無敵な女王様

慧野翔

文字の大きさ
上 下
6 / 18

裏女王様の恋愛分析・2

しおりを挟む

 それはあくまでも偶然だった。
 昼休みに、音楽準備室へと写真部で使う暗幕を借りに行った時だった。
 音楽準備室にある暗幕は防音のために使われることもあるが、普段はあまり使われないので、俺達写真部が本格的に現像する時に暗室を作るため、たまに借りることがある。

「あっ! やだっ……」

 ずしっとする暗幕を抱き抱えて部屋を後にしようとした俺の耳に、誰かの喘ぎ声が聞こえてきた。

「ん……?」

 どうやらその声は、隣の音楽室から聞こえてきたようだ。

(昼休みに音楽室でね……大胆なことで)

 別に人の濡れ場に興味のない俺は、そのまま準備室から出て行こうとした。
 すると……。

「やだって言う割には、ここは嫌がってないよ?」
「あっ、馬鹿……!」
(え……どっちも男?)

 二人の会話はどちらも、男だった。
 隣でヤッているのが男同士だとわかった途端、俺の好奇心が膨れ上がった。

(少しだけなら……いいよな)

 俺は隣の二人に気づかれないように、そっと音楽室へと続くドアを開けてみた。
 ドアの隙間から覗いて見ると、ピアノの向こう側から誰かの生足が見える。

(おっ、綺麗な足。アレなら顔もきっと美人だろうな)

 俺がそんなことを思っていると、その足の間に顔を埋めていたもう一人の男が身体を起こした。
 その男の顔を見て、俺は驚いて声を出しそうになる。
 なぜならそこには、親友である千歳の姿があったからだ。

(千歳が……男と? 相手は……?)

 以前は女との噂が絶えなかった千歳が、まさか男と寝てるなんて、さすがに俺も気づかなかった。
 相手の顔を俺が確認しようとした時だった。

「そろそろ入れてもいいよな? 深海」

 千歳の言葉に、一瞬、俺の思考が止まる。

(深海って……まさか、会長か?)

 千歳の相手が会長だとわかった途端に、俺の中で色々な疑問が解けていく。
 さっきの二人の間にあった、あの微妙な空気はこれだったのだ。
 でも、あの雰囲気からして二人が付き合っているってことはないようだ。
 もし付き合っているとしたら、あの千歳の切なげな視線の説明がつかない。
 それと、もう一つわかったことがある。
 俺は千歳に抱かれている会長へと視線を移し、その考えを確信する。

(会長は……男に抱かれ慣れてない)

 媚びる様子も、芝居もなく、純粋に千歳に与えられる刺激に反応している。
 きっと千歳以外の男に抱かれたことなんてないのだろう。
 俺は二人に気づかれないように、音楽室と準備室を繋ぐドアをそっと閉めた。
 さすがに親友の秘密の逢瀬を盗み見する趣味は俺にはない。

「あの噂も、案外当てにならないもんだな」

 暗幕を持ち、準備室を出た俺はそう呟いた。
 俺の言う『あの噂』とは会長に関してのものだった。
 聖都学園生徒会長・深海優弥は『学園の女王様』と一部で呼ばれていた。
 一年生と思えないようなクールな態度で、男女、年齢問わず、自分の虜にする高慢な女王様。
 女にもモテるが、それとは別に『その綺麗な容姿で次々と男を手玉にとっている』というのも有名な噂だった。

「生徒会メンバーは全員、会長のセフレだ……なんて話もあったのにな」

 それが実際はどうだろう? 色々な男を手玉に取るどころか、たった一人の男の腕の中で可愛く乱れているお姫様じゃないか。
 千歳にしても、以前は途切れることがなかった女遊びの噂が最近はまったく聞かなくなったと言うことは、会長一人に絞っているということだろう。

「どっちもピュアだねぇ……」

 俺は失笑と共にそう呟く。
 別にあの二人を馬鹿にしているわけではない。
 ただ、自分にはあの二人のような付き合いは出来ないと思ったからだ。
 男と女なら、ある程度なんとかなってしまうことでも同性となると難しい。
 千歳達だって傍から見たら『恋人』って言える関係なのに、実際には付き合っていないのがその証拠だ。
 ……どうせ、男を好きになったって上手くいくわけがない。
 相手がノンケなら、失恋なんて当たり前。
 勇気を出して告白しようものなら、気持ち悪がられて自分が傷つくだけだ。
 たとえお互いに好きでも、世間の目はそんなに優しくはないだろう。
 その世間の目を誤魔化して、いつまで一緒にいられる?
 どうせ奪われる温もりなら最初から望まなければいい。

「やっぱり、男と恋愛なんて……俺には出来ないなぁ」

 愛がなくても、一時の温もりと快楽があれば、それでいいじゃないか。
 きっとそれが、一番傷つかなくてすむ方法なんだ。
 そう思っていながら、千歳と会長が幸せになれればいいと願っている自分がいる。
 あの二人は、絶対にお互いを想い合っているはずだから、世間の目に負けて欲しくない。
 俺は密かに親友達にエールを送りながら、写真部の部室へと向かった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

イケメン変態王子様が、嫌われ者の好色暴君王にドスケベ雄交尾♡で求婚する話

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
他国の王様に惚れた変態王子様が、嫌われ者でヤリチンのおっさん国王を、ラブハメ雄交尾♡でメス堕ちさせて求婚する話。 ハイテンションで人の話を聞かない変態攻めが、バリタチだった受けを成り行きでメス堕ちさせちゃうアホエロです。 ・体臭描写 ・デブ専描写 ・受けが攻めに顔面騎乗&アナル舐め強要 ・受けのチンカス・包茎描写 ・マジカルチンポ/即堕ち などの要素が含まれます。 ノンケ向けエロでたまに見る、「女にケツ穴舐めさせる竿役」ってメス堕ち適正高いよな……ガチデブ竿役が即オチするとこが見たいな……って思ったので書きました。 攻め…アホでスケベな変態青年。顔だけはイケメン。デブ専、臭いフェチ、ヨゴレ好きのド変態。 受け…バリタチの竿役系ガチデブおっさん。ハゲでデブで強面、体臭もキツい嫌われ者だが、金や権力で言いなりにした相手を無理矢理抱いていた。快楽にクッソ弱い。 試験的に連載形式にしていますが、完結まで執筆済。全7話、毎日18時に予約投稿済。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

処理中です...