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普通の女の子に戻りたい。

切り札はハイテクでした。

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「体内埋め込み型のGPS付きICチップ?」
「あぁ、そうだ。右手の皮膚の内側に移植されている。
俺にも同じものが入っているが、見た目としては殆ど判別はつかない」

そう言って己の右手を差し出す凌。
この皮膚の下に小さなマイクロチップが埋め込まれているなど、誰が予想がつくだろうか。

「ーーーーつまり、そのチップの情報にリンクすれば、忍さんの居所やバイタル情報までもが一目瞭然だと」

明日夢の想像以上に、金持ちの切り札はえげつないものだった。

「君から話を聞かされて真っ先に調べた。
バイタルに大きな乱れがないことを考えると、恐らく抵抗せずに黙って誘拐されたのだろう」
「ーーーーーお友達である貴方が迎えに来てくれることを期待して?」
「その可能性は高い。
そもそもあいつには、なにかトラブルに巻き込まれた時には無駄に騒がず大人しく待機しろと伝えてある」
「トラブル」
「あの顔にあの性格だろう?水商売なんてものに手を出せば、何かと問題が起こることは簡単に想像できた」
「だからってICチップっていうのは……」

いくら心配だったとは言えば、少しやりすぎではないのだろうかと控えめに苦言を口にするが、凌の言い分はこうだ。

「日本では珍しいが、海外では幼い子供でも移植しているほど安全性の高い製品だ。何の問題もない」
「……いや、安全面ではそうなんでしょうけど」

こう、気分的なものとして。
常に誰かに居場所を把握されているというのは、あまり気分がいいものではないと思うのだが。

「そんなもの、よく忍さんも使用を許可しましたね……?」

犬や猫じゃあるまいし、と。
そういえば、帰ってきた答えはとんでもないもので。

「酔い潰して半ば強制的に手術を行ったからな」
「ぶっ……!!」

明日夢は思わず吹き出した。
しれっとした顔してますが、それ、思いっきり犯罪です。

「飲み比べでな。先に潰れた方は何をされても文句を言えないという勝負をした。
その結果だ」
「ーーーーーほとんど騙し討ちじゃないですか、それ」
「身の安全には代えられない」

いや、そうなんだろうけど。

一瞬、得体の知れないものを見るような目を凌に向けた明日夢は、そのまま少し凌から距離をとり、物理的にもドン引きした。

金持ち怖い。
極道すらも思いつかないことを時に平然と実行してしまうあたり、感性が常人とかけ離れている。
確かにICチップの話はテレビなどで聞いたことがあったが、まさか身近にその使用者が存在していたとは。

「だがそれが今役に立っているのだから、俺のしたことは間違っていなかったということだろう」
「ーーーーとにかく、早く忍さんのもとへ向かいましょう」

先見の明があったことは認めるが、なんだか頭が痛くなってきそうだったのでそれ以上その話にツッコミを入れるのをやめ、これから何処に向かうのかを尋ねる明日夢。

「GPSの座標によればーーーーーーー」

詳しい場所を聞いた明日夢には、その場所に心当たりがあった。

「それ、もしかして最近潰れたラブホテルじゃないですか?」

国道沿いに立つド派手な建物で、明日夢の記憶にも残っていた。
これまでにも何度となく潰れ、その度に経営者が変わり、名前を変えながら経営を続けてきたという居抜き物件だ。

「先月あたりから看板のネオンが消えていたので、また潰れたんだろうなと思っていたんですが…」
「人気がないというのなら、おそらくそこで間違いないだろう。
そのホテルの名前は?」
「ーーー地元の人間なら、国道沿いの弁当屋の近くのラブホだって言えばすぐにわかりますよ」
「そうか」

ひとつ頷いた凌が仕切られていたカーテンを開き、運転手にそのことを伝える。
案の定すぐに場所の特定が出来たらしく、近道を使えばあと5分ほどで現場に到着するという。

「曽根さんにもこのことを連絡したほうが」

凌にとっては不本意だろうが、と。
僅かに不快そうな表情を見せた凌を気にしつつ、曽根へと連絡を取ろうと携帯へ手を伸ばす明日夢。
しかし、そこで鳴り響くバイブの音。

着信の相手は曽根だ。

どうやらあちらにも何か進展があったらしい。

「もしもし、曽根さーーーーーーーー」
「え、明日美ちゃん!?」

…………今の、受話器から聞こえたこの声はもしかして。

結構なボリュームのその声は、当然ながら横に居た凌にもまる聞こえで。
ふたり揃って顔を見合わせ、その間にも向こう側から聴こえてくる「明日美ちゃん!明日美ちゃんだろ!?」という弾んだ声。

「ーーーーー貸してくれ」

頭痛をこらえるように眉間を指で押さえながらこちらに片手を差し出した凌。
その手にためらいなく薄いスマホを手渡した明日夢の前で、凌はその名を呼んだ。

「忍」
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