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恋せよ乙女のオカマウェイ!!

諦めが肝心です。

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「ほ、本当に来た………」

疑っていたわけではないのだが、実際に採用通知が送られてくると感慨深いものがある。
数日後、送られてきた書類を前に中身を封切れば、予想通りの「おめでとうございます」という文字とともに、早速のオリエンテーション参加への案内が。
オリエンテーションは数日後、新入社員全員を集め、会社近くのホテルのホールを借りて行うとのこと。
勿論、反則スレスレの状態で合格した明日夢としては、出席しかありえない。
オリエンテーション後に、入社後の仮の配属も通知されるらしい。
社長である凌が出席するかどうかはわからないが、凌と会うのはあれ以来なのでそう言う意味でも少し緊張する。

「うわ、やっぱり日付が被ってる。
沖縄になんか行ってる場合じゃなかった………」

例の火事でおりた保険金と、あのあと曽根達が犯人から分捕った店に対する慰謝料を含め、相当な額の資金を手に入れた貴子は、現在その資金でせっせと店を改装中。
必然的にその期間店を閉めることになり、せっかくの連休なので社員のお姉様方もみんな連れて沖縄へと慰安旅行に行く事になったのだが、一緒にどうかと誘われていた明日夢。
ちょっと迷いながらも断って正解だった。

「沖縄三泊四日ってのは心が揺れたけど、流石にね……」

まず社会人としての第一歩。
ここは欠席するわけにはいかないだろう。
ちなみに店の御姉様方からは今回の件の功労者として、「みんなで素敵なお土産、た~っぷり選んでくるから楽しみにしててね」というありがたいお言葉を頂いているのだが、正直それがちょっと怖い。
一体何を買ってくるつもりなのだろうか、彼ら……いや、彼女らは。
できることならばそれが、紅芋タルトやちんすこうといった沖縄の定番土産であることを心から願うのみだ。

詳しい時間等の確認をしていると、胸元に入れたスマホがブルブルと震えた。
通知を見れば、そこには「曽根」の文字。

正直、一瞬にしてテンションが下がった。
受けるべきか迷ったが、仕方なくそのまま通話ボタンを押す明日夢。
通話を無視したところで、直接家に乗り込まれたらおしまいだ。
家を知られているだけ、こちらの分が悪い。

しかし、このタイミングというのは………。

「曽根さん、まさか私を監視させてるわけじゃありませんよね?」

開口一番、気になっていたことを聞けば、「まさか」と笑う気配。
正直怪しいことこの上ない。
何しろ一般人である凌すらも平然と友人にGPSを仕込む時代なのだ。
本職である曽根ならば、どんな手段を使ってくるかわかったものではない。

「お食事の日取りを決めさせていただいたので、そのご連絡をと思いまして」
「ーーーーー日取り、ですか」

こちらもオリエンテーションと同じく、相手の都合など完全に無視をして既に確定済みの模様。
ため息は出るが、これに関しては取引の一部であるという負い目がある。

「で、いつにしたんですか?場所は?」と尋ねれば、時刻はなんと明日の夜、場所はオリエンテーションを行うのと同じホテルの、最上階の高級レストランだという。
なんでそんな場所に、と思うが、当然断れるはずもない。
それよりも問題なのが、たしかあそこの店にはドレスコードが存在していたという面倒な事実。
明文化されているわけではないのだが、客にもやはり、それなりの服装というものが求められてくる。
まさか貴子の店のドレスを拝借するわけにもいかないし、最悪はリクルートスーツでも着ていくしかない。
正装といえば正装だし、と完全に開き直る明日夢。
だが相手は曽根。その程度のことが先読みできないはずもない。

「失礼かとは思いましたが、当日の服装は全てこちらで用意させていただきました。
事情を話したところ、美咲さんが喜んで選んでくださいましたので、是非後で写真を」
「み、美咲お嬢さんが……」

なんだそれ、ものすごく断りにくい。
曽根が選んだ、というのなら文句のつけようもあるが、美咲がというのでは到底断れないではないか。

「今度また別の機会に一緒に食事をしよう、と伝言も承っています」
「それは勿論……」

あのあと結局、曽根だけではなく美咲とも連絡先の交換をする羽目になった明日夢。
美咲からは時折「一緒に遊びに行こう」という趣旨のラインが送られてきているが、美咲と遊びに行くということは、あの強面共を従えて歩かねばならないということで…。
それを考えるとやはり気が滅入るというか、気後れするというか。
美咲と二人だけ、というのなら買い物でもなんでもいくらでも付き合うのだが、さすがにそうもいかない。
迎えの車や警護の手配など、あちらとしても色々準備があるのだろう。
二の足を踏んでやんわりお断りしてきたのだが、こうして曽根を通して連絡をしてきた以上、既に外堀は埋まっていると考えたほうがいい。
どうやら近いうちに、美咲と再会することになりそうだ。


「では、その旨はまたお嬢さんにお伝えしておきます。
ーーーでは明日、ご自宅までお迎えに上がりますので」
「あ……ちょっ……!!」

言いたいことだけを言ってあっさり通話を切る曽根。
慌てて口を開いた明日夢だが、通話は既に切れている。
もはや完全なるまな板の鯉。
予定の時刻に家を留守にしたところで、外出先にまで押掛けてこられそうでむしろ怖い。

「はぁ……」

完全なるアウェイだが、ここはやるしかない。

「念のため、ラインでどんな服を選んだのか聞いておこうかな……」

多少なりとも心の準備が出来るかと思ったのだが、その後美咲から帰ってきたのは可愛らしいスタンプとともに、「秘密!」の一言。
一体どんな衣装を選んだのか。
貴子の店のお姉様方の衣装を思い浮かべ、ちょっと身震いをする明日夢であった。

そういえば、例の事件の一番の被害者となった忍だが、あのあと結局店を辞めることになってしまった。
あの日、やたらと忍が「明日夢ちゃん」呼ばわりするなと思っていたのだが、その原因は貴子だったそうで。
密かに甥っ子を応援する貴子が、牽制も兼ねて明日夢の性別を忍へとバラしていた事実が後で判明した。
貴子いわく、「忍は絶対隠れホモだと思ってたのよ!」とのこと。
つまり、ホモだと思ったから明日夢が対象外の女性であることを教えたのに、当の本人はそれを聞いて大喜び。
更なるやる気をだしてしまい、それが結局は、起業家を目指しての辞職という本末転倒な結果に。
ハンカチを噛んで悔しがる貴子だが、半ば自業自得と呆れるしかない。


ちなみに実はあの犯人も、実は隠れ男色家だったそうで。
オカマバーに通っていたのは、自分はホモではなくあくまで女が好きだというアピールの一環だったそう。
実際には根っからの男好きで、あの後、たまたま素顔で街を出歩いていた忍の姿を目撃し、その普段着姿に恨みも忘れてあっさり一目惚れ。
どうせ何もかも失うのならいっそと、忍を拉致し、監禁することを目論んだのが事件のきっかけだったらしい。

てっきり前回の復讐が目的かと思ったら、店に火をつけたのも全て最終的には忍が目当てだったと言う予想外の間抜けなオチがつく結果となった。

なんでも初めは明日夢を狙っていたようなのだが、こちらは曽根にガードされていたこともあり、探偵などの情報屋を使っても、その素性を把握することができなかったらしい。
まぁ素性がわかったとしても、男の性癖からいって性別の判明した明日夢からは早々と興味を失った可能性も否定できない。
前回の件で名目上の奥さんだった女性から離婚され、半ば自棄になって犯行に及んだようだが………。

実はその彼、今回の事件の慰謝料を払うため、曽根によって系の富豪のもとに人身売買同然に愛人として売られていったそうなのだが、案外そこが馬にあっているらしく、充実した日々を送っているらしいとい
うなんともいえない後日談がある。
勿論それは曽根曰くの話で、本当かどうかはわかったものではないが、聞くんじゃなかったと後悔するとともに、「ヤクザを敵に回すものじゃないな…」とつくづく反省。

世の中万事塞翁が馬。
もはやなるようにしかならない、そう思うしかない明日夢であった。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

key
2018.11.07 key

今回も男前感がうなぎのぼりですね♪周りのイケメンが食われまくってて楽しいです!真の男前には敵わないんだなw

隆駆
2018.11.08 隆駆

key様、感想ありがとうございます!
金持ちのえげつなさは極道の上を行くという恐怖。
そしてそのさらに上をいく予感の曽根さん(笑)
できるだけ更新が続けられるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします!
作者への感想は更新へのパワーなり(o^^o)♪

解除
2018.11.06

わっ‼更新されてる~♪♪

隆駆
2018.11.07 隆駆

続きアップしました!
おだてられるとつい調子に乗る作者です(笑)

解除
あさがお
2018.10.26 あさがお

続きが気になる~!

隆駆
2018.10.26 隆駆

あさがお様、いつもありがとうございます!
できるだけ早く次回更新できるよう頑張ります( ´∀` )b

解除

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