異世界TS転生後、元の世界に召喚されたら前世の○○が夫になりました。

隆駆

文字の大きさ
上 下
13 / 28
ブラック企業に勤める社畜OLが異世界トリップして騎士の妻になるそうです

ようこそここへ、私の青い鳥(Verリュート)

しおりを挟む
「いいこと、リュート。
どうしても欲しいと思うものができたら、何事も最初が肝心なの」
過たず落とせ、と真剣な顔をしてまだたった12歳の息子に告げるのは、よく似た顔の母。
没落した元貴族の出身、という根も葉もない噂まで流れるほどの美貌を駆使し、正しく欲しいものを手に入れた母親の言葉に、リュートは深くうなづいた。
息子の目から見ても、父親を深く…それこそ根深く愛していた母。
どこかのほほんとして穏やかなあの父は、母曰く「とても難しい人」なのだそうだ。
一つでも間違えれば、すぐに消えてしまう。
でも、一緒にいられればとても幸福な気持ちになれる。
幸せを告げる鳥のような人だと。
鳥を捕まえるのに必要なのは鳥かごではない。
ただ、鳥がそこに帰ってきたいと思わせることができればいい。
そこが自分の居場所だと、分からせてやればいいのだと。
愛という名の”鳥籠”は、知らず知らずのうちに鳥の羽を奪い取り、逃げ道をふさいでいく。
それを不幸と思わなければ、鳥もまた幸せだ。
―――毎日、母とともに穏やかに笑う父は、きっと不幸ではない。


「リュート様!今日のごはんは牛ホホ肉の煮込みです!ほっぺが落ちそうな仕上がりですよ!」

ホクホクした顔の彼女を見ると、それだけで幸せになれる。
だが、それだけでは満足することができないのは、母の血なのだろう。
大切に、大切にしまいこんで―――この腕の中にいてほしい。


最初に彼女を見たとき、あぁ、ようやく戻ってきたのだと思った。
幸せの鳥。
母が見失った、大切な鳥が。

ならば今度こそ、確実に囲い込まなければ。
もう一度失ってしまう、その前に。


彼女――ミハルが仕事をくれと言い出した時、チャンスだと思った。
それを理由にすれば、彼女は自分の傍を離れられない。
…もっとも、あれほど仕事漬けの生活を送らせる予定ではなかったのだが、彼女の能力は想定外だった。
館に閉じこもって延々書類の整理を続けるだけの生活を苦にも思わずやってのけるとは、さすがに思っても見なかったことである。
初めのうちは、早い段階で人を雇い入れ、彼女との時間を増やすはずだった。
溜まってしまった執務は、そう簡単に終わるものではなかったし、手伝うと言ってくれたその言葉だけでも嬉しいと。
だが、実際に蓋を開けてみればどうだ。
ほぼ完璧に近い仕事をやってのけた彼女は、有能であるがゆえに他を寄せ付ける隙を見せることもなかった。
つまり、他人に仕事を手伝わせるよりも、彼女一人に全てを任せてしまったほうが圧倒的に早い。
彼女の故郷は、彼女は今よりもはるかに多くの仕事を任されていたと聞き驚いたが、今では納得がいく。
恐らく優秀すぎるが故に、人の手に任せることなく全てを自分の手で終わらせていたのだろう。
そして周囲もそれを当然のように思ってしまっていた。
それ故の荒仕事ハードワーク
止めなければと思いつつもつい続けさせてしまったのは、彼女によってもたらされる実益があまりに大きかったことと、少なくとも今の状態であれば確実に彼女を自分の元に置いておけるという打算から。
事実、彼女はほとんどの時間を自分リュートとともに過ごし、ほかに目を向ける暇などありもしない。
彼女がこの領地にとっても有益であることはすぐに知られることとなり、自身が何もせずとも、周囲の人間がこぞって気をきかせ、外堀を埋める手伝いをするようになったのは、想定外の幸運だった。
――それでも、ここまで来るのに2年もかかるとは。
自分や周囲が考えている以上に、彼女は己をわかっていない。
直ぐにでも囲い込みたいと思わせるその有能さも、年若く愛らしい一人の女性であるという自分自身も。
領主である自分が彼女を過去っている状態で有るからこそ、領のものは誰も彼女に手を出そうとしない。
だがそうでなければ、彼女のもとにはすぐに大勢の男が馳せ参じてきたことだろう。
事実、一年を過ぎたあたりで、「彼女を妻にするつもりがないのなら、ぜひうちの息子に…」と言い出すものが現れた。
勿論無言の笑顔で黙らせ、それ以上を言葉にさせることはなかったが、不快だったのは間違いない。
決定打は、つい先日のこと。
領地として収入が圧倒的に増えたことなどを理由に、リュート自身への縁談が各地から送りつけられるようになり、その一つをみはるが目にすることになった。
その時の、彼女のセリフ。

「お~。見てくださいリュート様!巨乳です!むちゃ巨乳ですよ!!
…あ、でもこれ絵姿ですもんね。いくらでも修正できるかぁ…。日本の見合い写真だって半ば詐欺レベルで修正できるしな。でも絵姿通りの巨乳だって可能性も0ではないわけですし、どうします?リュート様。
お見合い、お受けしますか?」


―――笑顔で「否」と即答した自分は、きっと身も心も凍りついていたことだろう。

「そうですか、残念ですねぇ。リュート様は巨乳好きではない、と。
これからもこういうお話は増える一方でしょうし、好みのタイプを教えていただければ、こちらで選りすぐって見合いをセッティングしておきますよ」

朗らかに笑うみはるを前に。
多少強引にでも彼女を手に入れてしまおう。
そう、決意した瞬間だった。
そうして全ての外堀を埋め、彼女を手に入れることができたその時。
自分は、幸せを噛みしめるよりも早く、恐怖したのだ。
この幸せを失ったとき、自分は一体どうなってしまうのだろう、と。
決して失えないものを手に入れてしまった、その恐ろしさを。




―――だからこそ、「彼」に封書を出した。




それが失敗だったのか、果たして正しかったのか。

―――答えが出るのは、これからだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

処理中です...