイアが勝ち誇った表情で笑う。
これは、てこでも動かないきだ。
エメラルドが断れば、有無を言わさずヴァーニスを連れ去ることだろう。
「お前、私のパートナーに手を出すなよ?」
どうやら己の負けを認めつつ、エメラルドがきつい顔でつげる。
「あら。 私にはそんなつもりはございませんわ。ただ、ホーリー牧師がどのような人なのか、これから見せていただこうとは思っておりますけれどね」
悪びれもなく、これからヴァーニスを試させてもらう、と言ってのけるフレイア。
エメラルドは朝から厄介なものに捕まった、と頭を抱えた。
せっかく、うまく話がついたと思ったのに。
どうやらフレイアは、エメラルドにとってヴァーニスが一種弱点のようなものだと思い込んでしまっているらしい。
エメラルドはひたすらに、ここにはいないヴァーニスを恨んだ。
そして、まだ見えないその姿を牧師館の奥に捜しつつ、心の中で叫ぶ。
(早くこいっ!!!ヴァーニス!!!!!!)
「遅いですわねぇ、ホーリー神父」
エメラルドの心も知らず、のどかに牧師館を眺めるフレイア。
そして、いまだ牧師館の窓の戸締りをしていたヴァーニスはその瞬間、激しい悪寒に襲われたという……。
「エーメさんの好きな、甘い卵焼きも作ってみましたから。
パンは、オーブンがつかえないせいで手作りじゃないんですけど、おいしいですよ」
はい、と一般にもポピュラーな紅茶を手渡され、条件反射的にエメラルドはそれをすする。
お世辞にもうまいとは言いがたいが、まぁ、こんなものだろう。
「……なぁ、ヴァーニス」
「なんですか?エーメさん」
かいがいしくテーブルセットをしながら、ヴァーニスが首をかしげる。
いつもと変わらぬ、穏やかなその表情。
死相など、今はまだかけらも浮かんではいない。
「――――お前、死なないよな?」
「…は?何を突然……」
「いや、だから、お前は絶対に死ぬなよ?」
「…はぁ」
エメラルドの妙な迫力に半分首をかしげながらも素直に頷きつつ、ヴァーニスは不思議に思った。
エメラルドは、ヴァーニスが常人よりもはるかに強靭な命をもっていることを知っているはずだ。
寿命だとて、今の時点では定かではない。
なのになぜ、今そんなことを口にするのかと。
「死んだら、私が殺してやるからな」
「…また無茶苦茶な事を…」
突拍子もない言葉に、これはなんなんだと完全にあきれ返る。
一体、どうしたことか。
疑問が飛び交うヴァーニスだが、エメラルドはそれだけを言うと、すっかり満足したように、テーブルの上に乗せられたスクランブルエッグに手を伸ばす。
ほんのりと甘いバターの香りが、なんとも言えず食欲を誘った。
「ほら、お前も食え」
すっかり自らの投げた言葉など忘れ、卵をパンの上に乗せると、口いっぱいに頬張るエメラルド。
ヴァーニスもまた、これ以上いってもきっと何の答えも得られないれないことを悟り、諦めて食卓につく。
(…しかし、何だろう。 一体、エーメさんは、何を心配してるんだろうな……?)
ヴァーニスは知らない。
そして、これから起ることをエメラルドは知らない・・・・・・。
※※※
「・・・・・・・フレイア・・・」
エメラルドが、牧師館の前に立つ一人の少女の姿を見つけ、うっとうめいた。
全ての準備を万端に終え、さぁ、これから出かける、という時に見つけた、エメラルドたちにとっては、不吉極まりないその姿。
思わず、出直そうかとまだ準備のために牧師館の中にいるヴァーニスを振り返る。
しかし、フレイアはすぐに、扉の後ろに見え隠れするエメラルドの姿を見つけ出し、にこやかに声をかけた。
しかも、ばっちり目まであってしまっている。
エメラルド、大ぴんち。
「おはようございます、エメラルドさん。
今日から、調査を開始するのでしょう?調査対象は同じなのですから、これから共に町へ向いませんこと?馬車は、私のほうで持ちますわ」
そういって指差したのは、いつから待機していたのか、牧師館の表にとまる、二頭立ての馬車。
お膳立ては完璧である。
「・・・・いや、私は私で行くから、お前は先に・・・・・・・」
行け、といおうとした言葉を、フレイアが見事に遮る。
しかも、最大級の武器を秘めて。
「あら。それはもったいないですわ。せっかく上等な馬車を用意したんですもの。
それにもし、エーメさんがいけないというのなら、ホーリー神父にだけ乗っていただいてもよろしいんですのよ?」
「・・・・・それは許さない」
(それはまずい)と苦渋の表情でうめくエメラルドに、「でしょう?」とフレイアが勝ち誇った表情で笑う。
これは、てこでも動かないきだ。
エメラルドが断れば、有無を言わさずヴァーニスを連れ去ることだろう。
「お前、私のパートナーに手を出すなよ?」
どうやら己の負けを認めつつ、エメラルドがきつい顔でつげる。
「あら。 私にはそんなつもりはございませんわ。ただ、ホーリー牧師がどのような人なのか、これから見せていただこうとは思っておりますけれどね」
悪びれもなく、これからヴァーニスを試させてもらう、と言ってのけるフレイア。
エメラルドは朝から厄介なものに捕まった、と頭を抱えた。
せっかく、うまく話がついたと思ったのに。
どうやらフレイアは、エメラルドにとってヴァーニスが一種弱点のようなものだと思い込んでしまっているらしい。
エメラルドはひたすらに、ここにはいないヴァーニスを恨んだ。
そして、まだ見えないその姿を牧師館の奥に捜しつつ、心の中で叫ぶ。
(早くこいっ!!!ヴァーニス!!!!!!)
「遅いですわねぇ、ホーリー神父」
エメラルドの心も知らず、のどかに牧師館を眺めるフレイア。
そして、いまだ牧師館の窓の戸締りをしていたヴァーニスはその瞬間、激しい悪寒に襲われたという……。
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