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性別が行方不明になりました

個人情報は大切に②

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「今すぐ?あんたそんなに結婚願望強かったっけ」
将来のための貯蓄かと思ったが、案外特定の相手がもういる…?
「子供のこととか考えたら早いほうがいいだろ。教育ローンとか…」
「相手もいないのに考えることじゃないな、それ」
いくらなんでも気が早すぎる。
「そういうお前は?何か考えてるのか」
「うーん。そうだねぇ…」
正直、何も考えてなかった。
だが素直に言うのも癪だったので、手当たり次第に思いついた事を言ってみる。
「自分が生まれた時の体重のテディベアとか…」
「そりゃ両親への贈り物ってやつだろ。一つ大体2~3万するな」
「ウエディングケーキは2段にして、写真は前撮りしてアルバムを作りたい」
「知ってるか?あのアルバム一冊30万だとよ」
「お色直しは3回くらい?」
「一着20万から」
「……調べたの?」
「資料は全部ファイルに集めてある。……見るか?」
「……遠慮しとく」
なんだか、ここまで来るとちょっと怖い。
どうしちゃったんだろう、コイツ。
「俺は、お前が何を言い出してもいいように万全の用意をしているだけだ」
「……私じゃなくて将来の結婚相手でしょ…」
「……」
本当のことを訂正しただけなのに、なぜ睨まれる。
解せない。
「お前みたいなタイプの大柄な女はマーメイドラインってドレスがいいらしいぞ」
「あれ、胸がないときついんじゃ…」
「ないもんは詰めりゃいい」
「……身も蓋もないな」
なんだろう。自分は遠まわしに貧乳と貶められているのか?
売られた喧嘩は言い値で買うぞ?
正直負ける気はしない。
経済力で言ったら太一の圧勝だろうが。
「太一、報われない努力は虚しいよ?」
まず嫁をゲットしなければ、どんなに下調べが住んでいても水の泡だ。
「お前に言われるのが一番腹立つな」
え、そう?
「……人の気も知らねぇで……ハァ」
「あ、着信だ。……ちょっとごめん!!」
なにか太一が凹んでいるが、それどころではない。
着信は、今日面接を受けた会社の窓口からだった。
念のため登録しておいた、その番号からかかってきている。
「もしもし、はい、私ですが…。はい。はい!!本当ですか!?」
嘘だ、信じられない。
「ありがとうございます!はい、はい!」
高揚した気分のまま着信を切り、そのままの勢いで太一に思い切り抱きついた。
「…おい!」
「受かった!1時面接が受かったよ太一!やったぁ!」
腕の中で太一がもごもごと文句を言っているが、残念ながら全く聞くつもりはない。
こんなに嬉しいのは、高校受験以来だ。
そういえばあの時も抱き合って喜んだっけ。
「第2試験まであと一週間だって。頑張るぞ!!!」
「……イケメン社長とやらはいいのかよ?」
「受かったんだからバレてなかったってことでしょ?ラッキー!」
「……んな楽天的に考えてると、ぜってぇ後で後悔すると思うけどな……」
「はぁ?楽天的に考えろって初めに行ったのは太一じゃん。いまさら前言撤回は男らしくない!」
「…はいはい。んじゃあ2時試験も頑張るんだな」
「もち!」
今から用意しなくては。
バレなくて本当に良かった。
「…くそ。本当になんでこんな馬鹿選んじまったかな……」
「太一~?クッションなんか抱えて眠いの?早く家に帰れば?」
「……これ、貰ってくわ」
「え。ちょっと!?ちゃんと返しに来てよ!?」
なぜクッションを抱えていく!?
しかもそれお気に入りなんだが!?

「お前が気に入ってよく抱いてるのを知ってるから選んだんだよ。決まってんだろ……」
ばたりと閉まったドアの前。真っ赤な顔をクッションに頭を埋める彼が報われる日が来るのかは、今はまだ、神のみぞ知る。


PS 蛇足だが、後日この会話を聞かされた貴子が、あまりの甥っ子の不憫さにぽろりと黒い涙をこぼした事だけはここに記しておこう……。
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