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非凡なる彼の日常
3話
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異端審問官。
それは、12世紀の当初から始まった、キリスト教と異なる教義を掲げる異端者をあぶ出し、裁判を行うための存在。
14世紀から17世紀初頭にかけて、最も激しい異端審問が行われ、魔女狩りによって多くの罪なき人々が拷問の末の死を与えられた陰惨な過去を持つのだが、そこに深く関わったのも異端審問官達だった言う。
だが、時は既に19世紀。
「魔女」などという存在が前時代の遺物のように扱われる今、異端審問官の有り様もまた、変化を遂げていた。
一つは、それまでと何ら変わることのない異端審問を行う審問官。
そしてもう一つは――――同じローマにあって、影の存在と言われる、真の「異端」を滅ぼすための存在。
彼らは神から授けられたという「異能」を持ち合わせ、人よりも強靭な肉体と精神、そして信仰を持って人に害なす「悪魔」を滅ぼす。
逆に人の中にあっては、己こそが異端と迫害されかねないモノたちの集まりだった。
彼らが陰に隠れた理由はいくつかあるが、その一つとしては、この世に「人外」なるものが確かに存在しているのだと知らしめることで、民衆がパニックを起こし、再びの魔女狩りが起こることを恐れたのではないかとも推測されている。
異端の中でも「吸血鬼」は特別とも言われる存在で、彼らは便宜上「吸血鬼」と呼ばわれはするものの、かつて人々が想像した、「蘇った死者」「人々の血を啜る不死の悪魔」とは全くの別物だ。
その一族がどうやって発生したのかは定かではないが、人とは異なる身体能力、寿命を持ち、己の伴侶への吸血を最上級の愛情表現とする種族、それこそがもう一つ「吸血鬼」である。
吸血を行うのは己の伴侶に対するもののみとされ、比較的温厚な性格であるとされる彼らの一族だったが、そんな彼らを激怒させる事態が起こった。
魔女狩りによって、己の伴侶を殺害されるものが多発したのだ。
最愛の伴侶を失った一族の者は怒り狂い、復讐のままに人々の血を啜り――――あるものは同族の手によって。
またあるものは、身内を殺された人間達の張った罠にはまり――――闇から闇へと滅ぼされた。
(吸血鬼が邪悪であるとされるのは、殆どの場合その狂った吸血鬼達による殺戮が原因である)
彼らの存在を恐れた当時のローマ教皇は、自らに従うモノたちを集め、恐れの象徴であるそれら「吸血鬼」を滅ぼすための組織を作り出した。
それが異端審問官の中でも特に、「ヴァンパイアハンター」と言われる存在である。
そしてその「ヴァンパイアハンター」の称号を持つ人間が今目の前に一人。
その名のとおり、緑柱石のような瞳をいたずらに輝かせ、にやりと笑う。
「残念ながら私は今ここに存在している――――――。それにな」
そこで一旦言葉をきり、襟首にかけていた手を離すと、怯えるヴァーニスの肩をがしりと両手で掴むエメラルド。
「私の、お前に対する煮えたぎるようなこの情熱を甘く見てもらっては困る。
お前に対する思いは、この胸の内に深く刻まれ、随時高ぶってっているのだぞ?」
それは、12世紀の当初から始まった、キリスト教と異なる教義を掲げる異端者をあぶ出し、裁判を行うための存在。
14世紀から17世紀初頭にかけて、最も激しい異端審問が行われ、魔女狩りによって多くの罪なき人々が拷問の末の死を与えられた陰惨な過去を持つのだが、そこに深く関わったのも異端審問官達だった言う。
だが、時は既に19世紀。
「魔女」などという存在が前時代の遺物のように扱われる今、異端審問官の有り様もまた、変化を遂げていた。
一つは、それまでと何ら変わることのない異端審問を行う審問官。
そしてもう一つは――――同じローマにあって、影の存在と言われる、真の「異端」を滅ぼすための存在。
彼らは神から授けられたという「異能」を持ち合わせ、人よりも強靭な肉体と精神、そして信仰を持って人に害なす「悪魔」を滅ぼす。
逆に人の中にあっては、己こそが異端と迫害されかねないモノたちの集まりだった。
彼らが陰に隠れた理由はいくつかあるが、その一つとしては、この世に「人外」なるものが確かに存在しているのだと知らしめることで、民衆がパニックを起こし、再びの魔女狩りが起こることを恐れたのではないかとも推測されている。
異端の中でも「吸血鬼」は特別とも言われる存在で、彼らは便宜上「吸血鬼」と呼ばわれはするものの、かつて人々が想像した、「蘇った死者」「人々の血を啜る不死の悪魔」とは全くの別物だ。
その一族がどうやって発生したのかは定かではないが、人とは異なる身体能力、寿命を持ち、己の伴侶への吸血を最上級の愛情表現とする種族、それこそがもう一つ「吸血鬼」である。
吸血を行うのは己の伴侶に対するもののみとされ、比較的温厚な性格であるとされる彼らの一族だったが、そんな彼らを激怒させる事態が起こった。
魔女狩りによって、己の伴侶を殺害されるものが多発したのだ。
最愛の伴侶を失った一族の者は怒り狂い、復讐のままに人々の血を啜り――――あるものは同族の手によって。
またあるものは、身内を殺された人間達の張った罠にはまり――――闇から闇へと滅ぼされた。
(吸血鬼が邪悪であるとされるのは、殆どの場合その狂った吸血鬼達による殺戮が原因である)
彼らの存在を恐れた当時のローマ教皇は、自らに従うモノたちを集め、恐れの象徴であるそれら「吸血鬼」を滅ぼすための組織を作り出した。
それが異端審問官の中でも特に、「ヴァンパイアハンター」と言われる存在である。
そしてその「ヴァンパイアハンター」の称号を持つ人間が今目の前に一人。
その名のとおり、緑柱石のような瞳をいたずらに輝かせ、にやりと笑う。
「残念ながら私は今ここに存在している――――――。それにな」
そこで一旦言葉をきり、襟首にかけていた手を離すと、怯えるヴァーニスの肩をがしりと両手で掴むエメラルド。
「私の、お前に対する煮えたぎるようなこの情熱を甘く見てもらっては困る。
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