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プロローグ
あるブラックな環境に生きた騎士の最期
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本当に、自分という男は救いようのない馬鹿なのだろう。
背中に突き刺さった矢は、肺までを貫通し、声は出ず、ヒューヒューとした息だけが口から漏れた。
気づかなければ良かったのだ。
王を直接守る役目を担っているのは、貴族階級出身の騎士達。
その彼らが見落とした暗殺者の姿になど、なぜ気づいてしまったのか。
「王!ご無事ですか!」
「即位式の最中を狙うとはなんという……!あぁ、ご無事で何よりです」
ただ、物陰から王を狙うその姿に気づいてしまったら、後は無意識だったとしか言い様がない。
儀式の最中、突然動き出した彼を静止しようとした同僚を振り切り、王の前に飛び出した。
王を暗殺すべく放たれた矢が、目標の正面に立つ彼を打ち抜いたのは、当然の事だ。
「暗殺者だ!!」
「どこから射ってきた!!?探せ、逃がすな!」
周囲の騒然とした音が、だんだんと小さく、遠くなっていく。
代わりに近づいて来るのは、つま先から徐々に侵食するような、死の気配。
「おい、大丈夫かっ!?」
―――大丈夫に見えるならお前の目は節穴以下だな。
余程そう返してやろうかと思ったが、残念ながら声は出ない。
誰もが王の元へ駆けつける中、ただひとり彼の元へやってきたのは、長年付き合いのある同僚だ。
数年前に行った彼の結婚式にも出席し、その席で酔っ払って散々に管をまいた、腐れ縁の友人である。
「このバカ!何でお前が出てったんだよ!近衛騎士のやつら、何してんだ!こんな馬鹿に遅れを取るようなら、近衛なんてさっさと解散しちまえ!!」
声を荒らげる男は、散り散りに動き始めた近衛を睨みつけ、暴言を吐く。
常であればその無礼を咎めるだろう騎士たちも、今回ばかりは誰ひとり構うものはなく、それどころか男達に視線を向けるものすら誰もいない。
王を保護し、暗殺者を探す、その為に動き出した騎士たちには、すでに用済みとなった”盾”の一つなど、どうでもいいに違いない。
所詮は使い捨ての道具。それが今回はうまく役に立ってくれた、その程度の認識しかないのだ。
『それが分かってんならどうして飛び出したんだ!』
そう、友人であるこの男なら言いそうだが、つい体が動いてしまったのだから勘弁して欲しい。
どうせ自分は馬鹿なのだ。救いようのない、大馬鹿だ。
せめてもの救いは、顔も性格も嫁に似た息子が、自分とは大違いに優秀なことか。
今度、騎士の試験をトップで通過し、まもなく王城へと上がるはずだった、息子。
平凡な願いかもしれないが、せめて息子の結婚式は見たかったな、と思う。
自分に似ず美形な息子は、いづれかわいい花嫁を連れてきたに違いない。
立派な式を挙げてやって、義理の娘には「お義父さん」と呼ばれたかった。
やがて生まれてくるだろう孫を、妻とともにでろでろに甘やかすのだ。
―――妄想と言われればそれまでだが、結局全てが、馬鹿な自分のせいでおじゃんになったのだと思うと、情けなくて涙が出そうだ。
この先、息子の未来を見続けることはもうできないのだと、それを考えるだけで。
これほど、己の命を惜しいと思ったことはない。
せめて声が出るのなら、友人であるこの男に妻と息子の世話を頼みたい。
そう思い、最後の力を振り絞ったその口元から吐き出されたのは、大量の鮮血。
「死ぬな!おいまて、まだ死ぬんじゃねぞ!!」
吐き出された鮮血を真正面から受け、自身もまた血にまみれながら、叫ぶ男。
彼らの傍に誰かが駆け寄ってくる気配を感じる。
もしかしたら治癒をできる人間がやってきたのかもしれないが、すでに手遅れだ。
『あぁ、惜しいな』
そう思ったのが、彼の最後の記憶だった。
背中に突き刺さった矢は、肺までを貫通し、声は出ず、ヒューヒューとした息だけが口から漏れた。
気づかなければ良かったのだ。
王を直接守る役目を担っているのは、貴族階級出身の騎士達。
その彼らが見落とした暗殺者の姿になど、なぜ気づいてしまったのか。
「王!ご無事ですか!」
「即位式の最中を狙うとはなんという……!あぁ、ご無事で何よりです」
ただ、物陰から王を狙うその姿に気づいてしまったら、後は無意識だったとしか言い様がない。
儀式の最中、突然動き出した彼を静止しようとした同僚を振り切り、王の前に飛び出した。
王を暗殺すべく放たれた矢が、目標の正面に立つ彼を打ち抜いたのは、当然の事だ。
「暗殺者だ!!」
「どこから射ってきた!!?探せ、逃がすな!」
周囲の騒然とした音が、だんだんと小さく、遠くなっていく。
代わりに近づいて来るのは、つま先から徐々に侵食するような、死の気配。
「おい、大丈夫かっ!?」
―――大丈夫に見えるならお前の目は節穴以下だな。
余程そう返してやろうかと思ったが、残念ながら声は出ない。
誰もが王の元へ駆けつける中、ただひとり彼の元へやってきたのは、長年付き合いのある同僚だ。
数年前に行った彼の結婚式にも出席し、その席で酔っ払って散々に管をまいた、腐れ縁の友人である。
「このバカ!何でお前が出てったんだよ!近衛騎士のやつら、何してんだ!こんな馬鹿に遅れを取るようなら、近衛なんてさっさと解散しちまえ!!」
声を荒らげる男は、散り散りに動き始めた近衛を睨みつけ、暴言を吐く。
常であればその無礼を咎めるだろう騎士たちも、今回ばかりは誰ひとり構うものはなく、それどころか男達に視線を向けるものすら誰もいない。
王を保護し、暗殺者を探す、その為に動き出した騎士たちには、すでに用済みとなった”盾”の一つなど、どうでもいいに違いない。
所詮は使い捨ての道具。それが今回はうまく役に立ってくれた、その程度の認識しかないのだ。
『それが分かってんならどうして飛び出したんだ!』
そう、友人であるこの男なら言いそうだが、つい体が動いてしまったのだから勘弁して欲しい。
どうせ自分は馬鹿なのだ。救いようのない、大馬鹿だ。
せめてもの救いは、顔も性格も嫁に似た息子が、自分とは大違いに優秀なことか。
今度、騎士の試験をトップで通過し、まもなく王城へと上がるはずだった、息子。
平凡な願いかもしれないが、せめて息子の結婚式は見たかったな、と思う。
自分に似ず美形な息子は、いづれかわいい花嫁を連れてきたに違いない。
立派な式を挙げてやって、義理の娘には「お義父さん」と呼ばれたかった。
やがて生まれてくるだろう孫を、妻とともにでろでろに甘やかすのだ。
―――妄想と言われればそれまでだが、結局全てが、馬鹿な自分のせいでおじゃんになったのだと思うと、情けなくて涙が出そうだ。
この先、息子の未来を見続けることはもうできないのだと、それを考えるだけで。
これほど、己の命を惜しいと思ったことはない。
せめて声が出るのなら、友人であるこの男に妻と息子の世話を頼みたい。
そう思い、最後の力を振り絞ったその口元から吐き出されたのは、大量の鮮血。
「死ぬな!おいまて、まだ死ぬんじゃねぞ!!」
吐き出された鮮血を真正面から受け、自身もまた血にまみれながら、叫ぶ男。
彼らの傍に誰かが駆け寄ってくる気配を感じる。
もしかしたら治癒をできる人間がやってきたのかもしれないが、すでに手遅れだ。
『あぁ、惜しいな』
そう思ったのが、彼の最後の記憶だった。
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