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最後のステラ
03 レイドバトル後
しおりを挟む最深部十階層。
レベル330のダイヤモンドコアトル。飛行機サイズの鷹モンスターと数名のパーティーがレイドバトル(体力の多いモンスターを複数でボコる戦い方)中だった。
青と赤ランクが混じったパーティーだ。
「バランスは良さそうだが、倒すのに時間がかかりそうだな」
ボスの大広間を、邪魔にならないよう崖上からこそっと覗く。飛行機サイズが暴れられるだけあり、凄まじく広い。
「あと何分ぐらいかかりそう? って聞いてきてよ〈黄金〉」
「ざっけんな。それはあいつらが一番知りたいだろうよ」
赤を通り越し、黒い溶岩が躍る空間。黒いマグマは赤いマグマより凶悪な熱さを誇る。それがダイヤモンドコアトルの風圧であらぬ角度から飛んでくるのだ。モンスターの攻撃にも溶岩にも気を配らねばならない。
主人はため息をつく。
「足手まとい(青ランク)を連れてよくやるよ。即死ガス充満エリアだぞ、ここ」
「戦闘は赤ランクが引き受けて、青ランクは回復や強化魔法に専念してるし。これならそこまで邪魔でもないだろう」
「……邪魔だろ。青は一発でも喰らえばお終いだぞ」
がたがたと震えている者もいる。
どうしてそこまで……
「あ、卵」
テレスの声に主人も気付く。ダイヤモンドコアトルの巣に、眩い輝きがある。それは三メートルを超える巨大卵。殻がダイヤモンドで出来ている文字通りのお宝だ。
(あれで指輪を作ってプロポーズした巨人族の話があったな)
桃太郎や浦島太郎のようなおとぎ話だ。
でかすぎんだろと思ったが、巨人族からすれば丁度いいサイズらしい。
「あー。コアトルは滅多に卵産まないし。なるほど。これは期を逃すことはできないな」
うんうん頷くテレスに、主人は暇そうに通路を指差す。
「邪魔しないからそーっと奥に進んだら駄目かな?」
あの奥の通路が地上に繋がっている。
「……駄目だろ」
「昼寝しとこっかな」
主人は岩陰で丸くなり、テレスは泥を分けて自分をもう一人作るとカードゲームを始めた。
青ランク多数、赤ランク一人がリーダーを務める即席パーティーはダイヤモンドコアトルの討伐に成功した。あの巨体がある時を境に崖際に近寄らなくなったおかげで、動きが鈍ったのだ。
「やったぞ!」
「俺たちの勝利だ!」
湧き上がるハンターたちを寝ぼけ頭で見下ろす。
「終わったっぽいな」
「「やべ。俺も寝てた」」
テレス二体も欠伸をしながら起き上がる。まったく同じ動きだった。
「宴も終わったか」
「よし。行こう。これ以上足止めはごめんだ」
主人に続き、一体に戻ったテレスも崖を飛び降りた。
後ろを通るが、剥ぎ取りと、卵の輝きに魅了されているハンターたちは気づかない。
一方、回復役は動かない仲間に魔法をかけ続けている。
「頑張れ。倒した。倒したんだ!」
「戻ってこい! 家族がいるんだろ」
治癒魔法で傷が塞がるが、流れた血も命も、戻りはしない。
「……数名、手遅れな奴がいるな」
「助けたいのか?」
前を歩く〈黄金〉面倒くさそうに顔を向けてくる。助けたいなら好きにしろ、二十秒だけ待ってやると、顔に書いてある。
(なんか丸くなったか。こいつ)
奇妙に思いながらも、テレスは迷わなかった。
「血液操作――蘇血(そち)」
血液には型がある。日本人なら当然のように知っている知識だが、この世界にその知はない。平然と型も調べず輸血しようとしているのを見て面食らったこともある。
血液の知識に一番長けているのは魔族だ。
テレスは魔力を解放する。
壁や地面に飛び散り、マグマに落ちた血まですべてが浮き上がり、一か所に集まる。どうなってんだ。地面や床の血はまだわからんでもないよ? マグマに落ちた血は? どうやって拾い上げた。
流石ぶっ壊れの脳みその持ち主。何をやらせてもいちいち質が高い。
「な、なんだ!」
「あ、あれ! 金ランクだ! ど、〈泥の王〉に〈黄金〉まで……」
渦巻く血液に、流石にハンターたちも二人に気づく。
我が目を疑い、ごしごし擦っている者もいる。
「な、なんで……?」
「ダイヤモンドコアトル以上のモンスターでも現れたのか?」
ハンターたちは取り乱す。金ランク二名が派遣されるような化け物がここにいるのかと。
もちろんそんなことはないが、金ランクが「ただ通りがかっただけ」など、今の彼らには信じがたいことだろう。
だが、自分たちの戦果を横取りする気か⁉ など、誰も思わない。そんな必要ないからだ。それに一人は人助けで成り上がった変人だ。仲間を助けてくれるのだと、誰もが安堵した。
赤ランクのリーダーだけは、武器を握りしめていたが。
(すげーな。俺だけだったら攻撃されてたかもしれん)
知名度はあるが人望の無い主人は適当な岩に腰掛けて見守る。
回収された血液は一旦一ヵ所に集まると、名前が書かれているかのように血を流した本人の元へ戻っていく。
「え? なんだ?」
「うおっ!」
なまじ傷が塞がっているため、血液は口や耳、身体の穴と言う穴から体内に戻ろうとする。おまけに黒マグマの熱で熱せられており、高温の体液が血管を走り回ることとなる。
「おぼごぼぼぼ、あぎゃああああああ!」
「な、熱ギャアアアアアアア!」
「お@♯△□jぎうううううううっ」
沸騰寸前の血液が戻ってくるなど誰も予想していないので、体内の熱を防ぐ防具や護符、護石など誰も持っていない。
見てられなくて主人はそっと両手で顔を覆う。
人助けだ。一応。拷問のようになっているが、失った血液を一気に取り戻せるだけでなく、テレスの血液操作で、内側から強引に心臓を動かす。
――ドクンッ!
「っ、ぼあ!」
「うわ! 起きた⁉」
目を見開き、血を吐いて飛び起きる。吐いたばかりの血も容赦なく口をこじ開け、ただいました。
あまりの熱さに三途の川を渡りかけていた者たちが強引に連れ戻される。
雑菌塗れの血液が血管を何事もなかったような顔で通るが、このレベルの者たちならギリ耐えられる。
(相変わらず助けてるとは思えない光景だ)
指の隙間から惨状とテレスの後ろ姿を見つめる。
「……ふぅ」
これでもかと悲鳴を引き出したテレスが魔力を閉ざす。
溶岩の流れる音だけとなった大広間は、数名のハンターが転がっていた。
ぴくぴくと動いているので、生きてはいるだろう。
死者数、ゼロ。
見事だ。
二つ名「泥の王」と「救血主(きゅうけつしゅ)」どっちがいいとギルマスに聞かれて、テレスは「かっこいいから」と言ってこちらを選んでいたが、救血主も似合うと思うぞ。この世界で種族問わず輸血できるのはこいつだけだ。魔族は人間を助けようなど、考えもしないからな。
「なんの、つもりだ……?」
唯一、片膝をついて耐えていた(治療)赤ランクが睨んでくる。
さっさと通り過ぎようとしていたテレスは足を止めた。
「なんのつもり、とは?」
「その力! 魔族の力だ! ……お前、人間じゃなかったのか。悪魔め!」
「!」
主人含め、この場の全員が目を見開く。
おお。若い世代で魔族や血の悪魔を知ってる者がいたとは。勉強熱心だな。
「まぞく……? り、リーダー何言ってんだ?」
「俺、じいちゃんから聞いたことあるぜ」
「は? 〈泥の王〉って人族だろ?」
大広間がざわつく。
そんなざわつきにここを乱すことなく、刃が欠けた剣を構える。
「人に混じって何を企んでいるっ!」
(まじかよ)
主人は一歩下がる。
戦闘の後で気が立っているのは分かるが。
赤いマントを翻し、なんとテレスに斬りかかってきた。
「……」
「破ぁああっ!」
剣はテレスを両断するが所詮は泥。すぐにくっついてしまう。スライムより再生が早い。
「リーダー! やめろ!」
「き、ききき金ランクだぞ⁉ おつつ、落ち着け!」
悲鳴を上げ青ランクが飛び掛かるが、腕の一振りで散らされる。
「魔族が出たと聞いたが、お前の仲間か!」
「……」
滅茶苦茶にめった刺しにするが、泥が飛び散るだけだ。痛みを感じるとはいえレベル差が悲しい。テレスを傷つけたいのなら本体を探し出すか、罵倒や口撃による精神攻撃くらいしかない。
リーダーは立ちすくんでいる魔女っ娘に指差す。
「〈黄金〉! こいつは人類の敵だ! 人間のふりしてやがったんだ。あんたならこいつを倒せるだろ。手を貸してくれ」
「えーっと」
嘘だろ~……? ちょっと、いやかなり拷問だったけど自分どころか仲間まで助けてもらったのに?
魔族の人間の溝は深いってか。
それはそうと、俺の視界に成人した生き物が入るな殺すぞ。
「落花星」
「ちょ待っ‼」
テレスがなんか言ったが、青白い閃光はリーダーを吹き飛ばした。
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