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普通の女の子に戻りたい。
地獄へのエスコート
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ひたすらに重苦しい空気の流れる車内。
曽根の顔を見ているのもうんざりだと真っ黒なシートの貼られた窓の外を何気なく眺めた時、視界の隅に写ったものに、明日夢の注意が向けられた。
――――あれは……。
「どうかしましたか?明日夢さん」
「………いえ」
しばし考えてから、何もないと首を横に振る明日夢に、「そうですか」とあっさり応じる曽根。
その態度には何も裏はないように見えるが……果たして本当にそうだろうか。
さきほど明日夢の視界に入ったもの、それはしばらくぶりに見た忍の姿だった。
少し憔悴した様子ではあったが相変わらず美しいその顔で、しかし格好は男性のまま。
職業オカマだと言っていたのでそれは当然かもしれないが、まるでサラリーマンのようなスーツを着ていた。
その背後で、まるで彼を尾行しているかのような動きをする人間が一人。
偶然かもしれないが、どうにも嫌な予感がした。
本当なら今すぐにでも後を追うべきところなのだが、今の明日夢には差し迫った問題がある。
現状、何よりも優先すべきは、美咲の救出だ。
そして次に大切なのは就職試験。
申し訳ないが、忍のことは二の次どころか三の次。
すべてを投げ打ってまで忍を気にかけるほどの情は、今の明日夢にはまだない。
とりあず後で、職場の上司である貴子から忍へ注意するように伝えてもらおうと心に決めつつ、今ここで連絡することは控えた。
勿論、曽根を警戒してのことである。
曽根と共にいるこの時、このタイミングで忍を見かけたというだけで、十分に怪しい。
何しろ曽根はほんの短い時間とは言え、忍と面識があるのだ。
果たしてこれは、本当に偶然なのか。
追求したところで、曽根が真実を話すとも思わず、はぁ、と明日夢はひとつため息を吐く。
なぜにこうも、厄介事が次から次へとやってくるのか。
日頃の行いが悪いのかな、と自らの反省をしたところで、動いていた車が止まった。
「着きましたよ」
ここです、と言われたのは、雑居ビルのような大きな建物。
どうやら一階は物置かなにかになっているらしい。
美咲に付けられたGPSは、確かにこの場所で反応を示している。
スキンヘッドが運転席をおり、まず先に曽根側のドアを開き、曽根がゆっくりと外に降り立つ。
そして。
「さぁ、ここから楽しい襲撃と行きましょう」
言葉通り、実に楽しそうな曽根の笑顔。
その懐から覗くのは、まさか拳銃ではあるまいか。
顔を引きつらせた明日夢に、スキンヘッドが実に恭しい態度で「兄貴の獲物はどうしますか?」と当たり前のように尋ねてくる。
「お好きなものをどうぞ。遠慮なく」
そう言った曽根が示すのは、車のトランクの中。
あそこに一体、何が入っているのか。
「覚悟は決まりましたか?明日夢さん」
「……勿論」
降りたままのビルのシャッターが、まるで地獄の門のようだと思いながら、明日夢は一歩、外へと足を踏み出す。
差し出された曽根の手をためらいながらにとれば、曽根が「ご一緒するのはこれが初めてですね」と笑った。
ーーーーーー嗤う死神が、明日夢を地獄へとエスコートする。
曽根の顔を見ているのもうんざりだと真っ黒なシートの貼られた窓の外を何気なく眺めた時、視界の隅に写ったものに、明日夢の注意が向けられた。
――――あれは……。
「どうかしましたか?明日夢さん」
「………いえ」
しばし考えてから、何もないと首を横に振る明日夢に、「そうですか」とあっさり応じる曽根。
その態度には何も裏はないように見えるが……果たして本当にそうだろうか。
さきほど明日夢の視界に入ったもの、それはしばらくぶりに見た忍の姿だった。
少し憔悴した様子ではあったが相変わらず美しいその顔で、しかし格好は男性のまま。
職業オカマだと言っていたのでそれは当然かもしれないが、まるでサラリーマンのようなスーツを着ていた。
その背後で、まるで彼を尾行しているかのような動きをする人間が一人。
偶然かもしれないが、どうにも嫌な予感がした。
本当なら今すぐにでも後を追うべきところなのだが、今の明日夢には差し迫った問題がある。
現状、何よりも優先すべきは、美咲の救出だ。
そして次に大切なのは就職試験。
申し訳ないが、忍のことは二の次どころか三の次。
すべてを投げ打ってまで忍を気にかけるほどの情は、今の明日夢にはまだない。
とりあず後で、職場の上司である貴子から忍へ注意するように伝えてもらおうと心に決めつつ、今ここで連絡することは控えた。
勿論、曽根を警戒してのことである。
曽根と共にいるこの時、このタイミングで忍を見かけたというだけで、十分に怪しい。
何しろ曽根はほんの短い時間とは言え、忍と面識があるのだ。
果たしてこれは、本当に偶然なのか。
追求したところで、曽根が真実を話すとも思わず、はぁ、と明日夢はひとつため息を吐く。
なぜにこうも、厄介事が次から次へとやってくるのか。
日頃の行いが悪いのかな、と自らの反省をしたところで、動いていた車が止まった。
「着きましたよ」
ここです、と言われたのは、雑居ビルのような大きな建物。
どうやら一階は物置かなにかになっているらしい。
美咲に付けられたGPSは、確かにこの場所で反応を示している。
スキンヘッドが運転席をおり、まず先に曽根側のドアを開き、曽根がゆっくりと外に降り立つ。
そして。
「さぁ、ここから楽しい襲撃と行きましょう」
言葉通り、実に楽しそうな曽根の笑顔。
その懐から覗くのは、まさか拳銃ではあるまいか。
顔を引きつらせた明日夢に、スキンヘッドが実に恭しい態度で「兄貴の獲物はどうしますか?」と当たり前のように尋ねてくる。
「お好きなものをどうぞ。遠慮なく」
そう言った曽根が示すのは、車のトランクの中。
あそこに一体、何が入っているのか。
「覚悟は決まりましたか?明日夢さん」
「……勿論」
降りたままのビルのシャッターが、まるで地獄の門のようだと思いながら、明日夢は一歩、外へと足を踏み出す。
差し出された曽根の手をためらいながらにとれば、曽根が「ご一緒するのはこれが初めてですね」と笑った。
ーーーーーー嗤う死神が、明日夢を地獄へとエスコートする。
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