喪女が魔女になりました。

隆駆

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間章

成人式記念~そして第二部へ~

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「ありがとうございました」

豪華な毛皮のファーを首に巻き、色とりどりの派手な着物を身にまとった女子グループが、きゃっきゃいいながら去っていくの見送りながら、思わず「若さだな…」と、遠い目をする雛子。

成人式の会場である文化ホールから徒歩圏内にあるこの店には、当日である今日、新成人と思われる客人がひっきりなしに訪れていた。

だが、既に今は1時過ぎ。

「今のお客さん、やっと帰ったの?っていうか、もう成人式なんてとっくに終わってるんだから、さっさと着替えて同窓会なり何なり早く行けばいいのにさぁ。
あの格好で疲れないのかな?見せびらかしてどうしたいの?」

客足が遠のき、丁度店内に誰もいなくなったのをいいことに、ぎゅっと後ろから雛子に抱きつき、はぁと溜息を漏らす薫。

「お客さんに対して失礼ですよ、薫さん。
一生に一度の事ですから、多目にみてあげましょう」

苦笑しながら答える雛子も、実際にはもうクタクタだ。
普段、比較的客層が穏やかで落ち着いたこの店に、嵐のような騒がしい若者が大勢押し寄せればそうなるのも当然のこと。

「今日はもうこのままお店を閉める。そして雛ちゃんと一日イチャイチャする」

「薫さんってば……」

よほど疲れたのか、後ろから雛子の肩に顎をのせ、妙な決心を固める薫。

「仕込んだ料理はどうするんですか?ランチもまだ残ってますよ?」
「賄いにして食べて、残ったら純也にでも取りにこさせればいいよ。
今日は慶一を連れて近くの住宅展示場にヒーローショーを見に行くとか言ってたし」

相変わらず純也は、甥っ子相手にいいパパぶりを発揮しているらしい。

「二人で歩いていたら若いお父さんにしか見えないでしょうね、きっと」
「お陰で変な虫がつかなくて済んでるんだからむしろ慶一に感謝じゃない?」
「あぁ、普通にモテそうですもんね、純也さん」
「あいつは女の趣味が悪いんだ。おかしな女に引っかかるくらいなら一生独身の方がマシだと思う」
「それはどうかと………」

口では否定しながら、心のどこかで確かにな、と思ってしまう雛子。
純也がどうこうという話ではなく、いかにも子煩悩そうな子連れの男に声を掛けるような事は、まともな女性ならまずはやらない。
その上で声をかけてくるとしたら、よほどの自信家か肉食女子のどちらかだろう。
それでも絶対にない、とは言い切れないが――――。

「変な女性が声をかけてきたら、慶一君の方が気づいて撃退してくれそうですよね」
「………ありうる」

あの子は下手な大人よりよっぽどしっかりしているし、何しろその前世は酸いも甘いも噛み分けた国王陛下だ。
ただの幼児と侮ることなどできない。

「むしろ慶一君が彼女を連れてくる日のほうが早かったりして」

フェミニストなところもあるし、ありえない話ではないと思うのだが、それに関しては薫は「ありえないね」と即答した。

「?なんでですか?」
「今も昔も、あいつの初恋は雛ちゃんだから。
虎視眈々と僕の後釜を狙ってるあいつが、そこらの幼児相手にその気になるわけがない。
それに……」
「それに?」
「ーーーー言いたくないけど、もし僕に何かあったら後を任せられるのはあいつしかいないと思ってる」
「そんな!」

なんでそんな話に急に飛躍するのかと驚く雛子。

「言っときますけど、慶一君が成人式を迎えた時には、私はもう50歳近いおばさんなんですよ??
そんなお荷物を押しつけられても慶一君が迷惑するだけに決まってるじゃないですか!」

「ーーーー慶一なら雛ちゃんが百歳の老婆になろうと喜々として面倒を見ると思う」
「いくらなんでも考えすぎです」

そんなに悔しそうにするくらいなら、初めから口にしなければいいのにと思わず呆れてしまう。
以前慶一から雛子との年齢差を指摘され、自分の方が長生きするから後のことは任せておけ的なセリフを言われたことが未だに尾を引いているらしい。

全く末恐ろしい幼児であるが、雛子だっていい大人だ。
我が子ならともかく、いくらなんでも一回り以上年の離れた子供に老後の面倒を見てもらおうとは考えられない。

「ほら、馬鹿な事を言ってないで、お店を締めるなら入口の看板を外してこないと。
新しいお客さんが入ってきちゃったら、お店閉められなくなっちゃいますよ?」

扉にかけられた「OPEN」の看板を引っくり返し「CLOSE」にするだけだが、その前にタイミング悪くお客さんが入ってきてしまうこともありえる。

「連休も最終日ですし、折角臨時休業にするならゆっくり映画でも見てきますか?」
「嫌だ。僕は雛ちゃんとお部屋でまったりイチャイチャする」
「もう……!」

しょうがない人、と言いながらどちらともなく唇をあわせる二人。

成人式を記念してか、遠くから聞こえるパンパンという花火の音。
正月気分も、ここにきてようやくひと段落といったところか。

「ーーーーーーー自分が新成人だった頃には、まさかこんな未来が待ってるとは思いも寄りませんでしたね」

よく覚えていないが、それほど明るい未来を期待してもいなかった気もする。

「僕はずっと待ってたよ。雛ちゃんと会える日をね」
「ーーーー嘘つき」

どうせ若い頃はモテモテだったくせに、とほんの少し拗ねたように口にした雛子。

「嘘じゃないよ。慶一も僕も一緒。どれだけたくさんの女がいようとも、雛ちゃんしか眼中にないの」
「そんなこと言ってると、いつか刺されますからね」
「雛ちゃんを残しては僕は絶対死にません!」

そこだけはきっぱり言い張り、「雛ちゃんは僕の!」と無駄な独占欲を披露する薫。

ろくでもない男に引っかかって時間を無駄にしていたあの頃の自分が本当にバカみたいだ。

「今の若い子達が、これからまた新しい時代を作っていくんですよね………」

新しい元号を迎え、オリンピックまであとわずかとなる今年。
待ち構えるのは明るい兆しか、まだまだ続く不況の闇か。

未来は見えない。
けれど、このまま彼とともに歩む時間が永遠のように続けばいいと、そう願う。
そしていつかはそこに新しい家族が増えれば―――。
それはなんと幸せなことだろうか。

―――――赤ちゃん、か。

正直言って雛子もそう若くはない。
そろそろ真剣に子供のことも考えなければいけない年齢に差し掛かっている。
そのことに対する不安は大きいが、同じくらい期待も大きい。

きっと遠くない未来、この手に彼との子供を抱ける日を、雛子ははっきりと予感していた。

だが、その前に一つ。

「…………子供とおっぱいの取り合いをするのだけは止めて下さいね、薫さん」
「え!?雛ちゃんそれって……!?」
「絶対止めてください」
「雛ちゃん!?」

――――これだけは念押ししておかなければいけない、絶対に。


tobe next … ?

☆喪女が魔女になりました第二部へ続く。


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感想 3

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みんなの感想(3件)

Victoria
2018.01.12 Victoria

薫さん!好きです!
でも雛ちゃん一筋みたいなので諦めます...

2018.01.15 隆駆

Victoria様、感想ありがとうございました!返信が遅れてすみません!
挫折しそうになる心をなんとか立て直しつつ頑張った甲斐がありましたm(。≧Д≦。)m
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ちなみに薫さんは結構なストーカー気質ですがそれでもよろしいでしょうか…??

解除
ふぁん
2018.01.12 ふぁん

せっ…セーラー○ーンですねっ!
男性が女性になるのはアニメ版になるので、雛子さんはテレビにかじりついて見ていたのでしょうか…
自分は世代ではないのですが大好きなので、とても共感しました~!

2018.01.15 隆駆

ふぁん様、感想ありがとうございました!返信が遅くなったすみませんm(。≧Д≦。)m
プ○キュアではないあたりが作者の年令もろバレですよね、あはは。
雛ちゃんはかなり後期の方のムーンファンです。
確か最後の方の主要キャラに男性→女性に変身するアイドル、いましたよね(汗)
作者も欲しいです!でもお高いっ。
ちょこちょこ小ネタを挟みつつになりますが、これからもよろしくお願いします。

解除
まろ
2018.01.07 まろ

毎日更新楽しみにしてます(^-^)
複雑すぎない内容なので読みやすいと思います(^-^)/
完結するまでのんびり読ませていただきます!
更新頑張ってください。

2018.01.15 隆駆

まろ様、感想ありがとうございました!
何しろ初めての感想で、気づくのが大変遅くなってしまって失礼いたしました。
気付いた時にはもうニヤケ笑いが止まらなくて(///∇///)
まろ様の仰る通り、作者自身軽いノリで書き始めた物なので、これからも気楽に読んでもらえると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。

解除

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