うらにわのこどもたち

深川夜

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うらにわのこどもたち3 空中楼閣

世界の断片・5

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 白と黒はあの世の色だと教わった。それが真実かどうかは知らないが、成程この世界は彼岸にあると納得したものだった。
 白い世界。白の強調された研究施設。それは穢れを知らぬ神聖な場所であると殊更強調しているようだった。それ故に闇が際立つ。清潔な狂気が隅々に満ちていた。
 その人が何を思って自分の手を引いたのかは分からない。施設内にこもりきりの自分を気遣っての事だったのか、単なる気まぐれだったのか。施設の外にある庭に初めて行った。いつか本で見た赤い薔薇。足元の柔らかな緑。消毒液とは違う草木の香り。
 足元の緑、これはクローバーというのだとその人は言った。緑の中に白い花が咲いている。周囲を見渡す。隅に見たことのない小さな青い花が咲いていた。あれはと聞くと、あれは勿忘草わすれなぐさと言うのだと教えてくれた。その人の顔を見る。柔らかな春の日差しが眩しい。
 唐突に「色彩」というものを理解した。色彩は確かに施設内にもあった筈なのに、色彩と「喜び」という感情が結びついたのは、自分の心が喜びに強く揺り動かされたのは、この時が初めてだったように思う。

 その人の指先が頬に触れた。
 そうして初めて、自分が泣いている事に気がついた。
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