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最後のステラ

07 やめろ! 暴れるな‼(by主人)

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🌙







「お祭り? 楽しいのか? それ」
「くんくん……。エイオットしゃんたち、いいにおい、しゅゆ」

 可愛く仮装したエイオットに、ファイアは鼻を押し当てる。香ばしい香りがした。ぶんぶんと太い尾を振っているファイアの頭を撫でる。

 アクアも、ムギのスカートを引っ張ってどれどれと顔をつけた

「きゃーっ。スカート引っ張っちゃ駄目です」
「くんくんくん。お前らだけうまいもの食ってきやがったな!」

 ムキッっと怒ったアクアがごっちんを指差す。頭にナナゴーを乗っけたごっちんはそっと頷く。アクアに話しかけられて、その表情は嬉しそうだ。

「うむ。うまかった。ああいう場の食べ物も馬鹿には出来んな。相場よりだいぶ吹っ掛けてくるが。アクアとファイアも一緒に行かないか?」
「「……」」

 狸双子はちろっと背後を振り返る。

 ベッドで目を回している魔王の右腕。

「おい! 起きろジュリス。お前が起きないとこいつらがついて来ない気がする」

 銀髪は胸と腹に手を置いて容赦なく弟分を揺する。

「ぅおえっ!」

 キャットは目を覚ました。
 よろよろと起き上がる。

「あほ……。脳をシェイクしないでください」
「起きたか!」
「ジュリス」
「キャットしゃん……」

 ベッドによじ登ったふたりが湿布のようにくっつく。

「ああ……? シャドーリス様⁉ えっ? なぜここに?」

 記憶が飛んでいるようだ。魔王アタック(額にキス)の威力を物語っている。

 キャットの腕が無意識に双子を抱き締めているのを見て、エイオットの頬が膨らむ。

 ごっちんもベッドに登る。

「具合はどうだ?」
「ひえっ!」

 こつんと額に額を合わせるとめちゃくちゃ熱かった。

「なんだこの高温は⁉ ……キャット?」
「うぐっ」

 ばたっと枕の上に倒れ込む。

「おい! シャドー。キャットがまた倒れたぞ! カリスを呼んできてくれ」
「うーん。ごっちん様。わざとやっておられます?」

 こっちは真剣なのに、シャドーの奴はのんきに腕を組んでいる。弟分が心配じゃないのか。

 どういうわけか、ツインズまで「何やってんだこいつ」みたいな目を向けてくるではないか。どうなっている。

 よし。ここは膝枕でもしてやるか……

「失礼。ごっちん様。本気でジュリスが起きなくなるのでお下がりください」
「む?」

 シャドーの腕がごっちんを抱き上げる。真横を流れる銀の髪が美しい。もうちょっとくっついていたかったが、丁寧に椅子に座らされた。ナナゴーは鼻提灯を膨らませている。

「私はキャットのために何かしたくて、だな!」

 座ったままきっと睨み、両拳を握って抗議するとシャドーは窓際までふらついた。目眩でも堪えるように窓枠に手をついている。

「シャドー?」
「ごっちん様。可愛いアタックはお控えください」
「は?」

 ぷくぅしているエイオットをムギがよしよししている。エイオットはムギにすりすりして甘える。




 「五分ください」とキャットが言うので、全員で廊下に出た。五分経つと別人のようにビシッと燕尾服を着こんだキャットが出てきた。髪に乱れひとつない。子どもたちが「おおー」と感心する。

 玄関ロビーで話し合う。

 執事とシャドーが立って、子どもたちは座っている。

 ようやくキャットは、エイオットとムギの服装の違いに気がつく。

「ん。エイオット、ムギ。可愛いな、その服」

 ぱあっとエイオットの機嫌が直る。

「お兄ちゃんたら。照れちゃう! そんな。世界一可愛いだなんてっ」

 頬に手を添え、もじもじするエイオットをガン見するムギ。

「あの変態みたいで不快だけっ」

 シャドーの手で口を塞がれた。

 アクアがエイオットの服を摘む。

「この服って、持ち帰って良いのか?」
「祭りが変わる前に返却すればどこに着て行ってもいいらしい」

 答えたのはごっちんだった。

 ナナゴーも自慢するようにキラキラ布の巻かれた尾びれを振る。ふりふり。主人がいれば出血多量で死んでいる愛らしさだ。ごっちんも見惚れる。

「ごっちんしゃんは? ち(着)ないの?」

 ハッとして、ファイアに首を振る。

「シャドーの財布に負担をかけるのも良くないと思ってな」

 あの村でひっそり暮らしていたのだ。きっとシャドーもそこまで裕福ではないだろう。

「?」
「?」

 超高給取りだったシャドーとキャットは顔を見合わせ、首を傾げる。

 アクアは勢いよく手を上げた。

「俺も行くぞ! わたわた飴食べる!」
「ぼくも……。アクア食べる」
「ん?」

 ファイアの言葉にシャドーが反応しかけたが、キャットが「気にしなくていいです」と言っておく。

「じゃあ、みんなで行けるね!」
「良かったですね。エイオットさま」

 両手を握り合い、狐っ子と羽っ子がきゃっきゃとはしゃぐが、

「では俺は留守番してますね」

 キャットは空気を読まずにくいっとモノクルを上げた。

「……」

 ガーンっとエイオットがショックを受ける。ぷるぷると震え出し、口が波状に歪む。

「ふ、ふえ」
「エイオットさま」

 うるうる瞳のエイオットをムギがなだめ、狸ツインズがむすっとキャットを睨む。

「ごっちんもだけど、おめーも鈍いよな」
「キャットしゃん。メッ! でしゅ」
「うぐ」

 流れ弾を喰らったごっちんが胸を押さえる。

 キャットは納得がいかない。

「はあ? 何がだ? 留守番してあれこれしておかないと。家事は忙しいんだぞ。やることが無限にある」
「……」

 何か言いたそうにシャドーが見てくるが無視する。

「ごっちん君! お兄ちゃんが酷いよ」
「うむ。叱ってやれ。シャドー」

 胸に飛び込んできたエイオットを抱き締め、シャドーに命令……いや、指示を飛ばす。

「はっ‼ お任せを」

 やる気満々の兄貴分に、キャットの顔面が蒼白になる。

「え? 何? なんで……?」
「みんなは部屋で遊ぼう」

 ごっちんが背を押して、子どもたちと部屋を出ていく。

 わなわなしているキャットに構うことなく無情にも扉が閉まると、ゆっくりとシャドーリスが振り向いた。

 牙が見える豪快な笑顔で。

 キャットは二~三歩下がる。

「へ……? シャドーリス様?」
「はっはっ‼ 気合を入れろジュリス!」

 拳同士をぶつけ合う四天王最強。鋼を叩きつけたような、人体からはあり得ない音がした。

 次の瞬間には、巨大化した拳が鼻先にあった。あまりの速度に、巨大化したように見えたのだ。

「ふんっ!」
「ッ」


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