全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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七つの宝に勝るもの

13 ギルマスがうるさく言わなかったらついてきてくれたと思う

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 魔女っ娘の前で正座する青髪の青年。

「いや、あの。レムナント様の容態を確認しようと思っただけで。危険な魔法を使ってたし、それを跳ね返しちゃったので」
「そうか」

 おっぱじめるのかと勘違いして上空から落花星を撃ってしまった。

 アゲハに直撃したはずなのだがピンピンしてやがる。
 薄い毛布を身体に巻きつけたレムナントが、そろっと近づいてきた。

「お久しぶりです。〈黄金〉様」
「えーっと?」
「レムナント様ですって」

 村に一番近いギルドで休ませてもらっている。
 クリアもロイツも眠っているだけだと分かり、レムナントは甲斐甲斐しく面倒を見ていた。世話するのが嫌ではなく、むしろ好ましく感じる。ムギちゃんと似たタイプだな。表情を見ればなんとなくわかる。

 金ランク特権で一番広い部屋を貸してもらっているが、首都のギルドと比べれば狭い。

「それで。父さんはどうなさったんです? ナナゴーちゃん用の虫を食べ切っちゃいましたか?」

 人魚と言わなかった点は褒めてやる。

「いや……。探している種族の居場所が、噂程度だが判明してな。またお前についてきてもらおうかと思ったんだが。んーと、忙しそうだな」

 ちらりとレムナントたちを見る。アゲハは野良魔族討伐も控えている。あまり連れ回すのは得策ではないか? 人探しなら、こいつか〈泥の王〉に勝る者はないのだが……。

 〈泥の王〉テレスアリスでも良いが、あいつはあいつで本気で見つからん。拠点を教えてほしい。

「忙しいなら断ってくれ」

 俺は全く気にしないぞ、と本人は大物感を装っているつもりなのだろうが。無意識なのかアゲハの腕にぎゅうっと抱きついている。

 照れた顔を背けているアゲハを、レムナントはついじっと見てしまう。

「すみません。ちょっと先にレムナント様とお話があるので」
「うむ」
「「……」」

 くっついたままだが、青年たちは気にしなかった。

「レムナント様」
「は、はいっ」

 声が裏返りそうだった。ぴしっと背を伸ばす。

 魔法が掠りもしなかった。判定は×です。到底連れていけません。と言われても反論の余地がないほど無様な結果だった。

「口を挟んで申し訳ないが、気になることがある。闇魔法を跳ね返したんだっけ? 闇魔法の使い手が、なぜ自分の魔法を喰らって倒れるんだ?」

 自分の魔法くらいなら相殺できる〈黄金〉が不思議そうな顔をする。

「ああ。正確に言うと。跳ね返したのではなく『倍返し』したのです。跳ね返す際に威力を高める虫ちゃんを仲間にしているので……見ます?」
「見ない。首飾りから手を離せ」
「え? ……はい」

 金ランクが素直に言うことを聞いている。

 レムナントは動かなくなった自分の身体を思い出す。

「では、私は……」
「自分のレベル以上の魔法を喰らった、というわけか」
「そうなります。正直危険なことをしましたが、レムナント様は上等な護石を持っているので大丈夫かと」

 きらりと輝く緑の石。

「確かに症状がそこまで酷くなさそうだったな」
「そうならそうと、言ってくれりゃあいいのによ……」

 ベッドから身を起こしたクリアが悪態をつく。レムナントはすぐに駆け寄った。

「お身体の方は? どうですか? どこか痛い、ですか⁉」
「……っ」

 がばっと抱きついてくるレムナントから全力で首を捻る。

「ち、近いです」
「私の顔が近いと何かあるんですか?」
「いやあの、理性が」
「あ……」

 二人の空間に花が舞っている。主人は真顔になり、アゲハはほほ笑ましく見守った。

 胸元の石を握る恋人を抱き締める。
 ふわりと温かいものに包まれ、レムナントの肩から毛布が落ちた。

「あの」
「はあ……。頼りなくて悪いな。俺ももっと、せめて虫よりは強くなってみせるぜ」
「……」

 レムナントは何も言わず、ただ愛しい胸に顔を埋めた。

 アゲハの虫のレベルは高いが、まあ頑張れよとエールだけ送っておく。

「レムナント様は合格です。俺と一緒に行きましょう」
「え?」
「え?」
「ふえ?」

 寝たふりをしていたらしいロイツまで顔を向けてくる。レムナントの手がロイツの頬に伸びた。

 顔はアゲハに向けながら、ふにふにと頬肉をタップしている。

「ご、合格? 私は醜態しか晒してませんけど?」
「俺のパンチに数発耐えただけで大したものです。これなら、いざという時は、まあ大丈夫でしょう」
「……」

 ゲロ甘評価なのは伝わってきたが、断る理由はない。

「はいっ。ありがとうございます」
「もちろん、トゥームの皆さんはついてくるんですよね?」
「当然ですー」
「俺もついて行くぜ」

 ふにふにされつつ手を上げているロイツ君が可愛い。俺も~、一回くらいなら触ってもいいかな? ぐへへへへへへぇええ。

 近寄ろうとしたがぐっとローブを掴まれる。

「いちふに(一回くらいほっぺふにふに)したっていいじゃないか!」

 きっと振り返るが、ローブを掴んでいるのはアゲハの腕ではなく、人っぽい腕を持つイナゴだった。
 ばたっと倒れた虫嫌い魔女っ娘を無視する。

「野良魔族の居場所はつかめたので、明後日この場所に集合してください」

 ちらちらと主人を見ながら紙と地図を差し出してくる。

 地図には集合場所が記されていた。

「あの。〈黄金〉様との用事を済ましてからでも、構いませんよ?」

 めっちゃ行きたそうに見ているので気を利かすレムナントだが、青髪は両手を振った。

「いえ! 魔族討伐が最優先ですので。ギルマスにもうるさく言われてますし……。大丈夫です」



 アゲハの助力を得られなかった。
 一人で行くか……。


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