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七つの宝に勝るもの

12 闇魔法の奥義

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 モンスターに襲撃されたばかりの村で砂煙が上がる。

「レムナント様!」

 駆け寄ろうとするロイツの腕を掴んで止めるが、クリアの表情も険しい。

「ぐうっ……。い、いきて、ます」

 瓦礫から身を起こしたレムナントの頭から血が滴る。
 剣は真っ二つに折れ、いつの間にかマントもなくしていた。頼みの綱の魔法も、発動前に拳が飛んでくる。どれだけ距離を取ろうと、それを無にする機動力で懐を侵略される。

(赤子を相手にするほど、手加減してくれてはいるのでしょうけど……)

 立ち上がれたが、右腕が動かない。出血が酷く視界もかすんでいる。当然だ。相手はあの魔族を圧倒した人物だ。この紫の目がなければすでに自分は地面に伏している。〈黄金〉の話では、目には回復能力も備わっているらしい。思い出すだけで吐き気がするが、この紫目は利用させてもらうこととする。

 そうでもしなければ、レムナントはあの魔族には届かない。
 魔力を集める。

「闇魔法――……?」

 眉を寄せた。
 詠唱をするたびにぶん殴られていたのに。今回は飛び掛かってこない。魔法を一回くらい喰らってやろうというつもりだろうか。棒立ちになっておられる。

(好機……)

 喰らってくれるのなら喰らわせてやる。戦闘不能にできるなど思い上がってはいないが、多少なり認めてもらえるなら。

「可惜夜(あたらよ)」

 闇魔法の奥義。

 完全に使いこなせるわけではないし、人相手に撃って良い魔法ではないが。胸を借りるとしよう。
 見守っていたクリアたちをも、闇は呑み込んだ。








 奥義か。

(人間扱いされてないな)

 ちょっとだけ元息子を不憫に思った。

 「可惜夜」は決まれば相手の心を塗り潰す。視覚、触覚、聴覚、味覚、嗅覚。五感のすべてを奪われ終わらない美しい夜の世界へと誘う精神汚染系魔法。これを超える精神系魔法は、ごっちんの召喚するモンスターが使用する魔法くらいしかない。

 復讐に燃えていたのでてっきり攻撃魔法ばかり磨いていると思ったが、しっかりレベルを上げて順当に強くなっている。ゲームのステータスで例えるなら尖ったところは無いが、満遍なくすべての数値が高い。といった具合か。これと言った強みは無いが、敵に回すと面倒くさいタイプ、だな。

 しかし。アゲハに精神攻撃をするのなら、レベルが圧倒的に足りていない。

(あの子は仲間にした虫モンスターの特性を自分のものにできる。あいつの身体はもう、ほぼ人間じゃないぞ)

 それでも。ジャイアントキリングがあるかもしれないと、〈黄金〉は決着を見守った。













 目が覚めると、ロイツが覗き込んでいた。泣きそうな顔で。

「……」
「レムナント様! 目が覚めましたか?」

 がばっと抱きついてくる。名前を呼ぼうとしたが声にならなかった。

 ピンクの髪を撫でようと腕を持ち上げようとしたが、これまた自由にならない。脳から下が自分の身体ではないような、ゾッとする感覚だった。だがその違和感もすぐ溶けてなくなり、指先くらいなら曲げ伸ばしできるようになる。

「レムナント様!」

 クリアが走ってくる。自分と目が合うとほっとした笑みを見せた。
 どかっと、レムナントの横であぐらをかく。

「気分は、どうですか?」
「……」

「まだ喋れないと思いますよ」

 アゲハもやって来る。傷一つない。

 ああ。自分は負けたのか。

 心が重くなる。
 勝てると思っていたわけではないが、現実を受け止めるのに時間がかかりそうだった。

 それでもレムナントは薄い笑みを広げる。

「……笑えるのは見事ですね。あなたの魔法を跳ね返したので、ちょっとの間は、身体は動かせませんよ。……何をされようとも」

 片膝をついたアゲハが、ぐっと顔を近づけてきた。

 ドキッと胸が鳴るが、「オラァ!」っとクリアがクッション(ロイツ)をふたりの間に差し込んだ。
 むいっとほっぺが触れる。

 アゲハの肩を掴んで引き剥がす。

「あんた! 金ランクだから何しても良いと思ってんのかァア⁉ 俺の目の前で、いい度胸だ!」

 激怒するクリアの手に、苦笑しながらも自分の手を重ねる。

「すみません。邪魔です」
「――ひぃっ」

 〈優雅灯〉の手が触れた個所から虫が湧き、クリアの腕を伝って顔まで上がってくる。

「う、うわ! 虫っ」

 手で払うが、虫の方がレベルは高いのか岩を殴った感触だった。

 虫のトゲがチクッと触れると、クリアは意識を失う。
 どさりと、レムナントの上に倒れ込む。

「クリアさ……」
「ちょっと! 何するですか⁉」

 流石に抗議の声をロイツが上げるも、そっと頭にホームベースサイズのカナブンを置かれると、不自然なほど一瞬で気絶した。

「ロイツ!」

 身体の動かせないレムナントだけが残るが、どうしようも出来なかった。


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