152 / 190
七つの宝に勝るもの
01 新情報
しおりを挟むトゥームの連中にも残りの二種を聞いてみたが心当たりすらないという。現状、行き止まりの壁にぶち当たっている。
何の手掛かりもなく、ナナゴーが洋館に来てからそこそこの日数が流れてしまった。
季節は冬の入り口。
陽光知らずは本領を発揮し、昼夜問わずどえらいブリザードが吹き荒れている。太陽光が届かないこの森は、夏は暑いくせに冬は容赦なく冷える。
エイオットがアラージュの衣装を着てくれなくなったじゃないか。水干にマフラーを身につけ、ほくほくと歩いている姿が可愛い過ぎる。狸ツインズはバルーンズボンにもこもこコート。ムギは大きめの半纏を引きずって生活している。
十億の付与魔法を貼り付けられているナナゴーだけ真っ裸。真夏の姿だ。キャミソールもラリマーが着ていた水着のような服も嫌がって着ない。ペッと放り投げられてしまった。
死んだように情報を集める日々で和んだのが、ごっちんとナナゴーだ。
ナナゴーを手のひらに乗せたい魔王様と、自由なナナゴーの追いかけっこが度々見られた。ごっちんのカリスマも、守護龍を母とする人魚族には届きにくいようで軽くあしらわれている。貴重映像だ。キャットが嫉妬しすぎて、ナナゴーを七輪で焼かないか心配。
それにしてもごっちんが俺の不足分をごっそり稼いできてくれたのには驚いた。シャドーリスの村の近くでモンスターの大量発生が起こったらしい。沼地で発生する、生き物の死体が絡み合ったような不気味な姿をしたモンスター・さまよう屍たち『ヘドラ』だ。「出会いたくない外見」部門で一位に輝いたこともある。
体長百メートル。体重およそ十トン。数は街を覆い尽くすほどだったという。
……せっかく大量発生したヘドラたちもそこでのんきに魔王と右腕と四天王が買い物しているとは、夢にも思っていなかったであろうが。
借金の心配がなくなったので、十億はまたぼちぼち働きながら地道に貯めている。小国を滅ぼして国庫を奪って行ってやろうかと思ったが、アゲハと敵対するのが面倒くさい。
「情報が集まらねぇよ~」
今日も自室にて本に埋まっていると、ノックとほぼ同時に扉が開いた。
「うわっ」
「……ノックしても返事する前に開けるんじゃねぇ」
意味ないだろうが。ノックの。しかも開けといて「うわっ」って何だよキャットく~ん。
皆が厚着している中、冷気使いは快適そうに涼しい顔をしている。
「ちょ、こっち来い!」
執事は嫌そうな顔で手招きしてくる。
「なんだね。用があるならそっちが入ってきたまえ」
構わずに読書を再開する。
「お前の部屋に入りたくないんだよ。変態が移りそうで怖い。単純に不快」
「……」
好き放題言いやがる。
主人は手のひらを上に向けるとくいっと入って来いと手招きする。すると、キャットの身体は突き飛ばされたように部屋に転げ入ってきた。
どさどさと本に埋まる。
それでもキャットは怒るでもなく、本の隙間から腕を出した。
「これ」
「ん?」
二本の指で紙切れを挟んでいる。主人は鬱陶しそうに眉をひそめた。
「それが何だと言うのかね」
本を傷つけないように、キャットはむくっと起き上がる。
「お前……残りの二種を探してたんじゃないのか?」
「きみが積極的に手伝ってくれるとはね。明日世界が終わるのか?」
「いや、早くどっか行ってほしいだけだ。態度変わり過ぎだろお前……」
本が片付いた部屋で、キャットは三枚重ねの座布団の上に座っていた。目の前には高級そうな茶菓子もある。
主人は床であぐらをかいて紙切れを読み込んでいる。
「この情報。どうしたんだい?」
「野良含めて、魔族全員に声をかけた」
さらっとすごいことを言ってる。キャットは珍しそうに茶筅で立てた泡のお茶を飲んでいる。「二種の情報」という嬉しい言葉に日本人のおもてなし心が全開になってしまった。
「声をかけたのはごっちんかな?」
「ああ。何故か魔族はもう自分には従わないと思っていらしたようでな。全員魔界に集まったことにびっくりしておられた」
え、待って。もう城の修復済んだの?
でも城住まいに戻らないということは、ナナゴーが気に入ったのかキャットを一人にしておきたくないのか。
「もしかして、魔族の中にいたりして?」
「魔族」と呼び名を統一しただけで、魔族は本来多数種族の集まり、世界に一つの雑多種族だ。獣人もいれば蟲人もいる。
希望を込めるも、キャットは首を横に振る。
「いや。別に」
「ああそう……。しかし助かる」
「うっすらした目撃情報だから、本当に居るかは知らんぞ」
「構わん。さっそく向かうとしよう。留守は任せる」
キャットはお茶が気に入ったのかちまちまとずっと口をつけている。
「そういえばエイオットが呼んでいたな。話があると」
「おほほほほい」
キ笑を上げながら主人が部屋を出ていく。キャットはもくもくと茶菓子を頬張った。
「うめぇな、これ」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる