うらにわのこどもたち

深川夜

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うらにわのこどもたち2 それから季節がひとつ、すぎる間のこと

補完する世界(3/3)

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「ぜってーおこられる……」

 大規おおきが去った後、ぬいぐるみの山に顔をうずめて、真白ましろが呟く。

「気にしすぎだよ。真白ましろちゃん、悪いことしたわけじゃないんだし」

 よしよし、と慰めるように、真白ましろの背中を蒼一郎そういちろうがさする。状況が飲み込めていないであろう白雪しらゆきも、声を頼りに、真白ましろの肩のあたりをぺたぺたと触っている。

「あはは、真白ましろ、初懲罰室かー。頑張れー」
「お前はもう少し人を気遣うことを覚えろ」

 意地悪く声を投げかける眠兎みんとを、十歌とうたがたしなめる。蹴り飛ばしたい気持ちをぐっと抑え、はいはい、と適当に返事をしてから、改めて、十歌とうたにだけ聞こえるように囁く。

「……君ってこっちでは流暢りゅうちょうに喋るよね、

 「うたくん」とは、「もう片方の世界」で、眠兎みんと十歌とうたを呼ぶ時の呼び名だ。
 賭けだった。少なくとも、十歌とうたには、この世界とは別の記憶がある。それが自分と同一の世界かどうかは分からない。だから――僅かでも手がかりを得るために、ほんの少し、リスクを冒すことを選んだ。
 十歌とうたは一瞬、驚いたように目を見開く。息をのみ、とっさに何か言おうとして、ぐっと拳を握り締めた。

「……分かった。賭けよう」

 深く息を吐きながら、彼も意を決したのか、眠兎みんとにだけ聞こえるよう、小声で呟く。

「〝本棚はあった〟……残りは、〝教室〟で」

 二人はそのまま、何事も無かったかのように離れる。

(――ビンゴ)

 賭けた甲斐があった。十歌とうたは「別の眠兎みんと」を知っている。しかも、「うたくん」という呼び名への反応と、「教室」という単語から推察するに、同一の世界かそれに類似する世界で、互いが接触し、かつ仲間以上の関係を築いている可能性が極めて高い。その上、十歌とうたは「別の世界の十歌とうた」と記憶の共有ができている。

 まだ未確定なものだらけではあるが、リスクを冒した分の見返りは、あった。

(さて、吉と出るか凶と出るか)

 日野尾ひのおと、大規おおき
 「こどもたち」を創り出した、この施設せかいの神様。

 眠兎みんとは改めて、自分の意志を確認する。

 自分が何のために創られて、何の意図と思惑から「こども」とされたかは知らないけれど、簡単に思い通りになんてなってやるものか。「物語」にだって、選択の自由がある。
 ――そう、神の意思に反し、禁断の果実に手を伸ばすかどうかを選択するのは、僕自身だ。
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