BL短編

水無月

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いつの間に二月終わったんだ?

検品作業はしっかりと ②

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「さっそく性能を試してみましょう」

 目をキラキラさせている。こういうところは少年っぽいなぁ……って場合ではない。

「いやいやいや! こういうのは自分を実験台にしろ……ひぇっ」

 ジェル状の日焼け止めクリームを俺の腹の上に垂らしてくる。冷感と書いてあるのでひんやりミントの香り。

「待って! ここどこだと思ってんだ! 外だぞ? 覗かれてもみろ。死ぬぞ社会的に」

 じたばた暴れるが拘束は緩まないし篠田の笑みも消えない。

「海に来てわざわざ人様のテント覗く人いませんよ」
「ほ、ほら! 荷物外に置きっぱだし?」
「勝手に持ってたら爆音が鳴る腕時計が付いてますんで、問題ないです」

 ……真面目に使えそうな防犯グッズも作るから困る。これでふざけたものしか作らないのなら俺も堂々と説教できるのに。

「し、篠田くん? 冗談だよな……?」

 海だぞ。海。入りたいと思えよ。エメラルドグリーンに心躍らせろよ!

「大人しくしていたら早く終わりますよ。僕の気分次第で」

 それ、俺が大人しいかどうか関係ないじゃん。

「ん……」

 袋から出てきた篠田くんの作ったマジックハンドが動き出す。

「な、なんかこれ、妙に人の手っぽくないか? なんで肌色にしたの? ちょっと怖い」
「今回はジェルを塗りつけないといけないので、やわらかさを追求してみました。人の手っぽくなったのは薄黄色の塗料が余っていたので。偶然でっす」
「良し分かった! 知り合いのお化け屋敷を紹介してやるから。そこで働けお前!」
「知り合いのお化け屋敷ってなんですかー?」

 人の手に似たマジックハンドがジェルを探知し、それを塗り広げていく。人間の手で塗ってもらっている感覚だ。素直にすごいと言える。拘束されていなければ。

「ん、ん~……」

 片目を閉じてくすぐったさに耐える。
 こ、これ、やばいかも。
 声が……出せない。テントの壁のすぐ横で足音がするし!
 ぬるぬるとマジックハンドがお腹のジェルを広げていく。

「んっ、あひゃあはははははっ」

 即理解した。声我慢するの無理。

「しっかり塗りましょうね。日焼けも怖いんですから」

 にっこり笑いながらゲーム機のようなリモコンを操作している後輩。俺はお前の方が怖い。

(まずい、これ……)

 初めからローションを塗られているようなものだ。摩擦が無く、マジックハンドはするすると滑る。

「やだ無理。くすぐった、あははははは!」
「日焼け止め塗ってるだけですよ?」
「くすぐったいんだよ! 止め、ひゃう!」

 横腹を撫でられ、ギチッと拘束が音を立てる。

「何今の可愛い。ちょっとだけ我慢してくださいね」
「そこやだ……んあっ! あ、ああ、ん」

 篠田くんだけがのんきに缶コーヒーを飲んでいる。終わったら海に沈めて一人で帰ろうと決めた。
 マジックハンドは胸の上も手のひらで撫でまわす。

「んう、ああ! 篠田、くん……っ。そこは塗らなくていいから」
「全身塗らないと変に日焼けしちゃいますよ」
「あ、はあ……はう……んんっ」
「ふふっ。胸が尖ってきましたね」

 胸を隠していたパーカーを摘んではだけさせる。まじまじと横で観察され、顔が赤くなる。ジェルでコーティングされてきた肌の上を、機械の手が滑るように撫でていく。

「んう、んん……篠田く、止めて」
「きれいな肌をクリームでしーっかり守りましょうね」
「いい、から。守らなくて……ッ! あっああ」

 肌を滑っていたマジックハンドの指が動き出した。やわやわと、胸を揉むような動きになる。
 たまらず背中をのけ反らせるも、足首の拘束がギチギチと鳴るだけだ。

「う、うわああっ。何! ひゃああっ」
「塗るだけじゃ退屈かなと思って。マッサージ機能付きです」
「いらんいらん! 絶対にいらないそれ」

 首を左右に振るも、マジックハンドは胸を揉んでいく。

「やだ……やだぁ! はわ……あっ、やだぁ」
「塗ってるだけなのにエロい声出さないでくださいよー」
「おま……覚えてろよ」
「はーい。可愛い姿を、ですよね?」

 ニヤリと笑うその顔に青筋が浮かぶ。
 マジックハンドは隣の胸にも移動し、手のひらで乳首を転がすように液体を塗りたくる。

「ああっ! やだ、んあああ! アアッああ」
「声、我慢しなくていいんですか? 僕は楽しいですけど」
「んんんっ! ……無理ぃ。声……んああ」
「次。首元いきましょう」

 海に沈めるついでに、人の話を聞くように調教しておこう。
 女性の手より一回り小さな手が。首筋をするりと撫でる。ブンブンと首を動かすも、もちろんそんな程度ではマジックハンドは故障しない。

「やだやだやだ!」
「そうですよね。未南さんが気持ちいいのって、この辺ですもんね」

 マジックハンドの指がとことこと移動し、腹まで戻ってくる。刺激が止み、わずかにホッとする。

「そ、そこはもう塗ったじゃん」
「ここも丁寧に塗っときましょう」

 篠田がジェルをさらに絞る。透明な液体をマジックハンドが塗り広げていく。

「ひええええ……」

 あらかた塗り広げると、マジックハンドの指がツプっとヘソの中に入り込んだ。
 ビクンと、腰が跳ねる。

「ちょ、ぎゃああああっ」

 わきに何かが触れたと思ったらいつの間にか、マジックハンドが増えている。手を万歳した状態なので、わきも丁寧に塗られてしまう。

「なんで増えたあぁあア?」
「最大三本まであります。素早く濡れるコースです」

 これ、言おうと思ってたんだけど。

「前は一人で濡れるから必要ないよな⁉」
「はーい。ぬりぬり~」
「むりっああああああ!」

 くちゅくちゅとヘソの穴をいじくられるたびに卑猥な音が羞恥心を増大させる。もう外に声がとか、配慮する余裕は消え失せていた。くすぐったいのか快感なのか分からなくなっている。

「あ、ああ! んああ! やめて、ああああッ」

 汗とジェルが混ざり、より滑りを良くしてしまう。

「エロい顔になってきましたね」
「はあ……やだもうっ……ああ、声、聞こえてるってえぇ……ひゃあ」
「思いっきり声出してましたもんね」
「あ、暑い……」
「ちょっと休憩しますか」

 カチッと音と共にマジックハンドが沈黙する。呼吸を整えているとペットボトルが差し出される。

「少しずつ飲んでくださいね」
「なんで……日焼け止め塗るだけで水分休憩が、必要なんだよ……。てか、これ外せよ。……飲めない」

 外してほしくて身を捩るが、外してもらえない。篠田がポカリを口に含むと、俺の口に唇を被せてきた。

「んっ……⁉」

 舌先で唇を割られ、甘い液体が流れ込んでくる。

「ん、ん……」

 こくこくと喉を上下させる。喉が渇いていたこともあり、夢中で飲んだ。

「ぷはぁ……」
「いいですねその顔。三本目もいっちゃいましょうか」

 追加される最後のマジックハンド。
 未南はぞっとして篠田を見上げる。

「な、なあ。前みたいに放置とか……やめてくれよ? あれ、きつかったんだから」

 かなり恥ずかしいが、恥を押し殺して懇願しておかなくては。今は媚を売っておくときである。
 ドキドキしながら篠田を見つめ続け、彼はやがてコクッと頷いた。
 ぱあっと未南の表情に希望が宿るが……

「もっと可愛くおねだり出来たら、聞いてあげますよ」

 ピシリ。未南の頭にひびが入る。
 恥ずかしいの我慢して言ったのに……。表情が暗い笑みに変わる。

「は、ははは。……お……」
「え?」
「お前絶対サメの餌にしてやるからなーっ!」
「サメの恐怖、克服できて良かったですね……?」



 三本のマジックハンドが這いまわる。

「はあ……っああ、やだぁ……」
「とろけちゃって、可愛いです。気に入ってもらえました?」

 篠田くんが何を言っているのか理解できない。それどころじゃない。
 するすると首筋をなぞられ、胸の周囲を揉まれ、最後の一本は内ももに入り込む。

「んあ……あ、ああ……このあと、海で遊ぶのに……」
「あっれー? えっちな気分になってきちゃいました?」
「……ぅん」
「あら。素直」

 こいつの作ったマジックハンドは本当に高性能で、複数の人にまさぐられているような気分にされる。俺の全身はもうどこもぬるぬるで、マジックハンドの指は面白いように滑る。

「あっ、そこやだ……あ、あ、ん」
「そこってどこですか?」

 イヤイヤと首を振ることしかできない。
 乳首の周りを円を描くようにくるくるとくすぐられ、五本の指が横腹をツゥーッと撫でる。足の付け根をくすぐられるとどんどん脳が痺れていく。

「ああー、あー。やっ、やらぁ……もう。ああ、変になる……」
「焦らされるのに弱いですよね。ここも立ってきちゃってますよ」

 水着の上からそっとソレを触られる。甘い刺激が走り、びくっと身体が揺れる。

「そこっ、やだ、さわらないでぇ……」
「うわー。そんなとろとろになってくれるなんて。頑張って作った甲斐がありますよ。じゃあ、そろそろ……」

 終わってくれるのか?
 ホッとしたが予想と違うものが出てきた。

「なに、それ……。あ、もうそこやだ! 塗らなくて、いいから……」
「ローションです。ナカにも塗っちゃいましょう。この際なので」

 どの際?

「な、なんで……?」
「ナカに塗る用の日焼け止めがなかったので」
「……で?」
「ローション塗り込みましょう」
「……」

 後輩が何を言っているのかワカラナイ。

「上半身は機械に可愛がってもらってください。下は僕が塗りますので」

 篠田くんが手のひらにローションを出している。

「や、やめて……。今ならイルカの餌にするだけで許してやるから」
「食われる生物が変わっただけですよね? はい、力抜いてください」

 ローションを塗り込んだ手が、水着の中に入ってくる。マジックハンドはそれとすれ違うように上半身へ向かう。
 あああ、ああああ! そんな、そんな……!
 篠田くんの手が、おもむろにソレを包み込むように握ってくる。

「んあ! やああ、篠田く、やめ……ひあっ」
「前みたいに呼び捨てでもいいですよ?」
「やめろ篠田テメェ!」
「急に怖い」

 歯を食いしばり力を込めるが、手足の拘束がどうしても取れない。やわやわと握られ、身体は瞬く間に昂ってしまう。その間も機械手たちは未南の肌を好き勝手に撫でまわす。

「だめ、しの……ああ、だめ、あ、やめて。イく……。イっちゃうからぁ」
「いいですよ?」
「本当に、あっ、あ、はあ……こんあ、ああ、ところでイきたくッ……あ、アアッ」

 我慢しようと思っても無駄だった。じわじわと追い詰められていた身体は、簡単に精を放ってしまう。
 目をきつく閉じ、びくびくと痙攣した後くたっと弛緩する。

「はあ、はあ……。やだって、言ったのに……。馬鹿ぁ」
「え? 可愛い。もっと可愛い声聞かせてくださいね」
「あ、あ……」

 白濁液とローションまみれの手が、後ろの穴に移動する。さぁっと血の気が下がる。

「しの、だ……。んぐ」

 文句を言う前に、マジックハンドの指が二本、口の中に入ってきた。上あごをやさしく擦られ、ぞわぞわとした感覚が背筋を走る。

「んう、んくう……」
「洗浄機能も付いてますので。日焼け止めは洗い流されていますから安心して銜えておいてください」

 ぐちゅっと、穴に指が入ってくる。

「ん、ん、ン……」

 ぶるると小刻みに身体が震える。それを慰めるかのようにマジックハンドが胸を転がし始めた。

「はぐっ、んぐ……」
「力抜いてください。指が入りませんから」

 きゅっと乳首が摘まれ、びくっと大きく跳ねる。胸に意識が向いたせいか、篠田の指が奥に進む。

「あが……ぁ」
「未南さん。可愛い。こんなにひくひくさせちゃって。欲しがってるみたい」
「ちが……あぐ」
「違うんですか? ほら、ここ」
「ん、んあぁっ」
「きゅうきゅう締めつけてきますよ? もっと奥にって言ってくれてるみたいなのに」
「んぐっ、んん、んうぅっ」
「ナカも表情もとろとろになってる……。そんなに気持ちいいんですかぁ?」

 口と後ろと同時にかき混ぜられ、口の端から飲み込めない唾液が伝う。複数の手の刺激以外に言葉攻めまで加わり、俺の表情はだらしないことになっていると思う。それなのに、それを見つめる篠田の目はやさしく、頬も少し赤い。
 なんで、そんな顔をするの……? お前は俺を実験台にしてるだけだろ……?

「美味しそう」

 篠田は口内を弄っているマジックハンドをポイすると、唇の端に吸いついてきた。俺がこぼした唾液を、ちゅっと音を立てて吸い取る。

「あ、ああっ、ぬ、抜いて……」
「おや。すいません。指動かすの忘れてました」

 ナカの指がくいくいっと曲がり、内壁にローションを塗り込んでいく。
 ガクガクと身体が揺れる。

「篠田、くん! しの、だ、く。あ、アアッ! やぁ!」
「お? イイトコロに当たりました?」

 一か所を擦られると、火が付いたように熱くなった。マジックハンドは丹念に肋骨の上を撫でる。

「アアッああ! あつい、熱い、やめてぇ! そこやだあ!」

 ギチギチと拘束器具が悲鳴を上げる。どれだけ身体を揺らしても、篠田は指を止めてくれない。

「なんです? イきたいんですか?」
「ひうっ、あ、ひああ……あっ、やめ」
「未南さん。……ですよ」
「あっ、ああ! ひゃああああッ」

 篠田が何か呟いたが、俺の声でかき消される。あまりの刺激に視界に光が散り、俺はここがどこだかも忘れて喘ぎ続けた。



 目が覚めるとテントの中だった。ちらりと目だけを動かせば、横で寝転がった篠田がスマホで動画を楽しそうに見ている。
 自由になっていた足で蹴っておいた。

「いって! ……あ。未南さん。起きました?」

 飛んでいったスマホを拾い、脇腹を押さえて四つん這いで近寄ってくる。
 未南は両手で顔を覆う。

「めっちゃ声出しちゃったじゃねーか。バカヤロー……。死ぬしかない」
「大丈夫ですって。特殊な音波で内部の音を相殺する装置がついてますから。声は一切漏れてませんよ? むしろ物音が一切しない不気味なテントだと思われてますよ~」

 これも僕が作りました、とにこやかに微笑んでいる。
 俺はそっと起き上がるとベシッと頭を叩いておく。

「言えよ! あとなんだその装置は! 有能だなホントに」
「殴られながら褒められちゃった。未南さんもすっごく可愛かったですよ?」
「海に沈んでこい‼ 腹減ったもう! 焼きそば食ってくる」

 パーカーを羽織、ぷんぷん怒りながらテントから這い出る。外は変わらず眩しく、人でごった返している。

「今何時頃だ?」
「お昼過ぎです」
「……?」

 なんだか背中までぬるぬるする。

「あれ? 背中……」
「あ、背中も俺が塗っておきました。マジックハンド君たちは暑さで止まっちゃって。未南さん、意識なかったですけど「ぁ……」とか「んや……」とか甘えるような声で鳴いて、録音したかったです」

 ぐっと親指を立てる後輩の足を思い切り踏んでおいた。

「~~~ッッ」

 蹲って声にならない声をあげている篠田のフードを掴み、砂浜を引きずって行く。

「俺は焼きそばにするけど、篠田くんはどうする?」
「カ、カレー……」

 篠田くんが涙目になっているけれど、一切気にしない。
 扇風機しかない開放的な海の家で食べるご飯は美味しかった。



 未南はムスッとした顔で腕を組み、篠田は窓から外を見上げている。

「……」
「すげーですね」

 遊びつくした。洞窟(ただの小さな穴だった)探検に、持参した浮き輪でぐるぐる泳ぎ、団体で来ている人たちに混ぜてもらいビーチバレーなどもした。
 ひと夏の思い出が出来た。
 いい気分で帰ろうとしたら……

「やみそうにありませんね」

 豪雨。いやもうすごい雨。前が全く見えない。冗談ではなく。
 とても運転できるものではないので、車内で籠城している。隣の大きめの車の中でもバスタオルを広げ、避難してきた人が身体を拭いている。
 気温も夏とは思えないほど下がり、未南はちいさくため息を零す。

「テレビでも見るか……」

 カーナビをテレビに切り替え、座席を一番後ろまで倒す。腕を枕にしてごろりと横になる。
 どおおぉぉ……
 滝のような雨の中、車のライトだけが浮かび上がっている。

「なあー。篠田くん」
「はい」

 普通に座っている彼を見上げる。

「良かったら……。また、来ようね? 一緒に」
「……」

 篠田の目元がわずかに赤くなる。

「え? え。どうしたんですか? いきなり可愛いこと言って……」

 俺は寝返りを打って彼に背を向ける。

「嫌なら、いいよ」
「行きます! ぜひ、また来ましょうね。マジックハンドたちも改良しておきますから」

 未南はむくっと起き上がると、篠田のシートベルトを外した。

「降りろ」
「ええっ? 嫌ですよすんごい雨なのに⁉」

 がたがたと車が揺れるほど押し合いをする。
 星空が見えたのは、そこから二時間後だった。



 ……篠田のマジックハンドには困らされたが、まったくと言っていいほど日焼けしなかったので、なんだか複雑だった。

















【おしまい】


まこさん。ここまで読んでくれた読者様。ありがとうございます。
書いてて楽しかったです!!! 好きにしていいとのことだったので、本当に好き勝手書きました。
初めは緊張していたんですが、筆が乗ってくるとガ―ッと書き切ってました。このお二人好きなんで、ああんもっと書きたかった……。

声をかけてくれて嬉しかったですーーー!!! なかなかできない経験ができました。感謝しかありません!



これにて夏の短編祭りはお終いです。梅雨祭りじゃんというツッコミは、胸に仕舞っておいてね。
ありがとうございました。またなんかやります。
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