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ブラック企業に勤める社畜OLが異世界トリップして騎士の妻になるそうです
間章 ~今は亡き騎士の結婚式余話①~
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「ったくよぉ、水臭ぇじゃねぇか」
肩を組み、ドン、っとテーブルに酒瓶を叩きつける男。
馴染みの酒場のオーナーで、数年前に妻を亡くして以来一人で娘を育てあげている元・騎士だ。
「オメェら夫婦、式もせずに結婚しちまったんだろ?俺らが協力してやっから、ここで挙げちまえよ、式」
それは、思ってもみない一言だった。
「イザベラにはうちのメアリーも世話になってるしよぉ。
オメェんとこの息子ももうそれなりの歳になってんだろ?数年後には騎士学校に入隊できるってぇ話じゃねぇか。
立派な息子で結構なこったが、そうなりゃしばらく寮生活だろ。今のうちに三人で記念を残すのも悪くねぇ話だろ」
彼のすぐ前に陣取り、当たり前のような顔をしてまかない飯をかっ込む男。
「そうよおじさん。イザベラさんのドレス姿、見たくないの?」
給仕として店を手伝っていた一人娘のメアリーが、そんな父親を援護する。
ほんの少しそばかすの残る、赤毛の娘。
自分の妻が娘のように可愛がっている少女だ。
「見たいとは思うが…彼女の望むような式を俺に挙げられるかどうか…」
自慢ではないが、まだまだ薄給の身だ。
最近になってようやく城門を守る騎士の一人として配属されたが、地位としては最低の位。
本来ならば結婚をする際に式を行うはずだったのだが、それを拒んだのは妻だ。
その時には既に身重であった事と、これから生活していく為の資金として費用を残したいと言われ、それもそうかと納得したのだ。
だが、自分も騎士としていつまで生きていられるかわからない。
息子が巣立っていこうとしていく今、もし叶うのならば式はいい記念になるのではないか、そんな気持ちもある。
「金のこたァ心配するなって!式も宴会もここでやりゃあいいし、どうせ祭り好きのやつらは公然と飲める機会を探してやがるんだ。祝儀がわりにそいつらから金をせしめて盛大にパーっとやろうや!な?」
「ドレスはうちのお母さんが昔使ったものを再利用すればいいと思うの。私、今から刺繍を入れて新しいドレスにも見劣りしないように仕上げてみせるわ!だからお願い、ね、おじさん」
妻によく懐いた少女は、自身の本当の母のドレスを妻の為に作り直してくれるという。
「…本当にいいのか?マリーの遺品を」
「あぁ?いいに決まってんだろ!残しといたって、どうせ誰も着る人間なんていねぇしよ」
「メアリーが嫁ぐ時に着ればいい」
母のドレスを娘が引き継ぐ、それが自然だ。
だが、男はそれを鼻で笑う。
「は、無理無理!こんな気の強ぇ娘誰が嫁にもらってくれるってんだ!」
「ちょっとお父さん!?」
ばん、っとメアリーは父親の背中を強く叩き、父親が握ったままの酒瓶を容赦なく取り上げる。
「メアリーはいい娘だ。お前に似て責任感が強く、お前の妻に似て情が深い。
お前は嫁にやりたくないんだろうが、なんなら婿でもとればいい。この店を継がせるつもりはないのか?」
彼は亡くなった男の妻とも面識があった。
マリーは体が弱く、娘を生んでからはほとんど起き上がることすらできなくなってしまったが、それでも愛情深い優しい女性だったのを覚えている。
娘のメアリーは彼の妻が面倒を見ていたせいもあってか確かに少し気の強い性格になったようだが、それでも十分愛嬌はあるし、彼の妻が教え込んだ刺繍の腕もなかなかだ。
嫁の貰い手がない、というのは半ば父親としての希望だろう。
「こんなしけた店、いつ潰しちまっても構わねぇさ。
…ま、オメェんとこの息子が婿に入ってくれるってんなら話は別だけどよ。
うちの娘でよけりゃ、いつでもくれてやるぜ」
なぁ?とメアリーに向けてにやりと笑う男。
「おじさん相手に何勝手なこと言ってんのよこのクソ親父!」
「クソ親父とは失礼なやつだな。おめぇ、実はリュートの奴に惚れてんだろ。
俺だってオメェの父親だからな。そんくらいのこたぁ見りゃわかんのさ。
…なぁ、今すぐってわけじゃねぇが、よかったら考えといてくれよ。な!」
娘思いの父親は、真っ赤な顔になった娘に思い切り足を踏みつけられようと、平然とした顔で笑っている。
「おじさん、こんな酔っぱらいのいうことなんて気にしなくていいから。
第一リュートはまだ12歳よ。まさか私の年を忘れたわけじゃないわよね、17よ、17。5つも離れてるの!」
「てめぇの娘の歳を忘れるほど耄碌してるわけがあるか!5つや10の違いがなんだってんだ!俺と死んだかかあなんざ13歳差だぞ!?あの坊主なら見込みもあるし、騎士の妻になりゃオメェだって楽ができんじゃねぇか」
「楽したいなんて考えてないの!私は、父さんのこの店を継ぐって決めたんだから!」
「はぁ!?何言ってやがる!父親の言うことが聞けねぇってのか!?」
「聞けないわよ、この幼女趣味!」
「幼女趣味ぃ!?」
「13歳差っていったら、今の私の年齢で4歳の子供に手をだすって事よ!?幼女趣味じゃなくてなんだって言うの、この変態!」
「実の親を変態呼ばわりかこのバカ娘!!」
目の前で喧嘩に発展してしまった親子二人に、いったいどうしたものか。
「やはりよく似た父娘だな、お前達は…」
思わず漏らした言葉に、
「「似てない」」と二人揃ったユニゾンで答えが返る。
「よぉ、なにもめてんだ?」
そこに入ってきたのは、見慣れたひとりの男。
「けっ。セイン、おめぇかよ」
「いらっしゃい、セインさん!」
見事に真っ二つに割れた二人の反応。
その原因はこの男の態度にある。
「この酔っぱらい店主、俺は客だぜ?愛想の一つも振りまいたらどうなんだよ?」
入ってくるなり、既に赤い顔をしていた店主の男を皮肉り、どかりと彼の前に座り込む。
「その点メアリーちゃんはいいよなぁ。可愛いし気立てはいいし。どっかの腐れジジィの娘とは思えないね。
どうよ?メアリーちゃん。おじさんのお嫁に来ないか?」
「うちの娘に色目使うんじゃねぇよ、このチンピラ野郎が」
「お父さんお客さんに失礼でしょ!…セインさん、今日はお食事ですか?」
セインの言葉にほんの少し顔を赤くしながらも、冗談であると聞き流し注文をとろうとするメアリー。
「そ。もう腹減っちゃってさ。いつもどおりメアリーちゃんのおすすめ、適当に二つくらい寄越してくれるか?腹に貯まりそうなもんがいいな」
「わかりました。…お父さん、注文入ったわよ!!」
「聞こえてるよ!くそ、しゃあねぇな…」
料理人を雇う余裕などあるはずもなく、当然料理をするのは男その人だ。
厨房に消えてゆくその背中に、イザベラがふぅとため息を吐く。
「ごめんなさいね、おじさん。うちのお父さんが色々迷惑かけて」
「いや…。むしろ、式の話は有難いと思ったよ。俺じゃあ思いつかないことだからな」
彼女が考えていることを、ろくに分かっていない。
「余計なことしてるっていうのはわかってるんだけど、私、イザベラさんのこともおじさんのことも大好きだから…」
大好きな二人の為になにかしたい、そう言われて断る事などどうしてできるだろうか。
「だが、本当にいいのか?お母さんのドレスを」
やはり、気になるのはそこだ。
「いいのよいいの。それに、ドレスだってイザベラさんに着てもらったほうが幸せだわ。イザベラさん、とっても美人だもの」
ドレスが見劣りしないように頑張って刺繍をするからどうしてもイザベラさんに着て欲しいの、と言われ、言葉に詰まった。
「私にとってはイザベラさんはお姉ちゃん…ううん、お母さんみたいなものだから」
その晴れやかな笑顔は、心からそう思っているのだろう。
「もし私が結婚することがあれば、またそのドレスを着るからいいよ。
ふたりのお母さんが着たドレスだもん。きっと幸せになれる気がする。
…だから、いいでしょ?」
「…わかった」
うなづいた瞬間、「やったぁ!」とメアリーが飛び上がる。
「お父さん!おじさんに許可もらったよ!」
「おぅ!んじゃあ、後は詳しい話を決めるだけだな・・・っとメアリー!料理をそこのクズ騎士にもってけ!」
「は~い。ってお父さんお客さんに対してその言葉遣い…!」
父親に呼ばれ、厨房に向かっていくメアリー。
「なぁ、さっきっからなんの話ししてんの?」
ようやく口を挟む余地を見つけたのか、先に彼が頼んだ酒を勝手に口にしながらセインが尋ねる。
「俺とベラの式をここでやるそうだ」
「はぁ!?式ってあれだろ!?教会とかでやる…。そういや、お前ら式を挙げてなかったのか…。だけどなんで今?つか、どんな話になってんの」
「息子が寄宿舎に入る前に形だけでも記念の式を挙げてはどうかと勧めてくれたんだ。マリーのドレスをベラの為に手直ししてくれるらしい」
「…マリーって、メアリーちゃんの母親だろ?いいのか?」
「俺もそれは聞いたんだが、本人が構わないと言ってくれてな…」
本当に、いい娘だ。
妻が可愛がるのもよくわかる。
最近少し妻に性格が似てきたような気すらするが、それは気のせいと思いたい。
「しかし、今更結婚式ね…。金はどうすんだ?前借りしとくか?」
「それもなんとかなるって話だ。勿論、俺も出すものは出すがな」
流石にすべてを任せきりにするつもりは毛頭ない。
「大丈夫なのか」
「まぁ、なんとかなるさ」
妻が喜ぶのなら、どうとでもできる。
「お前も参加するだろう?」
「そりゃ当然。俺はお前の親友だぜ?俺を呼ばずに誰を呼ぶってのよ」
「それもそうだな」
肩を組み、楽しそうに笑い合う二人。そこに料理がやって来る。
「はい、お待たせしましたセインさん!…二人共、本当に仲がいいですね」
「おうよ。俺達は一心同体だぜ」
「気味の悪ぃこというんじゃねぇよこのクズ。てめぇよりはコイツの方が全然まともだっての!」
もうひとつの料理を運んできた父親が、わざと乱暴に料理をテーブルに運び毒づく。
「相変わらず腹の立つオヤジだな…」
けっと横を向き酒をかっ食らうセイン。
「前から思ってたんだが、なんでお前たちは仲が悪いんだ…?」
不思議そうに首をかしげる。
「二人共、おじさんの一番仲良しは自分だって思いたいんですよ。
要は男のくだらない嫉妬です。おじさん、本当に気づいてなかったんですか?」
「すまないな…」
本当に、馬鹿な男ですまないと思っている。
そんな自分の友人の座を男ふたりが争っている、というのも相当バカな話だとは思うが。
相変わらずギャーギャーもめている二人に視線を送り、彼は少しだけ嬉しそうに微笑む。
「おじさん、大人気ですね」
「俺も好きだよ、二人共。…いや、一番はメアリーかな?」
「ふふ。私もです。イザベラさんには内緒にしてくださいね」
冗談だとわかってはいても嬉しそうにメアリーは笑う。
「あぁ、内緒だ」
口元に指をあてて笑い合う二人。
賑やかな酒場の夜はそうして過ぎていく。
それは、式のまだ数ヶ月前になる話――――。
肩を組み、ドン、っとテーブルに酒瓶を叩きつける男。
馴染みの酒場のオーナーで、数年前に妻を亡くして以来一人で娘を育てあげている元・騎士だ。
「オメェら夫婦、式もせずに結婚しちまったんだろ?俺らが協力してやっから、ここで挙げちまえよ、式」
それは、思ってもみない一言だった。
「イザベラにはうちのメアリーも世話になってるしよぉ。
オメェんとこの息子ももうそれなりの歳になってんだろ?数年後には騎士学校に入隊できるってぇ話じゃねぇか。
立派な息子で結構なこったが、そうなりゃしばらく寮生活だろ。今のうちに三人で記念を残すのも悪くねぇ話だろ」
彼のすぐ前に陣取り、当たり前のような顔をしてまかない飯をかっ込む男。
「そうよおじさん。イザベラさんのドレス姿、見たくないの?」
給仕として店を手伝っていた一人娘のメアリーが、そんな父親を援護する。
ほんの少しそばかすの残る、赤毛の娘。
自分の妻が娘のように可愛がっている少女だ。
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自慢ではないが、まだまだ薄給の身だ。
最近になってようやく城門を守る騎士の一人として配属されたが、地位としては最低の位。
本来ならば結婚をする際に式を行うはずだったのだが、それを拒んだのは妻だ。
その時には既に身重であった事と、これから生活していく為の資金として費用を残したいと言われ、それもそうかと納得したのだ。
だが、自分も騎士としていつまで生きていられるかわからない。
息子が巣立っていこうとしていく今、もし叶うのならば式はいい記念になるのではないか、そんな気持ちもある。
「金のこたァ心配するなって!式も宴会もここでやりゃあいいし、どうせ祭り好きのやつらは公然と飲める機会を探してやがるんだ。祝儀がわりにそいつらから金をせしめて盛大にパーっとやろうや!な?」
「ドレスはうちのお母さんが昔使ったものを再利用すればいいと思うの。私、今から刺繍を入れて新しいドレスにも見劣りしないように仕上げてみせるわ!だからお願い、ね、おじさん」
妻によく懐いた少女は、自身の本当の母のドレスを妻の為に作り直してくれるという。
「…本当にいいのか?マリーの遺品を」
「あぁ?いいに決まってんだろ!残しといたって、どうせ誰も着る人間なんていねぇしよ」
「メアリーが嫁ぐ時に着ればいい」
母のドレスを娘が引き継ぐ、それが自然だ。
だが、男はそれを鼻で笑う。
「は、無理無理!こんな気の強ぇ娘誰が嫁にもらってくれるってんだ!」
「ちょっとお父さん!?」
ばん、っとメアリーは父親の背中を強く叩き、父親が握ったままの酒瓶を容赦なく取り上げる。
「メアリーはいい娘だ。お前に似て責任感が強く、お前の妻に似て情が深い。
お前は嫁にやりたくないんだろうが、なんなら婿でもとればいい。この店を継がせるつもりはないのか?」
彼は亡くなった男の妻とも面識があった。
マリーは体が弱く、娘を生んでからはほとんど起き上がることすらできなくなってしまったが、それでも愛情深い優しい女性だったのを覚えている。
娘のメアリーは彼の妻が面倒を見ていたせいもあってか確かに少し気の強い性格になったようだが、それでも十分愛嬌はあるし、彼の妻が教え込んだ刺繍の腕もなかなかだ。
嫁の貰い手がない、というのは半ば父親としての希望だろう。
「こんなしけた店、いつ潰しちまっても構わねぇさ。
…ま、オメェんとこの息子が婿に入ってくれるってんなら話は別だけどよ。
うちの娘でよけりゃ、いつでもくれてやるぜ」
なぁ?とメアリーに向けてにやりと笑う男。
「おじさん相手に何勝手なこと言ってんのよこのクソ親父!」
「クソ親父とは失礼なやつだな。おめぇ、実はリュートの奴に惚れてんだろ。
俺だってオメェの父親だからな。そんくらいのこたぁ見りゃわかんのさ。
…なぁ、今すぐってわけじゃねぇが、よかったら考えといてくれよ。な!」
娘思いの父親は、真っ赤な顔になった娘に思い切り足を踏みつけられようと、平然とした顔で笑っている。
「おじさん、こんな酔っぱらいのいうことなんて気にしなくていいから。
第一リュートはまだ12歳よ。まさか私の年を忘れたわけじゃないわよね、17よ、17。5つも離れてるの!」
「てめぇの娘の歳を忘れるほど耄碌してるわけがあるか!5つや10の違いがなんだってんだ!俺と死んだかかあなんざ13歳差だぞ!?あの坊主なら見込みもあるし、騎士の妻になりゃオメェだって楽ができんじゃねぇか」
「楽したいなんて考えてないの!私は、父さんのこの店を継ぐって決めたんだから!」
「はぁ!?何言ってやがる!父親の言うことが聞けねぇってのか!?」
「聞けないわよ、この幼女趣味!」
「幼女趣味ぃ!?」
「13歳差っていったら、今の私の年齢で4歳の子供に手をだすって事よ!?幼女趣味じゃなくてなんだって言うの、この変態!」
「実の親を変態呼ばわりかこのバカ娘!!」
目の前で喧嘩に発展してしまった親子二人に、いったいどうしたものか。
「やはりよく似た父娘だな、お前達は…」
思わず漏らした言葉に、
「「似てない」」と二人揃ったユニゾンで答えが返る。
「よぉ、なにもめてんだ?」
そこに入ってきたのは、見慣れたひとりの男。
「けっ。セイン、おめぇかよ」
「いらっしゃい、セインさん!」
見事に真っ二つに割れた二人の反応。
その原因はこの男の態度にある。
「この酔っぱらい店主、俺は客だぜ?愛想の一つも振りまいたらどうなんだよ?」
入ってくるなり、既に赤い顔をしていた店主の男を皮肉り、どかりと彼の前に座り込む。
「その点メアリーちゃんはいいよなぁ。可愛いし気立てはいいし。どっかの腐れジジィの娘とは思えないね。
どうよ?メアリーちゃん。おじさんのお嫁に来ないか?」
「うちの娘に色目使うんじゃねぇよ、このチンピラ野郎が」
「お父さんお客さんに失礼でしょ!…セインさん、今日はお食事ですか?」
セインの言葉にほんの少し顔を赤くしながらも、冗談であると聞き流し注文をとろうとするメアリー。
「そ。もう腹減っちゃってさ。いつもどおりメアリーちゃんのおすすめ、適当に二つくらい寄越してくれるか?腹に貯まりそうなもんがいいな」
「わかりました。…お父さん、注文入ったわよ!!」
「聞こえてるよ!くそ、しゃあねぇな…」
料理人を雇う余裕などあるはずもなく、当然料理をするのは男その人だ。
厨房に消えてゆくその背中に、イザベラがふぅとため息を吐く。
「ごめんなさいね、おじさん。うちのお父さんが色々迷惑かけて」
「いや…。むしろ、式の話は有難いと思ったよ。俺じゃあ思いつかないことだからな」
彼女が考えていることを、ろくに分かっていない。
「余計なことしてるっていうのはわかってるんだけど、私、イザベラさんのこともおじさんのことも大好きだから…」
大好きな二人の為になにかしたい、そう言われて断る事などどうしてできるだろうか。
「だが、本当にいいのか?お母さんのドレスを」
やはり、気になるのはそこだ。
「いいのよいいの。それに、ドレスだってイザベラさんに着てもらったほうが幸せだわ。イザベラさん、とっても美人だもの」
ドレスが見劣りしないように頑張って刺繍をするからどうしてもイザベラさんに着て欲しいの、と言われ、言葉に詰まった。
「私にとってはイザベラさんはお姉ちゃん…ううん、お母さんみたいなものだから」
その晴れやかな笑顔は、心からそう思っているのだろう。
「もし私が結婚することがあれば、またそのドレスを着るからいいよ。
ふたりのお母さんが着たドレスだもん。きっと幸せになれる気がする。
…だから、いいでしょ?」
「…わかった」
うなづいた瞬間、「やったぁ!」とメアリーが飛び上がる。
「お父さん!おじさんに許可もらったよ!」
「おぅ!んじゃあ、後は詳しい話を決めるだけだな・・・っとメアリー!料理をそこのクズ騎士にもってけ!」
「は~い。ってお父さんお客さんに対してその言葉遣い…!」
父親に呼ばれ、厨房に向かっていくメアリー。
「なぁ、さっきっからなんの話ししてんの?」
ようやく口を挟む余地を見つけたのか、先に彼が頼んだ酒を勝手に口にしながらセインが尋ねる。
「俺とベラの式をここでやるそうだ」
「はぁ!?式ってあれだろ!?教会とかでやる…。そういや、お前ら式を挙げてなかったのか…。だけどなんで今?つか、どんな話になってんの」
「息子が寄宿舎に入る前に形だけでも記念の式を挙げてはどうかと勧めてくれたんだ。マリーのドレスをベラの為に手直ししてくれるらしい」
「…マリーって、メアリーちゃんの母親だろ?いいのか?」
「俺もそれは聞いたんだが、本人が構わないと言ってくれてな…」
本当に、いい娘だ。
妻が可愛がるのもよくわかる。
最近少し妻に性格が似てきたような気すらするが、それは気のせいと思いたい。
「しかし、今更結婚式ね…。金はどうすんだ?前借りしとくか?」
「それもなんとかなるって話だ。勿論、俺も出すものは出すがな」
流石にすべてを任せきりにするつもりは毛頭ない。
「大丈夫なのか」
「まぁ、なんとかなるさ」
妻が喜ぶのなら、どうとでもできる。
「お前も参加するだろう?」
「そりゃ当然。俺はお前の親友だぜ?俺を呼ばずに誰を呼ぶってのよ」
「それもそうだな」
肩を組み、楽しそうに笑い合う二人。そこに料理がやって来る。
「はい、お待たせしましたセインさん!…二人共、本当に仲がいいですね」
「おうよ。俺達は一心同体だぜ」
「気味の悪ぃこというんじゃねぇよこのクズ。てめぇよりはコイツの方が全然まともだっての!」
もうひとつの料理を運んできた父親が、わざと乱暴に料理をテーブルに運び毒づく。
「相変わらず腹の立つオヤジだな…」
けっと横を向き酒をかっ食らうセイン。
「前から思ってたんだが、なんでお前たちは仲が悪いんだ…?」
不思議そうに首をかしげる。
「二人共、おじさんの一番仲良しは自分だって思いたいんですよ。
要は男のくだらない嫉妬です。おじさん、本当に気づいてなかったんですか?」
「すまないな…」
本当に、馬鹿な男ですまないと思っている。
そんな自分の友人の座を男ふたりが争っている、というのも相当バカな話だとは思うが。
相変わらずギャーギャーもめている二人に視線を送り、彼は少しだけ嬉しそうに微笑む。
「おじさん、大人気ですね」
「俺も好きだよ、二人共。…いや、一番はメアリーかな?」
「ふふ。私もです。イザベラさんには内緒にしてくださいね」
冗談だとわかってはいても嬉しそうにメアリーは笑う。
「あぁ、内緒だ」
口元に指をあてて笑い合う二人。
賑やかな酒場の夜はそうして過ぎていく。
それは、式のまだ数ヶ月前になる話――――。
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