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最後のステラ

04 封印の例外

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 バチ切れたテレスに胸ぐらを掴まれ前後に揺すられている。

「馬鹿! このチビ変態ショタコン災害金髪野郎!」
「あうあうあうあう」
「せめてっ、せめて俺の見えないところでやれよ! 助けた人を! 次の瞬間吹っ飛ばされる気持ちがお前に! 聞いてんのかコラ」
「あえあえあえあえ」

 揺すられすぎてそろそろ吐きそう。俺の三半規管の弱さ、舐めたらあかんで?

 テレスってキレたらこうなるんだな。泥人形で性格の違いとか、個体差とかありそうなんだよね。会うたびにちょびっとずつ、どこか違うって言うか。

「はあ、はあ……。疲れた」

 怒り慣れてなさそうなテレスが手を離す。俺は落ちた帽子の上に落ちた。

「おい。大丈夫か」

 テレスがよろよろと、赤ランクリーダーに近寄る。仲間が回復魔法をかけてくれたおかげで気絶しているだけだった。

「あ、はい」
「大丈夫そうです」

 何名かは文句を言いたそうだったが、その前にキレたテレスの迫力に仲間の後ろに隠れている。

「そう……」
「あの。リーダーがすみませんでした」
「助けてもらったってのに」
「いや」

 テレスはホッとしたが、ハンターたちの反応は冷たいものだった。

「でももう、近寄らないでくれ」
「あんた、人間じゃなかったのかよ」
「なんかがっかりだ。憧れてたのに。悪魔だったのか……。私はリーダーが正しいと思う。助けてもらった手前、斬られれば良かったのにとは、言わないけどさ」

 ハンターたちは引きあげていく。その後ろ姿を、傷ついた表情で見送る。

「……」

 肩を落とすテレスの後ろで、埃を払った帽子を被る。

(魔界で暮らせばいいのに……馬鹿な奴。ごっちんやキャットがきみを拒絶したりするわけないだろ)

 いや、知らんけどな。でもあいつらを見ているとそう思う。黒鳥族ですら受け入れてひとつ屋根の下で暮らしているんだぞ。血が半分も流れているテレスを拒む理由がない。

「ほら。行くぞ」

 テレスの背を叩き、主人はささっと歩き出す。




 通路を進むと光が差し込む。地上だ。

 ボスを倒さずにこの通路を歩くの変な気分がする。私服で通学路を歩いているくらい変な気がする。

 謎の民族のおかげで火山を突っ切ることになったが、何事もなく通過できたな。強烈な上り坂だった。外に出ると熱いが内部よりマシな風が吹く。

 出口は火山の七合目。柵もなにもなく見晴らしがいい。こんなところにわざわざ柵を建てに来る物好きなどいないだろうが、「出口だ!」と喜んで走っていたら足滑らしそう。

「ザンレックスの裏側は始めて来たかも知れん」
「そうなの? 観光地なのに」

 観光地に興味ないんだよね。

「え? 観光地なの? どの辺が?」
「あれ見てみ」

 テレスが指さす方を見ると広大な密林が広がっている。木々の形が南国っぽい。富士山から樹海を見下ろしているような感じ、かな。一面緑だ。うっすら雲が乗っかっている。

 富士山、登っといたらよかったな。

「密林が観光地?」
「……」

 テレスが無言で俺を抱き上げた。
 肩に乗せられる。

「おおっ」

 地平線のあたりに、黒いモヤがあった。モヤはキリのように密林の一部を包み込んでいる。

「霧?」
「一切謎。こうやって遠目から見てれば霧のようだが、近づけば霧どころの密度じゃねーぜ? 夜だ夜。太陽が昇っても夜が取り残されたような暗さだ」
「あの霧の中に、何かあんの?」
「今のとこ分かってるのは遺跡があるってことだけだ。ほぼ壊れてるけどな」
「分かってないことがあるのか?」

 テレスが下ろそうとしてくるが、もうちょっと見せて。

「……暗すぎてな。松明や光魔法も作用するけど、ぜんっぜん明るくならない。無いよりマシ、なだけ。暗い。とにかく。おまけにモンスターも出てくる」
「調査が進まないのか」
「そうだな。いちいちのこの火山を通らないといけないし。密林も厄介な虫や爬虫類型モンスターえぐいし。手ぶらで来れるの〈優雅灯〉くらいだ」

 あいつ、調査系の依頼に引っ張りダコだからな。こいつもな。

「じゃあ、俺が探している二種のうちの一種って」
「そうそう。あの『くらやみ遺跡』の中。キャット様の話じゃ、残りの一種も居る可能性がって、おっしゃっていたな」

 今すごいこと言った。

「おいい! 早く言えよ! あっ、今思い出したな⁉」

 キャットと会話するだけで記憶飛んでたもんな。
 テレスは恥ずかしそうに「すまん」と呟いた。

 主人はコアラのようにテレスから降りる。

 嬉しい情報だが……胃が痛くなる。遺跡でじっとしている保証も無いのだ、密林にでも散歩に出られていたらすれ違いになってしまう。

「あの遺跡って、広いの?」
「広い。地下空間も広がってる」

 地下……か。地下ですか。

「『平崩』で遺跡上部吹っ飛ばすってどうかな?」
「『くらやみ遺跡』は一階までは一般人出入り自由だから。撃ったら俺と殺し合いになるが?」

 とても冷たい眼で見下ろしてくる。あんな思いしているのに、なんでこいつは人間嫌いにならないのか。

「……」

 本体がどこに居るのかもわからない金ランクの人形とバトルか。面倒だな。
 主人はがしがしと頭部を掻く。

「ああもう。ちんたら歩いて行くしかないってことね」
「そゆこと」

 テレスの声が明るい。

「なんか。きみ、楽しそうだな」
「ん? ああ。そうかもな。俺もここは気になってたんだ。ここもザンレックス同様、一階層から下に下にって潜ってく感じなんだけどさ」
「ああ」

 話を聞きながら三日月君を呼ぼうとするが、来ない。

「『空の封印』か!」
「だから火力が……え? ああうん。ついでに『土の封印』と『闇の封印』もある」
「は?」

 闇魔法はふたりとも大して使えないので良いとして、土の封印?

「きみ、泥人形動かせなくなるんじゃねーの?」

 テレスはあっさり頷いた。

「うん。だからコレが壊れたら道案内できなくなる」
「おい。ふざけんな。スペアを二百体ほど持ってこんかい。いや待て。動かせるのか? 『土の封印』があるのに?」

 シャドーリスも『水の封印』の地で水を操ってみせた。本人は温泉だからセーフと言っていたが、まさか泥人形も土じゃなく泥だから~と言うつもりか?

 気になっていたということもあり、主人の鼻息が荒くなる。

 どうなんだ、教えろと書いてあるふくふくした頬を見下ろす。

「そんなに気になる? 意地悪してやりたくなるね」

 ニヤッと精悍な顔が笑う。

「てめえ。教えないつもりか?」
「さーて? どうしよっかなー?」

 すたすたと道を下って行ってしまう。
 主人は細い脚にしがみつく。

「教えろ教えろ! 良し分かった。きみに無礼な口を利いていたさっきの奴らを消し飛ばしてきてやるから。待ってろ」

 だっと駆け出そうとした三角帽子をむんずっと掴む。

「分かった。やめて。教えるからやめて」
「何を言う! 俺との仲じゃないか。金ランク同士、遠慮はいらんぞ! 任せろ」

 帽子を掴んだまま歩くので主人は引きすられていく。

 主人にしては珍しく善意からの言葉だった。

 はた迷惑そうな顔でため息をつく。

「テレス~」
「あんまり言いふらさないでくれよ? 魔族は魔王様のお力が混じっているから、封印の影響を若干、あの、受けにくいんだ」

 また魔王か!

「ごっち……魔王様どうなってんだよ。枠外過ぎるだろ」
「まあな。でも俺は魔王様のお力は微量だから、泥人形はなんとか動かせるが、再生はむずい、かもしれない」

 例外はないと思ってたのに。例外は魔族だったか。もっと頑張れよ封印! ごっちんが気にもしてないわけだよ!

「シャドーリスが『水の封印』の地で水を操ったのもそのせいか?」
「ブッ!」

 泥人形が吹き出す。

「シャ……。なんでお前。上の御方たちばかりと知り合いなんだよ」
「で? スペアはあるんだろうな?」
「さっき、カードゲームしてただろ?」
「あ。あれか」

 密林に足を踏み入れるとひんやりとした空気がまとわりつく。

「熱帯じゃないのか」
「遺跡の冷気がたまにこうやって漏れ出すんだと」

 それって遺跡内部は超絶寒いってことか?

 寒暖差がキツイ。

 ツヤツヤした葉を押しのけ、獣道ならぬモンスター道を進む。
 テレスを盾にして。

「……なんで俺の背中にしがみついてるの?」
「俺は虫は嫌だ」
「奇遇だな。俺もだ」
「頑張って。ほれ。歩け」

 ぺしぺしとテレスの頭を叩く。

「おい。俺は火力不足だからお前に案内するついでに内部を探索しようと思ってたんだぞ。お前が戦ってくれないと進まないだろが。降りろ。〈黄金〉」
「きみ金ランクだろ! 火力がないとか二度と言うな。ハゲの前で剛毛が『俺最近髪薄くなってきたんだ~』と言うのと同罪だぞ覚えとけ!」
「お前の地雷が分からん」

 テレスが足首を掴んでくる。おううう! 意地でも下りないぞ。アゲハの時みたく、ラクして進むんだ!

「服を掴むな! 伸びる」
「うっさい。アゲハを見習え。俺は寝てたら到着出来たんだぞ!」
「〈優雅灯〉が甘やかしたせいかこれ! あとで迷惑料請求してやる!」

 もがもがと揉めながら進む魔法帝国の最高戦力たち。


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