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うらにわのこどもたち2 それから季節がひとつ、すぎる間のこと
プロローグ
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鈍色の空から、大粒の雨が落ちてくる。ぽつり、ぽつりと落ちてきた雨が強くなるまで、そう時間はかからなかった。
日野尾は窓から顔を出して空を見上げる。水の匂いに草木の匂いが混ざった、雨の日特有の匂い。髪を雨で濡らしてしまいそうで、慌てて顔を引っこめる。
薄暗い室内に立つ彼女の白衣を、跳ねた血液が赤く染めている。雨が彼女を濡らすように、所々に飛び散る鮮やかな赤色。特に裾の辺りは、ずぶ濡れの赤だ。室内にいるというのに、彼女はまるで、傘をさして赤い雨の中を帰ってきたようだ。実験体を一体、処分してきた後だった。先程まで目の前で繰り広げられていた光景を思い出し、彼女は僅かに眉を寄せる。眼鏡の奥、大粒のリチア雲母のような瞳に、苛立たしげな色が宿った。
激しい雨音を遮るように、彼女は窓を閉める。窓ガラスに点々と、雨粒が模様を描く。室内に響くのは、小さな秒針の音と、くぐもった雨音。その音を聴きながら、彼女はぼんやりと窓の外を見つめる。
「………………」
彼女は暫くそうしていたが、やがてため息をついて窓の傍を離れた。汚れた白衣を脱ぎ、新しい白衣に着替える。彼女にはやや大きい白衣の袖を、肘の辺りまで何度か折ってから、脱いだ白衣を洗濯かごへと乱雑に突っ込む。それを持って、彼女は再び窓の外を見た。
梅雨の季節。激しい雨音も、それにけぶる世界も、まるでノイズが走っているようだ、と彼女は思う。世界の輪郭が曖昧に歪む。
今更か。世界はずっと、歪んだままだ。
彼女は思い直して、部屋を出る。
なかなか明けない梅雨はこうして始まった。
何もかもを、雨の世界に閉じ込めたまま。
日野尾は窓から顔を出して空を見上げる。水の匂いに草木の匂いが混ざった、雨の日特有の匂い。髪を雨で濡らしてしまいそうで、慌てて顔を引っこめる。
薄暗い室内に立つ彼女の白衣を、跳ねた血液が赤く染めている。雨が彼女を濡らすように、所々に飛び散る鮮やかな赤色。特に裾の辺りは、ずぶ濡れの赤だ。室内にいるというのに、彼女はまるで、傘をさして赤い雨の中を帰ってきたようだ。実験体を一体、処分してきた後だった。先程まで目の前で繰り広げられていた光景を思い出し、彼女は僅かに眉を寄せる。眼鏡の奥、大粒のリチア雲母のような瞳に、苛立たしげな色が宿った。
激しい雨音を遮るように、彼女は窓を閉める。窓ガラスに点々と、雨粒が模様を描く。室内に響くのは、小さな秒針の音と、くぐもった雨音。その音を聴きながら、彼女はぼんやりと窓の外を見つめる。
「………………」
彼女は暫くそうしていたが、やがてため息をついて窓の傍を離れた。汚れた白衣を脱ぎ、新しい白衣に着替える。彼女にはやや大きい白衣の袖を、肘の辺りまで何度か折ってから、脱いだ白衣を洗濯かごへと乱雑に突っ込む。それを持って、彼女は再び窓の外を見た。
梅雨の季節。激しい雨音も、それにけぶる世界も、まるでノイズが走っているようだ、と彼女は思う。世界の輪郭が曖昧に歪む。
今更か。世界はずっと、歪んだままだ。
彼女は思い直して、部屋を出る。
なかなか明けない梅雨はこうして始まった。
何もかもを、雨の世界に閉じ込めたまま。
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