全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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七つの宝に勝るもの

04 起こしてきてくれ大声は出すなよ

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 たくさん遊んでお風呂に入って、子どもたちが寝静まった頃。

「えっちなイタズラ出来なかった……。ナナゴーが無邪気にボール持ってくるから。くっ!」

 玄関ロビー。
 悔し涙を流している白ローブを見つめるごっちんと冷めた目のキャット。

「留守は任せろ」

 キャットが指を差してくる。

「お前だけ帰ってこなくていいぞ」
「人に指差すなゴラ」

 シャドーリスは子どもたちと一緒に眠ってしまった。溶け込むのが早すぎて羨ましい。
 くいっと、ごっちんの顎を持ち上げる。

「どう? 今回は俺と二人で出かけない?」

 ごっちんが何か言う前に、キャットに蹴り飛ばされた。

「触れるないい加減にしろ。ごっちん様が穢れる」
「触っただけで⁉」

 ちょうど扉まで吹っ飛ばされたので、そのまま出ていく。油を刺したんだけど喧しい音が鼓膜を叩く。
 ゴギイイイィィィ。

「あとよろしく~」

 三日月が大人主人を乗せ、きらっと飛んでいった。
 キャットはせっせと、おしぼりでごっちんの顔を拭く。

「大丈夫ですか? ごっちん様。お怪我はっ?」
「いや触られただけ……」

 何かを思いついたごっちんは、目の前にある額にキスをした。
 ちゅっ。

「ふふっ。主人殿が子どもたちと仲良くしていると、私も真似をしたくなる……。あ」







 呼びかけてもキャットの意識が戻らなかったので、家事にシャドーリスまで引っ張り出されることとなった。せっせと厨房で、人数分のご飯を作る。

「魔が……魔が差したんだ」

 アクアとファイアが嫁にするとか、可愛いことを言っていたからつい。
 申し訳なさそうな顔で、しゃかしゃかと卵をかき混ぜるごっちん。

「罪深いことを。カリス殿が白目剥いてましたよ」

 魔王様が厨房にいる事実にガクガク痙攣しながらも、シャドーリスは調理を手伝う。息子大好きなカリスにも打撃を与えてしまったので、ふたりで頑張るしかない。

「あとは盛り付けるだけだから、子どもたちを起こしてきてくれ爆音は出すなよ?」
「承知!」

 後頭部で髪を束ねたシャドーが厨房から出ていく。
 キャットのように手際よく出来ないのでもたついてしまう。はっきり言ってシャドーが来てくれて助かった。

 卵焼きの上にトメイトソース(ケチャップ的なもの)で可愛く絵を描こうとするが上手くいかない。

「ぐう……。キャットはさらっとこなしているのに」

 エイオット達の顔を描いたつもりだが、控えめに言ってお化けのようになってしまう。ぐぬぬっとトメイトソースまみれのスプーンを握る。
 それでも子どもたちの笑顔を思い浮かべ、せめて彩だけでも良くしようと野菜を並べた。




「起きろ! 子どもたち」

 シャドーにしては控えめな声で扉を開ける。
 びくっとムギが振り返る。早起きした黒鳥族の子が、他のちびっ子を起こしているところだった。
 ズンスン近寄ると大きな手を、赤い頭に乗せる。

「おはよう!」
「おは、おはようございます。シャドー様」
「うん!」

 シャッとカーテンを開けていくが、朝日が入ってくるわけでもない。

「カーテンをつける意味があるのか⁉」

 仕方ないので魔力を流して部屋の明かりを最大にする。フローライトに亀裂が入った。

「あれ? なんだ。随分安物を使っているのだな」

 長らく城住まいで一級の魔具ばかりを日常的に使っていた最強は、安物の耐久値に驚く。

 しかし割れてしまった物を置いておいては子どもたちが怪我をするかもしれん。
 シャドーは窓を開けると、駄目になったフローライトを投げ捨てた。ムギが目を飛び出して驚くが、四天王は何もなかったように窓を閉める。

「うむ。よし! ほら。起きろ」

 ばっと掛け布団を没収する。
 手足の指先を、冬の空気が触れる。子どもたちはぎゅっと身を丸めた。

「んうう。もうちょっとぉ……」
「うるしゃいぞ、ジュリスぅ」
「むちゃむちゃ……」
「起きろ! 魔王さ、ごっちん様が食事を……しょ、食事を作ってくださっているのだぞ⁉」

 まだ魔王が料理という事実を飲み込み切れていないシャドー台詞に疑問符がつく。

「ぷーぷー」

 鼻提灯で浮いている人魚族。シャドーが指でつつくと鼻提灯は割れ、ナナゴーはエイオットの顔に落ちた。

 ぺちょっ。

「んう」
「きゅっ」

 顔をくしくしと撫で、ふわあああと大きな欠伸をする。
 ぱちっと目を開けると、ナナゴーを両手で持ったムギちゃんと声大きいお兄さんが覗き込んでいた。
 エイオットは上機嫌で起きる。

「おはよー」
「おはようございます。エイオットさま」
「ほら! 狸共も起きよ」

 ベッドに腰掛け揺さぶると、顔が似ているちびっ子はもぞもぞとシャドーのお膝に乗っかってくる。

「ん?」

 膝の上で丸くなり、二度寝。

「あ、ずるいよ」

 狐っ子も飛び込んでくる。毛玉たちは一塊になるとぷうぷうと寝息を立て始めた。このお膝、ちょっと固いけど寝心地は悪くないよ。

「あ、あ。エイオットさま! せっかく起きたのに、寝たら駄目ですよ」
「きゃっきゃっ」

 起きたらしいナナゴーはシャドーの頬をぺちぺちと叩く。シャドーは小さな水の玉を作ると、ナナゴーにぽよんとぶつけた。

「ごくごくごくごく!」

 喉が渇いていたのか、すごい勢いで飲み干していく。

「はっはっはっ! 愛らしいな。ごっちん様が夢中になられる気持ちが分からんでもない!」

 か弱いもふもふの子どもたち。
 シャドーは上機嫌で大きく息を吸い込んだ。



「……うわ」

 うげっと読んでいた本を閉じる。
 息子の看病をしているカリスの元まで、シャドーの「起きろー」という声が聞こえた。洋館が揺れた気さえする。



「爆音を出すな、と言わなかったか?」

 正座状態でぽこぽこと頭を叩かれている青年。食堂では頭をくらくらさせた子どもたちがなんとか座っていた。
 ナナゴーは暇そうにみんなの頭上をすいすいと泳ぎ回る。

「申し訳ない! 起こし方が分からず」

 床にメガホンを置くと、ハキハキを詫びるシャドーの顔を両手でむいっと挟む。

「まったく。皿を運ぶのを手伝え」
「はっ!」

 厨房の机に卵焼きが並んでいる。

「この赤い……トメイトソースで、暗号を書かれたのですかな? 子ども等には少々難しいやも」

 ふむっと顎を撫でる長身男。
 ごっちんがむすっと膨れる。

「エイオット達だ」
「え?」
「エイオット達の顔を描いたのだ」
「これは。失礼しましブッハ!」

 顔を背けて吹き出すシャドーに、まさかこいつに笑われると思ってなかったごっちんはカァーッと赤くなる。

「わ、笑うな」

 ぽかぽかと背を叩く。シャツとエプロンという防具でもないのに、筋肉の鎧だけで防がれた。

「申し訳ない! んっふ! ごっちん様の絵が、前衛的でっはははは素晴らしい!」
「むがー」

 キャットなら絶対笑わないのにー。

 プンプン怒りながら、お皿を運んでいく。

「もういいっ! 知らん。シャドーなど知らん!」
「ごっちん様。申し訳なひひひひひひひっ」

 腹を抱えて笑っている。
 ごっちんは涙をにじませ、これでもかと真っ赤になりながらも食堂に入っていく。

「うわ。ごっちん君。泣きそうだよ」

 優しいエイオットが駆けつけてくれた。よしよしと頭を撫でてくれる。
 主人殿が、エイオットを可愛がる理由が分かる。ムギも恐る恐る顔を覗き込んでくる。

「どうしたの? 火傷した?」
「痛い、ですか?」
「え?」

 誰よりもファイアが反応する。すたこらーと駆け寄ってくると、ごっちんの顔をぺろぺろと舐め出す。

「いちゃい? いちゃいの? 大丈夫よ? ぺーろぺーろしてあげゆね?」

 なぜ顔を舐めるのだろうか。火傷と言えば、指先などを負傷したと思うはず……。ああ、そうか。ファイアにとっては火傷=顔なのだな。痛々しいことだ。

「だ、大丈夫だ。シャドーのあほが、私の絵を笑ったのだ」
「「「え?」」」

 子どもたちに稲妻が走る。ごっちんは「え? そんなに驚く?」と少し引きつる。
 どんな絵を描いても絶対褒めてくれる主人と、頑張って褒めるところを捻り出してくれるキャットに挟まれていたちびっ子にとって、描いた絵を笑う者など驚天動地の存在なのである。

 左右の手と頭に皿を乗せたシャドーが入ってくると、きっとちびっ子たちが睨みつけた。

「ん? どうしたお前ら! 座って待っていろ」
「お兄ちゃん! 笑うなんて酷いよ!」
「めっ……でしゅ。シャドーしゃん。メッ、でしゅ」
「ごっちん様がかわいそうです。シャドー様」
「飯! 早く飯!」

 一人だけテーブルを叩いているが、おおむねごっちんの味方をしている。ナナゴーはアクアの耳を引っ張って遊んでいる。
 シャドーは豪快に笑う。

「はっはっはっ! そう責めてくれるな。ごっちん様の手料理を食えるなど、望外の幸せなのだぞ? 少しくらい意地悪を言うことを許せ」

 すんっとシャドーから表情が消えた。じっとごっちんを見つめている。

「な、なんだ。お前の分もきちんと用意している」

 ぱあっとシャドーの顔が喜びに染まる。え? もしかして私がシャドーの分を用意してないと思ったのか? 可愛い奴め。キャットのようにくすぐりの刑にしてやりたくなるが……ちょっとこいつは強すぎるな。


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