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七つの宝に勝るもの
05 オムレツの絵柄
しおりを挟むごっちんはテーブルにお皿を並べていく。
「むっ」
テーブルクロスがシミで汚れている。これも洗濯しなければいけないのか。キャットがいつもやっている仕事内容をリスト化しておいてもらえばよかった。
今日だけテーブルクロス無しで食事を……と悩んでいると、後ろから覗き込んできたシャドーが浄化魔法で新品同然にしてくれた。
がしっとシャドーの手を握る。
「よくやった。ここで働けお前!」
「おおう……。有難きお言葉。ですがごっちん様。行動と台詞が金髪と被っておりますぞ」
手を握っているのを見て、仲直りしたと思ったらしい子どもたちが拍手してくる。照れくさいな。……アクアのよだれが水溜まりみたいにってかわいそうだから、飯にしようか。
席に着き、手を合わせる。
「いただきます」
「「「「「いただきまーす」」」」」
ナナゴーは「いただきます」の意味をよく理解してないようだが、周りの真似をする。
食卓に並ぶ、虫入り料理。まだ慣れない子どもたちは微妙に目を逸らす。
まぐまぐと元気いっぱいに食べるナナゴーとアクア。
「あ、待ってくれ。トメイトソースで顔を描いてみたんだ」
ほぐほぐと咀嚼は止まらないが、手は止まる。
「「「……」」」
みんなで卵焼きを見つめる。
確かに……絵柄っぽいものは……あるような、ないような。もしかしてごっちんが言っていた笑われた絵とは、これのことか。
エイオットは皿を持ち上げ、いろんな角度から眺める。ファイアは近づきすぎて鼻の先にソースがついてしまった。
「あう……」
困った顔でアクアの方を向くと、ぺろっと舐め取ってくれる。
「ありがよ」
「うめっ」
ムギも細かい文字を見るときのように目を細め、ナナゴーはムギに頬ずりして遊ぶ。
主人の席に座ったシャドーも腕を組む。卵焼きを眺め、首を傾げている。
「……。……? ……」
ごっちんは堪らずに顔を覆った。
「……もういい。すまなかった。普通に食べてくれ」
忠臣にまで本気で分からないという顔をされてしまった。
まだ下手だなと笑ってくれる方がマシだったかもしれない。
許可が出るとアクアたちが一気に食べだす。
「うめっ。おい、ごっちん! これうめぇぞ」
「う、うん。嬉しいぞ。アクア」
ぼろぼろと口からこぼれているから、黙って食べなさい。
「うま、うま」
ナナゴーもほっぺをぱんぱんにしている。虫料理を作った本人はドヤ顔して卵焼きを収納鞄に仕舞おうとしている。それを見咎めたごっちん。
「何をしている。シャドー」
「え? い、いえ。ごっちん様の卵焼き。……永久保存しようかと」
「食え!」
やめろ。食卓が気まずくなった卵焼きを保存するな。私に効く。
シャドーは何かと戦うように葛藤していたが、やがてのろのろと食べ始める。
「ご、ごっちん様の手料理……。美味です」
(焼いたのはお前だろうに)
幸せそうな顔をするシャドー。
――可愛いな。今度部屋に誘ってみるか。
臣下に手を出す気満々のごっちん。
卵を焼いただけの量の少ないメニューだが、誰一人文句を言わなかった。食べられる幸福を噛みしめている子どもたち。
アクアなどは皿についたトメイトソースまでべろべろと舐め取っていた。行儀はよろしくないが、そこまで食べてくれると嬉しい。
みんなで手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
一人の声が喧しくてかき消されたが、全員きちんと言っていて偉いぞ。主人殿がいない今、私がしっかり褒めてやらないとな。
さて、皿を洗うか。
「はっ! お任せを」
心を読んだかのようにシャドーが全員分の皿を持って厨房に消えて行く。速い。
「待て。私もするぞ」
「……」
「なんだその顔色は。お前たち。そんなに私が皿洗いをするのが嫌なのか?」
「はいっ!」
なんていい返事だ。
揉めているとエイオット達が顔を出す。
「おれも手伝うよ」
「はーい」
「あの。わたしも……」
「ぼくも」
「なんで俺まで!」
アクアはファイアに引きずられてきたようだ。アクアを手放したくないファイア。力持ちだな。
「では全員でやろう!」
仕切るシャドーに、ごっちんはまあいいかとため息をついた。
「ねえ~。お外に行きたい」
「ジュリスは? 会わせろ会わせろ」
「むしゃ、むしゃ……」
「飛ぶ練習、したいです」
「ねむ……」
狐っ子がコアラのようにくっついてくると、他のちびっ子も寄ってくる。ジュリスに会いたがるアクアに、アクアの尻尾を齧っているファイア。羽をぱたぱたさせるムギ。ナナゴーは眠たそうにうとうとしている。
「外に行きたいのか。買い物に行くついでなら。留守はカリスにさせるか」
ごっちんもちびっ子に紛れてシャドーにぴとっともたれかかる。
髪を解いたシャドーは動けないので仁王立ちしている。
「では外に行くか! 子どもは遊ぶのも仕事と言うしな」
ずりっずりっと、子どもたちを引きずって歩く。キャットの部屋の戸を叩くと、カリスが出迎えた。
シャドーの顔を見るなり、口を歪め表情を曇らせる。だがそこには旧知の友と話すような気安さがあった。
「大声出した瞬間、叩き出すからな」
「はっは! 久しいな! カリス殿!」
叩き出された。
カリスは恭しく、クッションを置いた椅子をごっちんに勧める。
「どうぞ」
「うむ」
見舞いに来ただけなので構わなくていい、と言いたいが、こいつらは私をもてなさないと具合悪そうな顔をするからな。
偉そうに腰かける。それだけでカリスは嬉しそうだ。
「ジュリスー」
「キャットしゃ……」
ぱたぱたと、狸双子がベッドに向かっていく。
泡吹いているキャットに頬ずりする。
「すーりすーり」
「むにゃむにゃ」
ファイアがさっそく寝そうになっている。
「何用で?」
当然のように片膝をつくカリスに、小さくため息を漏らす。いちいち跪かんでいい。
が、……もう好きにさせよう。
「少し子どもたちを遊ばせてくる。半分寝ているナナゴーも見ておいてやってくれ」
水槽の部屋で一人だと、寂しいかもしれないしな。キャットの部屋に置いておこう。
ムギは寝ているナナゴーをそっとクッションに寝かせると、ぱちっと目を開けた。
「早く早く! 遊びに行こう!」
ぐるんぐるんと天井付近を泳ぎ回る。
「あ、あれ? ナナゴーさま。眠かったのでは?」
「ムギも、あそぼー」
遊びモードになってしまったようだ。ムギの髪に乗っかってはしゃいでいる。
「……えっと。では遊びに行きたい者は?」
ツインズ以外が手を上げた。
ファイアは眠ってしまい、アクアはそんなファイアの髪をよすよすと撫でている。
「ではカリス。アクアとファイアを見ててやってくれ」
「御意。じゃあ。お礼にキスくらいもらわないとな!」
「え! ちょ、カリ……」
ずんずん迫ってくる。お前さっきまで、片膝ついていたよな? 無礼なのか礼儀正しいのかどっちかにしろ。
服を脱がされそうになるが、突如乱入してきた洪水がおじさんを窓の外へと押し流した。
一瞬の出来事。
ぽかんとしている子どもたちもごっちんも、床すらも濡れていない。
焦った様子のシャドーがすぐに押し入ってくる。
「どうなされた⁉ カリス殿は? 謀反ですか?」
「え、あー。いや……。気に、するな」
窓を開けて下を見るも、困ったおじさんはしぶとく生きていた。
窓を閉める。
カリスもあれで仕事はするので大丈夫だろう。
「では、遊びに行くか」
子どもたちは「わ、わぁい」と盛り上がらない万歳をした。
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