うらにわのこどもたち

深川夜

文字の大きさ
上 下
25 / 69
うらにわのこどもたち2 それから季節がひとつ、すぎる間のこと

case3.真白(2/2)

しおりを挟む
 ひとしきり笑ってから、おれはさらにたずねる。

「それで、その、かみさま? ってすげーやつは、どんなやつなの?」
「……ええー……?」

 もったいぶるように、みんとはにやにやしている。

「さっきの話より、更に抽象的で難しい話になるけど、真白ましろ、ついてこれるの?」
「で、……できるだけ、おれにもわかりやすくは、できねー?」

 みんとはにやにやしたまま、おれのかおをしばらく見て、メガネのいちを直しながら、「ま、今回は特別にいっか」と言った。

「まず、これから話す事は、真白ましろにも分かりやすい超ざっくりした話で、かつ僕の個人的な考えが入っている、という事を覚えておくこと。いい?」

 おれはぶんぶんとうなずく。

「さっき話した通り、神様、っていうのは、ヒーローより強い。というか、世界で一番強い」
「すげーな神様!」
「うん。すごい。厳密げんみつな話をすると違ってくるんだけど、とりあえず真白ましろは、神様は世界で一番強いと覚えておけばいい。なんてったってこの世界を創った存在だから、すごい」
「世界を?」
「そう。昼も夜も、空気も空も雲も、太陽も月も、この世界にあるものは全て神様が創った」
「すげー」

 おれは神様をそうぞうしてみる。うまくそうぞうできない。でも、そうぞうできないくらいすごいことは、分かる。

「神様は世界を創ったくらいだから、何でも知ってるし、何でも分かる。むしろ知らないことや分からないことなんてない」
「そーいちろうがよろこびそうだな」
「あー、確かに。蒼一郎そういちろうがもし神様に会うことができたら、ひたすらに教えをうだろうね」

 神様、にあれこれしつもんするそーいちろうがあたまにうかぶ。たぶん、みんともおなじことをかんがえているんだと思う。口元に持ってきたにぎりこぶしから、笑ってるくちびるがみえかくれしている。

「で、だ。そんな神様なんだけど、人によって信じている神様が違う」
「え……? 神様っていっぱいいるのか? いっぱいいたら、いちばんつよいっていえねーんじゃないのか?」

 きゅうによく分からなくなった。

「自分の考える神様こそが本物だー! って言って、お互いに喧嘩けんかしたり、相手を殺す奴もいる。まあ、誰も神様そのものを見たことがないから、何が本物で何が偽物なんて言えないと、僕は思うけど」
「えぇ……」

 はなしがぶっそーだ。

「だれも見たことないんだろ? 見たことないのにケンカするのか?」
「するね。見た事ないのに、何故か絶対いるって信じてる奴が多い。で、自分の考える最強の神様のイメージがそれぞれ違うから喧嘩けんかになる」
「わかんねー……」
「そのくらい、お互いに譲れない存在だって事なんだろ」

 バカにしたようにみんとは言う。

「信仰の対象が一神教か多神教かによっても話が……あー、ここは覚えなくていいや。とにかく、その超強い神様が本当にいたとしたら、どの神様が本物、というよりは、どの神様も本物なんじゃないかと僕は思う。つまり、見え方の問題」

 そう言って、みんとはペン立てをおれの目の前においた。

「はいこれ。何でしょう」
「……ペン立て」
「じゃあこれを上から見たら、何の形に見える?」

 言われたとおり、上から見てみる。

「まる」
「横から見たら?」
「……ながしかく?」
「そういう事。同じペン立てを見ているのに、このペン立ては丸だー! って主張している人と、いいやこれは長四角だー! って主張している人が、喧嘩けんかしたり、殺しあったりしてる」
「なんだそれー……」

 ぼすっと、ベッドにあおむけになる。神様ってやつもたいへんだ。なんだかかわいそうになってきた。まるでもながしかくでもなく、神様は神様なのに。おれが神様だったらかなしい。

「おれ、神様にどーじょーする……」
「そう?僕は残酷だなって思うけど」
「なんで?」

 みんとはふふふ、と笑う。

「言ったじゃん。何でも知ってるんだよ?自分の創った人間って生き物が、丸だ長四角だって喧嘩けんかしてるのも分かってるはずなのに、普通そのままにする?僕ならつぶし合うのを笑って見てるけど、神様も同じ考えなのかな」
「せーかくわりーかんがえ」
「馬鹿よりマシ。はい、講義終わり。帰れ」

 おいはらうように手をふられ、おれはしぶしぶ立ちあがる。

「ちぇー。じゃー、そーいちろうのとこいこーかなー」
蒼一郎そういちろうのところ?」
「今の神様のはなし、したらよろこびそーだし」
「したらいいよ。……ああそうだ。僕からも一つ質問」
「なに?」


十歌とうたが来てからあいつの部屋行った?」


 へんなしつもんをされた。なんだそれ?と思ったけど、みんとの声はいつもよりかたいかんじがした。

「おー……。なんどか、あそびにいったぜ。トランプしたり、おしゃべりしに」
「……あいつの部屋さ、十歌とうたの荷物やベッドが増えた以外に、変わったとこなかった?」
「変わったとこ?」
「例えば、何か無くなったとか」
「えー?……うーん……」

 へやのようすを思い出してみる。とーたが来る前の、そーいちろうのへやと、いまのそーいちろうのへやのようす。

「んんー……あれ……?」

 前のそーいちろうのへやって、どんなだったっけ……? 思い出そうとしても、はっきりと思い出せない。

「えーと、……どうだったかな……とーたのベッドとかつくえとかはふえたけど、あとはそんなに変わってないと思うぜ? なんで? どーかしたのか?」

 おれがきくと、みんとはしんけんなかおをしてだまってしまった。なんだかすこし青ざめて、かおいろがわるいようにも見える。

「みんと?」
「いや、何でもない。僕の気のせい」
「そっか……?」

 みんとのことがしんぱいだった。でも、こういうとき、なんていえばいいのかわからなかった。どうすればいいか分からなくて、おれはそっとへやを出た。

 バカよりマシ。

 ほんと、そうだな。おれも、そう思う。
 おれが、もっとかしこかったら、きっとこういう時でも、みんとを笑わせることができるのに。

「……また、あそびにくるな?」

 ドアをしめる前に、みんとに声をかける。

「……興味のある話ができるならね」

 いつもと変わらないかおで、みんとが答えた。

 *

 ……その夜、おれは、「学園」のゆめを見た。

 午前の授業が終わって、夢の中の「オレ」は制服のスカートをひるがえし、購買に焼きそばパンを買いに走る。昼の購買は戦争だ。無事にゲットした焼きそばパンやお茶を持って、眠兎みんと白雪しらゆきのクラスに向かう。二人とクラスが違うのは少しもどかしい。来年のクラス替えは、皆同じクラスになれたらいいんだけど。うちの学園、人数多いからなぁ。どうだろう。
 教室に入るなり、白雪しらゆきが「ましろーん!」と手を振ってオレを迎える。その横で眠兎みんとが机をくっ付けて、昼食をとるスペースを作っていた。

「あっ、勝ったんだね、焼きそばパン!」
「あったり前だろー!勝ったし買った!」
「おー、流石さすが真白ましろさん」

 三人それぞれに持ち寄った昼食を開ける。白雪しらゆき眠兎みんとはお弁当だ。

眠兎みんと、今日お弁当なんだ?」
「んー、無性におにぎり食べたくてねー。おにぎりならコンビニより作ろーって」
「へー。中身何?」
「おかかとー、鮭ー」
「ねーねー、しーちゃんのも見てよー!今日は玉子焼き、いつもよりキレイに焼けたんだよー?」
白雪しらゆきのはいつも美味おいしそうじゃん」
「ちーがーうーのー!今日のはもっと上手なのー!」

 いつもと同じ、賑やかな昼休み。
 あはは、と、三人で笑い合っていると、誰かの視線を感じた気がして、何気なく顔をそちらへと向ける。教室の入口に、誰かが立っている。

(……あれ)

 知らない顔だ、と思った。誰だっけ、この先生。いや、先生か?表情がよく見えない。視力には自信があるのに、そいつは突然現れたゲームのバグのように、存在自体にノイズがかっているように見える。それなのに、なぜだろう。
 こいつは、ひどかなしんでいる。なぜか、それだけははっきりと分かる。
 目をこする。いない。

「なあ、今そこに――……」


 はっとして目がさめる。むねのあたりがぎゅっとして、目からなみだがぼろぼろ出る。
 へんなゆめを見た気がした。へんなゆめのなかで、なにかとてもへんなものを見た気がする。思い出せない。なんで、こんなきもちなんだろう。わからない。わからない。でも、いま、とても。

 かなしくて、くるしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

処理中です...