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風俗に行ったっていいじゃない。だって接待だもの。
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「………こんな所に彼女を連れてくるなんて、一体どういうつもりだ?」
重厚なソファーに腰掛け、アルコールを勧める女に手振りで断りをいれながら不快そうに話す男。
「まぁいいじゃないか。本人も喜んでるみたいだしさ」
ニコニコと微笑みながら同じくアルコールを断り、グラス入りの鳥龍茶を手に取る男は彼とは対照的で、何ら問題を感じている様子はない。
「高瀬君についてる彼女、あれ俺の昔の知り合いでさ。事情を話したら面白がって面倒見てくれるていうから、まぁ安心しろよ」
「…………そういう問題じゃないだろう」
若い女性が、こんな風俗店まがいの店に足を踏み入れていること自体がまず問題だろうと唸る男。
ーーーー言わずと知れた、谷崎部長その人である。
「んなの言わなきゃ誰にも分かんないだろ?」
平気平気、と片手を振るのはお馴染み相原主任。
そしてそんな彼らの視線の先にいるのは勿論。
「部長っ!主任!!聞きました?!おっぱいを大きくするには寄せてあげて更にマッサージしてもらうのが一番だって………!!」
「うんうん、ちなみにそれ、マッサージじゃなくて男に揉ませるのが一番とか言われてたよね?自分の都合のいいように拡大解釈しちゃ駄目だから」
なんなら手伝うよ?と手をわきわきさせる相原。
それをチラ見し、一言。
「ないな」
「ため息つくとかいくらなんでも俺に対して失礼すぎない?」
「主任に頼むくらいなら部長に頼みます」
きっぱりとしたその台詞に名指しされた谷崎が目を剥き、実に嫌そうな顔で。
「ーーーないな」
と、全く同じ台詞を答えてため息をはく。
「それでも私にプロポーズしてきた男の台詞ですか!?」
「胸は揉めと言われて揉むようなものじゃないだろう」
しかもこんな場所で、と。
言っていることは正論だが、それでは事足りないのも事実。
「むむぅ…仕方ない………じゃあケンちゃんに………」
「「頼むんじゃない」」
この時ばかりはピタリと息のあった二人。
ぱちくりと目を瞬かせた高瀬は、そんな二人を見つめて「駄目ですか?」と小さく首を傾げる。
「ケンちゃん、あれで実は整体の免許も持っていたりするんですが、それでも…………」
「「駄目だ」」
「…………そうですか」
残念、としょぼくれる高瀬。
全く、油断もすきもない。
「君の中で彼は一体どういう扱いになってるんだ……?」
「少なくとも竜児に同じことを頼もうとは思いませんよ」
キッパリといいきる高瀬に、逆に不安しか感じないのは何故か。
「警戒されてるって言うのは、意識されてるって事の裏返しなのかどうか、って感じだねぇ……」
そういう意味では自分は相原にすら劣るのではないかと密かに凹む谷崎。
一応、求婚されていることを忘れたわけではないようなのだが、戯れに先程のような台詞を口にすることから、本当の意味で認識しているのかどうかは怪しい。
すっかり保留にされているその答えも、まだ暫くは宙に浮いたままだろう。
目の前で呑気に笑う彼女を見ていれば、まぁそれでもよいかと思えてしまうのだが……。
「お隣、宜しいかしら?」
これまでの女に代わり、新しいホステスが隣に座り、谷崎に向かってしなだれかかる。
拒否されるとは夢にも思っていないその態度が、今は酷く鼻につく。
同じく相原の横にも誰か着こうとしたようだが、彼の場合は馴染みの女の手前か、やんわりと断られればそれ以上の馬鹿な真似をする女はいない。
皆、いわゆる客商売の人間で、見込みの少ない客に無理な売り込みをかけるつもりは毛頭ないのだ。
つまりは自分はうまくカモにできそうに見えたのかと思えば、その不愉快さは更に増し。
強い香水の臭いと相まって、吐き気すら催しそうになる。
「部長??大丈夫ですか?」
顔色が悪いことに気づいたのか、ちょこちょこと近づいてきて顔を覗きこむ彼女。
香水など付けていないはずなのに、どこか甘い香りのする彼女。
あの首筋に顔を埋め、口づけを落としたなら、彼女はどんな声で啼くのだろうか。
馬鹿な考えが頭をよぎり、微かに自身が高ぶりを見せたのがわかった。
「あら………」
それを自身の手技によるものと勘違いした女は、嬉しそうに頬を染め、膨張したそこにいそいそと手を伸ばそうとし。
「ーーーー止めてくれ」
ゾッとするような冷たい声に、存在そのものを拒絶された。
お前じゃない。
危うく口に出しかけた言葉を飲み込めば、更に近づいてくる彼女の気配。
「きゃっ!」
それに気をとられていれば、わざとらしい声を上げた女の手から零れ落ちるグラス。
冷水をかけられるとは、まさにこの事か。
「すみませんっ!お召し物に水が………!よろしければどうぞこちらへ……!」
拒絶をされた意趣返しのつもりか。
見え透いた手口で人気のない場所へと誘おうとする女。
相原は勿論こちらに気づいているだろうが、ニヤリと笑うだけで口を出す気配はない。
全く、困ったものだ。
「いいから触らないでくれ。今日はこれで帰らせてもらう」
ある意味、ちょうどよい頃合いだった。
「帰るぞ」
そう声をかければ、当然のように飛んでくる彼女。
それまでは店のホステスをつかまえ熱心になにか聞き込んでいたようだが、全て投げ捨てて飛び込んできた。
なぜこれが、俺のモノではないのだろうか。
馬鹿な妄想は、なかなか頭から離れようとしない。
「あちゃー。やられちゃいましたね、部長。大切なところがびしょびしょに…………」
…………びしょびしょ………と、何故かもう一度繰り返し呟いた彼女の頬がうっすらと朱色に染まる。
「つまり、部長のアソコが濡れ濡れってことですか!?」
んにゃーーー!!と奇声をあげる彼女に、相原までもが呑んでいた茶を吹き出しその服を濡らした。
「主任!?主任まで!?」
はっとした表情で二人を交互に身やる彼女。
次に何を言うか恐ろしくなり、その口を背後から塞ぐと、その耳元に「下らないことを言っている暇があったらさっさと帰るぞ」と囁き、退店を促す。
相原は馴染みの女にタオルを用意され、軽く水気をぬぐうとやれやれといった表情でこちらを見ている。
「………部長!今日学んだことの復習をしたいので、これから部長の家にお邪魔しても…………」
「ふざけるな」
びくん!!
普段真面目に叱られ慣れていない彼女は、途端に体をこわばらせ。
「え~っと、駄目ならいいです。おとなしく帰ります」
と、凄々と引き下がってしまった。
そんな、哀しげな顔をさせたかったわけではない。
ただ。
「…………うちに来るなら、覚悟を決めてからにしてくれ」
「へ?」
まだ理解の及ばぬ顔をしている彼女の頭を引き寄せ、はっきりと囁く。
「俺に、食われる覚悟だ」
何もせず返すことなどできないと告げれば、一気に真っ赤になった彼女。
あわあわと妙な声をあげながら、チラチラとこちらを窺っている。
まるで人間を警戒する小動物のようだ。
「おいおい、高瀬くんに何を言ったんだ?茹で蛸みたいになっちゃってまぁ……」
会計を済ませ、よってきた相原に「なにも」と答えれば、当然のように疑いの目を向けられ。
ほんの少しだが、それまでの鬱屈した何かが紛れたような気がした。
独占欲。
そう名付けることのできる思いは、今もこの胸の奥にくすぶり続けて。
その資格を持たぬことを、ありえないことだと叫ぶ本能を恐ろしく感じ、理性でがんじがらめに縛りつける。
「帰りましょう!今すぐもれなく帰りましょう!!」
店を出てすぐ、車の持ち主である相原を差し置き、未だ顔を赤らめたまま、ずんずんと先へ進む彼女。
『 もういいかい 』
『ーーーーまぁだだよ』
その時、隠れ鬼を遊ぶ童の声がどこからともなく聞こえた気がし。
無意識のうちに、切ない独り言をポツリと漏らす。
「俺が欲しいのは、君からの赦しだ」
去っていく、頼り無い小さな背中。
『 もういいよ 』
その言葉を。
思う存分彼女を貪る権利を得るその日を、俺はずっと待ちわびているーーーーー。
重厚なソファーに腰掛け、アルコールを勧める女に手振りで断りをいれながら不快そうに話す男。
「まぁいいじゃないか。本人も喜んでるみたいだしさ」
ニコニコと微笑みながら同じくアルコールを断り、グラス入りの鳥龍茶を手に取る男は彼とは対照的で、何ら問題を感じている様子はない。
「高瀬君についてる彼女、あれ俺の昔の知り合いでさ。事情を話したら面白がって面倒見てくれるていうから、まぁ安心しろよ」
「…………そういう問題じゃないだろう」
若い女性が、こんな風俗店まがいの店に足を踏み入れていること自体がまず問題だろうと唸る男。
ーーーー言わずと知れた、谷崎部長その人である。
「んなの言わなきゃ誰にも分かんないだろ?」
平気平気、と片手を振るのはお馴染み相原主任。
そしてそんな彼らの視線の先にいるのは勿論。
「部長っ!主任!!聞きました?!おっぱいを大きくするには寄せてあげて更にマッサージしてもらうのが一番だって………!!」
「うんうん、ちなみにそれ、マッサージじゃなくて男に揉ませるのが一番とか言われてたよね?自分の都合のいいように拡大解釈しちゃ駄目だから」
なんなら手伝うよ?と手をわきわきさせる相原。
それをチラ見し、一言。
「ないな」
「ため息つくとかいくらなんでも俺に対して失礼すぎない?」
「主任に頼むくらいなら部長に頼みます」
きっぱりとしたその台詞に名指しされた谷崎が目を剥き、実に嫌そうな顔で。
「ーーーないな」
と、全く同じ台詞を答えてため息をはく。
「それでも私にプロポーズしてきた男の台詞ですか!?」
「胸は揉めと言われて揉むようなものじゃないだろう」
しかもこんな場所で、と。
言っていることは正論だが、それでは事足りないのも事実。
「むむぅ…仕方ない………じゃあケンちゃんに………」
「「頼むんじゃない」」
この時ばかりはピタリと息のあった二人。
ぱちくりと目を瞬かせた高瀬は、そんな二人を見つめて「駄目ですか?」と小さく首を傾げる。
「ケンちゃん、あれで実は整体の免許も持っていたりするんですが、それでも…………」
「「駄目だ」」
「…………そうですか」
残念、としょぼくれる高瀬。
全く、油断もすきもない。
「君の中で彼は一体どういう扱いになってるんだ……?」
「少なくとも竜児に同じことを頼もうとは思いませんよ」
キッパリといいきる高瀬に、逆に不安しか感じないのは何故か。
「警戒されてるって言うのは、意識されてるって事の裏返しなのかどうか、って感じだねぇ……」
そういう意味では自分は相原にすら劣るのではないかと密かに凹む谷崎。
一応、求婚されていることを忘れたわけではないようなのだが、戯れに先程のような台詞を口にすることから、本当の意味で認識しているのかどうかは怪しい。
すっかり保留にされているその答えも、まだ暫くは宙に浮いたままだろう。
目の前で呑気に笑う彼女を見ていれば、まぁそれでもよいかと思えてしまうのだが……。
「お隣、宜しいかしら?」
これまでの女に代わり、新しいホステスが隣に座り、谷崎に向かってしなだれかかる。
拒否されるとは夢にも思っていないその態度が、今は酷く鼻につく。
同じく相原の横にも誰か着こうとしたようだが、彼の場合は馴染みの女の手前か、やんわりと断られればそれ以上の馬鹿な真似をする女はいない。
皆、いわゆる客商売の人間で、見込みの少ない客に無理な売り込みをかけるつもりは毛頭ないのだ。
つまりは自分はうまくカモにできそうに見えたのかと思えば、その不愉快さは更に増し。
強い香水の臭いと相まって、吐き気すら催しそうになる。
「部長??大丈夫ですか?」
顔色が悪いことに気づいたのか、ちょこちょこと近づいてきて顔を覗きこむ彼女。
香水など付けていないはずなのに、どこか甘い香りのする彼女。
あの首筋に顔を埋め、口づけを落としたなら、彼女はどんな声で啼くのだろうか。
馬鹿な考えが頭をよぎり、微かに自身が高ぶりを見せたのがわかった。
「あら………」
それを自身の手技によるものと勘違いした女は、嬉しそうに頬を染め、膨張したそこにいそいそと手を伸ばそうとし。
「ーーーー止めてくれ」
ゾッとするような冷たい声に、存在そのものを拒絶された。
お前じゃない。
危うく口に出しかけた言葉を飲み込めば、更に近づいてくる彼女の気配。
「きゃっ!」
それに気をとられていれば、わざとらしい声を上げた女の手から零れ落ちるグラス。
冷水をかけられるとは、まさにこの事か。
「すみませんっ!お召し物に水が………!よろしければどうぞこちらへ……!」
拒絶をされた意趣返しのつもりか。
見え透いた手口で人気のない場所へと誘おうとする女。
相原は勿論こちらに気づいているだろうが、ニヤリと笑うだけで口を出す気配はない。
全く、困ったものだ。
「いいから触らないでくれ。今日はこれで帰らせてもらう」
ある意味、ちょうどよい頃合いだった。
「帰るぞ」
そう声をかければ、当然のように飛んでくる彼女。
それまでは店のホステスをつかまえ熱心になにか聞き込んでいたようだが、全て投げ捨てて飛び込んできた。
なぜこれが、俺のモノではないのだろうか。
馬鹿な妄想は、なかなか頭から離れようとしない。
「あちゃー。やられちゃいましたね、部長。大切なところがびしょびしょに…………」
…………びしょびしょ………と、何故かもう一度繰り返し呟いた彼女の頬がうっすらと朱色に染まる。
「つまり、部長のアソコが濡れ濡れってことですか!?」
んにゃーーー!!と奇声をあげる彼女に、相原までもが呑んでいた茶を吹き出しその服を濡らした。
「主任!?主任まで!?」
はっとした表情で二人を交互に身やる彼女。
次に何を言うか恐ろしくなり、その口を背後から塞ぐと、その耳元に「下らないことを言っている暇があったらさっさと帰るぞ」と囁き、退店を促す。
相原は馴染みの女にタオルを用意され、軽く水気をぬぐうとやれやれといった表情でこちらを見ている。
「………部長!今日学んだことの復習をしたいので、これから部長の家にお邪魔しても…………」
「ふざけるな」
びくん!!
普段真面目に叱られ慣れていない彼女は、途端に体をこわばらせ。
「え~っと、駄目ならいいです。おとなしく帰ります」
と、凄々と引き下がってしまった。
そんな、哀しげな顔をさせたかったわけではない。
ただ。
「…………うちに来るなら、覚悟を決めてからにしてくれ」
「へ?」
まだ理解の及ばぬ顔をしている彼女の頭を引き寄せ、はっきりと囁く。
「俺に、食われる覚悟だ」
何もせず返すことなどできないと告げれば、一気に真っ赤になった彼女。
あわあわと妙な声をあげながら、チラチラとこちらを窺っている。
まるで人間を警戒する小動物のようだ。
「おいおい、高瀬くんに何を言ったんだ?茹で蛸みたいになっちゃってまぁ……」
会計を済ませ、よってきた相原に「なにも」と答えれば、当然のように疑いの目を向けられ。
ほんの少しだが、それまでの鬱屈した何かが紛れたような気がした。
独占欲。
そう名付けることのできる思いは、今もこの胸の奥にくすぶり続けて。
その資格を持たぬことを、ありえないことだと叫ぶ本能を恐ろしく感じ、理性でがんじがらめに縛りつける。
「帰りましょう!今すぐもれなく帰りましょう!!」
店を出てすぐ、車の持ち主である相原を差し置き、未だ顔を赤らめたまま、ずんずんと先へ進む彼女。
『 もういいかい 』
『ーーーーまぁだだよ』
その時、隠れ鬼を遊ぶ童の声がどこからともなく聞こえた気がし。
無意識のうちに、切ない独り言をポツリと漏らす。
「俺が欲しいのは、君からの赦しだ」
去っていく、頼り無い小さな背中。
『 もういいよ 』
その言葉を。
思う存分彼女を貪る権利を得るその日を、俺はずっと待ちわびているーーーーー。
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