愛だけど恋じゃない

隆駆

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果たされなかったプロポーズ

過去②

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「小学校って…冗談でしょ?だってあんた、その頃よくうちに泊まりに来てたじゃない」
さすがに高学年になってからは別になったが、一緒の寝室で眠ることもしばしだった。
桜が下着姿でいようと気にならないし、桜もそれは同じこと。
幼稚園の頃など、下手したら一緒にお風呂に入っていたのではないか。
それくらい、桜と淳、両家の関係は近いものだった。
もしその頃におかしな態度を取っていたら、さすがにそんなことはしなかったと思うのだが。
「当然、その時からずっと意識はしていた。…勿論気取られるつもりはなかったけどな」
「騙してたってこと?」
兄妹のように枕を並べて眠ったことも、全て偽りだったのだろうか。
「そうじゃない。……ただ、変に意識していることがバレて、お前と引き離されるのが嫌だった」
「……」
正直言って、複雑な心境だ。
淳がそんな事を思っているなんて、これっぽっちも気付かなかった。
確かに両家の親は、同じ年で中の良い男女ということもあり、「このまま結婚しちゃえば」なんてよく話してはいたが…。
「決定的だったのは、中学1年の頃だな。…お前、3年の先輩から告白されたろ」
「!なんで知ってんの!?」
誰にも言ったことがなかったのに!
「知ってるもなにも、そいつの方から俺のところに牽制に来たんだよ。ただの幼馴染なら、告白してもかまわないよな?って」
「…そんな…」
初めて聞いた、そんな話。
「それであんた…なんて言ったの?」
「『告白するならお好きにどうぞ。ただ、桜は絶対あんたとは付き合わないと思う』」
「…え?」
「実際、お前はあいつを選ばなかったろ。バスケ部のエースで、当時特待で有名高校への進学が決まってた」
普通に考えれば、憧れの男子生徒。
なぜそう言い切れたのか。
「お前はな、無意識だろうが、自分でなんでもできるようなタイプの男は得意じゃないんだよ」
だから兄貴のことも苦手だろ?そう言われれば、確かに思い当たるふしがある。
なんというか、近寄りがたい。
ちょっとくらい隙があって、自分を頼ってくれるような相手の方が親しみを感じる。
その気は昔からあった。
「まぁお前の場合、栞っていう体が弱くて手のかかる大人しい妹の面倒を見ていたのが主な理由だろうが…」
「……」
「どちらかというとな、頼られたいんだよお前は」
決めつけるような言葉に、否定はできない。
「ちょっとまって。まさかあんた…今まで妙に私に頼ってきてたのは…」
「俺はお前に構われて満足、お前は世話が焼けて満足。問題ないだろ?」
「そんな……!」
全部、ウソだったのか。
仕事で留守の淳の母親の代わりに食事を作りに行くこともしょっちゅうあった。
部活の試合に寝坊するといけないから起こしてくれと言われて朝っぱらから家まで迎えに行ったことも。
母親がわり、姉代わりだと、ずっと信じていたのに。
「それで上手くいくと思っていた。このままずっとやっていけると。……それが勘違いだと気づいたのが2年前。
知ってるか、桜。お前に横恋慕してた男は結構多いんだぜ。お前の面倒見のいいところを自分に気があると勘違いしてな。あの女は俺のストーカーだったが、お前自身に付きまとってるストーカーってのも実はいたんだ」
「……なによ、それ…」
「安心しろよ。俺と兄貴で全部処理してやった」
「雅人さんが…?」
あの人がなぜ。
「お前に危害が及べば栞にも影響がいく。だからだろ」
淳のその言葉に納得した。
確かに桜と栞は共に行動していることが多い。
そこを狙われたらたまらないとでも思ったのだろう。
自分勝手な理由だが。
「中には俺以上に手間のかかる、お前好みの男もいたよ。ストーカーなんかじゃなく、本気でお前に告白しようとしてる男もな。…それで焦って結婚指輪を用意して、兄貴にそのことを告げた。その時に言われたよ。」

『このままお前たちが結婚したとして、桜ちゃんはお前を男として見てくれるかな?あの子にとってお前は家族だ。弟だと思っていた相手から告白されて、あの子はどう思うだろう』
『家族としてはいい。だが、男としてのお前の顔を見せたとき、間違いなくあの子は逃げるよ。その時お前はどうする?』

「最もだと思った。その通りだと」
「……だから、離れたっていうの…?」
 丁度自身がストーカーに狙われていたこともあり、タイミングも良かったと。
「それも理由の一つだが、もっと大きな理由がある。……俺はお前を、傷つけたくはなかったんだ。単純に、お前に嫌われたくないだとか、そんな幼稚な理由じゃない。兄貴にもしお前に逃げられたらどうするのかと問われた時、俺は思ったんだよ。お前に逃げられたら、俺はきっとお前を閉じ込めてでも手に入れようとするだろう、と」
だから、自身がそれを実行する前に、離れようと思った。
「傷つけたくない。それなのに、逃げられるくらいならそれも仕方ないと思っている自分が心底嫌になった」
そうして自ら離れておきながら、頭に浮かぶのは常に桜のことばかり。
「お前に男ができたと聞いて、頭がおかしくなりそうになった。
お前の家に乗り込んでいって、お前の足に鎖をつけて、どこかに閉じ込めちまおうと何度思ったか…」
まともじゃないんだ、俺は。
愛してる、桜を傷つけたくない、けれど離れたくない――――傷つけてでも手に入れたい。
せめぎ合う二つの思いの結果が、これまでの2年。
「本物の馬鹿じゃないの……」
人の気持ちも…返事すらも聞く前に勝手に判断して、一体何をやっているのか。
2年前告白されていたとして、それを素直に受け入れることができたかどうかはわからない、だが…。
「待とうとは思わなかったの…?あんたのプロポーズを、私が受け入れることができるようになるまで」
家族から、一人の男へと認識を改めることができるまで。
「それで振られたらどうする?結局は堂々巡りだ。下手したら家族としての立場すらも失う」
だから、ためらったのか。
ヤケになって、適当な女に手を出しては弄んだ。
桜に軽蔑されるのを承知で。
「嫌われてしまえばいいと思ったんだ。お前を無理やり手に入れたとしても、もうそれ以上嫌われることがないのなら、いっそ思い切って行動できると」
嫌われたくはない、それが理由で手を出せないというのなら、いっそどこまでも嫌われてしまえばいい。
二律背反、あまりに極端すぎる結論だ。
「私を監禁したいの…?」
「いや、ただお前と一緒にいたい。それだけだ」
動かない右手を膝の上に乗せ、じっとこちらを見つめる淳。
「……ねぇ淳。あんたは私のあんたへの気持ちを家族間って言うけど、あんたはどうなの」
「……どういうことだ」
「あんたのそれは、ただの執着だって事はないのかって言ってるのよ」

母親がわり、姉がわり、最も身近な女として、ただ執着しているだけではないのかと。
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