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その他
失恋の特効薬を探して三千里
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※ 複数から攻められます。主人公がモッテモテです。
主人公 孝橋(たかはし) 年中暴走気味。
縹(はなだ) 失恋中。孝橋の幼馴染。
被害者 霧里(きりさと) 王族系イケメン。金髪。ダビデ像。
恵永(えなが) 爽やか系。男女共にモテすぎて彼女作れない。
青大(せいだい) サッカー馬鹿。スポーツ馬鹿と見せかけて頭がいい。
俺の名前は縹(はなだ)。親しみを込めて縹きゅんって呼んでいいよ。今それどころじゃないけど。
「死にたい……」
「朝からやめてくれよ。コーヒーと紅茶どっちにする?」
こんなに可哀想な俺の言葉を軽く流してコーヒーか紅茶か聞いてくるのは、幼馴染の孝橋(たかはし)。中坊の時、八ツ橋と言い間違えたらめちゃくそ怒られた。けっこう怖い奴。
だが今はそんなこと構ってられない。とにかく話を、この気持ちをぶつけたい。
「どっちの気分でもないわ! 俺の話聞いてくれよ!」
「やだよ。また、推してたアイドルが結婚したとか好きな漫画のキャラに彼女出来たとか。お前の悩みなんてそんなんばっかじゃん」
「おぶぼぼぼぼ! てめぇ! 馬鹿にしとんのか! ファンにとっちゃどっちも致命傷なんだぞ!」
「砂糖はお好みで入れてくれよ」
ふわりと香るコーヒーの香り。一旦抗議を中断してお気に入りの黒砂糖を、スプーンでざくざく入れていく。
「で? 何が死ぬの?」
「俺。見てこれ」
一枚のハガキを孝橋に差し出す。
「カズキじゃん。……え? あいつ、結婚したの?」
マイカップを片手に、死んでる俺とハガキを交互に見つめている。
「花嫁さん、きれいだねー」
「ぐう……」
「あー……。お前。カズキに惚れてたもんな」
「うっ、ううっ」
ずっと好きだった。でもあいつは女の子が好きだから。告白もしなかった。関係が崩れるよりは、友達のままでいたかったから。
ついに、友達でもいられなくなった。
「やだよ……。そりゃ幸せになってほしいけど。ずびっ。独身のままでいてほしかった」
机に突っ伏して、もう、泣くしかない。せっかく孝橋が淹れてくれたコーヒーもどんどん冷めていく。
「……」
孝橋は俺の斜め前に腰掛けた。
「やっぱり結婚話じゃん。お前、それ以外で悩むこと無いのか?」
友人も冷めていた。
「そこは慰めてくれよ!」
「だるいんだよ。毎回毎回同じことで……。よく飽きねぇな。感心するわ」
この冷酷人間が!
滝のような涙を流しながらだんっと机を叩く。
「そこは『俺にしとけよ……』とか言って本性を露わにする場面だろ。今、冷たい言葉とか求めてない!」
「俺もお前とか求めてないわ。なんだその妄想。キッショいな」
「うわあああぁあ~」
じたばた暴れて涙を流す。こんな泣き方は幼稚園とアイドルが結婚した時と漫画のキャラに彼女が出来たとき以来だ。
孝橋はもう俺のことなど見ずに、ぺらりと雑誌をめくった。
〈孝橋視点〉
「……」
あほの同居人が部屋にこもったまま出てこなくなった。
「おい。縹。朝飯は? どうすんだ?」
ノックしてみるも返事はない。まさか死んでないよな? 失恋で自殺、無い話では無い。
「入るぞ?」
返事も待たずに扉を開けると部屋は真っ暗だった。ベッドの上で塊を発見。
毛布にくるまった縹だった。
ひとまず、生きていたことに安堵する。
ベッドに近寄り、声をかける。
「具合悪いのか? 縹?」
「ううっ。ぐすっ……」
ハガキを見ながら、涙を落としていた。目が真っ赤だ。涙がたくさん落ちたハガキもふにゃふにゃに湿っている。
(まさか、一晩中泣いてたのか?)
わずかに胸が痛んだ。
昨日、もう少し優しくしてやれば良かったか……。
「縹」
「……」
もぞっと塊が動く。顔を見られたくないとばかりに背中を向ける。
「いまは、そっとしといて……」
「……縹。…………」
「おばえ、なんが。っ。おまえなんか、きらいだ」
「……」
俺は部屋から出ると朝食に焼いた目玉焼きとウインナーの乗った皿をトレイに乗せ、縹の部屋へ戻る。
「嫌いで結構。俺もそんなに好きじゃない。でも朝飯は食え。徹夜すんな、馬鹿」
「……」
鼻をすすりながら縹がぎっと睨んでくる。が、そんなぐちゃぐちゃの顔なんて怖くない。
ベッドに座り、ウインナーにフォークを突き刺す。
「食べろ。ほれ。あーん」
「……今、ずびっ。優しくしないで」
「殺すぞ。口開けろ」
「なんでお前の方が、キレてんだよ」
しばしウインナーを見つめたが、縹は口をつけなかった。フォークと皿をトレイごと取り上げる。
「ちゃんと食べるから。……出てって」
「残すなよ」
早足で部屋から出る。あ、飲み物忘れた。けどまあ、あいつもガキじゃないんだ。
それより、やることがある。
俺はさっと着替えると外に出た。
失恋には新しい恋が特効薬と聞いたことがある。
あいつも、新しい恋に夢中になれば傷もやわらぐんじゃないか?
(カズキって、爽やかなスポーツマンで、良い奴で、男女ともに人気があったやつだよな?)
つまり、それが縹の好み、タイプだ。
縹。あいつは外見をあまり注視しない中身重視マン。外見は無視すればいい。
(爽やかで人徳がある、か。それでもハードル高いな)
そんな奴、二人も三人もいるだろうか。そして縹を好きになってくれるなんて、目眩のする確立だ。
だが、何もしないよりはいいはず。
(まずは片っ端から知り合いに声をかけて)
「ヨォ。孝橋。考え事か?」
大学の図書館。ノートに連絡が取れる知り合いを書き出していると、隣に誰かが座る。
声からして、
「霧里か。サボりか?」
「こっち見ろって」
顎に手を添え、顔を強制的に動かされる。
「? やっぱお前じゃん。何?」
「……はぁ~~~。先は長そうだ」
長いため息と共にがくっと項垂れている。
俺の知り合いその①の霧里(きりさと)だ。
忍者の末裔のような名前だが、本人は物語の王族のようなイケメンフェイス。キラキラオーラ全開で、すっごい目立つ。
忙しいので相手にせず、ノートにシャーペンを走らせた。
「さっきから何? 誰の名前書いてるの?」
ぐっと身体を寄せてくる。
ほんのりいい香りのする霧里が手元を覗いてくる。こいつ毎回、違う香水つけてるけど、香水マニアか?
「知り合いの名前」
「なんで?」
「いい奴、いないかなって」
「いいやつ?」
ああもう、うるさい! 話しかけてくんな。
「何しに来たんだお前は。本読んでろ」
「じゃあ、教えてくれよ」
「失恋には新しい恋って、言うだろ?」
急に霧里が背筋を伸ばした。
「ど、どど、え? どういう、意味?」
「好きだった奴が結婚しちまってな……。恋人になれそうな人を」
シャーペンを握る手に、霧里が手を重ねてくる。
自他共に認める短気な俺はブチギレかけたが、噴火する前に抱きしめられた。
「は?」
「ちょっと、ちょっと聞き流せないんだが。孝橋。おま、け、結婚って……。おま、嘘だろ?」
「ああ?」
霧里が俺の髪をさらっと掬う。
「……。次の恋を探しているのか?」
「そう言ってんだろ。沈めんぞ」
「俺は? どうかな?」
「お前?」
ふむ、と俺は何故か抱きしめられた状態でこいつの顔を見つめる。
外見はパーフェクトだ。異国の血が混じっているせいかダビデ像を思わせる深い彫りに、天然の金髪。大きい雄っぱい。派手な赤いシャツが霞むほどのフェロモンを撒き散らかしている美男子がこいつだ。
だがなー性格がな……。
「お前、女好きのヤリチン野郎だろ。お呼びじゃねぇよ。消え失せろ」
そんな奴を弱っている縹に紹介できない。二度と口利いてもらえなくなる。
胸を押さえて霧里が呻き出した。
「ゴフッ……酷い誤解だ。確かに女の子は好きだが、ヤリチンは撤回してくれ」
「声震えてんぞ」
頬杖をついてノートを眺める。だいたいは出揃ったか?
「よし。連絡していくか」
スマホを取り出すと、即座に奪い取られた。
奥歯を粉砕する勢いで噛みしめる。
「殺すぞ」
図書館とか関係なく机をぶっ叩く。
「怒るな……。おい。孝橋。ヤケになってないか? 失恋したからって、こんな。誰でも良いみたいじゃないか」
誰でも良いんだよ。あいつの心が軽くなるなら。
腕を伸ばす。
「返せ」
その手首を掴まれた。力任せに引き寄せられる。
「っ」
間近に迫った文句のつけようのない顔面に、一瞬のけ反る。
「自暴自棄になるな。過去の男は忘れろ。孝橋。俺にしとけ。幸せにしてやる」
深くて、低くて、心が痺れる声。
「はあ?」
お前が、あいつの何を知ってんだよ! ……もしかして知り合いだったのか? 縹と?
「お前に、幸せに出来るとは思えない」
爽やかなスポーツ人徳マン以外、本気で必要ない。
腰に手を回し、霧里は耳に唇を近づける。
「つれないことばっか言うもんじゃねぇぜ? 孝橋」
「ちょ、マジ。スマホ返せ。俺は午後から講義なんだ」
「……」
席を立つと、俺の腕を掴んだまま霧里が図書館を出ていく。
「おおい! お前いい加減にしろよ」
「ついてこい」
図書館を出たので遠慮なく大声出すが、霧里はずんずん進んで行く。
あああ! んだよこいつ。
ハッ、待て。もしかして、知り合いの爽やかスポーツ人徳マンを紹介してくれる、とか?
(なんだよ、ばっか。そうなら言えって)
それなら大人しくついていこう。
「?」
すんっと別人のように大人しくなった俺に、霧里は不気味そうに振り返ったが何も言わなかった。
到着したのは使われていない部屋っぽいが、誰もいない。
「おい。爽やかスポーツマン人徳は?」
「は?」
室内を見回すもやはり誰もいない。念のため机の下も探すが、誰も潜んでいなかった。
ガツンと机を蹴りつける。
「騙したな!」
「何が?」
引き気味の笑みを浮かべながら、霧里は鍵を閉める。
「スマホ返せ。とりあえず」
「……はぁ」
疲れたように首の後ろを掻いている。だが、顔を上げると瞳に熱が、炎のように滾っていた。
「言葉で伝わらないのなら、身体に教え込んでやるよ」
ズンズンと大股で近寄ってくる。
「おい。俺は真剣に……」
どんっと、霧里の両腕が顔の横を通り抜けた。背後の壁とこいつの腕で閉じ込められる。
グレーの瞳が、間近で覗き込んでくる。鼻先が触れ合いそうな距離。
香水の香りが、強くなった。
「俺だって真剣だぜ? 孝橋。俺の物になれよ」
「はあ……?」
そんなに縹のことを? まあ、そこまで言うなら。本人に、紹介くらいはしてやるか。
あいつ、霧里の好意に気がついてないだろうから。
鈍いからな。
「……分かったよ」
「え?」
「お前、ヤリチンなところを除けば好物件だし」
「違うからな?」
何が違うんだよ。女の子を食っては捨てて食っては捨ててって噂だぞ。
「いいから、スマホ返せ。報せるから」
「……何を?」
縹に決まってんだろ! あいつのことが好きなら、縹のこと以外考えるな!
何口元引きつらせてんだ。
「同居人に。霧里が好きだって伝えるから」
霧里が膝から崩れ落ちた。が、すぐに起き上がってくる。
「……あれだな? なーんか、食い違ってるな? 俺が好きなのは、な?」
「貸せ」
こいつのポッケから俺のスマホを引っ手繰る。
えーっと。あいつの電話番号は……
「孝橋」
「ああ。ちょっと待て。いま繋げるから」
「俺が、好きなのは、お前だ」
「……」
プルルルル。プルルルル。プルルルル……
「出ないっ! あ、もしかして、寝てるのか?」
徹夜してたっぽいしな。くそ! 吉報を届けてやろうと思ったのに。
「まあいいわ。おい。霧里。俺たちの家に来い。見合いをセッティングしてやる」
ぽんっと肩を叩いて通り過ぎようとしたが、後ろから伸びてきた腕に引き戻される。
その時、スマホが手から落ちた。
「……?」
ふと瞼を開ける。スマホが鳴った気がしたんだが、夢の中だったかな?
泣きすぎて目が痛い。痛いって言うか、熱い。アイスノンで冷やしたい。
「うう」
むくりと起き上がる。時計を掴むと、朝と昼の狭間の時間だった。
(孝橋は、学校か……)
机を見ると皿の上に、齧りかけのウインナーと、かっぴかぴになった目玉焼きが。
喉を通らなかった。せっかく作ってくれたのに、悪いことしたかな。
「はあ。もう当分恋はしたくないぜ」
皿を持つと、飲み物を入れに部屋を出た。
机の上に押さえつけられている。
「ん、う……」
その上に霧里が覆いかぶさっているので重いし、腰が痛い!
手首を握られた状態でもがいていると、唾液を啜っていたダビデ像がようやく口を離した。
「孝橋」
「どけ! 死ぬ。腰が!」
「……」
耳がキーンとなったのか、項垂れて首を振っている。金の髪が、陽射しを跳ね返しキラキラと眩しい。
「まだ余裕そうだな」
「霧っ……」
口が重なる。こいつの形が良く分厚い唇。足の間に霧里の脚がねじ込まれているため、膝を曲げるたびに股間を押され、ビクッと跳ねた。
手首から手が離れるとすぐに肩を掴むが、日本人離れした体格を押し返せない。顎を掴まれ、もう片方の手は胸に添えられる。
「んっ……」
うまく呼吸できずに苦しくなってくる。
なんでこいつは! 忙しい時に! 俺が幼稚園の時、遠足のバス乗り遅れた並みに焦っている時に。
「おい……」
ぎゅううっと肩を握ると、同じように胸を揉まれた。
「ッ」
「お前。今自分がどういう状況か、分かるか?」
「触るな。何やってんだお前は!」
「……。結構長くキスした割に、元気いっぱいだな、お前は。肺活量どうなってんの?」
起き上がろうともがくも、簡単に押さえつけられる。こいつは俺の腰に何の恨みがあるんだ。
「あー。とにかくあれだ。話を聞け」
「聞いてるだろ。お前、縹が好きなんだろ?」
「誰?」
「は?」
なんで記憶喪失してんだ。ま、いい。写真見せれば思い出すだろ。スマホに写真が……スマホどこだ。
「ちょ、どけ! 写真見せてやるから」
「孝橋? キスしたのにノー反応は辛いぜ?」
「俺にキスしてどうすんだ!」
霧里が窓際で項垂れた。一体何がしたいんだ。あ、あれか。キスの練習って奴か。女の子でたくさんしとるだろボケが! 彼女一生いない俺への当てつけか?
スマホを拾い、操作しながら赤いシャツを引っ張る。
「おい。霧里。見ろ」
「……ん?」
死んだ目で振り返る。腰を摩りながらスマホを突きつけた。
「……誰? この黒髪地味娘は」
「男だ」
「心底興味ないぜ?」
時間返せよテメェ!
人生でここまで時間を無駄にしたのは初めてだ。もうお前に用はない。
ドスドスと教室を出ていく。
「孝橋」
「ついてくんな! 念仏唱えてろ!」
「???」
切り替えるんだ俺。次の知り合いの元へGO! だ。
「なあ。恵永(えなが)。黒髪ってタイプだったりしないか?」
スポーツマン爽やか人望に声をかける。
「た、孝橋?」
男女問わず囲まれキャーキャー言われているところ申し訳ないが。こいつも好物件だ。偶然「は行の黒髪童顔面倒男子」が好きだったりしないかな?
恵永は取り巻きに「ごめんね」と断りを入れ、この時間人気の少ない食堂に移ってくれた。
こういう所が好ましい知り合いその②。
「黒髪がどうしたって?」
「恵永お前、黒髪が好きじゃないか? 黒髪以外眼中に無いとか、どうだ? なあ」
「お、落ち着けって」
つい胸ぐらを掴んでしまった。すまん。
落ち着こう。
「落ち着いた」
「そうか? お、俺は……落ち着いた茶髪が、好み、かな?」
俺の髪を見ながら頬を掻く恵永に撃沈した。
ぐっっっ……! なんだろう。この、自分の力ではどうしようも出来ない出来事にぶつかった際の重みは! 良い人生経験になったぜ。
いや待て! まだ希望を捨てるな。写真を見れば考えが変わるかもしれない。「俺、今日から黒髪派として生きていくわ」って澄んだ瞳で言い出すかもしれない。言ってくれ頼む。
「見ろ」
スマホを突きつける。
「誰? これ」
「お前! こいつと付き合ってみないか⁉」
「…………ッ……⁉」
恵永がよろけた。
? な、なんだ? その「好きな人から『この子、恋人にどう?』って勧められた」時のような反応は。
「……むごい」
何故かついてきた霧里が、後ろで額を押さえている。
某ボクサーのように力なく椅子に腰かける恵永。
「ごめん。俺、す、好きな子が……いるんだ」
「そんな! ど、どんなやつ? 黒髪?」
すっと指を差してくる。すぐさま背後に振り向くが、だ、誰もいない。まさかこいつ! 視える、のか⁉
どんっと床を殴る。
「クソが!」
「嘘……。伝わって、ないの?」
「強敵だぜー。孝橋は。キスしてもスルーしてくるしよ」
恵永に肩ポンする、霧里。
聞き捨てならないと、ぎっと金髪イケメンを睨んだ。
「キス? 無理矢理したの? 孝橋に?」
「ああ。空き部屋に連れ込んでキスして、スルーされた」
「…………」
遠い目をする高身長美男子。
恵永の目が、怒るべきか同情するべきかで揺れる。
「そう……」
同情した。
「恵永! どうしてもその人のことが好きなのか?」
床を殴った手が痛い。なんで床に勝てると思ってしまったのか。
詰め寄ると恵永の頬が染まる。
「う、うん」
「チッ! 時間取らせたな」
くっそ! こいつが一番良かったのに。ついでに言うと外見も文句なしだ。早く縹に「こいつお前のことが~」って言いたいのにィ。
食堂を出ようとすると恵永に腕を掴まれる。
「? 何?」
「いや……。どんな風にスルーされるのか、試してみようかと」
「は?」
俺の背に腕を回し抱き寄せると、唇を重ねてくる。
流行ってるのか? キスが。
「お。いいねぇ。混ぜてくれよ」
「っ⁉」
後ろから抱きついてきた霧里が胸に手を伸ばしてきた。くりくりと指で乳首を刺激し始める。
「ッ、ん!」
文句をまき散らしたいが口は塞がれている。
「んぐ、っん」
真似したのか、恵永が尻を揉んできた。片方の手にしっかり頭部を掴まれているので、キスを振り払うこともできない。
「はっ、ん、く」
「お。いいねぇ。胸が弱いのか?」
「さあね。お尻かも、よ」
こいつら。
――人が少ないだけで、この時間食堂は無人ってわけじゃないんだぞ!
隅っこにいるとはいえ、ちらほらと視線を向けてくる人が現れる。そしてもれなく飲み物を吹き出していた。
「ん、ん。っぁ……」
「やべ。滾ってきた」
霧里が強引に俺単品を持って行こうとするが、セットで恵永もついてくる。
花壇の花が美しい、どこだここ。校舎裏か?
「お前ら、いい加減っ」
すぐさまさっきと同じ立ち位置になった。
苦しいのに口を封してくる恵永に、胸から股間へと手を滑らせる霧里この野郎てめぇは許さん。
「んンッ!」
「お。ここ触って反応無しだったら虚しかったから嬉しいぜ」
尻と股間を同時に、男の手で揉まれる。
「はっ、ふ……ふ、ぅ……」
何してんだこいつら。
身を捩るが四つの手を振りほどくのは難しそうだ。おまけに、
「ぐっ、う」
「邪魔するぜ」
スルッと、霧里の手がズボンの中に入り込む。
「んっ!」
「濡れてきてるな。いい具合だ」
下着の上から触れてきやがる。
そこ、触られると、力が入らな……
「んっ、ん」
ぼーっとしてくると熱い舌が侵入してきた。口内を舐められると、ビクッビクッと立っていられなくなっていく。
(もうやめろって……。こいつら……。やだ……)
呑み込めない唾液が顎にまで流れていく。
「へえ? エロいじゃん? 孝橋。素直になれば俺の横に、嫁として置いといてやるが」
すかさず睨んでくる恵永に肩をすくめる。
「やだね。ライバルが多くて嫌になる」
「それならこの場から消えれば?」
口元を手の甲で拭いながら、恵永が俺を抱きしめてくる。
「おいおい。一日にふたりから消えろって言われる身にもなってくれ。堪えるぜ」
「あ。ごめん」
「……」
この場合。素直に謝られた方が、ダメージがでかい。
「おま、お前ら。一回どけ。俺は次の候補に会いに行くから」
「……もしかして、ずっとこんなスタンプラリーしてるの?」
恵永が引き気味に訊ねてくる。
仕方ないだろ。俺だってやりたくないわ。でも、縹がずっと元気出なくて、衰弱していったらやだし。可哀想だし。何より俺に迷惑がかかる!
「そうだ」
「はなだ……くん? 孝橋と一緒に住んでる幼馴染、だっけ?」
「そうそう! お前ら。どっちでもいいわ。あいついま、失恋で塞ぎこんでて。次の恋で元気が出ると思うんだ! 付き合ってくれ!」
「「……」」
二人のイケメンが目元を押さえて、何とも言えない暗い空気になった。人が真剣に頼んでいるのに暗い雰囲気を出すな!
「お前『が』付き合ってくれって言うなら、二つ返事で引き受けたがな」
「縹くんと付き合ってくれって、意味だよね? 今の?」
「あーそうだ。頷けボケ共」
霧里はロングため息を吐くと、ズボンに入れっぱなしの指を再び動かした。
「うわっ! お前ッ」
「はいはいはい。傷ついた俺たちの心を癒してもらいましょう」
恵永まで。
「はあっ⁉ ちょ」
なんで? 話聞いてたか? 俺は次の……
〈霧里&恵永(孝橋被害者の会)視点〉
俺は霧里。自分でもイケてるなと思う美男子だ。
鏡見てもイケメンしか映らないしな。生まれた瞬間、は覚えてないが保育園の時からモテ散らかしたぜ。園児より、マダムたちからの人気がすごかった。
目立つんだよな。この美貌と金髪が。日本ではよ。
中学時代に一度誘拐されかけた。美しいって罪だな。トラウマになって一年くらい引きこもったのは内緒だ。今でも車が背後から近づいてくると焦るわ。
女の子に一日たりとも不自由しなかったが、そろそろ新しい風を入れたくなった。その時に大学で見かけたのが孝橋だ。
イケメンだがダウナー系で、派手好きの俺様の好みではなかった。すぐに忘れたが、手が早く瞬間湯沸かし器を凌ぐ沸騰具合。一度突っ走ると(人間関係の)交通事故も恐れない機関車。自分に必要のない話題は一切頭に入らない右から左技術。
リアルで「おもしれー男」してしまった。
(反則だろ。あんな……見た目のくせによ)
ダウナー系は一番好みから遠いのに、中身が。好み過ぎる。
何度かアホでもわかるアプローチを仕掛けてみたが、渾身のスルー祭りだった。モテたことしかなかった俺の自信を粉末にしてくれ(やがっ)た男だ。何とか手に入れたかったが、ライバルがちと多いな。
「っは、ぁ……。おま、ら。やめ」
クチクチとパンツの中からやらしい音がするようになってきた。夢だったんだよ、お前をこうしてやるの。
ああ。我慢できずに俺の手はとっくに下着の中に潜っている。孝橋のナマ孝橋で遊んでいる最中だ。
「あ、アッ。そこ、吸うな、ああ」
ボタンを外し、恵永が乳首に吸いつく。孝橋は足に力が入らずガクガクだ。でも男二人に支えられているから倒れることも出来ない。辛いだろうな。
可哀そうだが、お前のそんな表情がそそるんだよ。
孝橋は恵永の腕に手を置いているが、見るからに力が入っていない。そうか。そんなに気持ちいいか。
先っぽを指でぐりぐりと弄り、もう片方は玉を可愛がってやる。
「アッアッ。あっ! きり……やめ。ああ!」
「んー? どうした? まるでベッドに行きたいと強請っているような顔してるぜ? お前。気づいてるかよ」
耳の後ろから囁くと分かりやすく腰が跳ねた。
乳首を舐めていた恵永が孝橋の顔を覗き込む。見られたくないのか孝橋は顔を背ける。
可愛い反応するじゃねぇか。
「そうなのか? 俺と二人きりで……。俺の部屋に行くか?」
「ナチュラルに俺を排除するな」
「ええ? 霧里クン。混ざりたいの?」
「こいつはお前の物じゃないだろう?」
「君のでも、ないよね?」
「やだ。っ……イ、イく」
流石にイかせれば俺の気持ちは伝わるだろうか。
「俺がイかせてあげたいんだけど。霧里クンはどっか行ったら?」
左右の人差し指で、尖る乳首をこねくり回す。
「アッ! やだ。んっ、あ、胸。や、だ」
「へえ。ここがイイんだ」
「あっ。ああ! も……う。っ……」
頬を染め苦しそうな表情の後に、一際大きく痙攣する。
すぐにグタリとへたり込んだが、俺と恵永の腕が支えた。
下着から手を引き抜く。
「あーらら。俺の手が。お前の精液で汚れちまったよ」
「……う」
白い液が付いた指を、孝橋の口の中に押し込む。
「ほら。舐めてきれいにしてくれよ」
「あが……っ」
人差し指と中指で孝橋の舌の表面をやさしく引っ掻く。
「んっ。ぁ……は」
「じゃ、次俺ね」
「んふ!」
恵永がなんの躊躇いもなく下着の中に手を差し込む。
「うっ」
「うわ。あったかい。一度イったから、か?」
出したばかりのイチモツを握られる。孝橋はわずかに身を捩ったが、その程度では抜け出せないぜ?
「孝橋。舌を動かせ」
「あっ、んぐ。は、あ」
「もう一回、イこうか」
ぐちゅぐちゅとここまで粘着質な水音が聞こえる。
「やら。ん、ああ。ん、おま、えあ」
「ぬるぬるだな。孝橋。この状態じゃ、お前も気持ちいいだろ?」
「……」
恵永にゆるく首を振るが、その反応は恵永の嗜虐性を高めるだけだ。
「そっか。でも、イったら気持ち良いってことになるよな」
「っ! ~~~っ! あ、いぐ……イグ……ッ」
ぶるるっと身体が震えたのが伝わった。イったな。
「ん……」
俺の指を咥えたまま脱力する。そろそろ座らせてやるか。
ちゅぽっと指を引き抜き、孝橋を花壇の前のベンチに座らせてやった。ぐったりしている彼がベンチから落ちたら可哀想なので、隣でしっかり支えてやる。
孝橋を挟んで、恵永も座る。
「どっか行きなよ。霧里クン。君は彼女いっぱいいるでしょ?」
「お前もな」
「俺は……そうでもないよ。下手に彼女作っちゃうと暴動が起きるし」
苦労してそうだな。俺は二番目でも良いって言ってくれるかわいこちゃんが多いから楽だぜ。両手に花が基本だ。
「だから男の、彼氏作ったら落ち着くかなって思って。だから孝橋は譲ってね?」
しっしっと虫を払う仕草をしてきやがる。おいコラ。
「……お前らなぁ」
やっと息を整えた孝橋が顔を上げる。
髪は乱れ、呼吸も荒い。頬は朱に染まっていてなんでここが大学なのかと悔やむほどに美味そうだ。
「このクソ共が! お前らと遊んでる時間は無いんだよ! 次の知り合」
がばっと立ち上がる孝橋の腕と肩を掴み、強引に座らせる。すぐに恵永が抱きしめて捕まえた。
「邪魔!」
「なんだよ。気持ち良かったでしょ? もうちょっと相手してくれよ」
「俺も。突っ込むのは勘弁してやるから。その身体で楽しませてくれ。ああ。俺はずっと背面を抱き締めていたから、正面は譲ってもらうぞ?」
「しょうがないね……。俺は後ろからヤろうかな」
「……?」
自分の身体の主導権が自分に無いことに、困惑している様子だった。
〈孝橋視点〉
「……。よぉ。青大。いま、いいか?」
こいつが知り合いの中で最後の人望マンスポーツ爽やかだ。
知り合い③の青大(せいだい)。
スポーツマンと言うかはスポーツ馬鹿だが、この際なんでもいい。
「あん? なんだよ孝橋。髪の毛ぼさぼさだぞ」
お爺さんみたいな歩き方になっている俺の髪をちょいちょいと直してくれる。
青大は髪が特に短く笑った顔が猛禽類そっくりだが、成績の良さは今までの中じゃトップだろう。ルックスも悪くない。顔、怖いけど。
「おま、お前さ。か、彼女、いるか?」
「はあ? 俺の彼女はこいつだよ」
すっと取り出したのはサッカーボールだ。あれか? ボールは友達の「ボールは彼女」バージョンか?
「そ、そうか。邪魔したな」
人類に興味が無いのなら用はない。
立ち去ろうとしたが青大が肩を組んできた。
「なんだよ。急に。まさか俺の彼女になりたくて立候補しにきたってか?」
ニヤニヤ笑っている顔面にパンチしたいが、今はそんな体力がない。
「いや。ボールと幸せにな?」
結婚式には呼ばないでくれ。
「へっ。孝橋オメェ。相手に彼女がいると分かったら身を引くタイプか?」
「は?」
「俺が欲しいんなら、もっと頑張れよ。こう、強引に唇奪うくらいにはよ」
噛みつく勢いでキスしてくる。もう驚かんぞ!
「やめろアホ!」
突き飛ばそうとしたがサッと躱される。流石の反射神経だもっと別のところで使え。
「つーか、何? やけにダボダボの服着てるじゃん? 俺へのアピールってやつ?」
おい。サッカーボール語を話すな。人語以外使うんじゃねぇ。
「霧里の服奪ったんだよ。服汚れたから(あのアホ共のせいで)」
ぴくっと、青大の眉が跳ね上がる。
「はあ? 面白くねー。あいつの服かよ。趣味悪いと思った」
あいつの服全部赤系統だからな。俺の顔面には合わないだろうな。そんなことはいい。
「なあ。青大。知り合いに恵永みたいなやついないか?」
「恵永? ああ。あの彼女作るたびに暴動が起きる奴か。……どういう意味だ?」
「付き合ってもらう」
縹にな!
そうだよ。イケメンには何故か、イケメンの友人が多い。無理に俺の知り合いの中だけで探さなくとも、こいつらに紹介してもらえば。
いい考えなのに青大の目つきが不穏なものになる。
「ああ? 孝橋。お前男でも平気なのか?」
「? うんまあ」
……あれ? カズキ男だったし。縹は男が好き……なんだよな?
あれ? 自信なくなってきた。
カズキ男=縹は男が好きって、勝手に解釈してたけど。えっと。まさか男はカズキ限定だったりしない、よな?
真っ青になっていると何か勘違いしたのか、上機嫌で青大が抱きついてくる。
「んな顔するなよ。俺に、そんな偏見はねーよ」
「いや。お前に偏見がなくとも」
縹にあったらどうしようもない。
「世間の奴らなんざ気にするな。孝橋。そうだ。俺の部屋に来いよ。天国見せてやるぜ」
「?」
恵永みたいなやつがいるってことか? そりゃ天国だが。
「俺も混ぜてくれよ」
「俺もー」
物陰から見てやがった二名がぞろぞろと出てくる。青大は分かりやすく顔をしかめた。
「んだテメェら」
霧里が同情気味に指を差してくる。
「一応言っておいてやるけど、孝橋はお前のことが好きなわけじゃないからな?」
「孝橋ちょっと落ち着きなって。自分のモテ度を確かめてくれ。はた迷惑極まりない。これ以上被害者を増やさないでくれ」
「「ああ?」」
俺と青大の声がハモる。
「孝橋は幼馴染の次の恋人を探してるだけなんだよ。ところどころ、話噛み合ってないだろ?」
ため息をつく霧里に、青大は俺の鷹を掴んでくる。
「おい。ちょっと待て。お前が付き合いたいんだろ? 俺と」
「いや? 縹っつう、幼馴染。爽やか人望マンスポーツが好みなんだと」
「おま……お前の、好みは?」
「胸のデカい女に決まってんだろ」
午後から講義なのに。「俺たちをもてあそんだ罪」としてどこかに連れていかれた。なんで?
「なんで?」
「ここまできて理解してねーのすげぇな」
「一応。俺らの大学トップなのにね……」
「頭の良さと人心を解する能力は別ってこったな」
好き放題言われているのは分かる。
「ああ。ここは俺の家だ。ま、ゆっくりしていってくれよ」
「霧里お前。王族だったのか?」
ロココ調の家具が並ぶ広いお屋敷。暖炉が空間を暖め、美しい絵画が飾ってある。窓でっか。
「いやいや。じーちゃんが金持ってるだけだ」
霧里の私室なのか、香水がずらりと並んでいる。
暖炉前の絨毯の上で、俺は両手足に手錠をつけられていた。
「なんで俺、こんな囚人みたいな扱いなの?」
三人が一斉にため息をついた。
「大学の敷地内じゃセックス出来なかったけど。ここなら存分に出来るな」
「覚悟してね?」
「おいおい。一番は俺だろ。お前らは先に楽しんでたみたいじゃねーか」
迫ってくる三人にじりじりと後退る。
「あんまり後ろ行くと、燃えちまうぞ」
「いや。おま……えら」
六つの手が俺に伸びた。
ペニスを握られ、イったばかりの先端にバイブを強く押し当てられる。
ぐりっ。
「ひぎッ――ぎゃああああああああ!」
「うわ。すげえ声」
「ここも好きなんだろう?」
もう誰がどこを触っているのか理解できないでいる。長い指が、乳首を転がす。
「いやぁ、いやあぁぁ」
涙を飛ばす勢いで首を振るが笑われるだけだ。
「次、挿れるね?」
膝裏を持ち上げられる。これも、もう何度目か分からない。
トロトロと白い液を零すナカにペニスが入れられ、一気に奥をついてくる。
「んおっ! うご、かな……」
「ああ。気持ちいい。ふかふかのナカが締め付けてくる。精液が溜まってるからすんなり入るし」
「あっアッあぅ、あっアッ!」
腰を動かされ、ナカが擦られる。
熱い棒でぐちゅぐちゅっとナカがかき混ぜられ、たまらなく気持ち良い。もう手錠が外れていることにも気がついていなかった。
「はあ、あっ、ああ、アッあっ、ん、あ」
「いいね。そのとろけた目。最高だよ」
「俺にもバイブ貸してくれよ」
「今使ってるから。口でも塞いどけ」
先端を震えさせられ、呼気ごと唇を奪われる。
息が、できな……くるじ……ぃ
「んうっ、ぐ! ひ、ん」
「泣くなよ、孝橋。俺の下半身がまた元気になっちまうだろうが」
「次は? 青大クン挿れる?」
「ああ。そうする。またギンギンになってきやがったからな」
青大の股間がそそり立っている。何度も俺のナカでイったはずなのに。まだそんな元気が……
「ほら。俺に集中して。イくよ?」
「ん、む」
「――っう、ああ」
キスされたまま、びゅくびゅくとナカにたっぷりと注がれる。
「……ッカ、あ。おなか、くる、し。も、いや……」
「ふふ。いっぱい出しちゃった。孕むといいね。あ、垂れ流さないでよ?」
三人の精液がナカで混ざり合ってて、変な気分になる。
ペニスを引き抜くと、すぐにぐちゅぐちゅとコルクのようなものでフタをする。
「んあっ。フタ、するなぁ」
「お腹膨らんできちゃったね」
「口からも注いでやりたいな」
「それだとキスが出来なくなるだろうに」
カーテンが下ろされ、個室のようになった天蓋付きベッドの上で代わる代わる欲を吐き出される。
「もう、や……だ」
「逃げんなよ。次は俺だ。また俺の精液を味わってもらうぜ」
ぼうっとしている頭を掴まれると、口にチンコがねじ込まれた。
「んぐっ……」
「あー。口の方も悪くねぇな」
「後ろが寂しいだろ? 可愛がってやろう」
四つん這いの体勢で、口とナカにペニスが突き刺さる。
「んう……んぐ」
「可愛いなぁ。俺たち以外でイけなくしてやるよ」
「さ。好きなだけ飲め」
前からも後ろからもごくごく精液を飲まされ、次に目が覚めたのは講義がとっくに終わった時刻だった。
目を開けるとアホ面が覗き込んできた。
「孝橋? 大丈夫か?」
「……」
絶賛失恋中の縹だった。腕を伸ばし、目にかかりそうな髪を耳に避けてくれる。
……縹。まだ、目が赤いな。
言いたいことは山ほどあるのだが、喉の奥がべたべたして気持ち悪い。
「水、飲める?」
のんびり身体を起こし、ペットボトルを受け取る。俺の好きな桃味の天然水。喉の奥にスライムでも居るのかと思うほどつっかえたが、ようやく飲み込めた。
「縹? なんで。ここ、どこ?」
やっと出せた声は酷いものだった。
床に膝をついてベッドに突っ伏している縹が、不安げに見上げてくる。
「霧里の家。豪邸過ぎてビビったけど。電話したら霧里が出て驚いたぜ。孝橋なら家に居るからって、さっき着いたとこ」
「……」
やっべ。縹が何言ってるのかよく分からん。頭と身体が重すぎる。重力が二倍になったようだ。木星かここは。
「霧里たちは?」
「軽く摘める、昼飯の準備してるよ。……お前。講義すっぽかして何してんの?」
まるで俺が進んでサボったような言い方。
「……頭イテェ」
「あ。頭痛か。体調、悪かったのか。それなのに朝。俺が失恋の、その、そのことで心配かけちまったな。ごめん」
頭を撫でてくれる。
いやお前は何も悪くない。頭痛いのはあのアホ共のせいだ。
縹に頭を下げる。
「悪かった。昨日は、酷いこと言った。お前、カズキのことで傷ついてたのに。もっと寄り添ってやれば良かった」
「……」
目を剥いて縹が固まっている。
「おま、人に下げれる頭なんて持ってたのか……。キモイ」
「……ごめん」
「やめろ! お前が謝るとキモイ! 見ろこの鳥肌! ……もう気にしてねーし。当分恋はいいわ」
「そ、そう、か?」
まだ探せば居るかもしれないぞ? えーっと。爽やか人望スポーツマンが。
そう言いたかったが瞼が降りてくる。
ペットボトルを返し、再び横になった。
「悪い。ちょっと寝るわ」
「うんうん。その方が良いな。大学の方には俺が連絡しとくし。トップのお前が来ないと、先生たち騒ぐから」
苦笑いを浮かべながらなめらかすぎる布団をかけてくれる。
やっと笑ってくれた縹の声が心地好くて、即眠りに落ちた。
びっくりするほどすぐに寝た孝橋の髪を撫でる。なんか、べとべとしているしギシギシしているところもある。
(? 大学で倒れたのか? いやでもうちの大学きれいだし。こんな汚れ着くか?)
手を布団の中に仕舞ってやろうと手を掴むと、そっと指を握られた。
「ふは。かわいい」
「なんだ? 孝橋、起きたのか?」
扉が開き、うちの大学の良顔面メンズ共が入ってくる。
「さっき起きたけど、水飲んで寝ちゃったよ」
三人は手を繋いでいる孝橋と縹を見咎めると、そろって縹の背後に立った。
「ふへ?」
振り返ると種類の違う美男子の圧に気圧される。
え? なんでそんな不穏な顔してるの?
「なーんか、仲良さそうだな。お前ら」
「あの孝橋が、あんなに気に掛けるなんて。焼けちゃうな」
「縹とか言ったな? ヒロインレースで一位走ってるからって、調子乗るなよ?」
「おん?」
な、なに? 何言ってんだ? それよりその、作ってきた料理食べようぜ。めっちゃいい香りするし、何も食べてないからお腹空いた。
わんこのように料理を見つめる縹だが、三人の目は冷たい。
「ほーん。あいつはこういう無害系わんこがタイプなのか」
「去勢しちゃう?」
「いい考えだ。余裕ぶっててムカつくしな」
「ぽえ?」
何か怖い目に合ったのか、家に帰っても縹はずっと俺にしがみついていた。ホラー映画観た時より怖がっている。
まだ落ち込んでいるのか。早く、早く探してやらないと。
「おい。元気出せって。俺が、カズキに匹敵する人類を探してきてやるから」
「やめてぇ! 優しくしないで。あいつらに報復されちゃううう」
「こうなりゃ中学まで遡って当たってみるか」
「話聞いてええぇ!」
それでも見当たらなかったら、カズキ本人に直接聞くってのもありかもな。
あ、そういえば。縹は男でもいけるんだっけか?
「縹。お前って、男でも平気?」
「は? あ、お、俺は……だから。今は、恋は、いいよ」
「じゃあどうやって元気出すんだよ!」
「ゆっくり時間かけて元気になっていくものなんだよ! こういうのはっ」
ああああああん?
「ずっと落ち込んでるお前を見るの、辛いんだよ」
「ありがとな! でもそっとしておいてマジ」
朝よりは元気になってくれたようだが、やはりまだダメージが大きいのか。夜中、俺のベッドに枕持って潜り込んできた。
仕方ない。抱き枕に徹してやるか。
スマホをいじっていると、もぞっと縹が身じろぎする。
「頭痛いの、もう大丈夫なのか?」
「ああ。そういうお前こそ。泣きすぎで目が痛むだろ。冷やすもの、持ってこようか?」
身を起こすが、縹はふるふると頭を振る。
「もう平気。……ちょっと目が、乾いてるけど」
「はー。明日も朝食は俺が作るから、ちょっとでも長く寝ろ」
「うん……」
俺は日中泥のように寝たので、深夜になっても眠気は来なかった。
【おしまい】
主人公 孝橋(たかはし) 年中暴走気味。
縹(はなだ) 失恋中。孝橋の幼馴染。
被害者 霧里(きりさと) 王族系イケメン。金髪。ダビデ像。
恵永(えなが) 爽やか系。男女共にモテすぎて彼女作れない。
青大(せいだい) サッカー馬鹿。スポーツ馬鹿と見せかけて頭がいい。
俺の名前は縹(はなだ)。親しみを込めて縹きゅんって呼んでいいよ。今それどころじゃないけど。
「死にたい……」
「朝からやめてくれよ。コーヒーと紅茶どっちにする?」
こんなに可哀想な俺の言葉を軽く流してコーヒーか紅茶か聞いてくるのは、幼馴染の孝橋(たかはし)。中坊の時、八ツ橋と言い間違えたらめちゃくそ怒られた。けっこう怖い奴。
だが今はそんなこと構ってられない。とにかく話を、この気持ちをぶつけたい。
「どっちの気分でもないわ! 俺の話聞いてくれよ!」
「やだよ。また、推してたアイドルが結婚したとか好きな漫画のキャラに彼女出来たとか。お前の悩みなんてそんなんばっかじゃん」
「おぶぼぼぼぼ! てめぇ! 馬鹿にしとんのか! ファンにとっちゃどっちも致命傷なんだぞ!」
「砂糖はお好みで入れてくれよ」
ふわりと香るコーヒーの香り。一旦抗議を中断してお気に入りの黒砂糖を、スプーンでざくざく入れていく。
「で? 何が死ぬの?」
「俺。見てこれ」
一枚のハガキを孝橋に差し出す。
「カズキじゃん。……え? あいつ、結婚したの?」
マイカップを片手に、死んでる俺とハガキを交互に見つめている。
「花嫁さん、きれいだねー」
「ぐう……」
「あー……。お前。カズキに惚れてたもんな」
「うっ、ううっ」
ずっと好きだった。でもあいつは女の子が好きだから。告白もしなかった。関係が崩れるよりは、友達のままでいたかったから。
ついに、友達でもいられなくなった。
「やだよ……。そりゃ幸せになってほしいけど。ずびっ。独身のままでいてほしかった」
机に突っ伏して、もう、泣くしかない。せっかく孝橋が淹れてくれたコーヒーもどんどん冷めていく。
「……」
孝橋は俺の斜め前に腰掛けた。
「やっぱり結婚話じゃん。お前、それ以外で悩むこと無いのか?」
友人も冷めていた。
「そこは慰めてくれよ!」
「だるいんだよ。毎回毎回同じことで……。よく飽きねぇな。感心するわ」
この冷酷人間が!
滝のような涙を流しながらだんっと机を叩く。
「そこは『俺にしとけよ……』とか言って本性を露わにする場面だろ。今、冷たい言葉とか求めてない!」
「俺もお前とか求めてないわ。なんだその妄想。キッショいな」
「うわあああぁあ~」
じたばた暴れて涙を流す。こんな泣き方は幼稚園とアイドルが結婚した時と漫画のキャラに彼女が出来たとき以来だ。
孝橋はもう俺のことなど見ずに、ぺらりと雑誌をめくった。
〈孝橋視点〉
「……」
あほの同居人が部屋にこもったまま出てこなくなった。
「おい。縹。朝飯は? どうすんだ?」
ノックしてみるも返事はない。まさか死んでないよな? 失恋で自殺、無い話では無い。
「入るぞ?」
返事も待たずに扉を開けると部屋は真っ暗だった。ベッドの上で塊を発見。
毛布にくるまった縹だった。
ひとまず、生きていたことに安堵する。
ベッドに近寄り、声をかける。
「具合悪いのか? 縹?」
「ううっ。ぐすっ……」
ハガキを見ながら、涙を落としていた。目が真っ赤だ。涙がたくさん落ちたハガキもふにゃふにゃに湿っている。
(まさか、一晩中泣いてたのか?)
わずかに胸が痛んだ。
昨日、もう少し優しくしてやれば良かったか……。
「縹」
「……」
もぞっと塊が動く。顔を見られたくないとばかりに背中を向ける。
「いまは、そっとしといて……」
「……縹。…………」
「おばえ、なんが。っ。おまえなんか、きらいだ」
「……」
俺は部屋から出ると朝食に焼いた目玉焼きとウインナーの乗った皿をトレイに乗せ、縹の部屋へ戻る。
「嫌いで結構。俺もそんなに好きじゃない。でも朝飯は食え。徹夜すんな、馬鹿」
「……」
鼻をすすりながら縹がぎっと睨んでくる。が、そんなぐちゃぐちゃの顔なんて怖くない。
ベッドに座り、ウインナーにフォークを突き刺す。
「食べろ。ほれ。あーん」
「……今、ずびっ。優しくしないで」
「殺すぞ。口開けろ」
「なんでお前の方が、キレてんだよ」
しばしウインナーを見つめたが、縹は口をつけなかった。フォークと皿をトレイごと取り上げる。
「ちゃんと食べるから。……出てって」
「残すなよ」
早足で部屋から出る。あ、飲み物忘れた。けどまあ、あいつもガキじゃないんだ。
それより、やることがある。
俺はさっと着替えると外に出た。
失恋には新しい恋が特効薬と聞いたことがある。
あいつも、新しい恋に夢中になれば傷もやわらぐんじゃないか?
(カズキって、爽やかなスポーツマンで、良い奴で、男女ともに人気があったやつだよな?)
つまり、それが縹の好み、タイプだ。
縹。あいつは外見をあまり注視しない中身重視マン。外見は無視すればいい。
(爽やかで人徳がある、か。それでもハードル高いな)
そんな奴、二人も三人もいるだろうか。そして縹を好きになってくれるなんて、目眩のする確立だ。
だが、何もしないよりはいいはず。
(まずは片っ端から知り合いに声をかけて)
「ヨォ。孝橋。考え事か?」
大学の図書館。ノートに連絡が取れる知り合いを書き出していると、隣に誰かが座る。
声からして、
「霧里か。サボりか?」
「こっち見ろって」
顎に手を添え、顔を強制的に動かされる。
「? やっぱお前じゃん。何?」
「……はぁ~~~。先は長そうだ」
長いため息と共にがくっと項垂れている。
俺の知り合いその①の霧里(きりさと)だ。
忍者の末裔のような名前だが、本人は物語の王族のようなイケメンフェイス。キラキラオーラ全開で、すっごい目立つ。
忙しいので相手にせず、ノートにシャーペンを走らせた。
「さっきから何? 誰の名前書いてるの?」
ぐっと身体を寄せてくる。
ほんのりいい香りのする霧里が手元を覗いてくる。こいつ毎回、違う香水つけてるけど、香水マニアか?
「知り合いの名前」
「なんで?」
「いい奴、いないかなって」
「いいやつ?」
ああもう、うるさい! 話しかけてくんな。
「何しに来たんだお前は。本読んでろ」
「じゃあ、教えてくれよ」
「失恋には新しい恋って、言うだろ?」
急に霧里が背筋を伸ばした。
「ど、どど、え? どういう、意味?」
「好きだった奴が結婚しちまってな……。恋人になれそうな人を」
シャーペンを握る手に、霧里が手を重ねてくる。
自他共に認める短気な俺はブチギレかけたが、噴火する前に抱きしめられた。
「は?」
「ちょっと、ちょっと聞き流せないんだが。孝橋。おま、け、結婚って……。おま、嘘だろ?」
「ああ?」
霧里が俺の髪をさらっと掬う。
「……。次の恋を探しているのか?」
「そう言ってんだろ。沈めんぞ」
「俺は? どうかな?」
「お前?」
ふむ、と俺は何故か抱きしめられた状態でこいつの顔を見つめる。
外見はパーフェクトだ。異国の血が混じっているせいかダビデ像を思わせる深い彫りに、天然の金髪。大きい雄っぱい。派手な赤いシャツが霞むほどのフェロモンを撒き散らかしている美男子がこいつだ。
だがなー性格がな……。
「お前、女好きのヤリチン野郎だろ。お呼びじゃねぇよ。消え失せろ」
そんな奴を弱っている縹に紹介できない。二度と口利いてもらえなくなる。
胸を押さえて霧里が呻き出した。
「ゴフッ……酷い誤解だ。確かに女の子は好きだが、ヤリチンは撤回してくれ」
「声震えてんぞ」
頬杖をついてノートを眺める。だいたいは出揃ったか?
「よし。連絡していくか」
スマホを取り出すと、即座に奪い取られた。
奥歯を粉砕する勢いで噛みしめる。
「殺すぞ」
図書館とか関係なく机をぶっ叩く。
「怒るな……。おい。孝橋。ヤケになってないか? 失恋したからって、こんな。誰でも良いみたいじゃないか」
誰でも良いんだよ。あいつの心が軽くなるなら。
腕を伸ばす。
「返せ」
その手首を掴まれた。力任せに引き寄せられる。
「っ」
間近に迫った文句のつけようのない顔面に、一瞬のけ反る。
「自暴自棄になるな。過去の男は忘れろ。孝橋。俺にしとけ。幸せにしてやる」
深くて、低くて、心が痺れる声。
「はあ?」
お前が、あいつの何を知ってんだよ! ……もしかして知り合いだったのか? 縹と?
「お前に、幸せに出来るとは思えない」
爽やかなスポーツ人徳マン以外、本気で必要ない。
腰に手を回し、霧里は耳に唇を近づける。
「つれないことばっか言うもんじゃねぇぜ? 孝橋」
「ちょ、マジ。スマホ返せ。俺は午後から講義なんだ」
「……」
席を立つと、俺の腕を掴んだまま霧里が図書館を出ていく。
「おおい! お前いい加減にしろよ」
「ついてこい」
図書館を出たので遠慮なく大声出すが、霧里はずんずん進んで行く。
あああ! んだよこいつ。
ハッ、待て。もしかして、知り合いの爽やかスポーツ人徳マンを紹介してくれる、とか?
(なんだよ、ばっか。そうなら言えって)
それなら大人しくついていこう。
「?」
すんっと別人のように大人しくなった俺に、霧里は不気味そうに振り返ったが何も言わなかった。
到着したのは使われていない部屋っぽいが、誰もいない。
「おい。爽やかスポーツマン人徳は?」
「は?」
室内を見回すもやはり誰もいない。念のため机の下も探すが、誰も潜んでいなかった。
ガツンと机を蹴りつける。
「騙したな!」
「何が?」
引き気味の笑みを浮かべながら、霧里は鍵を閉める。
「スマホ返せ。とりあえず」
「……はぁ」
疲れたように首の後ろを掻いている。だが、顔を上げると瞳に熱が、炎のように滾っていた。
「言葉で伝わらないのなら、身体に教え込んでやるよ」
ズンズンと大股で近寄ってくる。
「おい。俺は真剣に……」
どんっと、霧里の両腕が顔の横を通り抜けた。背後の壁とこいつの腕で閉じ込められる。
グレーの瞳が、間近で覗き込んでくる。鼻先が触れ合いそうな距離。
香水の香りが、強くなった。
「俺だって真剣だぜ? 孝橋。俺の物になれよ」
「はあ……?」
そんなに縹のことを? まあ、そこまで言うなら。本人に、紹介くらいはしてやるか。
あいつ、霧里の好意に気がついてないだろうから。
鈍いからな。
「……分かったよ」
「え?」
「お前、ヤリチンなところを除けば好物件だし」
「違うからな?」
何が違うんだよ。女の子を食っては捨てて食っては捨ててって噂だぞ。
「いいから、スマホ返せ。報せるから」
「……何を?」
縹に決まってんだろ! あいつのことが好きなら、縹のこと以外考えるな!
何口元引きつらせてんだ。
「同居人に。霧里が好きだって伝えるから」
霧里が膝から崩れ落ちた。が、すぐに起き上がってくる。
「……あれだな? なーんか、食い違ってるな? 俺が好きなのは、な?」
「貸せ」
こいつのポッケから俺のスマホを引っ手繰る。
えーっと。あいつの電話番号は……
「孝橋」
「ああ。ちょっと待て。いま繋げるから」
「俺が、好きなのは、お前だ」
「……」
プルルルル。プルルルル。プルルルル……
「出ないっ! あ、もしかして、寝てるのか?」
徹夜してたっぽいしな。くそ! 吉報を届けてやろうと思ったのに。
「まあいいわ。おい。霧里。俺たちの家に来い。見合いをセッティングしてやる」
ぽんっと肩を叩いて通り過ぎようとしたが、後ろから伸びてきた腕に引き戻される。
その時、スマホが手から落ちた。
「……?」
ふと瞼を開ける。スマホが鳴った気がしたんだが、夢の中だったかな?
泣きすぎて目が痛い。痛いって言うか、熱い。アイスノンで冷やしたい。
「うう」
むくりと起き上がる。時計を掴むと、朝と昼の狭間の時間だった。
(孝橋は、学校か……)
机を見ると皿の上に、齧りかけのウインナーと、かっぴかぴになった目玉焼きが。
喉を通らなかった。せっかく作ってくれたのに、悪いことしたかな。
「はあ。もう当分恋はしたくないぜ」
皿を持つと、飲み物を入れに部屋を出た。
机の上に押さえつけられている。
「ん、う……」
その上に霧里が覆いかぶさっているので重いし、腰が痛い!
手首を握られた状態でもがいていると、唾液を啜っていたダビデ像がようやく口を離した。
「孝橋」
「どけ! 死ぬ。腰が!」
「……」
耳がキーンとなったのか、項垂れて首を振っている。金の髪が、陽射しを跳ね返しキラキラと眩しい。
「まだ余裕そうだな」
「霧っ……」
口が重なる。こいつの形が良く分厚い唇。足の間に霧里の脚がねじ込まれているため、膝を曲げるたびに股間を押され、ビクッと跳ねた。
手首から手が離れるとすぐに肩を掴むが、日本人離れした体格を押し返せない。顎を掴まれ、もう片方の手は胸に添えられる。
「んっ……」
うまく呼吸できずに苦しくなってくる。
なんでこいつは! 忙しい時に! 俺が幼稚園の時、遠足のバス乗り遅れた並みに焦っている時に。
「おい……」
ぎゅううっと肩を握ると、同じように胸を揉まれた。
「ッ」
「お前。今自分がどういう状況か、分かるか?」
「触るな。何やってんだお前は!」
「……。結構長くキスした割に、元気いっぱいだな、お前は。肺活量どうなってんの?」
起き上がろうともがくも、簡単に押さえつけられる。こいつは俺の腰に何の恨みがあるんだ。
「あー。とにかくあれだ。話を聞け」
「聞いてるだろ。お前、縹が好きなんだろ?」
「誰?」
「は?」
なんで記憶喪失してんだ。ま、いい。写真見せれば思い出すだろ。スマホに写真が……スマホどこだ。
「ちょ、どけ! 写真見せてやるから」
「孝橋? キスしたのにノー反応は辛いぜ?」
「俺にキスしてどうすんだ!」
霧里が窓際で項垂れた。一体何がしたいんだ。あ、あれか。キスの練習って奴か。女の子でたくさんしとるだろボケが! 彼女一生いない俺への当てつけか?
スマホを拾い、操作しながら赤いシャツを引っ張る。
「おい。霧里。見ろ」
「……ん?」
死んだ目で振り返る。腰を摩りながらスマホを突きつけた。
「……誰? この黒髪地味娘は」
「男だ」
「心底興味ないぜ?」
時間返せよテメェ!
人生でここまで時間を無駄にしたのは初めてだ。もうお前に用はない。
ドスドスと教室を出ていく。
「孝橋」
「ついてくんな! 念仏唱えてろ!」
「???」
切り替えるんだ俺。次の知り合いの元へGO! だ。
「なあ。恵永(えなが)。黒髪ってタイプだったりしないか?」
スポーツマン爽やか人望に声をかける。
「た、孝橋?」
男女問わず囲まれキャーキャー言われているところ申し訳ないが。こいつも好物件だ。偶然「は行の黒髪童顔面倒男子」が好きだったりしないかな?
恵永は取り巻きに「ごめんね」と断りを入れ、この時間人気の少ない食堂に移ってくれた。
こういう所が好ましい知り合いその②。
「黒髪がどうしたって?」
「恵永お前、黒髪が好きじゃないか? 黒髪以外眼中に無いとか、どうだ? なあ」
「お、落ち着けって」
つい胸ぐらを掴んでしまった。すまん。
落ち着こう。
「落ち着いた」
「そうか? お、俺は……落ち着いた茶髪が、好み、かな?」
俺の髪を見ながら頬を掻く恵永に撃沈した。
ぐっっっ……! なんだろう。この、自分の力ではどうしようも出来ない出来事にぶつかった際の重みは! 良い人生経験になったぜ。
いや待て! まだ希望を捨てるな。写真を見れば考えが変わるかもしれない。「俺、今日から黒髪派として生きていくわ」って澄んだ瞳で言い出すかもしれない。言ってくれ頼む。
「見ろ」
スマホを突きつける。
「誰? これ」
「お前! こいつと付き合ってみないか⁉」
「…………ッ……⁉」
恵永がよろけた。
? な、なんだ? その「好きな人から『この子、恋人にどう?』って勧められた」時のような反応は。
「……むごい」
何故かついてきた霧里が、後ろで額を押さえている。
某ボクサーのように力なく椅子に腰かける恵永。
「ごめん。俺、す、好きな子が……いるんだ」
「そんな! ど、どんなやつ? 黒髪?」
すっと指を差してくる。すぐさま背後に振り向くが、だ、誰もいない。まさかこいつ! 視える、のか⁉
どんっと床を殴る。
「クソが!」
「嘘……。伝わって、ないの?」
「強敵だぜー。孝橋は。キスしてもスルーしてくるしよ」
恵永に肩ポンする、霧里。
聞き捨てならないと、ぎっと金髪イケメンを睨んだ。
「キス? 無理矢理したの? 孝橋に?」
「ああ。空き部屋に連れ込んでキスして、スルーされた」
「…………」
遠い目をする高身長美男子。
恵永の目が、怒るべきか同情するべきかで揺れる。
「そう……」
同情した。
「恵永! どうしてもその人のことが好きなのか?」
床を殴った手が痛い。なんで床に勝てると思ってしまったのか。
詰め寄ると恵永の頬が染まる。
「う、うん」
「チッ! 時間取らせたな」
くっそ! こいつが一番良かったのに。ついでに言うと外見も文句なしだ。早く縹に「こいつお前のことが~」って言いたいのにィ。
食堂を出ようとすると恵永に腕を掴まれる。
「? 何?」
「いや……。どんな風にスルーされるのか、試してみようかと」
「は?」
俺の背に腕を回し抱き寄せると、唇を重ねてくる。
流行ってるのか? キスが。
「お。いいねぇ。混ぜてくれよ」
「っ⁉」
後ろから抱きついてきた霧里が胸に手を伸ばしてきた。くりくりと指で乳首を刺激し始める。
「ッ、ん!」
文句をまき散らしたいが口は塞がれている。
「んぐ、っん」
真似したのか、恵永が尻を揉んできた。片方の手にしっかり頭部を掴まれているので、キスを振り払うこともできない。
「はっ、ん、く」
「お。いいねぇ。胸が弱いのか?」
「さあね。お尻かも、よ」
こいつら。
――人が少ないだけで、この時間食堂は無人ってわけじゃないんだぞ!
隅っこにいるとはいえ、ちらほらと視線を向けてくる人が現れる。そしてもれなく飲み物を吹き出していた。
「ん、ん。っぁ……」
「やべ。滾ってきた」
霧里が強引に俺単品を持って行こうとするが、セットで恵永もついてくる。
花壇の花が美しい、どこだここ。校舎裏か?
「お前ら、いい加減っ」
すぐさまさっきと同じ立ち位置になった。
苦しいのに口を封してくる恵永に、胸から股間へと手を滑らせる霧里この野郎てめぇは許さん。
「んンッ!」
「お。ここ触って反応無しだったら虚しかったから嬉しいぜ」
尻と股間を同時に、男の手で揉まれる。
「はっ、ふ……ふ、ぅ……」
何してんだこいつら。
身を捩るが四つの手を振りほどくのは難しそうだ。おまけに、
「ぐっ、う」
「邪魔するぜ」
スルッと、霧里の手がズボンの中に入り込む。
「んっ!」
「濡れてきてるな。いい具合だ」
下着の上から触れてきやがる。
そこ、触られると、力が入らな……
「んっ、ん」
ぼーっとしてくると熱い舌が侵入してきた。口内を舐められると、ビクッビクッと立っていられなくなっていく。
(もうやめろって……。こいつら……。やだ……)
呑み込めない唾液が顎にまで流れていく。
「へえ? エロいじゃん? 孝橋。素直になれば俺の横に、嫁として置いといてやるが」
すかさず睨んでくる恵永に肩をすくめる。
「やだね。ライバルが多くて嫌になる」
「それならこの場から消えれば?」
口元を手の甲で拭いながら、恵永が俺を抱きしめてくる。
「おいおい。一日にふたりから消えろって言われる身にもなってくれ。堪えるぜ」
「あ。ごめん」
「……」
この場合。素直に謝られた方が、ダメージがでかい。
「おま、お前ら。一回どけ。俺は次の候補に会いに行くから」
「……もしかして、ずっとこんなスタンプラリーしてるの?」
恵永が引き気味に訊ねてくる。
仕方ないだろ。俺だってやりたくないわ。でも、縹がずっと元気出なくて、衰弱していったらやだし。可哀想だし。何より俺に迷惑がかかる!
「そうだ」
「はなだ……くん? 孝橋と一緒に住んでる幼馴染、だっけ?」
「そうそう! お前ら。どっちでもいいわ。あいついま、失恋で塞ぎこんでて。次の恋で元気が出ると思うんだ! 付き合ってくれ!」
「「……」」
二人のイケメンが目元を押さえて、何とも言えない暗い空気になった。人が真剣に頼んでいるのに暗い雰囲気を出すな!
「お前『が』付き合ってくれって言うなら、二つ返事で引き受けたがな」
「縹くんと付き合ってくれって、意味だよね? 今の?」
「あーそうだ。頷けボケ共」
霧里はロングため息を吐くと、ズボンに入れっぱなしの指を再び動かした。
「うわっ! お前ッ」
「はいはいはい。傷ついた俺たちの心を癒してもらいましょう」
恵永まで。
「はあっ⁉ ちょ」
なんで? 話聞いてたか? 俺は次の……
〈霧里&恵永(孝橋被害者の会)視点〉
俺は霧里。自分でもイケてるなと思う美男子だ。
鏡見てもイケメンしか映らないしな。生まれた瞬間、は覚えてないが保育園の時からモテ散らかしたぜ。園児より、マダムたちからの人気がすごかった。
目立つんだよな。この美貌と金髪が。日本ではよ。
中学時代に一度誘拐されかけた。美しいって罪だな。トラウマになって一年くらい引きこもったのは内緒だ。今でも車が背後から近づいてくると焦るわ。
女の子に一日たりとも不自由しなかったが、そろそろ新しい風を入れたくなった。その時に大学で見かけたのが孝橋だ。
イケメンだがダウナー系で、派手好きの俺様の好みではなかった。すぐに忘れたが、手が早く瞬間湯沸かし器を凌ぐ沸騰具合。一度突っ走ると(人間関係の)交通事故も恐れない機関車。自分に必要のない話題は一切頭に入らない右から左技術。
リアルで「おもしれー男」してしまった。
(反則だろ。あんな……見た目のくせによ)
ダウナー系は一番好みから遠いのに、中身が。好み過ぎる。
何度かアホでもわかるアプローチを仕掛けてみたが、渾身のスルー祭りだった。モテたことしかなかった俺の自信を粉末にしてくれ(やがっ)た男だ。何とか手に入れたかったが、ライバルがちと多いな。
「っは、ぁ……。おま、ら。やめ」
クチクチとパンツの中からやらしい音がするようになってきた。夢だったんだよ、お前をこうしてやるの。
ああ。我慢できずに俺の手はとっくに下着の中に潜っている。孝橋のナマ孝橋で遊んでいる最中だ。
「あ、アッ。そこ、吸うな、ああ」
ボタンを外し、恵永が乳首に吸いつく。孝橋は足に力が入らずガクガクだ。でも男二人に支えられているから倒れることも出来ない。辛いだろうな。
可哀そうだが、お前のそんな表情がそそるんだよ。
孝橋は恵永の腕に手を置いているが、見るからに力が入っていない。そうか。そんなに気持ちいいか。
先っぽを指でぐりぐりと弄り、もう片方は玉を可愛がってやる。
「アッアッ。あっ! きり……やめ。ああ!」
「んー? どうした? まるでベッドに行きたいと強請っているような顔してるぜ? お前。気づいてるかよ」
耳の後ろから囁くと分かりやすく腰が跳ねた。
乳首を舐めていた恵永が孝橋の顔を覗き込む。見られたくないのか孝橋は顔を背ける。
可愛い反応するじゃねぇか。
「そうなのか? 俺と二人きりで……。俺の部屋に行くか?」
「ナチュラルに俺を排除するな」
「ええ? 霧里クン。混ざりたいの?」
「こいつはお前の物じゃないだろう?」
「君のでも、ないよね?」
「やだ。っ……イ、イく」
流石にイかせれば俺の気持ちは伝わるだろうか。
「俺がイかせてあげたいんだけど。霧里クンはどっか行ったら?」
左右の人差し指で、尖る乳首をこねくり回す。
「アッ! やだ。んっ、あ、胸。や、だ」
「へえ。ここがイイんだ」
「あっ。ああ! も……う。っ……」
頬を染め苦しそうな表情の後に、一際大きく痙攣する。
すぐにグタリとへたり込んだが、俺と恵永の腕が支えた。
下着から手を引き抜く。
「あーらら。俺の手が。お前の精液で汚れちまったよ」
「……う」
白い液が付いた指を、孝橋の口の中に押し込む。
「ほら。舐めてきれいにしてくれよ」
「あが……っ」
人差し指と中指で孝橋の舌の表面をやさしく引っ掻く。
「んっ。ぁ……は」
「じゃ、次俺ね」
「んふ!」
恵永がなんの躊躇いもなく下着の中に手を差し込む。
「うっ」
「うわ。あったかい。一度イったから、か?」
出したばかりのイチモツを握られる。孝橋はわずかに身を捩ったが、その程度では抜け出せないぜ?
「孝橋。舌を動かせ」
「あっ、んぐ。は、あ」
「もう一回、イこうか」
ぐちゅぐちゅとここまで粘着質な水音が聞こえる。
「やら。ん、ああ。ん、おま、えあ」
「ぬるぬるだな。孝橋。この状態じゃ、お前も気持ちいいだろ?」
「……」
恵永にゆるく首を振るが、その反応は恵永の嗜虐性を高めるだけだ。
「そっか。でも、イったら気持ち良いってことになるよな」
「っ! ~~~っ! あ、いぐ……イグ……ッ」
ぶるるっと身体が震えたのが伝わった。イったな。
「ん……」
俺の指を咥えたまま脱力する。そろそろ座らせてやるか。
ちゅぽっと指を引き抜き、孝橋を花壇の前のベンチに座らせてやった。ぐったりしている彼がベンチから落ちたら可哀想なので、隣でしっかり支えてやる。
孝橋を挟んで、恵永も座る。
「どっか行きなよ。霧里クン。君は彼女いっぱいいるでしょ?」
「お前もな」
「俺は……そうでもないよ。下手に彼女作っちゃうと暴動が起きるし」
苦労してそうだな。俺は二番目でも良いって言ってくれるかわいこちゃんが多いから楽だぜ。両手に花が基本だ。
「だから男の、彼氏作ったら落ち着くかなって思って。だから孝橋は譲ってね?」
しっしっと虫を払う仕草をしてきやがる。おいコラ。
「……お前らなぁ」
やっと息を整えた孝橋が顔を上げる。
髪は乱れ、呼吸も荒い。頬は朱に染まっていてなんでここが大学なのかと悔やむほどに美味そうだ。
「このクソ共が! お前らと遊んでる時間は無いんだよ! 次の知り合」
がばっと立ち上がる孝橋の腕と肩を掴み、強引に座らせる。すぐに恵永が抱きしめて捕まえた。
「邪魔!」
「なんだよ。気持ち良かったでしょ? もうちょっと相手してくれよ」
「俺も。突っ込むのは勘弁してやるから。その身体で楽しませてくれ。ああ。俺はずっと背面を抱き締めていたから、正面は譲ってもらうぞ?」
「しょうがないね……。俺は後ろからヤろうかな」
「……?」
自分の身体の主導権が自分に無いことに、困惑している様子だった。
〈孝橋視点〉
「……。よぉ。青大。いま、いいか?」
こいつが知り合いの中で最後の人望マンスポーツ爽やかだ。
知り合い③の青大(せいだい)。
スポーツマンと言うかはスポーツ馬鹿だが、この際なんでもいい。
「あん? なんだよ孝橋。髪の毛ぼさぼさだぞ」
お爺さんみたいな歩き方になっている俺の髪をちょいちょいと直してくれる。
青大は髪が特に短く笑った顔が猛禽類そっくりだが、成績の良さは今までの中じゃトップだろう。ルックスも悪くない。顔、怖いけど。
「おま、お前さ。か、彼女、いるか?」
「はあ? 俺の彼女はこいつだよ」
すっと取り出したのはサッカーボールだ。あれか? ボールは友達の「ボールは彼女」バージョンか?
「そ、そうか。邪魔したな」
人類に興味が無いのなら用はない。
立ち去ろうとしたが青大が肩を組んできた。
「なんだよ。急に。まさか俺の彼女になりたくて立候補しにきたってか?」
ニヤニヤ笑っている顔面にパンチしたいが、今はそんな体力がない。
「いや。ボールと幸せにな?」
結婚式には呼ばないでくれ。
「へっ。孝橋オメェ。相手に彼女がいると分かったら身を引くタイプか?」
「は?」
「俺が欲しいんなら、もっと頑張れよ。こう、強引に唇奪うくらいにはよ」
噛みつく勢いでキスしてくる。もう驚かんぞ!
「やめろアホ!」
突き飛ばそうとしたがサッと躱される。流石の反射神経だもっと別のところで使え。
「つーか、何? やけにダボダボの服着てるじゃん? 俺へのアピールってやつ?」
おい。サッカーボール語を話すな。人語以外使うんじゃねぇ。
「霧里の服奪ったんだよ。服汚れたから(あのアホ共のせいで)」
ぴくっと、青大の眉が跳ね上がる。
「はあ? 面白くねー。あいつの服かよ。趣味悪いと思った」
あいつの服全部赤系統だからな。俺の顔面には合わないだろうな。そんなことはいい。
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「恵永? ああ。あの彼女作るたびに暴動が起きる奴か。……どういう意味だ?」
「付き合ってもらう」
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「ああ? 孝橋。お前男でも平気なのか?」
「? うんまあ」
……あれ? カズキ男だったし。縹は男が好き……なんだよな?
あれ? 自信なくなってきた。
カズキ男=縹は男が好きって、勝手に解釈してたけど。えっと。まさか男はカズキ限定だったりしない、よな?
真っ青になっていると何か勘違いしたのか、上機嫌で青大が抱きついてくる。
「んな顔するなよ。俺に、そんな偏見はねーよ」
「いや。お前に偏見がなくとも」
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「?」
恵永みたいなやつがいるってことか? そりゃ天国だが。
「俺も混ぜてくれよ」
「俺もー」
物陰から見てやがった二名がぞろぞろと出てくる。青大は分かりやすく顔をしかめた。
「んだテメェら」
霧里が同情気味に指を差してくる。
「一応言っておいてやるけど、孝橋はお前のことが好きなわけじゃないからな?」
「孝橋ちょっと落ち着きなって。自分のモテ度を確かめてくれ。はた迷惑極まりない。これ以上被害者を増やさないでくれ」
「「ああ?」」
俺と青大の声がハモる。
「孝橋は幼馴染の次の恋人を探してるだけなんだよ。ところどころ、話噛み合ってないだろ?」
ため息をつく霧里に、青大は俺の鷹を掴んでくる。
「おい。ちょっと待て。お前が付き合いたいんだろ? 俺と」
「いや? 縹っつう、幼馴染。爽やか人望マンスポーツが好みなんだと」
「おま……お前の、好みは?」
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「なんで?」
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「ああ。ここは俺の家だ。ま、ゆっくりしていってくれよ」
「霧里お前。王族だったのか?」
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「おいおい。一番は俺だろ。お前らは先に楽しんでたみたいじゃねーか」
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「いや。おま……えら」
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ぐりっ。
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「ふふ。いっぱい出しちゃった。孕むといいね。あ、垂れ流さないでよ?」
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ペニスを引き抜くと、すぐにぐちゅぐちゅとコルクのようなものでフタをする。
「んあっ。フタ、するなぁ」
「お腹膨らんできちゃったね」
「口からも注いでやりたいな」
「それだとキスが出来なくなるだろうに」
カーテンが下ろされ、個室のようになった天蓋付きベッドの上で代わる代わる欲を吐き出される。
「もう、や……だ」
「逃げんなよ。次は俺だ。また俺の精液を味わってもらうぜ」
ぼうっとしている頭を掴まれると、口にチンコがねじ込まれた。
「んぐっ……」
「あー。口の方も悪くねぇな」
「後ろが寂しいだろ? 可愛がってやろう」
四つん這いの体勢で、口とナカにペニスが突き刺さる。
「んう……んぐ」
「可愛いなぁ。俺たち以外でイけなくしてやるよ」
「さ。好きなだけ飲め」
前からも後ろからもごくごく精液を飲まされ、次に目が覚めたのは講義がとっくに終わった時刻だった。
目を開けるとアホ面が覗き込んできた。
「孝橋? 大丈夫か?」
「……」
絶賛失恋中の縹だった。腕を伸ばし、目にかかりそうな髪を耳に避けてくれる。
……縹。まだ、目が赤いな。
言いたいことは山ほどあるのだが、喉の奥がべたべたして気持ち悪い。
「水、飲める?」
のんびり身体を起こし、ペットボトルを受け取る。俺の好きな桃味の天然水。喉の奥にスライムでも居るのかと思うほどつっかえたが、ようやく飲み込めた。
「縹? なんで。ここ、どこ?」
やっと出せた声は酷いものだった。
床に膝をついてベッドに突っ伏している縹が、不安げに見上げてくる。
「霧里の家。豪邸過ぎてビビったけど。電話したら霧里が出て驚いたぜ。孝橋なら家に居るからって、さっき着いたとこ」
「……」
やっべ。縹が何言ってるのかよく分からん。頭と身体が重すぎる。重力が二倍になったようだ。木星かここは。
「霧里たちは?」
「軽く摘める、昼飯の準備してるよ。……お前。講義すっぽかして何してんの?」
まるで俺が進んでサボったような言い方。
「……頭イテェ」
「あ。頭痛か。体調、悪かったのか。それなのに朝。俺が失恋の、その、そのことで心配かけちまったな。ごめん」
頭を撫でてくれる。
いやお前は何も悪くない。頭痛いのはあのアホ共のせいだ。
縹に頭を下げる。
「悪かった。昨日は、酷いこと言った。お前、カズキのことで傷ついてたのに。もっと寄り添ってやれば良かった」
「……」
目を剥いて縹が固まっている。
「おま、人に下げれる頭なんて持ってたのか……。キモイ」
「……ごめん」
「やめろ! お前が謝るとキモイ! 見ろこの鳥肌! ……もう気にしてねーし。当分恋はいいわ」
「そ、そう、か?」
まだ探せば居るかもしれないぞ? えーっと。爽やか人望スポーツマンが。
そう言いたかったが瞼が降りてくる。
ペットボトルを返し、再び横になった。
「悪い。ちょっと寝るわ」
「うんうん。その方が良いな。大学の方には俺が連絡しとくし。トップのお前が来ないと、先生たち騒ぐから」
苦笑いを浮かべながらなめらかすぎる布団をかけてくれる。
やっと笑ってくれた縹の声が心地好くて、即眠りに落ちた。
びっくりするほどすぐに寝た孝橋の髪を撫でる。なんか、べとべとしているしギシギシしているところもある。
(? 大学で倒れたのか? いやでもうちの大学きれいだし。こんな汚れ着くか?)
手を布団の中に仕舞ってやろうと手を掴むと、そっと指を握られた。
「ふは。かわいい」
「なんだ? 孝橋、起きたのか?」
扉が開き、うちの大学の良顔面メンズ共が入ってくる。
「さっき起きたけど、水飲んで寝ちゃったよ」
三人は手を繋いでいる孝橋と縹を見咎めると、そろって縹の背後に立った。
「ふへ?」
振り返ると種類の違う美男子の圧に気圧される。
え? なんでそんな不穏な顔してるの?
「なーんか、仲良さそうだな。お前ら」
「あの孝橋が、あんなに気に掛けるなんて。焼けちゃうな」
「縹とか言ったな? ヒロインレースで一位走ってるからって、調子乗るなよ?」
「おん?」
な、なに? 何言ってんだ? それよりその、作ってきた料理食べようぜ。めっちゃいい香りするし、何も食べてないからお腹空いた。
わんこのように料理を見つめる縹だが、三人の目は冷たい。
「ほーん。あいつはこういう無害系わんこがタイプなのか」
「去勢しちゃう?」
「いい考えだ。余裕ぶっててムカつくしな」
「ぽえ?」
何か怖い目に合ったのか、家に帰っても縹はずっと俺にしがみついていた。ホラー映画観た時より怖がっている。
まだ落ち込んでいるのか。早く、早く探してやらないと。
「おい。元気出せって。俺が、カズキに匹敵する人類を探してきてやるから」
「やめてぇ! 優しくしないで。あいつらに報復されちゃううう」
「こうなりゃ中学まで遡って当たってみるか」
「話聞いてええぇ!」
それでも見当たらなかったら、カズキ本人に直接聞くってのもありかもな。
あ、そういえば。縹は男でもいけるんだっけか?
「縹。お前って、男でも平気?」
「は? あ、お、俺は……だから。今は、恋は、いいよ」
「じゃあどうやって元気出すんだよ!」
「ゆっくり時間かけて元気になっていくものなんだよ! こういうのはっ」
ああああああん?
「ずっと落ち込んでるお前を見るの、辛いんだよ」
「ありがとな! でもそっとしておいてマジ」
朝よりは元気になってくれたようだが、やはりまだダメージが大きいのか。夜中、俺のベッドに枕持って潜り込んできた。
仕方ない。抱き枕に徹してやるか。
スマホをいじっていると、もぞっと縹が身じろぎする。
「頭痛いの、もう大丈夫なのか?」
「ああ。そういうお前こそ。泣きすぎで目が痛むだろ。冷やすもの、持ってこようか?」
身を起こすが、縹はふるふると頭を振る。
「もう平気。……ちょっと目が、乾いてるけど」
「はー。明日も朝食は俺が作るから、ちょっとでも長く寝ろ」
「うん……」
俺は日中泥のように寝たので、深夜になっても眠気は来なかった。
【おしまい】
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